第79話「これが、ダンジョンの奥──?(前編)」

 すでにリズは通路をサクサクと進んでいる。

 こっちもかろうじて証明らしいものはあるが、所々に闇だまりができており通路が闇に沈んでいるようだ。


「アタシについてきて。夜目は利く方よ、これでもね」


 一瞬だけキラリと輝くリズの瞳。


 ダークエルフの種族特性ゆえだろうか。

 リズは全く躊躇することなく通路の先へと駆けていく。


 しかし、グエンにはリズほどの速度を維持できない事情があった。


「リズ! 待ってくれ────ここは狭すぎる!」

「は?」


 オークが背をかがめて潜る程度の高さしかない天井。

 人間ならそれほど苦労しないが、それでも閉塞感はある。


 なにより、素掘りの洞窟ゆえか、通歩幅は広かったり狭かったりと複雑に入り組んでいた。

「いだ!」

 くそ……。油断すれば身体ごとぶつけてしまいそうだ。

 そして、敏捷が9999のうえ音速と光速の称号を持つグエンにとってこの地形はあまりに不利だった。


「大丈夫よ。このくらいならアタシが先行して道を切り開くわ──アンタは頭をぶつけない様についてきなさい!」

(簡単に言うなよ……。まぁ、先頭を切ってくれるのは助かるけど)


 頼もしいリズの背中。

 前方で待ち構えている、オークやゴブリンどもをズバズバと薙ぎ倒している。

 

 さすがはSSSランク。

 そして、暗殺者のリズ!


 一対一なら負けないと豪語していただけはある。


 足元に転がるモンスターどもの死骸はいずれも上位種だらけだというのに、リズの侵攻はちっとも衰えない。


「グエン、横ぉ!」


 そんなリズに見惚れているグエンの肝を冷やすように、メインの大通路につながる横穴からオークソルジャーが粗末な槍を手に突っ込んできていた。


「く!」

 とっさに反撃しようとするも、グエンは急に止まれない!


「たぁ!!」


 バチンッ! と、中規模な火花が上がりオークソルジャーの上半身が黒焦げになる。


「すまん!」

「ううん!」


 小脇に抱えていたシェイラが、ニヒッと可愛らしく笑う。


 ち……やるじゃねぇか。


 無意識のうちにシェイラの頭を撫でるグエン。


 気持ちよさそうに目を細めるシェイラだったが、

「そっち! 油断しちゃだめよ!」


 リズが一瞬だけ振り返りつつ注意を飛ばす。


「わかってる! 前ぇ……気をつけろッ!」

「誰に言ってんのよ──」


 スパンッ!


 カチ上げるようにしてオーガチーフの顎を切り裂き、体ごとぶつかる様にして引き倒すと、またその上を駆けていく。


「くそ、キリがねぇ!」

「いーえ、そうでもないわよ」


 リズの敏感な嗅覚が空気の違いを捉えていた。


「グエンも見たでしょ。さっきのメイン通路の奥」

「ん? あぁ…………あ、そうか!」


 さっきグングニルをぶっ放したとき、通路全体が光に包まれた。

 その時は敵の多さにばかり気を取られていたが、たしかに────。


「……もうじき通路が切れるはず!」


 そう、通路の奥には確かに終わりがあった。

 まるで巨大な壁のような空のような漆黒の暗闇がそびえるように、メイン通路をズバリと切り取っていた。


 あの先がなんなのか知らないが、いずれにせよ次の階層に進むのだろう


 そして、メインの通路は終わっていたのだから、この側道も同じ状態と考えてもよさそうだ。


 そのまま駆けるグエン達──。



「す、」



 ストォォォォオオオオップ!!


 ────キキキキキィィィイイイイイイイ!!


 グエンだか、リズだか、それともシェイラだかの絶叫が響き、誰ともなく急ブレーキ!


「うお!」

「きゃ!」

「ひゃー!」


 すんでのところで3人は踏みとどまったのだが、実際危機一髪。


「ちょ……」

「冗談でしょ……」

「た、谷??」


 通路の切れ目に見たた場所は巨大な切り立った崖であったらしい。


 真っ暗闇に見えるのは、その名の通り真っ暗闇。

 実際にこの先には何もないようだ……。


「こ、この世の終わりかよ──」


 まったく先の見えない漆黒の闇。


「いえ、わずかだけど明かりが見えるわね。──魔物の目の光かもしれないけど。ただ、この先だけで数キロはあるわね……。まったく見通しが利かないからそれ以上化も。……どーりで大型種がわんさかいるわけね」


「下も見えねぇな……。どーする? 後ろからも敵が来るぞ?」


 隣のメイン通路も同じくこの崖に続いている。

 ほかの側道も同じだろう。


 ダンジョン内部の環境は種々様々であるが、ここまで広大なダンジョンは見たことがない。


「んー。いい状況じゃないわね」

「え?」


 ハタと考えこむリズ。

 それに何かと問おうしたグエンであったが、


「これは────……新タイプのダンジョンかも」

 し、

「……新タイプ?」


 リズは何らかのスキルを使っているのか、目を細めて闇の奥を見通している。

 さらには壁に手をついて何やら振動を拾っているらしい。


「えぇ。そうよ。なんて言っていいのか──……広大過ぎるわ。探知した感じだと、魔物の数も桁違い」


「は?」


 広大って、それじゃあまるで……。


「えぇ。広大なの──……大陸が──いえ、世界が丸々一個入っているくらいかも」


「な?!」

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