第60話「さてと、狙い通りだぜッ」
ルォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!
「わーぉ……すっごい数」
仮設陣地から魔物の群れを眺めているリズ。
その横ではグエンがハラハラとしている。
「お、おい。大丈夫なのか? い、いくらなんでも──」
心配そうに見つめる先には、街道の上でへたり込んでるシェイラ。
遠くから見ていても彼女の震えが伝わるようだ。
「何よー? 心配しているの?……衛兵に突き出そうとしてたクセに」
「そ、それとこれは話が違う……。いや、し、心配なんてしてねーし」
といいつつも、チラチラとシェイラのほうを注視するグエン。
すでにシェイラは腰が抜けて立てないようだ。
「ふふん。アンタってば存外いいとこあるじゃん」
「お前が非道すぎるだけだろッ!!」
思わずリズのつむじに向かってズビシと指を突き付けるグエン。
「あによー……。別に死にはしないわよ──────たぶん」
多分って言った?
ねぇ、今多分って言ったよね?!
「言ってないし」
「言った! 絶対言った!! あ、くそ、シェイラ待ってろ──」
突如不安に駆られたグエンが陣地から飛び出そうとする。
「バッカ! 今出たら台無しよ!!」
「何言ってんだよ! もう十分引き付けただろ?」
魔物の群れはその大半が街道上に位置し、分厚い縦隊となってシェイラに迫っていた。
「だからー! あれは先鋒よ。その後ろに本隊がいるわ……。今出たら連中が分散しちゃうのよ」
だからもう少し待て──と、そうリズは言った。
だけど──……。
「(ひ、ひぃいい!! いやぁぁぁあああ!!)」
街道の先ではシェイラが腰を抜かしてズルズルと後ずさっていた。
餌になれと言われた時も顔を真っ青にしていたが、今はもう死人のように土気色の顔だ。
あまりに恐怖に彼女の髪が少々白くなっている。
「もう、無理だ!!」
「もう少し待ちなさいって!!」
ルゥゥォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!
ズンズンズンズンズンズン!!
ズドドドドドドドドドドッ!!
大地を揺るがす魔物の地響き。
その先にいるのは、か弱い少女。
シェイラは自らを街道上に晒し、『餌』として魔物の群れを煽る役目。
本来なら、地形など無視して横隊となり都市を蹂躙するはずの魔物の群れがリズを目掛けて一直線に。
「(ぐ、グエン──!)」
離れた位置からのシェイラの助けを求める声。
あの時は、ぶん殴ってやりたいと思ってはいても──根は善良なグエン。
どうしても少女の助けを聞くと反射的に駆けだしたくなってしまう。
「あ、ぁはは……。ちょっと来すぎじゃないかなー」
視力の良さを生かして前方を透かし見ていたリズもさすがに数の多さに顔を引きつらせている。
さすがにこの数には、歴戦の彼女とは言え怯えを見せていた。
ならば、餌役のシェイラの恐怖はそれ以上だろう。
「もう少し、もう少しだから待つのよ……!」
リズもさすがに表情からあざけりが消え、眉間にしわを寄せる。
「まだかよ!」
「連中の最後尾が途切れて見えないのよ! なんて数────……!」
──くそ!!
「もういいだろ!」
「まだよ!! さぁ、さぁ来なさい……! おいしそうな人間の女の子だよー。愚かで、間抜けでとってもかわいい子だよ~」
リズの冗談とも本気ともつかぬ響き。
実際に間近に迫りつつあるリザードマンの群れは大小の個体がそれぞれ正気を失ったかのような表情だ。
涎をまき散らし、唸り声とも悲鳴ともつかぬような声を上げている。
そして、シェイラだけを見て突撃しているのだ。
「リズ?!」
「わかったわ!! 私が合図するから、手はず通りにやるのよ?!」
「任せろ! だから、」
グエンが言い切る前に、飛び出したのはリズ。
一足飛びに陣地を飛び出ると、シェイラに向かってひた走る。
「そーら、こっちゃ来~い! おいしそうなピチピチのエルフの女の子だぞー」
お尻ペンぺーン。
そうして、リザードマンに通じるかどうかはともかく、できうる限り挑発して見せる。
本当はシェイラにやらせたかったのだが、餌役の彼女はもはや使い物にならないほど顔中を涙だらけにして一歩も動きずにいた。
(ま、何でもやるって言ったからね。逃げなかっただけでも大したもんよ──……)
さっと、シェイラのもとに到達すると、
「よくやったわ──……逃げるわよ!!」
その首根っこを掴み、引きずる様にして遁走開始────!
しかし、その瞬間群れがブルリと震えたような気がした。
チッ。
リズは舌打ち一つ。
振り返った群れの様子は動揺しているようにも見える。
囮役であるとバレたのだろうか?
それとも────……。
ズンズンズンズンズンズンズンズン!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
「──なわけないか!!」
「ひぃいいい!! いやぁっぁあああ!」
悲鳴を上げるシェイラを掴んで一気に加速するリズ。
そして、彼女らを追わんとする魔物の群れ。
捕まったが最後、ミートパイを作る様に、グッチャグチャにされてしまうだろう。
「来た来た来た来た!!」
「たーすーけーてー!!」
もっと来たぁぁああ!!
魔物の群れは一刻も早くリズを蹂躙せんとして草原に湿地帯から飛び出すと旧街道上をひた走る。
仲間を踏みつけ、わきに押しのけ我先にと────……!
魔物の群れが一直線に────────「グエンッ!」
「おうよッ!」
リズの合図と同時に、街道上に躍り出たグエン。
その手にはレアリティSクラスの槍が二本!!
伝説の──グングニルとトリアイナだ!!
そして、構えたままスキル起動────……!
ぶぅぅん……。
名 前:グエン・タック
職 業:斥候
称 号:光
(条件:敏捷9999を突破し、さらに速度を求める)
恩 恵:光速を得る。光速は光の速度、まさに光そのもの
(光)アナタは光の速度を越えました。
※敏捷ステータス×30800000
※光速時の対物理防御無限
※光速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗
体 力: 32
筋 力: 14
防御力: 20
魔 力: 29
敏 捷:9999
抵抗力: 12
残ステータスポイント「+743」(UP!)
スキル:スロット1「韋駄天」、
スロット2「飛脚」
スロット3「健脚」
スロット4「ド根性」
スロット5「ポーターの心得」
スロット6「シェルパの鏡」
スロット7「
スロット8「
スロット9「
──そう!!
称号『光』の特殊効果ッ。
光速時は対物理防御無限ッッッッッ!!
「とぅ!!」
ざざざざー……!
砂埃を立てながらリズがシェイラを連れて退避完了!!
「どうよ! 見た見た? アタシの作戦っ! 馬鹿がつられて一直線よ──」
「はひふへほ~……」
目をぐるぐる回したシェイラを、ポイすと捨てたリズが無邪気にピースサイン。
はいはい。見た見た。凄い凄い。
だから──。
「………………あとは、」
そう。あとは、行くだけッ!
そして、
ぐぐぐ、と槍を握りしめ────。
ただ、『光』となって………………!!
すぅぅぅ……。
「行っく────、」
「行っっけぇえええ!! グエン砲発射ぁぁああああああ!!」
──────ぁぁぁああああああっっって、誰がグエン砲じゃぁぁあ!!!
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