第74話 少年少女は荒野を目指す

 “強欲グリード黒鋼の鉄蜘蛛ウィドウメイカー”定員内撃破。


 この快挙に【騎士猿ナイトオブエイプ】のメンバーたちは湧き立ち、クランハウスではメンバー総出での宴会が催された。

 ある者はテイクアウトしたVR料理の数々を持ち寄って舌鼓を打ち、ある者は頭からビールを掛け合って大はしゃぎしている。共通しているのは彼ら全員が明るい笑顔を浮かべているということ。



「そーれーでーはー、今回のMVPであるスノウライト氏の登場でーす!」


「あ、どうも……」



 宴もたけなわというところで1号氏がスノウをメンバーたちの前に引っ張ってくる。スノウはぴこぴことキツネ耳を動かし、軽く頭を下げた。



『ほーん? どうしたんです騎士様? いつもよりおとなしいじゃないですかぁ?』


「う、うるさいな。こういうの慣れてないんだよ」



 ニヤニヤするディミの軽口に、スノウは赤くなってもじもじする。戦場で目立つのは何ともないが、直接衆目に晒されるのはまた別のようだ。内弁慶め。カワイイね。

 なおキツネ耳は本来ならストライカーフレームを降りた時点で消えていたのだが、今回の勝利の象徴ということで1号氏がスキンとして用意した。


 そんな恥じ入るスノウをじーっと見ていたチンパンたちが、おおっとどよめく。


「カワイイ! スノウちゃんカワイイ!」


「強くて可愛いって最高じゃね?」


「でも性格悪いぞ」


「可愛くて性格悪いってなおいいじゃん、しかもキツネ耳だぞ。もう許せるぞオイ!」


「フッ……俺の恋人にしてやってもいいぞ。いや……なれ!」


「お前蜘蛛にパニックになって真っ先に落とされておいて何言ってんの?」



 キャッキャウキャキャと盛り上がるチンパンたち。

 提供されている飲み物に意識を酩酊させる効果はないはずだが、全員勝利の余韻と場の雰囲気ですっかり出来上がっていた。



「はーい踊り子さんに手を触れないでくださーい。この子はアンタたちと釣り合う相手じゃないのよー」



 早速フレンド依頼をバンバン投げ付けてスノウを困らせているチンパンたちを見かねて、ショコラがパンパンと手を叩いて割って入る。



「なんだよーひとりじめかよー」


「だがそれもまた美味しい」


「わかりみ」



 そう言いながら去っていくチンパンたちを見て、ショコラがあきれ顔を浮かべた。



「やれやれ……。まったくミーハーな連中なんだから」


「あ、ありがとう」



 ショコラがふーんと鼻を鳴らしながら、感謝するスノウを上から下まで観察する。



「そうやってしおらしい態度を取られると、普段の生意気さとのギャップが余計にクるわけね。勉強になるわー」


「いや、別にわざとやってるわけじゃないんだけど……」


「天然でそれか……恐ろしい女ね」



 そんなことを言いながら、ショコラはツンと顎を上に向けた。



「アンタが“天狐盛り”のパイロットなんて認めないって言ったけど……あれは訂正する。アンタはふさわしいパイロットだったし」



 心なし顔を赤らめるショコラ。

 そんな彼女に、スノウとディミは真顔になる。。



「いや、そりゃそーでしょ。あれだけやって文句言われてたまるか」


『むしろあんなモンスターマシン、他に誰が乗りこなせるんですか?』



 当たり前の感想であった。

 実際明らかに人類には早すぎるマシンである。ぶっちゃけ大失敗作であった。


 しかしショコラ的にはもうちょっと歩み寄った返答が聞けると思っていたらしく、肩をがくりと落とす。



「そこはもうちょっとこう……光栄だなとかお前もなかなかのものだったとか、別のセリフがあるもんじゃないの?」


「光栄だな、キミもなかなかのものだったよ」


「そっくりそのままオウムってんじゃねーし!」



 そう突っ込みながら、ショコラはクスクスと笑う。

 それに合わせるように、スノウとディミも笑い合っていた。



「ね、スノっち。アンタ、ウチに来るつもりない?」


「んー……」


「ウチは楽しいよ。まあみんなアホばっかなんだけど、自分のやりたいことに真摯な連中ばっかだし。きっとアンタとウマが合うと思うんだ」



 ショコラの勧誘に、スノウは頬をぽりぽりと掻いた。合わせて頭の大きなキツネ耳がぴこぴこと揺れる。ディミがその間にちょこんと腰かけて、主人の様子をじっと見降ろした。


 やがてスノウが少しためらうように、頭を横に振る。



「悪いけど……遠慮しておくよ」


「どうして? やっぱウチになじめそうにない?」


「ううん、ボクはキミたちのこと好きだよ。このクランとは気性が合いそうだ。きっと毎日楽しく遊べるだろうな」



 でも、とスノウは続ける。



「かつてボクの居場所だった人たちがここにはいない。だからボクはここに骨を埋めるわけにはいかないんだ」


「居場所だった人?」


「キミにとっての1号氏やネメシスのことだよ」



 スノウの言葉に、ショコラはその意味を理解する。

 1号氏やネメシスがいなければ、自分はこのクランにはいなかっただろう。1号氏がいるから、このクランに居場所を定めたのはショコラだけではない。

 ある意味で家族的で、なれなれしいクランの雰囲気は、発起人である1号氏がそうあれかしとクランを作ったからだ。



「そっか……。もしかしたらスノっちって、傭兵やりながらその人たちを探してるん?」


「それもあるかな。1人は見つけたんだけど、あと5人がどこに行ったものやら。どこかにいるはずなんだけど……殺しても死ぬわけないんだ、あいつらが」



 そう言いながら、スノウはけらけらと笑う。



「まあ、あとは借金返さないといけないし。あとリアルでの飯の種にもなるからね。一石二鳥のこんなおいしいゲーム、やめられるわけないって」


「……」



 スノウの笑い声を聞いたショコラは、ぎゅっとスノウを抱きしめた。



「わぷっ!?」



 豊満なショコラの胸に顔を埋めたスノウが、その柔らかさと温かさに目を白黒させる。キツネ耳もピーンと立っていた。

 自分よりも年下の少女のアバターを胸に抱き寄せ、ショコラがわずかに潤んだ瞳で告げる。



「頑張ってね。負けないでね。ウチは、スノっちのこと応援してるから。辛くなったら、いつでもここに戻ってきていいんだかんね……!」


「あうあうあう」


「ううー、アンタにもそんな事情があったんだねえ。負けるな、スノっち……!!」


「む、胸……」


「胸くらいウチがいくらでも貸したげるよぅ!」



 スノウの頭の上で、ディミが腹を抱えて笑い転げていた。


 そんな3人を、遠くから見つめるのは1号氏とネメシスだ。



「ははは、私が勧誘しようと思っていたのにショコラに先に言われてしまいましたね。しかも断られてしまうとは」


「このまま諦めてよろしいのですか?」



 ネメシスがそう言うと、1号氏はひょいと肩を竦めた。



「やむを得ないでしょう。シャイン氏は帰る場所を求めて家路をさまよっているところなのです。そして、その帰る場所とは……“シャングリラ”でしょうね」


「……前作の日本最強クランと謳われた、あの……?」


「でしょうね。機体名にシャインと付けていて、あの腕前、そして悪辣な戦いぶり。恐らくは“シャングリラ”の第七位。悪名高い“魔王”の寵児と呼ばれたシャイン氏本人です」



 そう言って、1号氏は眼鏡を外すと懐から取り出した眼鏡拭きで拭った。



「嬉しいですねぇ。前作からずっとファンでね、一度お目にかかりたいと思っていたんです。周囲の人たちが過保護でなかなか外部と接触させなかったので、叶わなかったのですが……こうして会えて、共闘までできるとは感無量ですよ」



 そうまで焦がれた相手を見過ごすのかという疑問が顔に出ていたのだろう。ネメシスの表情を見て、1号氏が笑った。



「仕方ないですよ。“シャングリラ”の7人は文字通り格が違う。シャイン氏ですら、ようやくその7人の末席なのです。ウチには過ぎた人材というほかありません。留めおくことなどできないでしょう」


「そうですか……残念ですね」


「ええ。残念です」



 そう言って1号氏はしみじみと頷いた。



「そしてそれはシャイン氏にとっても。彼女は理解しているのでしょうかね。時の流れはたやすく人を変える。その関係の在り方も。今のシャイン氏が再会した“彼ら”は、不倶戴天の宿敵ともなりえるということに」


「それは……」


「だってそうなるでしょう? ……あるいは、シャイン氏にとっても“彼ら”にとっても望むところなのかもしれませんが」



 1号氏はそう言ってスノウたちを眺める。

 スノウのことをすっかり気に入ったらしいショコラは、べたべたと可愛がっている。料理をよそってあげたり、口元を拭いてだらしないと説教したり、まるでオカンであった。

 そんな妹分と客分の姿に、1号氏とネメシスは柔らかな微笑みを浮かべる。



「……せめて、このクランがシャイン氏にとって羽を伸ばせる場所になればいいのですが」


「ええ。そうですね……」




※※※※※※




 スカルからウィドウメイカーの撃破報酬を報告されたヘドバンマニアは、飛び上がらんばかりに喜んだ。

 未だ市場には出回っていない技術ツリーである。ウィドウメイカーとの決戦に参加したのはスカルとアッシュだけだったので獲得素材が少なく、即時に解放はできないだろうがその価値は計り知れない。



「よくやってくれた! 大手柄だぞ!」


「へへっ。まあ、こんなもんよ」



 ホクホク顔のヘドバンマニアに、アッシュは誇らしげに胸を張る。



「早速技術をカイザー様に献上して、お褒めいただかなくては!」



 ……ヘドバンマニアが、そう言い放つまでは。

 アッシュは「は?」と呟き、ヘドバンへの距離を一歩詰め寄る。



「おい……なんだそりゃ? 何で指一本動かしてもねえ【トリニティ】に技術をくれてやるってんだ。これはウチの技術だぞ。独占研究して、ウチの強みにするべきだろうが」


「お前こそ何を言ってるんだアッシュ。指一本動かしてもいない? 【トリニティ】から無償で技術を提供してもらっておいて、何を言っているんだ。技術を提供してもらったのだから、その恩を返すのが筋というものだろう? まったく、恩知らずなことを言うものじゃないぞ」



 ヘドバンはきょとんとした顔でアッシュを諭した。

 ……確かに、それはそうだ。

 援助だけしてもらって見返りを渡さないなど、不義理にも程がある。

 それくらいアッシュにもわかる道理だ。


 だが……釈然としないものがあった。



「技術を渡すなら渡すで、枝葉部分だけ渡して根幹は残すとか、そういう駆け引きをすべきじゃねえのか? これまでのアンタならそうしてたはずだぜ」


「アッシュ、何を言うんだ。それこそ不義理だぞ。私たちはカイザー様の下部組織なんだ。狩りの成果は余さず報告しなくては。赤心で接してこそ恩恵も期待できるというものじゃないか?」


「……すっかり牙を抜かれた飼い犬だな」



 アッシュはギリッと犬歯を打ち鳴らし、変わり果てたリーダーを見つめた。

 かつてはこうではなかった。

 穏やかだが野心家で、利になることは目ざとく確保し、同胞たちに分け与える。何をするにもそこには自分たちのクランを第一に考える姿勢がうかがえて、だからこそアッシュも彼を兄貴分として尊敬することができた。


 今は違う。ヘドバンの“一番”は、カイザーとかいう得体のしれない男になってしまった。



「何がカイザー“様”だ。俺が戦ったのは、そんな見たこともねえ奴のためじゃねえ。クランのため、お前のためだろうがよ!」


「私のためということは、つまりカイザー様のためじゃないか」



 ヘドバンはそう言って、透き通った笑みを浮かべる。まるで神に仕える敬虔な司祭のような、裏表のない顔つき。

 ……気持ち悪い、とアッシュは反吐が出そうになる。


 今のこいつはまったく尊敬などできない。裏表のない人間とは、つまるところ薄っぺらな自我しか持たない人間とどう違う?

 ギラつくような欲望を持ち、それを理性で節するからこそ人間は尊いのではないのか。かつて兄貴分と仰いだ人間は、そんな人物だったはずだ。



「お前はカイザー様への理解が足りていないな、アッシュ。今度勉強会に顔を出すといい、カイザー様の偉大さを教えてやろう」


「そんなペテン師のことなんざ知りたくもねえッ!」


「アッシュ、貴様なんと言ったッ!!」



 吐き捨てるように言ったアッシュの言葉に、ヘドバンの顔が豹変する。

 穏やかなかつての貌の面影もない、怒りに満ちた表情。


 ヘドバンがアッシュに飛びかかろうとして、アッシュが身構える。

 そしてその横っ面を、ヘドバンよりも先にスカルが殴りつけた。


 もんどりうって吹き飛ばされるアッシュの姿に、ヘドバンが硬直する。



「アッシュ! このアホがッ! クランリーダーの意思に逆らうとは何事だッ!!」



 スカルは空洞の眼窩に灯る赤い光を爛々と輝かせ、唾を飛ばさんばかりに叫んだ。



「もういいッ! リーダーの命令に従わない者などこのクランには不要だッ!! 出ていけ、お前はクビだッ!!」


「な……」



 殴られた頬を押さえ、ぽかんと見上げるアッシュ。

 ヘドバンも先ほどの激昂は忘れたように、スカルに声を掛ける。



「いや、何もそこまでは……アッシュもカイザー様の偉大さを教えれば、きっと改悛するはず。首になどしなくても」


「いいや。【氷獄狼フェンリル】は変わらねばならない。よりカイザー様のお役に立てる忠実な組織へと。そのためには、クランリーダーの命令を聞けない不穏分子は排除せねばならんッ! たとえそれが前作からの仲間であってもだッ! そうでなくてはカイザー様への忠義を貫けぬではないか、ヘドバン!?」


「……確かに、それはそうだ」



 カイザー様の忠義、というスカルの言葉にヘドバンが肯首する。

 スカルはさもありなんというように頷くと、放心するアッシュに言い渡した。



「副クランリーダーの権限を持って、お前を【氷獄狼】から追放する」




※※※※※※




「……すまなかったな」



 【氷獄狼】のクランハウスから出て、しばらく歩いてからスカルは謝罪した。

 アッシュを見送ると言って、2人で黙々と夜のシティを歩いてからのことである。

 長らくの付き合いであるアッシュでもカイザー様に従わなければ追放されるという衝撃にクランメンバーたちは動揺していたが、スカルとアッシュのつながりの深さを知っている彼らは2人きりにしてくれた。



「いや……まあ、いいよ。別に痛覚があるわけじゃねえし」



 青く腫れた頬を押さえながら、アッシュは軽く肩を竦める。

 これが男のアバターでよかった、とスカルは内心思った。『創世前作』の可愛らしい金髪ツインテールのエルフ少女の姿のままなら、罪悪感でいたたまれなかったことだろう。



「それに俺のためにしたことなんだろ。文句なんかねえさ。……せいせいした」



 そう言って強がるアッシュの顔に、わずかな寂しさが浮かぶのをスカルは見た。せいせいなどするわけがないのだ。共に手を取り合って作り上げてきたクランから追い出されて、胸に去来するのは寂しさと悲しさだけ。

 それを人に見せないのは、アッシュの矜持だ。



「……大人になったな」


「なんだよ、それ」



 しみじみと言うスカルに、アッシュは苦笑を漏らした。



「立派になったよ、お前は。もう一人前だ」


「あのさ、スカルって俺のこと子供みたいに言うけど、出会ったときにはもう大学生だったからな? とっくに大人だったぞ」


「何を言う。大学生なんぞ子供だろうが。社会人になればわかるだろうに」


「ま、それは確かにな」



 頷くアッシュに、スカルは笑う。



「まあ年上から見れば、年下なんてみんな子供に見えるのさ。何しろ30代になっても、自分自身のことをまだ大人になりきれてないと思うんだから当たり前だな。だけどお前は、その中でもちょっと図抜けたよ。数か月前まではまだまだ大学生に毛が生えた子供だったのに。……スノウライトのせいかな?」


「はー!? なんであのガキが出てくるんだよ!? 関係ねーし!」


「ははは。人間は恋を知るたびに少し大人になるのさ」


「何言ってんだ、あいつ女だぞ! なんで恋とかって話になんだよ!」


「だが今のお前は男だろう」



 アッシュは顔を赤らめて、がるるっと牙を剥き出す。



「アバターはな! 俺の中身は女だぞ! 女同士で色恋になるか、アホらしい!」


「別に女同士で恋をしちゃいかんわけでもなかろう。とりわけこんな現実と仮想が溶けあってしまったような時代ではな」



 スカルはカタカタと顎を鳴らして、楽しそうに笑った。

 そんな兄貴分をぐぬぬと睨み付けるアッシュである。昔から、口喧嘩でこのひじりに勝てた覚えがない。


 そんなアッシュの頭をぽんぽんと叩いて、スカルは言う。



「お前はもう一人前だ。だから卒業だよ、アッシュ。もう【氷獄狼】はお前のいるべきクランじゃなくなった。お前のような出来物が、これから生き腐れていくクランなんかにしがみついちゃいけないんだ」



 スカルの目には【氷獄狼】が【トリニティ】からの資本を注入され、今後どんどん変質していく姿が目に浮かぶようだった。

 これからもどんどんメンバーを募集して、巨大なクランへと成長していくことだろう。技術、兵力ともに秀でた、カイザーの私兵集団として。


 だがそこにはかつてヘドバンと共に目指した、プレイヤーが自由に遊びを楽しめる居場所という思想はない。当初の精神は腐り果てるばかりだ。

 そんなところに、ようやく一人前になった妹分をおいてはおけない。



「でも……まだ元に戻していけるかもしれねえ」



 未練がましいアッシュの言葉に、スカルは首を横に振る。



「いいや。残念だが変えられる方が早いだろう。俺はこれから、まだまともな連中を【氷獄狼】から追い出すつもりだ」


「スカル……お前は【氷獄狼】を出ないのか? お前が新しいクランを作るって言うのなら、俺は協力するぜ」



 そう言うアッシュの瞳は不安に揺れていた。

 年の離れた兄の裾を掴む幼子のような目。


 おいおい、そんな目をするなよとスカルは思う。一人前だって言ったのが嘘になってしまうだろ。



「俺は……【氷獄狼】を看取るよ。たとえ死にゆく巨獣であったとしても、誰ひとりとしてその死を看取らないのは悲しいからな」



 そう言って、スカルはくしゃりとアッシュの髪を撫でる。



「さあ、行け。お前はもう一人前だ。自分のクランを作るなり、この世界を自由に見聞して回るなり、思うがままに遊べ」


「……わかったよ。すぐにどうするかは見つかんねえかもしれねえけど……俺なりにやってみる」


「ああ。お前がどこにしても、俺は応援してる。巣立ちのときは来た」


「……じゃあな、世話になった!! あばよっ!!」



 まるで泣き出しそうな表情をこらえて、笑顔で転移するアッシュ。


 スカルは自分のアバターの眼窩が空っぽで、本当に良かったと思った。

 折角の妹分の巣立ちを、涙で見送ってたまるかよ。



 かくて優しい人たちに背を向けて、少年少女は荒野を目指す。

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