第59話「豚の、侵攻」
『ブヒブヒ……。アレガ、ニンゲンノ街カ』
眼下に大量のリザードマンを見下ろしながら、側近のオークナイトで周囲を固めた大柄なモンスターが丘の上に仁王立ちしていた。
『ハイ……。コレヨリサキは、ヤツラのテリトリーデス』
大柄なモンスター──……オークキングの独り言に答えたのは、ヨボヨボのオークの翁であった。
人間や他のモンスターの皮膚を縫い合わせたボロボロのローブを纏い、骨で作った杖を持ったオークの魔術師───オークメイジであった。
『フン。トカゲが死ンダオカゲデ漸クコノ地ニ顔ヲ出セタカト思エバ、最初ノ獲物がアンナチンケナ町ダトハナ』
『サヨウデ……』
キングの言葉に追従するオークメイジ。
彼は懐から一枚の紙を取り出す。
それはギルドの発行している、モンスターの手配書だ。
そこに大きくイラストと賞金額と、魔物の特徴が記されている。
禍々しい顔をした巨大なリザードマンの絵──……。
『フン。ニャロウ・カンソー。……人間ドモ曰ク、魔王軍四天王ダソウダ』
オークメイジから手配書を受け取ったキングは、つまむようにしてその紙を見る。
大型モンスターの骨で作ったボーンメイルに、人間の皮と髪で編んだ腰蓑を付けただけのガチムチ筋肉だるま。
それがオークキング。
一見して知能が低そうに見える、脳筋バカっぽいオークキングであるが、意外や意外……人間の字が読めるらしい。
冒険者の中にも字が読めないものがいるというのに、他種族の時にも詳しいさまを見せるオークの王。
『ホウホウ。四天王トハ恐レ入リマスワイ。グッフッフ』
不気味に笑うオークメイジを見て、キングもご機嫌に笑う。
『クックック──。ナァニ、奴ハ四天王最弱。マァ死ンデクレテ良カッタ』
グッフッフ。
ガッハッハ!
機嫌よさげに笑うオークの王たちは、さらに魔物をの軍勢を指揮し、どんどん支配地域を広げいていく。
どういう理屈かは知らないが、リザードマンたちをまるで手足のように動かし、軍隊のごとく振舞わせるのだ。
『前衛ハコレデ全テノヨウデス』
眼下に進軍中のリザードマンの大群。
その数約500。
内、ラージリザードマンなどの特殊個体が30ほど。
その他、湿地帯に棲息する巨大蛇や、陸生の亀や、ゾンビなどが少数。
『ヨシ。後衛ニハ連レテキタ兵を配置シロ。人間ノ城壁ハ分厚イ。余計ナ被害ガ出ル前ニ、トカゲドモヲ盾ニスル』
『御意ニゴザイマス』
そういうと、オークメイジは眼下に控えるオークの兵士に合図を送る。
すると、丘の下に隠されていた大きな洞穴のような場所からゾロゾロと多種多様な魔物が湧き出してきた。
『グッフッフ……。魔王軍トナ?────人間メ、中々センスがアルジャナイカ……ぐっふっふ』
ざっざっざっざっざっざっざ!!
っざっざっざっざっざっざっざ!!
オーク
ゴブリン
オーガ
二本の足で歩く知能ある魔物たち。
ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ!!
うぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞ!!
魔狼
スライム
スケルトン
etc、etc──。
そして、まつろわぬ魔物の群れ──……。
それが武装を整え、整然と隊列進軍を開始した。
それはリザードマンの大群から遅れること、約5分。
これこそが、
奴らは一体…………。
『グッフッフ……! 今宵、何度トナク悲鳴ヲ楽シメソウダ──!』
『グフフフフ……! 女ハ捕虜ニ、男ハ糧二────者ドモ、存分ニ楽シムガヨイッ!』
キングが鼓舞し、メイジが操る!
『行ケッ!! アノ街ハ貴様ラノ思ウママヨ! 行ケッ! 我ガ精兵タチよ──……!』
『全軍────突ゲ…………ヌぅ??』
キングの声を魔法で増幅させ、そして突撃ラッパとする手はずのメイジであったが、ふと進軍先に目をやり訝し気に目を細める。
この地方の魔物にとって心地よいはずの湿地帯。
そこを貫く旧街道上に何者かが立っている。
まるで、立ちふさがる様に──……。
『ア、アレをゴ覧クダサイ……。人間ガ我ラノ進路を塞イデオリマス』
『何ィ?!』
気分良く、ゲラゲラと笑っていたキングが、メイジの首根っこを掴まんばかりにして乗り出す。
『ヌゥ……! タッタ一人デ生意気ナァ……! マルデ我ラヲ恐レテイナイカノヨウダ』
丸見えの位置にいる人間を見て、一瞬にして頭に血が上ったオークキング。
やはり脳みそ筋肉野郎であったらしい。
『グヌヌ……! マズハアイツカラ血祭リニアゲテクレルワ!! 男ナラソノ場デ挽肉ニ! 女ナラバココに引キズッテコイ!!』
『聞イイタナ者ドモ────イケッ!! アノ人間メガケテ突撃ダァァ!!』
ルォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
そして、大地が吠えた────……。
横隊から縦隊へ……。
歩足を乱す湿地から、足場の整った街道上をひた走る。
魔物の群れを恐れぬ、愚かな人間を潰さんととして────!!!
『『『『『ブッ殺セェェェエエエ!!』』』』』
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