第40話 ポンコツ答え合わせ
「ペンデュラム様、シャインさんが見事やってのけましたよ! 【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地は雪崩に押し潰され、総コストに大被害を受けています! 本拠地の防衛施設もすべて雪の下に埋もれていますので、もう戦闘は続行不可能でしょう」
「うむ、さすがシャインだ。期待通り……いや、それ以上の戦果を挙げてくれた」
シロからの報告を聞いたペンデュラムは、満足げに頷いた。
ほぼたった1騎のシュバリエが、150騎を超える敵騎と本拠地の防衛施設を全損せしめるという信じがたい功績。
にもかかわらず、ペンデュラムはまるでこの結果が当然のことのように受け入れている。
そこにペンデュラムとシャインの間の強い信頼関係を見出し、側近のミケやタマは恐る恐るといったように2人の会話に口を挟んだ。
「ペンデュラム様、いつの間にこのような連携を打ち合わせたのです?」
「そうですよぉ。それに、作戦の内容もいつもと違ったような。いつもはこんな絡め手は使わないですよね」
「なんだ、お前たちにはわからなかったのか」
ペンデュラムは困ったやつらだ、と言わんばかりの苦笑を浮かべた。
「ペンギンどもに通信を傍受されて深くは語らなかったが、シャインに引き返すように要請した時に奴は『どっしり構えろ』と言っただろう? あれは俺の側で防御を固めて敵の攻撃を受け止め、その隙に自分が攻めろというメッセージだったのだ」
「……! そういうことだったのですか」
「うむ。奴も俺と同等の戦術眼を持つ者。敵が高コストを利用して攻めてくるのならば、それを逆に利用してそっくり同じ戦術が可能だと見抜いていたのだな。そこで、俺が盾となり、自分が矛となることを提案してきたのだ」
一瞬のやり取りで有効な戦術をやり取りした2人の智謀に、ミケとタマは舌を巻く。そしてそれと同時に、参謀でありながらそうした策に頭が回らなかった自分たちの不甲斐なさに穴があったら入りたい思いだった。
「戦闘面で至らぬだけでなく、戦術家としても勉強不足の我が身の未熟さが悔しいばかりです」
「はぁ……。ペンデュラム様と出会って3日程度のシャインちゃんにそこまでの実力を見せつけられると、自信なくしちゃいますぅ……」
俯く2人に、ペンデュラムはフッと笑いかける。
「何を言う、2人とも待ち伏せとトラップで敵に打撃を与えてくれたではないか。あれがなければ、敵はデスワープせずにこちらの本拠地に一か八かの突撃を敢行していたかもしれん。それを防いだのはお前たちの功績だ。……そしてお前たちをうまく使えと教えてくれたのも、シャインなのだぞ」
「シャインさんが!?」
「一体いつそんなことを言ったんですにゃ!?」
いや、そんなまともなこと言うわけねーだろあのメスガキが。
「お前たちにはわからなかったか。この作戦を提案したとき、奴は『キミの自慢の武器を活かせ』と言った。俺の自慢の武器とは何か……決まっている。お前たち、俺に力を貸してくれる部下たちのことだ」
「「「!?」」」
!?
ペンデュラムはホログラム越しにこちらを凝視する、愛する仲間たちに暖かな視線を向けた。
「俺はこれまで去っていった戦闘部隊のパイロットたちと戦っていたときの戦術に拘りすぎてしまっていた。常に正々堂々と、誇り高く勇猛に戦う……それは確かに味方を奮い立たせるが、人材には適材適所というものがある。お前たちは正攻法は苦手だが、その適性を活かした絡め手を使えばこれほど優秀な人材はいない」
メイドたちは無言でその言葉を噛みしめる。
彼女たちには、自分たちの得意分野では誰にも負けないという自負はあれど、これまでペンデュラムにうまく貢献できていないという負い目があった。
「……シャインは俺のその拘泥を見抜き、もっと配下を有効に使う戦術をとれと叱咤してくれたのだ。お前たち、これまですまなかった。俺は去っていった者にばかり目を向けていた。本当に目を向けるべきは、残ってくれたお前たちの方だったのに!」
ペンデュラムはホログラム越しに、部下たちに頭を下げる。
プライドの高い主人が謝罪したことに、メイドたちはびっくりしてあわあわと手を振り回した。
「そ、そんな! ペンデュラム様が頭を下げられるようなことでは!」
「そうです、私たちが未熟なのが悪いのです!」
「ご主人様が頭を下げたりしちゃいけませんにゃ!」
「いや、今はこうさせてくれ。そして、ここに誓わせてほしい。俺はもうお前たちの忠誠を無下にしたりはしない。お前たちの得意分野を存分に活かした用兵をすること、それを以てお前たちの献身に報いよう!」
この場のリーダー格のシロ、ミケ、タマの3人だけでなく、ペンデュラム(天音)に仕えるメイド隊……さらには戦闘部隊のメンバーたちが、その赤心からの言葉に胸を打たれて立ち尽くす。
彼の言葉には忠誠を捧げるに足る、確かな将器がある。
その彼から自身が切実に求められていることを感じ、彼女たちはさらなる献身を心に刻んだ。
「もちろんです、ペンデュラム様! その覇業をどこまでも支えます!」
「貴方という主人を得られたことこそ我が身の誉れ!」
「ますますご奉仕しますにゃ! 工作ならお任せですにゃ!」
百名を超える配下たちがパチパチと拍手し、今回の華々しい勝利と主人のさらなる成長を讃える。感動のあまり涙を流して目尻を拭う者や、そんな仲間に肩を貸して祝い合う者もいた。
そしてその場の全員が思う。
ペンデュラムに成長を促し、自分たちとの絆を新たなものにしてくれたシャインはなんて素晴らしい人材なんだろうか。
彼女はこれからのペンデュラム軍に絶対に欠かせない存在だ。
ぜひ末の妹メイドとして、
※※※※※※
「くしゅんっ!!」
勝利を確定させ、戦場からロビーに帰還したスノウはくしゃみをした。
「うーん? VRの雪原なんだから寒いわけないんだけどなあ。視覚の再現度が高すぎて脳が混乱しちゃったかな」
『ちゃんと水分補給と汗拭きはしてくださいね。風邪ひいちゃだめですよ』
ディミはサポートAIとして主人を気遣いつつ、気になっていたことを尋ねる。
『それにしても騎士様、いつペンデュラムさんと連携する作戦を立てたんです?』
「ああ、ペンデュラムを煽ったときだね」
スノウはハンガーに機体を預けつつ、何でもないように髪をかき上げる。
『煽った……ですか?』
「ほら、ペンデュラムが助けてーって泣きついてきたでしょ。あのとき随分弱気になってたから『覇道行くんじゃなかったの? オロオロしてなっさけなーい♥』って感じで煽ったじゃん。そしたらペンデュラムがしゃんとした顔になったから、これなら守りは任せてボクは好き勝手攻められるなーって思ったんだよ」
『……え?』
「相手が高コスト機体ばっかでバカ丸出しに突っ込んできたんだから、逆に相手の剥き出しの弱点突けば簡単に勝てるなんて誰でもわかるよね? しかもペンデュラムは高コストの“大楯”の武器パーツを持ってるんだよ? 前作にもあったけど、あの武器種は防衛戦に最適だからね」
『はぁ……』
「だからボクは言ってやったんだ。『お前の得意武器の大楯を活かせよ』って」
『…………』
シャインは機嫌よさそうに、うんうんと頷いた。
「いやー、やっぱりペンデュラムはわかってるよ! あれだけ具体名を出さない短いやり取りでも、ちゃんとボクの考えを読み取って役割分担してくれるんだもん。その後のトラップや待ち伏せもよかった! ボクに言わせるとまだまだだけど、さすがは名将って呼ばれるだけの資質はあるよねっ」
『どうして何ひとつとして通じてないのに、答えが一致しているんですか貴方たちは……!?』
戦慄した声を上げ、ディミは頭を抱えた。
どちらも戦略眼は持っているから最適な戦略自体は合致するが、互いを見る目が曇っているからそこに至るプロセスはことごとく曲解を生む。
そしてお互いを過大評価しすぎているから、そこに至るまでの誤解だらけのプロセスはさらなる評価となって積み重なり続けていく。
しかもペンデュラムの側は下手に他人への影響力を持っているから、誤った評価の渦はさらに多くの人間を巻き込んでいくのだった。
平たく言えば、ポンコツはさらなるポンコツを呼ぶのだ。
「あっ、そうだ。そういえばペンデュラムにこれからはもっと報酬を上げてもらうように伝えておかなきゃ。基本報酬5000円で……エース1騎撃墜ごとに追加で5000円+50万
賃金交渉の内容にひとり興奮するスノウに、ディミは白い目を向ける。
『いいんじゃないですかね……どうせ何言ってもまともに通じないでしょうし』
彼女の考え通り、この交渉はあっさり通ることになる。
※※※※※※
「何故そんな条件を……? はっ、そうか! 今の俺の軍にはエースが少ない……つまり俺と戦っても儲けにならない。これは俺とは敵対したくないという意図を隠したラブコールだな!?」
「!! な、なるほどっ!!」「奥ゆかしい!」「エモいにゃ!」
「フッ、シャインめ。まったく可愛いことを言うじゃないか。追加報酬の金額が少ないのも、俺にラブコールを送るのが主目的だからだな。奴にとっては金額などどうでもいいのだろう」
「心が通じ合ってる!」「すごい一体感を感じる!」「風……吹いてきてる確実に!」
「いいだろう、交渉を全面的に受け入れよう。それに仕事を絶やしてへそを曲げられてもかなわん。俺が雇えないときもツテをたどって、できるだけ仕事を回すように手配してやれ!」
「わかりました!」「委細承知」「ラジャったにゃ!」
こんな感じであった。
まーったくポンコツたちの空回りには困ったもんだぜ。
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次からちょっと日常回入ります。
ほっといたらずっと戦い続ける狂犬主人公にもたまには休息が必要……ですよね?
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