第95話 メスガキ絶対わからせ隊

「ではそちらは順調ということでいいんだな?」


「ええ、ご心配なく。スノウちゃんは【ナンバーズ】の包囲を突破して着実に最深部に行く方法を見つけたみたいですからぁ」


「それは重畳。さすがはシャインだな」



 マガツミ遺跡の地上にいるペンデュラムは、地下から送られてくるシロの報告を受け取って満足そうにうなずいた。

 シロは現在も何らかの作業をしながら報告しているようで、時折カメラの外へ視線を向けているがペンデュラムと話す口調には淀みがない。



「作戦の詳しい内容をお聞きになりますかぁ?」


「いや、それには及ばん。シャインができるというのなら、それは成功したと同じことだろう。後でゆっくりとお前たちから手柄話を聞かせてもらうとしよう」



 ペンデュラムの言葉に、シロはくすっと笑った。



「ペンデュラム様は本当にスノウちゃんを買ってるんですねえ」


「フフ……俺とシャインは互いを認め合う盟友だからな。シャインは俺の未来の片腕。相手を信じることからすべてが始まるのさ」



 未だに相手のキャラネームを覚える気がないのに盟友を名乗っていくぅ。



「あらあら。それじゃペンデュラム様を支えてきた私たちが嫉妬しちゃいますね」


「何故だ? もう片方の腕はお前たちだろう。右腕が左腕に嫉妬するのか?」


「まあ、ペンデュラム様ったらぁ」



 シロは赤らんだ頬を押さえ、嬉しそうに微笑んだ。

 女ったらしのイケメン主人とイチャイチャしているメイドに見えるが、リアルではどちらも女性である。

 見た目はヘテロで中身は百合、もうどう分類していいのかわからんな。



「ペンデュラム様こそ、私たちがおそばに付いていなくても大丈夫ですか?」


「ああ、心配するな。情報をまとめるのに少々手間取ったが、状況はほぼ把握した」



 現在指揮に手を取られているペンデュラムは、その忙しさを感じさせることもなく涼し気に笑った。


 しかし現状はかなり混沌とした、てんやわんやの状況にある。

 何しろ【シルバーメタル】との戦闘が始まるかと思ったら、唐突に【ナンバーズ】が救援と称して乱入してきたのだ。


 そして当初はこっちを無視して【ナンバーズ】と【シルバーメタル】の小競り合いをしていたのが、今度は地上に出てきた【ナンバーズ】の多くが地下に戻ってしまった。

 何故かと言えば、最深部で待つオクトの元に向かうスノウを撃墜するために、【ナンバーズ】の半数が追跡を開始したというのだ。


 さらに【シルバーメタル】の動きも読めない。


 最初は【ナンバーズ】と結託して小競り合いするふりをしていたかと思えば、いきなり地上に残った【ナンバーズ】に本気で攻撃したり、ペンデュラムたちに襲い掛かったり、地下に戻った【ナンバーズ】を背中から襲撃したりと、滅茶滅茶な動きを見せている。

 まるで暴徒と化して、手当たり次第に暴れられればそれでいいというような暴れっぷりだった。


 当初は急展開する状況への対応に追われていたペンデュラムだが、各組織への伝手をたどって内情を掴み、何とか全体の状況を把握したところである。


 そして現在ペンデュラムは地上での【シルバーメタル】を相手どる指揮を執りながら、もうひとつの作戦の指揮を同時に進めていた。



「地上のことは俺に任せておけ。以前から用意しておいたカードを切る」


「あら、よろしいんですかぁ? あまり乗り気ではないようでしたが」


「後始末が大変だからな。だが愚弟が行儀悪く手を伸ばしているとなれば、俺も本気を出さざるを得ない」



 そう言ってペンデュラムは右腕をポンと叩いて、不敵な笑いを浮かべた。



「俺の本当の武器というものを見せてやろうじゃないか」


「頼もしいです。期待していますねぇ」


「ああ、では……」



 シロとの通信を打ち切ろうとしたとき、ペンデュラムはマップを見て眉をひそめた。

 マップに表示されている、【ナンバーズ】を示すマーカーの動きに異変が起きたのである。

 先ほどシロから送られてきた地下マップにいる敵機が、一斉に地下のある座標目掛けて移動を開始した。その数、実に数十騎。

 さらには地上で【シルバーメタル】と交戦していた機体の一部までが、戦闘を打ち切って地下へと向かおうとしている。



「おい、シロ。シャインは一体何をやっているんだ? 異様な動きを見せているぞ」


「あらぁ。手柄話は後で聞くんじゃなかったんですかぁ?」


「さすがに作戦に影響が生じるぞ、これは。何をした?」


「煽ってます」



 シロから耳慣れない言葉を聞かされたペンデュラムは、ぱちくりと目を瞬かせた。



「煽る?」


「ええ。ディミちゃんは“メスガキ煽り”と言ってましたけどぉ。とっても腹の立つ笑顔で、敵さんのプライドを二束三文で叩き売って挑発してますよぉ」


「…………」



 ペンデュラムは眉を寄せて困惑を浮かべた。



「その、なんだ。天下の【ナンバーズ】の精鋭部隊が、罵倒された程度で作戦を放棄してシャインを追いかけているのか?」


「ええ。何しろ、みなさんとってもおこりんぼさんですからぁ」



 シロはにこにこと笑いながら手を合わせる。



「スノウちゃんは人を怒らせるのがとっても上手なので、【ナンバーズ】の人たちはみーんなぷんぷん丸になっちゃいましたよぉ。すごいですねぇ。人を怒らせることに特化した才能ってあるんですねぇ~」



 シロはほんわかと笑っているが、そんなもの匿名掲示板のレスバくらいでしか役に立たない才能ではなかろうか。

 持っているだけで人間性を疑われるマイナススキルとしか言いようがない。


 それにしてもメスガキに煽られて我を忘れるPMCってなんなのよ。

 そしてそんなものに苦しめられている私たちの存在って一体……?


 ペンデュラムは言い知れぬ頭痛を覚えながら言葉を探したが、やがて頭を横に振って声を絞り出した。



「……いや、いい。何か俺には理解できない世界の話なんだろう」


「そうかもしれませんねぇ」



 諦めやがりましたわこのお嬢様!


 海千山千の企業幹部とやり合ってきたとはいえ、育ちの良いお嬢様に煽り煽られのゲーマー猿の生態を理解することは酷な話だったのかもしれない。



「地下のことは引き続きそちらに任せる。俺は俺にできることをしよう。ミケとタマにも、期待していると伝えてくれ。シャインの指示を俺の命令だと思って聞くようにと」


「わかりましたぁ。きっとミケちゃんもタマちゃんも喜びますよぉ」



 ペンデュラムはうむと頷き、シロの目を見ながら続けた。



「もちろんお前にも期待している。シロ」


「あらぁ~。これはご期待に応えなくては申し訳が立ちませんねぇ」



 シロは白磁のような頬に浮かぶ紅を手で覆い隠し、うふふと幸せそうに笑った。

 こういうところがあるから、天音ちゃん大好きなんですよねぇ。



 シロとの通信を終えたペンデュラムは、ふうと息を吐く。

 そしてゲームの外にいるスタッフと軽くやり取りをして外部の状況を聞き、仕込んだカードがうまく効果を発揮したことを確認した。



「さて、後は……ある意味で一番厄介な話だが」



 パンッと頬を叩き、ペンデュラムは通信のチャンネルをつなぐ。

 通信が開始されたときには、もういつもの自信たっぷりの伊達男の顔だ。


 腰の前で手を組んだ彼は、涼やかな笑顔でこう切り出した。



「貴方と交渉がしたい。当方には貴方が求めるものを提供する用意がある」




※※※※※※




「なんだと!? もう一度言ってみろ!!」


「えぇ~? お兄さんたち、腕だけじゃなくて記憶力まで悪いのぉ? オクトにいい機体をもらってゴリ押しだけで済ませてるうちに、何も考えることなくて知能が退化しちゃったのかなあ? それじゃ仕方ない、もう一度言ってあげるね」



 言外にお前たちは機体の性能に頼り切ったヘボだと匂わせながら、スノウはにたぁと性格の悪い笑顔を浮かべた。



「さっきキミたちを何騎か相手して、ボクの足元にも及ばない雑魚ばっかだってわかっちゃった。もうキミたちをちまちまと相手するのも面倒だしさ、この際まとめて相手してあげようって言ったんだよ」


「こ……このガキ、言わせておけば調子に乗りやがって……!」



 こめかみにビキビキと青筋を立てて震える【ナンバーズ】の精鋭たちに、スノウはせせら嗤うように告げる。



「ええー? さっきからもう何分経ったと思ってるの? もうとっくに30分は経とうっていうのに、数十人がかりでもボクを倒せてないじゃない。てっきりボクと戦ってけちょんけちょんに負けるのが怖くて逃げてるのかと思ってたよ。【ナンバーズ】ってのはチキンの数を数える組織なのかな~?」



 スノウがぺらぺらとまくし立てる煽り口上に、【ナンバーズ】の兵士たちがウキャアアアアと吠えた。



「誰が逃げるかコラァ!! テメェが隠れてるんじゃねえかッッ!!」


「ナメやがってクソガキャアアッッッ!!」


「誰にも僕をチキンだなんて呼ばせない!!」


「タイムスリップしそうなやつが混じってるでござるなぁ……」



 スノウが【ナンバーズ】全員に送り付ける煽りを傍受しながら、ミケは若干引きながら苦笑を浮かべた。

 実際【ナンバーズ】の兵士の指摘通り、スノウが数十分経過してもこれまで撃墜されていないのは、メイド隊の助力を得て身を潜めているためである。


 ミケの隠密装備を使って気配を徹底的に殺し、シロの索敵装備を使って敵の位置を看破し、タマが仕入れた設定資料の知識で見つけた隠し通路を移動。

 隠密行動に最適な技能のスペシャリストが3人も揃っているのだから、敵の目をかいくぐるのにこれ以上適したパーティー構成もない。


 さらにここにスノウの悪知恵が加わり、わざと姿を見せて誘いだした敵を単体撃破して道を開いたり、隠し通路のギミックを悪用して敵集団を移動させたりと、たった4人で数十の敵をかく乱していた。


 しかしそれでも最深部に向かうための通路には十騎以上の敵集団が陣取っており、そのままでは数の面で不利な戦いを強いられてしまう。

 ただ最深部に行くだけなら強行突破できなくもないかもしれないが、オクトとの戦闘が待っている以上は余計なダメージを負うわけにはいかなかった。

 では、敵集団との戦闘を避けるための最適解とは?



「だから、まとめて相手してあげようって言ってるの。キミたちみたいな雑魚といちいち戦ってたら、あと何年かかるかわからないもん。ボクが大人になっちゃうなぁ。いや、子供のボク以下なんだから、キミたちは雑魚どころか稚魚か魚卵がいいところかな? アハハハッ」



 えっ!? 集団戦を避けるために集団戦を!?



「やったらぁ!」


「タコられて後悔するんじゃねぇぞボケがァァ!!」


「んふふっ、じゃあ全員とヤれるように広めの場所がイイよね? 今マップ送るから、この大きな広場に集まってきてよ。大乱闘パーティーしちゃお♥」


「ウキャアアアアアアアアアア!!!! 乱パだああああああああッッッ!!」


「待ってろメスガキ!! 今身の程をわからせてやるぞぉぉぉ!!」



 スノウが座標を送り付けるや否や、頭に血が上った【ナンバーズ】の兵士たちは猿声を上げながら指定された地点へと殺到していく。

 地下にいる兵士だけでなく、どさくさ紛れに地上にいた兵士までが座標へ向かって押しかけていた。


 誰よりも早くスノウを倒して手柄を立てようと、全員が殺気立っている。



「どけぇぇぇぇ! 俺だ! 俺がナンバー9になるんだ!」


「ふざけんな! 邪魔すんじゃねえ! 死ねやぁぁ!!」


「げふっ!? て、てめぇよくも! お前が死ねッ!!」



 頭に血が上った兵士の中には、邪魔になりそうなライバルを背後から撃つ者まで現われ、狂騒状態は指定座標にたどり着くまでにピークに達しつつあった。

 それでもダンジョンの狭い通路の中を全力で飛ばして、なお操作ミスで壁に叩きつけられるような機体がいないあたり、腕前だけは精鋭にふさわしいものがある。


 やがて【ナンバーズ】の先頭集団が通路を全力で疾走し、指定座標の大広間の目前へとたどり着く。

 そこは大型の機械式の槍や落石など、さまざまなトラップが随所に敷き詰められた闘技場のような空間だった。

 そしてその奥まった部分に、腕組みをしたシャインが彼らを待ち受ける。


 まるで自らのフィールドに侵入する愚者を叩き伏せようとする、闘技場の支配者のような尊大な態度。



「どうしたの? 早く入ってきたら? ……それとも、トラップが怖いかな?」


「ケッ……! 面白れぇ……」



 前作において、シャインが得意とした戦術。それは“魔王”から仕込まれたゲリラ戦だったという。

 あらかじめトラップを仕込みに仕込んだキリングフィールドに敵集団を誘い込み、単独をもって殺戮の限りを尽くす。

 チームの他の仲間とつるまず、単身にして無双の戦闘術。それは“魔王の寵児”と呼ばれるにふさわしい効率を誇っていたという。


 だが、自分たち【ナンバーズ】とて同じ人物の薫陶を受けている。

 何が“寵児”だ。

 もはやそんなものは過去の栄光に過ぎないということを、このフィールドを食い破ることで自分が証明してやろう!



「ここがテメエの墓場だッ!! シャイイイインッ!!!」


「ま、待てッ! ここは……ッ」



 何騎かのまだ冷静さを残していた者のうち、この部屋が何なのかを知っていた者が仲間に警告を発するが、頭に血が上り切った仲間は聞く耳を持たず広間へと突っ込んでいく。



「死ねえええッッ!!」



 先陣を切ってブレードを抜いた1騎の剣閃がシャインを袈裟掛けに斬り裂き、スパークを生じさせる。

 だがそこにはまったくの手ごたえがなかった。



「……!? ダミーだとッ!?」



 バチバチと音を立ててシャインの幻影が消え去り、斬り裂かれたウツセミキューブが火花を上げながら床へと落下していく。



「本物は!? どこに行った!?」



 慌てて周囲を見渡す兵士たちだが、シャインの姿は大広間のどこにも見えない。

 だがそんなわけはない。ウツセミキューブの有効範囲は長くても可視範囲までのはず。幻影がここにあった以上は、必ず本体も近くにいるはずなのだ。


 そうしてシャインを探そうと兵士たちが広間内に散らばり始めた矢先。

 震動と共に床が揺れ、その下からはおぞましい雄叫びが聞こえてきた。



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』


「なっ……モンスター!?」



 それは見るもおぞましい、無数のアンドロイドのパーツがケーブルによって無理やりにつなげられたかのような、身の丈20メートルもの機械仕掛けの大巨人。

 数十とも数百ともつかないアンドロイドの頭部が呪詛を垂れ流し、その倍の数のカメラアイを侵入者に向けて敵意溢れる視線を送る。

 それが1体ではなく、何体もまとめて地の底から這い上がってきたのだ。


 ディミちゃんが見たら失神必至のアンデッドモンスターであった。



「と……闘技場だ! ここは機械の邪神に生贄を捧げるための祭壇ッ!」



 設定資料を読んでいた兵士が、闘技場の前の通路で震え声を上げる。


 そう、この遺跡はロボット同士の戦闘を何よりの供物とする機械の邪神の神殿。

 であれば、当然あるはずなのだ。生贄となる兵士をロボットに乗せ、怪物と戦わせることを目的とした祭壇が。

 それがこの闘技場だ。


 生贄がこの闘技場に足を踏み入れれば、闘技場のシステムは自動的に供物の刈り取り役となるモンスターを出現させる。

 生贄の腕前が高ければ高いほど、出現するモンスターは強力になる。その方が神を喜ばせることができるからだ。



「逃げろッ! 一度入ったら、一定時間経つまで延々と戦わされるぞッ!」


「バカ言うな! シャインがここにいるんだ、逃げられるかよぉッ!」


「いないッ! シャインはそこにはいないんだ、いるとしたらとっくにモンスターがシャインに襲い掛かってるだろう!」



 通路に留まった兵士の指摘にハッと冷静さを取り戻した者が、慌てて闘技場を出ようと入口へと駆け寄る。

 しかし入口に近付いた瞬間、蜂の巣状に組み合わさった電磁バリアが浮かび上がってバチッと音を立てて兵士たちの脱出を防いだ。



「一方通行のバリア……!?」



 闘技場は決して一度侵入した生贄を逃がさない。

 生贄が逃げられるとき、それはあてがわれたモンスターを一定時間撃破し続け、試練を乗り越えたときだけだ。



「や、やべえッ! モンスターが! モンスターが来るッ! 畜生、どうすりゃいい!?」


「ど、どうするったって……ま、待て! 今資料を読み込む! 外からバリアを解除できる仕掛けが何か……!」



 通路に留まっていた兵士が仲間の悲鳴を受けてアーカイブを漁ろうとする。

 そうして外部への注意が逸れたのが、彼の命取りとなった。



「“スパイダー・プレイ”!」


「なっ……!? シ、シャイン……ッ!!」



 闘技場の通路の横にも設けられていた隠し通路から姿を現わしたシャインが、兵士の機体を掴んで蜘蛛糸で巻き取る。



「そーらっ、お仲間のところに行っちゃえ♪」


「き……貴様ああああああああああっ!!!」



 蜘蛛糸に包まれた兵士が悲鳴を上げ、なすすべもなくシャインのワイヤーでぶん投げられて闘技場へとエントリー!

 そして新たな侵入者を検知した闘技場のシステムが、新たなモンスターを地の底から召喚する!



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!?」


「あ、ちなみに侵入者が増えるたびにモンスターが増える仕掛けだよ。じゃないと楽勝すぎちゃうからね」



 そう言いながらスノウは再び隠し通路へと身を隠し、【ナンバーズ】全体へと通信を行なった。



「さあ、早い者勝ちしたお兄ちゃんたちがボクに返り討ちにあって悲鳴を上げてるよー☆ 早く来ないと手柄取られちゃうぞーっ、キテキテ早くぅ♥」


「くそおおおっ! 出遅れたっ! うおおおおおおっ、今行くぞっ!!」



 スノウの煽りと通信から聞こえる仲間の悲鳴を受けて、ますますヒートアップする【ナンバーズ】の後続たちが遅れまいと闘技場へと飛び込んでいく。



「ま、待てっ! 来るな! これはトラップだ! 来てはいけない!」


「トラップだと!? シャインがトラップ使いだなんて先刻承知だよッ!」



 蜘蛛の巣に絡め取られた兵士が必死にもがきながら警告を発するが、狂乱の最中にある仲間たちは聞く耳を持たない。



「違う! そうじゃない! 罠なんだ! 来るな、殺される!!」


「そう言って手柄を先発部隊で独占しようってんだろ!? そうはいかねえぞ!」


「ば……馬鹿野郎どもがーーーーッッッ!!!」



 悲鳴渦巻く闘技場の様子を物陰から窺ったスノウは、これでよしと満足げに頷いた。



「これで後はほっといてもほぼ全員闘技場に入って足止めされるでしょ。戦場でパニックに陥ったが最後、それは通信を通じてあっという間に全体に感染するからね」



 そしてそんなスノウの笑顔を、ディミとメイド隊が引きつった顔で見ていた。



『ドン引きです……』


「げ、ゲリラ戦本当にお得意でござるなぁ……」


「どっかの戦場に少年兵として参戦してたのかニャ……?」


「してたよ? 『創世のグランファンタズム』って言うんだけどね」



 けろりとした顔で言うスノウ。

 タマはぶんぶんと首を横に振って、「間違ってもそんなゲリラ兵養成シミュレーターみたいなゲームではないはずにゃ……」と呟いた。



『それにしても、【ナンバーズ】の人たちって本当にあっけないくらい挑発に乗ってくれましたね。あんなのに苦戦してたんですか、みなさん……?』



 ディミの視線に潜む色を敏感に察知して、ぶんぶんとミケとタマが首を横に振る。



「い、いやいや……あれでも腕前はやべーんですよ……」


「本当ニャ。マジで強いニャ」


「いや、実際強いと思うよ。多分ボクでも正攻法で総攻撃されたらひとたまりもないでしょ。多分ボクよりも戦闘経験積んでる廃人も何人かいるだろうし」



 そんな【ナンバーズ】の精鋭たちがスノウのメスガキ煽りにホイホイ釣られて自滅したのは、なんといっても彼らに共通する性質が、スノウの他人を怒らせる煽りにピタリとハマったという一点に尽きる。



「【ナンバーズ】に絡め取られちゃった子って、みんな怒りっぽいのよねぇ~。それこそ人が変わったみたいにすぐカッカしちゃうようになるから、誘導すること自体は難しくないと思うの~」



 シロはニコニコとそんなことを言う。



「まあ、それは我等も知っておりましたが……」


「ここまで上手に煽って誘導できるのは一種の才能だニャ。相手の一番気にしている部分を刺激して、プライドを逆撫でしてたもんニャ。特に機体の性能で勝ってるんじゃないの?とか、絶対言われたくないもんニャー。よくそんなに相手の気にしてるところを見つけられるにゃあ。フツーの人には真似できないにゃあ」


「フフ……それはまあ、観察眼ってやつかな」



 褒められたと感じたスノウが、嬉しそうに胸を反らす。



『いや、それはつまりすっげえ嫌な奴ってことなんじゃ……?』


「ボクを嫌いな人なんているわけないでしょ!? 世界一カワイイのに!?」


『でも私……! 人は外見じゃなくて中身だと思うんです……!』



 こんなシチュエーションじゃなければ感動的なセリフでしたね。



「さて。じゃあ邪魔者もあらかた排除できたことだし、ボクはそろそろ最深部に行こうかな」



 スノウの言葉に、メイドたちは姿勢を糺して頷いた。



「はい~。ご武運を~」


「我等は打ち合わせた通りに地上で待っております」


「タマたちがいると邪魔だもんにゃ」



 1騎と3騎に別れた彼女たちは、それぞれの目的地を目指す。


 いざ、決戦の地へ。


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最近やりたいゲームが多すぎました……。

でもゲームが私の創作の糧なんだ。許してくれ。

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