第4話「すいません、犬の真似だけは……!」
ふ……!!
ふざ、
ふざけ──────……。
──ふ、
「……ふへへ。あは、はは。あはははは。ま、まいったなー」
だが、グエンの口から零れたのは、情けない追笑だった。
自分でも、怒りで体が震えるのを自覚しているのに、口をついて出たのはいつもの
本音では全員をぶん殴って顔面を陥没させてやりたいくらいだ───。
だけど、そんな力もなく。そして味方もいない……。
だから……。
「あはははは。は、恥ずかしいな───こんなステータスしてるんなんてさ」
笑いながらも、ポロリと涙がこぼれる。
それを見て、いっそう笑うパーティの面々。
悔しくて悔しくて……!!
「は、はははは。わ、笑うなよ。ははは……」
だけど、『再振りの丸薬』でステータスをリセットされるよりマシで……。
で、でも──。
くそ……!
くそ───!!
(くそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!)
奥歯がバリリと嫌な音を立てる。
口の端が破れて血が……。
「お──……」
お前らがやれって言ったんだろうが!!
パシリをさせるために無理やり、ステータスの割り振りも決めやがって……!
グエンは内心で滅茶苦茶に憤る。
それはそうだろう。
マナックの指示でステータスを割り振っていたのだ。
それもこれも、パーティを追い出されない条件として、雑用───すなわちパシリを効率よくやるためにッ。
それでこんなにも歪なステータスになってしまったのだ。
マナック達と良好な関係が築けていた昔ならここまで酷くはなかった。
ステータスの割り振りは満遍なく割り振り、バランスよくしていたはずなのに、いつの間にかこうなってしまった。
「「「「あははははははははははははッ!!」」」」
「あ、あはは……」
しかし、今更どうにもできない。
追笑してでも、ステータスリセットの件だけは誤魔化せるようにするしかない……。
ステータスをリセットし、割り振りなおすための『再振りの丸薬』は本来
貴重なステータスポイントを「1割」も、もぎ取っていくくせに、再振りを一度行うと二度と割り振りを治すことはできない身体に変質する。
どうも薬が強烈すぎて、体に耐性ができてしまうらしい。
下手に、二回目の薬を飲めば命を落とすという代物。
つまり、一度きり。
飲めば最後……二度と割り振り治すことができないという──恐ろしい薬だ。
それが、『再振りの丸薬』という呪いのアイテム。
そして、
「……おい、何笑ってんだオッサン。俺は言ったよな? ステータスは全部敏捷に割り振れってよぉ──?」
な?!
「お、おい。待てよ───た、たったの数百ポイントじゃないか、す、すすす、すぐに割り振るよ! な?!」
慌てたグエンがステータス画面を呼び出し、あまりのステータスポイントを割り振ろうとするも、
「おいおいおいおい。もうおせーよ、なぁ~皆?」
「へへ、そうだぜー。俺はちゃんと約束を聞いたからな」
「嘘はいけないよ、おじさーん」
ニタニタ笑うアンバスとシェイラ。
そして、
「グエンさん……。誠実さとは偽らぬことです……」
レジーナでさえ、悲しそうに目を伏せる。
って…………冗談だろ?!
「てーわけで、だ。────飲めよッ!」
グイっと押し付けられる丸薬。
それは異臭を放つ奇妙な薬で…………飲めば、立ちどころにステータスは
「う…………。よ、よせ!」
こ、こんな魔物だらけの土地でステータスをリセットだって?
しかも、呪い付き……!
「飲めッ……つってんだよ!」
ガシリと首根っこを掴まれ薬を飲めと───。
(い、嫌だ! ただでさえ、パシリ扱いされているのに、全部のステータスを敏捷に割り振られたら、俺は冒険者でなくなり、本当のタダのパシリになっていまう……!)
しかも、ステータスポイントの一割を失う劇薬だ。
「い、いやだ!! やめろぉ!!」
だから、耐える。
マナックが口にそ捩じ込もうとしても頑として拒否する。
「け! 生意気に抵抗しやがって───おい、アンバス!」
「はいよ!」
ガシリと背後から抑え込まれるグエン。
そこに、マナックが丸薬を飲めと強要する──────やめろぉぉおぉおおお!!
だが、アンバスの怪力がグエンを抑え込み、無理やり口を開かせようとする──。
やめてくれぇぇえええええええええ!!
「……いいぜ」
え?
「ぎゃはははははは、見ろよ。必死な顔してやがるぜ。……いいぜぇ、その必死さに免じて許してやる」
……え?!
「ほ、本当か──」
マナックありが……。
「───ただし、その場で犬の真似をしたら、だ」
「……は?」
な、なんだと……?
いま、なんて……?
「おい、聞こえなかったのか?
そ、
「そんなことできるはずが…………!」
「──じゃぁ、飲めよ」
「……ッ」
思わず仲間たちを見回すが、
「ぎゃははは! オッサンの犬真似とか誰得だよ」
「えー。かわいそー。うぷぷ」
「さ、さすがにそれは……。ぐ、グエンさん、無理しなくてもいいんですよ?」
誰もほとんど庇ってくれやしない。
レジーナですら、あの言い方だと───「諦めて丸薬を飲め」と言っているようなものだ……。
「「じゃあ、飲めよ」」
「きゃは、はやく飲みなさいよ~」
「……え~っと。さ、さすがにフィールドでこんなことをしている場合じゃ……」
背後から押さえつけるアンバス。
そして、口に捩じ込もうとするマナック───。
ケラケラと笑いながら囃し立てるシェイラに、
フィールド以外ならいいと言わんばかりのレジーナ。
く…………………………。
ど、
どいつもこいつも──────!!
「ふ……!」
ふざけるな──────!!
だれが……!
──────わ、
「…………わんわんッ──」
しーーーーーーーーーん。
あれ。
(お、俺……)
何やってんだ、よ。
ぶはっ!
「ぶっは!!」
「ぎゃははははははは! 見ろよ、マジでやりやがった!」
「きゃははははー! ひどぉい! アンタたち最低」
ケラケラと笑う3バカどもに、
「ぐ、グエンさん……なんて真似を」
悲し気に目を伏せるレジーナ。
「ブハハハハハハ、おいおい、グエンのオッサン。芸が足りねーぞ」
「ほれほれ、お手だおぇ手。あとは「お座り」と「伏せ」だ。伏せ───ぎゃはははは」
「みてらんなーい。きゃははははははは!」
は、
はははははは……。
「わんわん。わんわん……!」
ぐ…………。
ぐぐぐぐぐ…………。
「なんてことを───」
笑い転げる3人と、嘆かわしいと首を振る枢機卿。
「ぎゃははは。お、オーケーオーケー! 許してやるよ。ポチ。……あ、パシリだっけ?」
「ひでぇ、格好だぜ。ワン公。いや、パシリだっけ? ぶははははははは!」
「きゃははは! お、オッサンが、い、犬の真似だって、あーははは! あーお腹痛い。うぷぷぷ……」
そのあとは笑い転げる三人に愛想笑いをしつつも、怒りで顔を真っ赤にしたグエンはただひたすら下を向いて追従するのみ。
いっそ……、
いっそ!!
いっそ魔王軍四天王でも現れて、コイツ等を皆殺しにしてくれないかと───……!!
──グエンの心が暗黒に押し包まれそうになったその時ッ……!
「な、何やってんのよ、アンタ等!!」
まさにそのときだ。
なということか、鋭い警告が
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