第21話 俺たち今、最高にわかりあってる!
「やっぱジョンみたいなアタリはそうそういないか」
“ヘルメス航空中隊”の機体を次々に撃墜しながら、スノウは落胆の声を漏らした。
『これでもエリート部隊なんですけどねぇ。それでも物足りません?』
「ジョンみたいな原石見つけた後じゃ、ちょっと色褪せちゃうな。それに……」
フォーメーションパターンは既に完全に覚えてしまい、もう目新しさがない。
一応相手も名を馳せるエリート部隊だけあって苦戦しかける局面もあるにはあったが、結局は用意されたパターンをいかに組み合わせるだけでしかない。
「なんだか早押しクイズでもやってるような気分だよ」
『でも、役目自体は完璧じゃないですか? 次々と敵機が押し寄せてきますし。騎士様は大人気ですね』
ディミの言う通り、“ヘルメス航空中隊”はシャインに集中して狙いを定め、なんとか撃墜しようと必死だった。スノウの技量を脅威と感じているのもあるが、初期機体にエリート部隊がナメられては面目が立たないというのもあるのだろう。
ジョンの意趣返しとばかりに、時折ホログラム通信で「ええ~? エリート部隊のくせに初期機体にも勝てないの? 威張りまくってるくせに全然よわよわだね、生きてて恥ずかしくない?」と
むしろそれが狙われてるメインの理由じゃねえのこれ。
元一般人に徹底的な育成カリキュラムを叩き込んでエリートとして育成する手腕は確かに優れているが、それは同時に隊員たちにエリート意識を植え付けることにもなっている。
その結果として、一部の小隊長格がエリート意識を拗らせて横暴に振る舞ったり、才能がありそうな新人を潰しにかかったりするという弊害も発生していた。
格下とみなしたクッソ生意気な
『もうメスガキであることを隠さなくなってきましたね。見事な
「えっ」
ギギギと首をディミの方向に向けるスノウ。
「別に演技とかしてるつもりなくて、普通に煽ってるだけなんだけど……」
『魂までメスガキなのか……?』
「メスガキとか言うな」
顔を赤らめたスノウは、ゴホンと咳払いをして強引に話題を変える。
「このまま集中攻撃をいなしてれば仕事は終わるだろうけど、どうにも退屈だな……そろそろ打って出たい気分だけど」
『でも、【トリニティ】の地上部隊に花をもたせろってペンデュラムさんに言われたじゃないですか。怒られちゃいますよ』
「じゃあ航空隊の補給所を潰すだけならどうかな? これも航空隊への攻撃の一種になるわけだし。決して要塞をまるごと潰すわけじゃないんだ、言い訳は立つ!」
『通じますかね、その言い訳……』
「へーきへーき!」
先ほど【トリニティ】の補給所で修理を受けたおかげでHPも回復しているし、ジョンの攻撃でなくしてしまった高振動ブレードも新しいものを受け取っている。生産コストがとてもかかっているので、次は絶対なくさないでくださいと叱られたが。
念のためにペンデュラムには通信で断りを入れておく。デキる大人の嗜みは報・連・相。スノウは学生の身だが、それくらいはわきまえている賢いメスガキなのだ。
「あ、ペンデュラム? そろそろ飽きてきたから要塞への攻撃に参加するね。航空支援受ければ地上部隊も喜ぶっしょ」
いきなり言ってることが違うので、やっぱり賢くないメスガキのようだ。
「は!? おい、勝手なことをするな! 貴様に“ヘルメス航空中隊”が殺到しているんだぞ、このまま誘引を続けろ!」
案の定ペンデュラムに怒られるが、スノウは気にした様子もない。
「じゃあ要塞内の航空隊の補給所を潰すだけならいいでしょ? 大丈夫だって、航空隊の相手もちゃんとしてあげるから」
「そう言いながら要塞司令部に攻撃するつもりだろう!?」
「そりゃ攻撃できそうならするでしょ、基本じゃない?」
「立場をわきまえろ貴様は! 傭兵が本隊の出番を奪うな!!」
「ボクがこんだけ惹きつけてる間に、本隊は何してるのさ。まだ攻略できないの? 大手企業クランの精鋭部隊の名が泣くね」
痛いところを突かれ、む……とペンデュラムは口ごもる。
スノウが言っていることはまるで子供のワガママ同然だが、ペンデュラム自身スノウの活躍ぶりに比べると、あまりにも不甲斐ないと内心では感じていたのだ。
「だが、それとこれとは別の話だろう」
「同じ話だよ。情けないプレイヤーを手助けしてあげようって言ってんの」
なんて思いあがった奴。これでは周囲から“
「こちらの作戦を滅茶苦茶にするつもりか、シャイン!」
「じゃあ作戦立てた
「なっ……」
正面からお前は指揮官として無能だと指摘されたペンデュラムは、目を剥いた。
ホログラムの向こうのスノウは、ニヤリと傲慢な笑みを浮かべている。
「ボクを駒にしたいなら、それ相応の指揮官ぶりを見せてもらいたいな。じゃ、そういうことで、作戦の修正よろしくね。頑張ってくるから、戦果は期待してていいよ。そんじゃチャオ~☆」
通信をぶった切ったスノウは、これでよし! とニコニコと笑った。
その頭を、ディミのハリセンがすぱーんと叩く。
『何もよくなーい!! 何なんですか今の煽りは!? 本当に報酬を受け取るつもりあります!?』
肩を怒らせてがーーっと食って掛かるディミに、きょとんとするスノウ。
「えっ? もちろんあるよ、だから連絡して、ボクを自由に戦わせてねって説得したんじゃない」
これで万事OKでしょ? と言わんばかりのスノウに、ディミは感じないはずの頭痛を覚えた。
『説得!? 今の説得のつもり!? どう考えても叛逆でしたけどねえ!?』
「ボクが裏切るつもりなら、速攻で【トリニティ】の本拠地を消滅させてるよ」
『それはそれでドン引きしますけど……』
「大丈夫大丈夫、ペンデュラムは心が広いから。ボクとあの人は深く理解し合っている仲だからね」
『貴方があの人の何を
頭を抱えるディミをよそに、スノウは意気揚々と要塞へと進路を向ける。
「それじゃあ、行ってみようかぁ!!」
※※※※※※
一方、通信をガチャ切りされたペンデュラムはふう……と額に指を当てる。
一部始終を横から見ていた副官や参謀たちは、怒り心頭といった様子でわなわなと肩を震わせ、顔を真っ赤にしていた。
「た……たかが傭兵の分際で、なんだあの態度は!? 立場もわきまえずこれほどの愚弄、断じて見過ごせませぬ!」
「そうです! ペンデュラム様、シャインを討つ御許可を! 作戦領域にあのような命令に従わない異分子を野放しにしてはいけません!! 御下命いただければ、我々一同が即刻奴を撃墜し、この戦場から追放いたします!!」
「あのような者を放置していては、ペンデュラム様の指揮能力を疑われますよぉ!! 一刻も早く処刑の御許可を!」
「御裁可を!」「ペンデュラム様!」「お願いしますぅ!」
配下たちに言い募られたペンデュラムは、頭を横に振った。
「煩いぞ、
「そんな!? 何故です!」
「これだけ頭数を揃えて、そんなこともわからんのか? お前たちが見たとおり、奴は俺に
えっ? という顔で、副官や参謀たちはホログラム越しに顔を見合わせた。
「そんなこと言ってたかなぁ?」
「さあ……記憶にありませぬ」
「ペンデュラム様や私たちの能力が低いとは言っていましたが、自分の主人にふさわしいか見ています、などとは一言も口にしていなかったような……」
ヒソヒソと囁き合う配下たちを見て、ペンデュラムはフフッと笑う。
「まあ、そこまでの言外の意図はお前たちには悟れなかったかもしれんな。だが俺にはシャインが何を言いたいのか、しっかりと伝わったぞ。フフッ、実に小癪な小娘だ……この俺の器を図り、激励まで飛ばしてくるとはな」
「本当に? あれはそんな意味だったのか?」
「わかりかねます……でもペンデュラム様がそう仰るなら」
「それはそれで“オイシイ”解釈だしねぇ。その関係性はエモい」
「「わかる~」」
ヒソヒソと囁く配下たちは顔を見合わせながら、深く頷いた。
「さすがペンデュラム様! 我等には見えないものが見えていらっしゃるのですな!!」
「私たちの浅い理解で口を挟んでしまったこと、深くお詫び申し上げます!」
「この関係性でごはん3杯はいけます!」
配下からの絶賛を受けながら、ペンデュラムはそうだろうと頷いた。
「当然だ。俺とシャインは深く理解し合っているからな。奴の考えは手に取るようにわかっている」
「「「キャーーーーッ♪」」」
だからお前らが相手の何を
ペンデュラムは黄色い歓声を浴びながら、自分の方針を配下に伝達する。
「今後シャインを使うのであれば、ある程度奴の好きなようにさせてやらねばなるまい。奴が自由に暴れた結果を臨機応変に作戦に組み込む。それが肝要なのだ」
「わかりました! 私たちも頑張って支えます!」
「サポートは我等にお任せあれ!」
「ペンデュラム様素敵ーーー!!」
――【トリニティ】ペンデュラム直属
リアルではペンデュラムの中の人・
長年天音に仕える中で養われた忠誠心は、まさに鋼鉄のごとし。
その反面とてもミーハーであり、
そして肝心の戦闘力はわりとへっぽこなのであった。
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