第53話「すいません、以後気を付けます」

 ペコペコと謝罪するグエンとリズ。


 いくらギルドの責任があるといっても、なんでもやっていいわけではない。

 もちろんギルドマスターは逮捕されるし、ギルドの落ち度も追及される。


 されるんだけど……。


「ギルドの復旧費用は──こちらの落ち度も含めて半額にします。リズさんと折半してください」

「お、おう」

「はーい」


 ちなみに、リズの場合はその行動の責任をすべてギルド中央が持つので、彼女の懐は痛まない。


 それよりも、


「──それよりも、町に被害のほうが問題です。ギルドの破片があちこちに飛び散って、さっきから被害届の数が半端じゃありません」


 はぁ、と頭を抱えたテイナ。


 再開するどころか、再建のめどすら立たないのに、ギルドにはさっきからひっきりなしに住民が立ち代わり入れ替わり訪れ、「責任者を出せッ」と怒鳴りこんできている。


 その責任者はさっき衛兵隊にしょっぴかれたため、ここにはいないわけで──仕方なく臨時かつ次席の責任者のティナが平身低頭して謝罪しているのだ。


 そりゃ、グエンに一言いいたくもあるだろう。

「そ、そんなに……?」

「えぇ、もう、たっくさん!」


 ニコォ……と、黒い笑みを浮かべたティナ。

 そこにメラメラとしたオーラを感じたので思わず口を紡ぐグエン。


「──う……。ひ、被害額いくら?」

「さぁ。ギルドの被害はまぁ……金貨50枚といったところですか。幸い基部は無事なので壁と床の修理で済みそうです」


 ほっ……。


「ただ、町の被害は────……ちょっと想像がつきません。たぶん、金貨100枚はくだらないかと」

「ひゃ、百枚?!」

 ま、マジかよー……。

「とはいえ、その辺はギルドマスターの非を認めて、彼の財産を没収すればある程度補填できますが……。ただ、町とギルド中央の受けは相当悪いと思いますよ、これ」


 ですよねー……。

 何事もやりすぎはダメだということ。

「しょぼ~ん……」

 ガックリと肩を落としたグエン。


 別に褒められたいわけじゃないけど、好き好んでギルドに睨まれたいわけでもない。


「ま、まぁ。そんなに気を落とさないでよ──中央にはアタシから言っとくから」

「お、おう」


 リズがケラケラと笑っている。

 …………いや、アンタ笑ってるけどね?!

 アンタのせいでもあるのよ? これ。


「で、状況は理解したよ。とりあえず弁償はさせてもらうから。……えっと、とりあえずこれで」

 グエンは素直に金貨をティナに払う。

 幸いにも報酬がたんまりあったので即金で払うことができたのはありがたかった。


 もし、支払いできなければ借金を負う羽目になっていたかもしれないし、

 最悪、奴隷落ちをあり得た。


「どーも。とりあえず、本件はこれでなんとか収めてみます。」

「すみません……」


 なんか納得いかないけど、これが世間というものだ。

 リズみたいにうまく渡っていかないとなー。


「はぁ、事後処理が大変ですよ……」

 お疲れさまです。


 トボトボとギルド職員のもとへ向かうティナ。

 いきなり責任者代理を押し付けられパンク寸前なのだろう。

(まぁ、頑張ってくれ───としか言えんけど……)

 青い顔をしたティナを見送り、グエンはさてどうしようかと悩む。


「んー……。とりあえず、これからどうするのグエン?」

「あ、おう。飯代稼がなきゃならないと思ってたんだけど、なんか大金が手元に転がりこんできたからなー」


 どうしよ。


 本来の予定では、ソロか───できれば、リズとパーティを組んで冒険者を続けたかったのだけど。


「今のところ考えはねぇなー」

「そう? それなら……。えっと───」


 突然、モジモジしだしたリズ。


(ん? なんぞ……??)


「あ、あのさッ。アタシ───この監察の仕事が終わったらしばらくフリーなんだよね」


 ん?

 うん……。そういや、外部委託とか言ってたね。


「あ、その……。ぐ、グエンさえよければ───」

 リズが珍しく言葉を濁らせる。

 ん?

 なんだろ、これテジャブが……。


「───ぐ、グエン!!」


 リズが言葉を言い切る前に、グエンの足元にチビッ子───もといシェイラがトテトテとやってきた。


「あん?」


 なんだよ。

 いま、話中───……。


「ちょっと、今グエンと話してるのアタ───」

「僕をパーティに入れて!!」


 は?


「ずっと考えてた! ずっと謝りたかった! ずっとどうしたらいいか……。ずっと、ずっと───!」


 感極まった表情でシェイラが叫ぶ。


「僕、どうやってグエンに許して貰えばいいかわからない! だ、だから───」


 シェイラがグエンの足にすがりつく。


「ぼ、僕を……。僕を貰って! 僕を───」



 は、はぁぁ?!


 な、なに言ってんのこの子───。

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