第45話「なんだと……! ケリをつけようかッ!」
──……そいつらはアンタの手でケリをつけるのよッ!
グエンはリズに激励されハッとする。
そして、彼女と戦闘位置を入れ替えることで突如マナック達の正面に立つことになった。
(お、おれの手でマナック達を……?)
目の前にはいつもの顔ぶれ。
グエンが正面に来たのを見るや否や、ニヤニヤとした笑いを浮かべるアンバス。
優しげに微笑みつつも、その実腹黒い感情をきれいにコーティングしたレジーナ。
そして、付き合いだけは長く互いに手の内を知り尽くしていると思っていたはずのマナック……。
今も奴はグエンの顔をゴミでも見るような目つきで見ていやがる。
その後ろには──……シェイラ。
「おぃ、シェ──」
「…………よぉ、グエン。先日は世話になったなぁ──えぇおぃ?」
敵対するように向かい合うグエンとマナック達。その最初の口火を切ったのはマナックだった。
先日の一件依頼顔を合わせるのは初めてだが、何一つ反省した雰囲気のないまま──言ってみればいつものマナックそのもの。
「…………こっちのセリフだ」
グエンの口から反射的に出るのは言葉の応酬。
もっと戸惑うかと思ったのだが、そんなことはなかった。
「あ゛?! 誰に口きいてんだ?」
「元お仲間様にだよ──……お前こそ、年長には気を使ったらどうだ、あ゛?」
両者譲らず、互いに武器を構える。
マナックは剣を、
グエンは折り畳み式のスコップを、
「けっ。調子に乗りやがって。……リズ母ちゃんがヨシヨシしてくれるからっていい気になってんじゃねぇぞ! テメェなんざ、死ぬまでパシリなんだよ!」
「は!! 言うじゃねぇかマナック。なら俺も、お前に言ってやらないとな────年長者としてよぉ!」
以前のグエンなら、こうしてマナックに凄まれた時点でスゴスゴと退散して、すぐにでも謝罪していたはずだ。
だが、もう以前のグエンではない──。
「は! テメェに語る口があるとは驚きだ!」
「おーよ、そーいえば俺が死ぬまでパシリだっつたよな? なら、オメェな奴にぴったりな言葉っがあってだな」
「あ゛ッ!?」
すぅぅ……。
「───馬鹿は死ななきゃ治らねぇよ!!」
「あ゛あ゛あ゛ッ!! んっだこの野郎!!」
──誰が馬鹿じゃぁああああああ!!
「お前だよ!!!!」
だーーーまーーーれぇぇえー!!!
「しゃぁああああああああああああああああ!」
いうが早いか、マナックが剣を大上段に構えてグエンに襲い掛かる。
体重と剣の重みと腕力の乗った容赦のない一撃。
確実に命狙う一撃だ!
「死ねッ、グエン────」
その一撃は重く──そして、速いッッッッッッ!!
速いけど…………ははっ!
「…………つっても、『光』に比べりゃ、止まって見えるぜッ」
シュンッ!!
マナックの目の前から掻き消えたグエン。
声だけがすぐに真横から聞こえてマナックが慌てる。
「んな?! ば、馬鹿な?!」
「言っただろ! 馬鹿は──────……死ねッってな」
敏捷9999を生かして、マナックの一撃を躱しつつ、グエンの反撃!
使い慣れた折り畳み式のスコップを下から思いっきり振り上げるッ。
「おらぁぁああああああああ!!」
ゴキィィィィイイイン…………!
「ぷはっ…………!」
マナックの顎がかちあげられ、唾液が空を舞う。
それを、
「マナック?!」
「嘘ッ!」
アンバスとレジーナが驚愕し、一斉に振りかえる。
二人はマナック以上にグエンの動きに追従できていなかった。
「もう一丁────!!」
コワァァァッァアアアアアン……!!
そして、振り上げたスコップを返す刀で振り下ろす!
狙いは当然、上を向いたマナックの顔面!!
「おうぅぅらぁぁあ!!」
ガッ、とした確かな手ごたえを感じて、グエンはスコップを振りぬいた──。
この感触────………………堪らねぇ!!
「どうだ!! これがパシリ様の一撃だ!! 偉そうな口を聞いていた割には大したことねぇな──マナ」
………………あ?
グエンの一撃で、顎をかちあげられ──叩きつけられたマナックはさぞかしダメージを負っているかと思いきや。
「ペッ」
マナックは、首をゴキゴキと鳴らしながら顔を持ち上げる。
「で?」
多少なりとも、額を赤くしているがマナックはほぼ無傷。
口にたまった反吐を吐き散らすと、舐め腐った目つきでグエンを見る。
そして、
「で、なによ? これで俺に意趣返しのつもりか? こんな一撃でニャロウ・カンソーを倒しただって? ははは!」
コキッコキッと、肩を回すと、マナックはゆっくりと剣を持ち上げる。
「────────軽いなぁ……ははははははははははははは!」
ッ!
「グエン?! なにやってるのよ! アンタの攻撃力って……」
あぁ、分かってる。
あぁ、知ってる。
あぁ、見てる!
「お前は敏捷特化のカス野郎だろうが──────ッ!!」
ブンッ!!
マナックの横なぎの一撃が、グエンを襲う!
しかし、グエンの敏捷特化の身体はその一撃を易々とかわすも──。
「数うちゃ当たるってなぁぁああ!!」
スパパパパパパ!!
一撃の重さよりも振り抜きと手数の多さに切り替えたマナックの攻撃が、
「く…………!」
そのことごとくを躱すグエンだが、こうなっては簡単に反撃できない。
自分なりに渾身の一撃のつもりだったが、やはり攻撃力も防御力も────敏捷を除いて紙なみのグエン!
「だから、言っただろうが────お前はカスだぁぁぁああああ!!」
マナックの一撃がグエンを捉えんとして、一刀から、予備のナイフを含めた二刀に切り替わるッ!
単純に手数が増えたことによる攻撃回数の多さッ!
だが、これくらいならまだ躱せる──……。
しかし、そこに余計な一言が───!
「………………マナック。リズを狙いなさい」
なっ?!
冷静に戦いを見守りつつ、戦況を分析していたレジーナが善戦を続けるリズに背中に目を付けた。
彼女はグエンを信頼して背中を預けてくれていたのだ。
ならば、その無防備な背中を狙えという。
それなら、躱せまいと───。
「テメェ!! このクソ女ぁぁぁああああ!」
「おーほっほっほ!!」
「はは! いい女だぜ、レジーーーーーーーーナぁっぁあ!」
マナックはレジーナの言う通りにグエンを狙いつつも、その射線にリズを捉えると、二人とも刺し貫かんとして、強力な一撃をブチかます。
「これは躱せるかぁぁぁあああ?!」
「こ、このッ!」
マナックは涎をまき散らしながら剣を振りぬく。
その一撃を躱すことのできないグエンは、折り畳み式のスコップを構えて一撃を受け止めようとするも────……。
(これは死ぬかも──……)
敏捷特化のグエンには、マナックの剣の動きがスローモーションのように見えていた。
大ぶりな一撃だが、それは確実にグエンの頭をかち割、その後ろのリズの背中も切り裂かんとする。
これを躱したとて、リズの無防備な背中がやられるだろう────……ならば、ど、どうする?
「グエン……。はぁ、手加減してどうするのよ?」
え?
逡巡するグエンの思考に割って入るリズ。
戦闘中でありながら、チラリと視線をグエンによこし、すべてわかっている顔だ。
彼女ならばマナックの一撃だって見えているだろう。
だが、躱さない。
グエンが躱さないことを知っているからだ。
そのうえで言うのだ────……。
「アンタ、本気出したらこんな連中瞬殺でしょ? ほら、躊躇しないで」
だ、
「だって……。『光』になってしまえば──」
そう。
あまりにも強力に過ぎる光の攻撃は、ギルド中を巻き込むすさまじい威力だ。
そんなものをブチかませば、いくらマナック達といえども…………。
アハッ♪
しかし、グエンの逡巡などバカバカしいとばかりにリズが笑う。
「…………ここをどこだと思ってるのよ? ギルドのある街中よ?」
は?
「……肉片一つでも残ってたら助かるって────」
ッ!!
(そうか!!)
そうか!!
「そうだったッ!!」
ならば遠慮などすることはない!
「あ?! 走馬灯は見終わったかグエーーーーーーーーーン!!」
おうよ!
「それはこっちのセリフだぁっぁぁぁぁあああああああ!!」
命を奪うことに躊躇していたグエン。
だが、
「肉片だけでも残ってたら助かるかもってさ、よかったなマナック」
「あ゛?!」
「スキル──…………」ドンッ!!
グエンは、必殺のスキルを放つ。
この程度の連中を制圧するにふさわしいそれをッ!!
「ぶっとべや、マナッぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁああク!!」
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