第11話「すいません、もうヤケクソです!」

 グエンの頭で、何かが切れる音がした。

 そう、彼の中で堪えていた何か・・が。



  「さっさとしろよ! パシリ野郎!」



 さっさと……。

 さっさと───。


 早く。

 一刻も速く───……。


「くそ野郎どもが………………」


 ユラリと立ち上がるグエン。

 そして、ぬったりとニャロウ・カンソーを睨み付けると、


 ああ、そうさ。

「───……そうともさッ!」


 あああああ、そうだよ!!

 そうだよ!!


 俺は、


「パシリだ」 


 すぅぅぅ……、

「俺は『パシリ』だぁぁぁああ!!」

 それが……。

「──そ・れ・が・ど・う・し・た・ぁ! 健康優良中年男の極振りステータスの敏捷特化の4385を舐めんなよぉぉおおおおお!!!」


 走ってやる!

 駆けてやる!!


 間に合ってやるッッ!!


 伊達にパシリを何年もやってねーーーーよ!!


「ヤキソバポーションを買いに行かせたら最速の男とは、俺の事じゃなああああッッ!!」


 パシリ特化の『敏捷』は伊達じゃない!!


「リズ! 手を伸ばせ! 目を閉じて、耳を覆っていろッ」

「ぐ。グエン……?!」


 ───君は見るな!!


 オッサンのパシリ姿なんて……。こんなカッコ悪い場面なんて見なくていい!!


(そうさ、見ないでくれ……!)


 鼻水を垂らして、

 涎を撒き散らして、

 顔面汗まみれの汚いオッサンの姿なんて───。


 見るな、リズ!!!

 そして、目を瞑っている間に───。


「うあおあおあおああああああ!!」


 ドン!! と、大地がはぜる!


(───動け、俺の足!!)


 ダン、ダン、ダン!!


 一歩

 一歩

 また、一歩!!


(もっと早く!!)


 ブシュ───!


(ぐ! 傷が───)


 くそ!

 血が噴き出す!

「ぐぁあ!!」

 足の感覚がもうない!!

 頭が激痛でどうにかなりそうだ───……!


 だけど、

(もっと速く!!)


 それでも、届かない。

 まだ届かない──────。


 あと少しでリズの手に届くのに……!


(もっと疾く!!)


 ああああああああああああああ、足りない!!


 足りない……。

 足りない……!


 速度が……敏捷が足りないんだよぉぉぉおお!!

「走れ! いつものように! 俺の脚ぃぃ!!」

 この時ほど速く走れと願ったことはない。

 痛みは我慢できる。

 だけど、速度が…………敏捷が足りないッッッ!!


 あれほど馬鹿にされ、パシリのために敏捷ばかりあげさせられて呪っていたというのに───。


「だったらぁぁあ!!」


 グエンはステータス画面を呼び出し、ため込んでいたステータスポイントを敏捷にガンガン叩き込んでいく。


 『残ステータスポイント+980』


 全部だ!

 全部だ!!


 全部叩き込んでやるッッ!!


 +『敏捷』

 +『敏捷』

 +『敏捷』


 がががががががががががが!!


 物凄い勢いでステータス画面を連打し、ステータスを割り振っていく───。

 当然、敏捷に極振りだ!!



 4385が、4788に!!

 4788が、4998に!!



 まだだ!!

 まだだ!!


 まだ足りない!!


「グ、エン……」

「今行くッ!」


 余裕のあったステータスポイントがガンガン減り続けるも、グエンは気にしない。

 今この瞬間、少しでも速くあればいいと、気にしないッッ!!


 あれ程嫌がっていた敏捷特化パシリのための「敏捷」をさらに、さらに、さらに極振りしていく。


 だって、まだ走れる!!

 まだ間に合うッッ!!


 早く! 早く上昇しろッ!!


 『残ステータスポイント+165』


 がががががががががががががが!!


 4998が、4999に───!!


 それでも、届かない!

 あと、あと数歩が届かない───!!


 もう少し、もう少し!!


「もう少しッッ」

 届け! 届け! と───。

 リズの手を掴んで、化け物ニャロウ・カンソーから救い……!

 ───二人でこの場所から離れるんだと!!


「リぃぃぃズ!!」


 だから、まだだ!!

 まだ、足りない!!


「もっとだぁぁぁぁああああああ!!!」


 がががががががががががががが!!


 4999が5000に!!



 ──────カチッ……。



 死力を尽くして「敏捷」を上昇させようとしていたグエン。

 まさにその時、


「……………………え?」


 その瞬間。突如として、周囲の音が消える。

 まるで、聴覚を突然失った可能のように……。


────な、なにが……な、なにが……」


 まるで、音が……。


──遅れて遅れて」


 きこえてきこえて


 ……来るよ来るよ。


 カッ──────!!


 その瞬間、

 グエンの姿が掻き消える。

「なにッ?!」

 リズに向かって懸命に動かしていた足が突然羽のように軽くなり、空気がゼリーのようにドロリと固まる。


(なん、だ──これ……?!)



  実績アーカイブメント解除コンセレーション───!!



 は?

 し、新称号付与───!!



  新称号ニュータイトル獲得しまコングラッチュしたッッ《レーション》───!!


 ────ピカッ!!



『ステータス敏捷が5000を突破』

『新しい称号を獲得しました』



 称号「パシリ」⇒「スピード オブ サウンド



名 前:グエン・タック

職 業:斥候

称 号:パシリ→音速(NEW!!)

(条件:敏捷5000を突破し、さらに速度を求める)


恩 恵:音速は、音の速度

 (アナタは音の速度を越えました)

 ※敏捷ステータス×35

 ※音速時の対物理防御無限

 ※音速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗


体 力:2672

筋 力: 934

防御力: 950

魔 力: 569

敏 捷:5001

抵抗力: 842


残ステータスポイント「+363」


スキル:スロット1「韋駄天」、

    スロット2「飛脚」

    スロット3「健脚」

    スロット4「ド根性」

    スロット5「ポーターの心得」

    スロット6「シェルパの鏡」



「…………は?」






 ───おん、そく?

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