第21話「ライトニング! これがファストランだ!!」

 スキル、光速移動ファストランッッ!!



 移動先を思い浮かべ、グエンは一気に加速する。

「ちょっと、グエ────」

 腕の中でリズがもぞもぞと動いていたが、それを固く抱きしめると一気に────トゥ!!



 ──────……バヒュンッッッ!!



 スッと、グエンの周囲の空気が遮断され、359度の視界がほぼ黒く塗りつぶされる。

 だが、たった一点だけ……。

 グエンの目の前だけが白く輝いている────!!


 これが光速の世界……!

 グエンにだけ見える、光の時間――。



 っとか、いってる間に────!!



 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



「──エンッッ! 離してってば、グエン! 砂漠で…………って、あれ?」


 キっっキィィイイイ……!!


 徐々に動きを落としたグエンは、超低空を這うように駆けていた。

 さすがに光速のまま、町に突っ込むと誰も彼も無事ではいられないだろう。


 だから、

 猛烈な勢いで速度を落としていき、見覚えのある街道に着地すると、地面を盛大にえぐりながら停止した。


 光速から、亜光速へ。

 亜光速から、音速へ。

 音速から、亜音速へ。



 そして、常人のそれへと――……。



 んんんん───着地ぃぃぃい!!

 ズザザザザザザザザザーーーーーーーー…………!


 例の湿地を駆け抜け。

 件の村を通り抜け。


 そのまま、辺境の街を覆う城壁の前でピタリと────。


 ───ザザザザザザザァァァア…………!!



 ………………ピタリ。



 うまく停止した位置は、ちょうど城壁を守る番兵の前。

 辺境の町を守る門番は、突如目の前に現れたグエンを見て、二~三まばたき。


 そいつが目をぱちくりしている目前で、グエンは、


「や、やぁ──」

「お、おう……」


 気安く片手を上げて挨拶。


 しかし、さすが辺境の門番。

 これしきでは動じない…………はず。


 えっと。


「…………あー」

「――うー………??」


 思考のフリーズした二人が互いに手をかざして間抜けにも挨拶を交わしているなか、


「ど、どーなっての?」


 パチパチと目をしぱたたかせるリズ。


 そして、グエンと番兵が同時に二人の間にいるリズを見下ろしてから、……また視線を合わせる。


 えっと……。



「………………へ、辺境の街リリムダへようこそ」

「ど、どうも────」


 ポカーンとするリズを差し置いて二人は平和裏にあいさつを終えた。


「あ、これ。冒険者ライセンスです」

「うむ、通ってよし」


 そして、世はこともなし──。




「って、ちょっとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」



 ドカーーーーン! と、

 リズが今さらながら叫んでいるが、知らん知らん。



「待ってぇぇええええええ!!!」



 あーはいはい。

 そんなこんなで、あっという間に帰還したグエン達であった。

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