第80話「これが、魔物の発生源……?!」
「おう」「うん」
そういった二人に、リズがほほ笑む。
「助かるわ。アタシも情報整理になるしね。ま、道々話ながら行きましょうか」
「は、……道?」
くいくい。
ポカンとしたグエン達にリズが指で差し示す先。
そこには断崖しか見えない。
「が、崖を降りろってんじゃ……」
「──違うわよ」
なるほど、よくよく目を凝らしてみれば、断崖に張り付くように通路が────。
「そうか……。メイン通路の魔物たちはここから、か」
「えぇ、多分ね。──早くいかないと上の連中も気づいて追ってくるわよ。下から来る奴らがいるかどうかは知らないけどね」
シェイラの光源魔法が呼び水となって、地面が明かりに包まれている。
その薄明かりをうけて浮かび上がった通路。
まるで、黄泉の世界へと続く道だ。
「さ、いくわよ」
どこに続くとも知れぬ道を、リズは先頭に立って歩き始める。
斥候職として、グエンの上位互換のリズの仕事なのだろう。
グエンとしても、男としてもそれは少し悔しくもあったが、リズは暫定的にリーダーであり、何より経験値とランクがグエンよりも遥かに上だ。
従うべきだろう。
「わかった。シェイラいくぞ。お前が中央だ」
断崖に張り付く道は狭く暗い。
シェイラの魔法が周囲を照らしているが、それを目標にモンスターが殺到しないとも限らない。
「隊列は、アタシ。シェイラ。殿はグエン。いいわね? あと、照明は消して──足元はアタシが見るから、これを目印に離れない様についてきて」
隊列の指示を出した後、リズは小さな魔道具を取り出すと、歯で砕くように噛み潰す。
パリッ! と何かが割れる音がして、それが発光し始めた。
「わかった。背後は任せろ」
そういって、折り畳みスコップを取り出すグエン。
グングニルやトリアイナのほうが威力はあるのだろうが、狭い通路で無理はできない。
それにしても、ズンズンと先に進んでいくリズは怖くないのだろうか。
静まり返った闇の世界は、今や地面だけが淡く輝いているが、それでも未知の世界だ。
「で────」
……ん?
「魔王軍──のことは知ってるわよね?」
唐突に話題を振る、リズ。
……あ、さっきの話か。
「あ、あぁ。……この前の
「そ。まぁ、冒険者ならみんな知ってるんだけど、ね」
じゃ、聞くなよ。
「で、その魔王軍なんだけど、いまだに発生のメカニズムはわかっていないわ。そして、出現場所も──」
ふむ……。
そうだな。
「だけど、今日──アタシたちは歴史的瞬間に立ち会ってるのかも」
「ふむ……歴史的────はぁ?」
この子は何を言ってるのですか?
「ったく、鈍いわね────……ここがそうだって言ってるの」
「ここ……? ここって──」
スゥ──と、視線をダンジョン内に投げる。
はるか下の地面が淡く輝く広大なダンジョン────……って、
「ここ?!」
「そーよ。ここよここ。ここが魔王軍の発生場所なんじゃないのかしら?」
うっそ。
マジ……?!
「マジ?!」
あ、声に出てた。
シェイラも目をぱちくりして驚いている。
「う、うそ?! だって、学校じゃそんなこと言ってなかったよ」
いつになく饒舌に反論するシェイラ。
それを軽くあしらうリズは、
「……新型のダンジョンだって言ったでしょ。ここに入ったのは──多分アタシらが初めてなんじゃないのかしら?」
……そりゃ、学校でも教えないわな。
「そ、そんな場所に入って大丈夫なの……?!」
シェイラが真っ青な顔をして慄く。
グエンだって心配だ。
「大丈夫かどうか、はなんとも──。ま、入っちゃった以上覚悟を決めなさい。ただ、アタシの推測が正しいなら、道はあるわ」
そういってほほ笑むリズ。
だが、グエンは見逃さなかった。リズの手が小刻みに震えていることに。
(そうか……。リズだって、怖いって言ってたな。それを我慢して…………)
今、リーダーをしているリズが崩れてしまえば、グエン達は終わりだ。
未知のダンジョンでパニックを起こし、魔物どもに勘付かれて食われるだけだ。
そうならないためにも、リズは無理を推して笑っている。
「み、
泣きそうな顔のシェイラ。
少し前の彼女なら泣きわめいてグエンあたりを責め立てていただろう。
だがそれをしないということは、多少は成長したらしい。
まぁ、裏切ったことが未だに気まずくて遠慮しているだけかもしれないけど。
「うん、道よ。そこが肝よね。ま、さっき言ったようにここが魔王軍の発生地なら──……」
なら?
「これまでに
「「は?」」
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