第39話 スノボしよーぜ! お前ボードな!

「そらそらそらぁ!! 早く出てこないと占領されちゃうぞ!」


「ペギィィィィーーーーーーー!?」



 【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地に乗り込んだスノウは、控えめに言って大暴れの限りを尽くしていた。

 手始めに本拠地上空に陣取って、上がってくるフライトペンギンをサクッと撃墜。さらに地上の建物の陰に隠れたガンナーペンギンを射抜ける位置に移動しては、長距離ビームライフルで次々と狙撃して回る。

 もはや虐殺レベルの潰しっぷりであった。



「な、何故だ!? 何故ヤツはこっちの隠れている位置を把握できる!?」


「偵察機だ! 【トリニティ】の偵察機が近くにいる!」



 ペンギン兵の考えは正しい。

 スノウが次々とペンギン兵を倒して回れるそのタネは、彼女と共に本拠地に潜り込んだ偵察特化機のシロがペンギン兵たちの位置を逐一スノウに送っているからである。



「偵察機を撃破すれば、地上には手出しできん! 早く偵察機を殺せ!」


「ペギッ!!」



 シロを何とか撃墜しようと、数騎のペンギン兵が物陰から飛び出す。

 しかし彼らもまた、シロの索敵圏内に捉えられている。



「ボクがいる以上、みすみす殺らせるわけがないんだよね!」



 ペンギン兵が飛び出した瞬間にシャインのビームライフルが火を噴き、そのうちの1騎の頭部を破壊する。さらに間髪入れずに偏差射撃で繰り出されるバズーカ砲が他のペンギン兵を焼き焦がし、先ほどそのへんのペンギン兵から奪い取ったロケット砲でトドメを刺して回る。


 シロの索敵圏内は、そのままスノウの殺戮領域キルゾーンと同義。

 そしてシロの索敵圏内は、【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地全域を収めていた。


 本拠地頭上の制空権を完全に握られているだけでもすさまじいピンチだが、この上さらにペンギン兵たちを焦らせている要因がある。



「はやくあの偵察機をなんとかしろ!! 防衛ゲージがガンガン減ってきてるぞ!!」



 そう、シロたちの存在そのものだ。

 このゲームにおいて本拠地の制圧は、攻撃側と防衛側のコスト差が大きく影響する。通常ならばシロたち4騎程度が【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地に潜入しても、防御側のコストが大きいので防衛ゲージはほぼ減ることはない。


 だが、そこにスノウというたった1騎で防衛側の機体をボッコボコにできる滅茶苦茶な【無所属】プレイヤーがいたとしたら?

 スノウが防衛側の機体を撃ち落とし続ければ、攻め手がシロたち4騎であったとしても防衛ゲージを減らすことができるのだ。

 今や防衛ゲージはどんどんと減らされ、陥落は時間の問題となりつつある。


 そしてこれは敵本拠地を強襲してコスト差で攻めるという、【鉄十字ペンギン同盟】の作戦と理論的には同じこと。スノウとペンデュラムは、自分たちがやられたことをそっくりそのまま相手にやり返しているのだ。


 ペンデュラムが盾なら、スノウは矛。

 攻撃役と防御役に分かれた連携プレイであった。



(こんなにもペンデュラム様とうまく連携できる方がいらっしゃるなんて……)



 スノウに敵の位置を教えつつも、シロは高鳴る胸の鼓動を隠せない。

 サービス開始以来数々の戦いを潜り抜けてきたペンデュラムは、常に前線で指揮を執り、皆の士気を引き上げてきた。しかし、皆と一緒に戦いながらも彼は孤独だった。


 指揮官は副官や参謀の意見や分析を聞き入れ、配下のパイロットに指示を下すもの。だが最終的には自分自身の責任において命令を下し、場合によっては兵士に目的のために死ねといわねばならない。たとえそれがゲームの中の話にせよ、指揮官は非情であり、孤独である必要がある。


 信頼していた配下のパイロットたちが弟の牙論の元に走ってからというもの、ペンデュラム天音の孤独はさらに深まったように思えた。

 副官として、幼い頃からの親友として、苦しむペンデュラムを見るのがシロにとってどれだけ辛かったことか。


 だが、スノウという少女は違う。傭兵という立場を維持する彼女は野放図いいかげん奔放ワガママで、そしてペンデュラムと対等自由だ。ペンデュラムとツーカーで戦略を共有し、ペンデュラムの心が折れれば勇気付け、互いのピンチを支え合える“腕利きホットドガー”。

 この少女こそ、ペンデュラムにとって今一番必要な人材なのではないのか。


 親友として、自分以外の人物がペンデュラムと親しくすることに一抹の寂しさと不安を覚えなくもない。だがそれでも、彼女をなんとしてもペンデュラムの傘下に迎え入れるべきだ。


 仕事をこなしながらシロがぐっと拳を握りしめていたとき、状況に変化が起きた。


 青白い光が像を結び、スキーレッグを装備したタンクペンギンが次々と本拠地に現れたのである。

 【トリニティ】本拠地を襲っていたアサルトスキー部隊がデスワープによってリスポーンしてきたのだ。


 いかにスノウが強くても、さすがに70騎ものタンクタイプが一度に弾幕をぶつければ厳しい。ましてやアッシュとの戦闘で、シャインのHPは大きく減っているのだ。どうあがいてもこの強襲作戦は破綻している。



 そしてスノウはこの絶対的窮地に顔を輝かせた。



「よーし、釣れたっ!! もういいよ、シロ! 今すぐここから離脱していい!」


「わ、わかりました……どうかご武運を! みなさん、行きましょう!」



 スノウの言葉に従い、シロたちは【鉄十字ペンギン同盟】本拠地から撤退する。



「待てっ! こんだけ好き放題にやって、逃すかよぉぉぉぉっ!!」



 もちろんペンギン兵とてみすみす逃がすわけがない。

 即座にシロたちの背中を追いかけようとして……そのうちの1騎の動力部を、シャインの長距離ビームライフルが撃ち抜いた。



「ペンギンちゃんたち、お相手を間違えてないかなぁ? キミたちをボッコボコにしてあげたのはボクなんだけど? あっ、そっかぁ。ボクには勝てないから弱そうな方を狙おうってわけかな? 分相応って言葉を知ってるみたいだねぇ、えらいなー♥」


「「「はーーー!? 負けてないが!?」」」



 煽られた防衛ペンギンたちが瞬間沸騰を起こし、一瞬でヘイトをスノウに向ける。

 リスポーンしてきたペンギンタンクもまた、1騎の敵にいいようにやられたという報告を受けていたため、スノウを危険視していた。



「あいつだ! あの白い機体を倒せ!! まずあいつを撃墜してから、【トリニティ】の本拠地に総攻撃を仕掛けるんだ!! それしか勝ち目はない!」


「「「クカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!」」」



 ペンギンリーダーの号令で、ペンギンたちが喉を鳴らしながら一斉にシャインへと襲い掛かる。

 その光景を見たディミが、やや引き気味に小首を傾げる。



『ええ……? なんです、あの機能? 喉鳴らす意味ってあります……?』


「よくわからないけど、面白くていいじゃん! さーて、じゃあそろそろフィナーレといこうかぁっ!!」



 シャインは空中でくるりと円を描いてペンギンたちを挑発すると、本拠地後方へと飛翔する。



「逃がすな! 一度退いてからまた襲い掛かるつもりだ! 絶対に叩き潰せ!!」


「「「クカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!」」」



 ペンギンリーダーの号令を受けたペンギンたちが、一斉にシャインを追いかけた。


 ところで【トリニティ】の本拠地は、平地に築かれていた。

 では【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地はといえば、これは山地の中腹に存在する。何故ならペンギンたちは生粋のスキーヤーとスノーボーダーである。スポーンしてすぐに滑れるゲレンデとしての利便性を考えれば、この立地を選んだのは必然であった。


 つまりスキーを使って追いかけることが難しい立地である。ジェット機能を使えば多少坂を登ることは可能だが、それブースターが短時間しか持たない。となれば、タンクタイプは銀翼での低速飛行に頼るほかないということになる。



「リーダー、駄目です! タンクが追い付けません!」


「ええい! タンクは狙撃に切り替えろ! フライトとガンナーで追……」


「どけっ、雑魚ペンギンども! 今度こそ俺が殺るッ!!!」



 まごつくペンギンたちの間を縫って、漆黒のシュバリエがフルスロットルで駆ける。その名をブラックハウル。【氷獄狼フェンリル】からやってきた、シャインを狩るための魔狼。


 一度自分が撃墜された後にシャインが【トリニティ】本拠地に向かったと考えたアッシュだが、【鉄十字ペンギン同盟】の本拠地に異変が起きていることを悟って全速力で引き返してきたのだ。たった1騎で戦局をひっくり返すような異常なプレイヤーなど、シャインでしかありえなかった。



「シャイイイイイイイイインッッッ!! この山を貴様の墓標にしてやるッッ!!」


 雪山の山肌すれすれを全力飛翔して駆け上がる黒い騎影を見下ろして、スノウは歓喜の声を上げる。



「アハッ♪ やっぱり追って来たねアッシュ! いいぞ、キミの名前は覚えた! 最初からそうやって油断を捨ててたら、もうちょっと早く覚えてあげたんだけどなぁ!」


「見下してんじゃねえッッ!! 俺は見下されるんのが大っ嫌いなんだよぉッッ!!」


「奇遇だなあ! ボクだってそうさっ!!」



 アッシュがビームライフルを射撃しながら追いすがり、スノウがそれをかわしながら山肌を駆け上がる。山肌を登るほど吹雪が深まり、視界が狭まっていく。

 黒と白の二条の光が螺旋を描きながら雪山を登るかのような、幻想的な光景。



「追いつけないようだな、アッシュ! キミはずっとボクの下だッッ!!」


「シャイン、このクソガキ! 抜かしてみせるに決まってんだろうがッッ!」



 雪山の冷気がジェネレーターを凍てつかせんとする中で、アッシュは咆哮を上げながら四気筒エンジンをフル稼働させる。



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーッッッ!!!」



 それはまるで魔狼の咆哮。気合がすべてを塗り替えるような錯覚。

 氷獄狼フェンリルが生まれついての氷獄の主であるのならば、そこが雪山であっても顕界の道理は従うが定め。


 ブラックハウルがさらに加速し、シャインと同じ高度まで追随する。



「並んだぞッッ! シャインッッッ!!!!」


「大したもんだねアッシュ!! キミは本当に、面白いッッ!! 油断を捨てれば捨てるほど強くなるッッ!! キミみたいなプレイヤーが前作の戦争モードラグナロクにいなかったのは損失だよ!! 魔狼フェンリルがどこをほっつき歩いてたんだ?」


「オトナを上から見てんじゃねえよ、クソガキが!! わからせてやらぁッ!!」



 急上昇を続けながらSSRショットガンを至近距離でぶっ放すアッシュ。

 それをかわしながら、SSR火炎放射器で反撃するシャイン。


 互いの攻撃が紙一重でかわされ、ショットガンの弾丸が虚空を穿ち、火炎放射器の燃料が雪肌を焼き払う。

 急速に溶けた雪が蒸気となって周囲を覆い、それが急速に凍結してダイアモンドダストとなって周囲に撒き散らされ、視界を塞ぐ。



「俺の!! 武器を!!! 使うなああああああアアアアアアアアッッ!!!」


「なかなかの使い勝手じゃないか! 武器選びのセンスも褒めてあげるよッ!! 性能だけだけどさっ!!」



 急上昇を止めた2騎が閉ざされた視界の中で弧を描き、互いの武器を撃ちまくる。五里霧中の白い闇の中、乱れ飛ぶは弾丸と炎。吹雪の為す絶叫と武器の咆哮を伴奏に、騎士の円舞曲シュバリエール・ワルツが織り成される。


 それは魔獣と姫君のダンスか、あるいは神話の魔狼フェンリル戦乙女ワルキューレの死闘の再現か。



「愉しいな、アッシュ! ずっとこうして遊んでいたいよ!」


「オトナは暇じゃねえッ! だが、テメエをぶっ殺せればイイ気持ちだろうぜッ!!」


「平日の昼間っから子供と遊んでおいて、何言ってんのさ!」


「アホなガキに身の程をわからせてやるのは大人共通の仕事だからなァッ!!」



 だがどれだけ楽しい遊びにも、いつかは終わりが来る。

 火炎放射器を見やったスノウは、残念そうに息を吐いた。



「おっと、もう燃料も打ち止めか……!」


「ヘッ! 人の武器で随分好き放題してくれたなぁ! だがもう終わりだッ!!」



 ショットガンを抜き撃つブラックハウル。それを宙返りしてかわしたシャインが、火炎放射器によってくぼみができた眼下の雪肌へと空中を飛び下がる。



「逃がすかああああああああああああッッッ!!」



 同じく素早い急降下によって追随するブラックハウル。


 だが、シャインとブラックハウルの下降には決定的な差がある。

 それはシャインの銀翼“アンチグラビティ”は重力を制御できるという一点。シャインの背中の銀翼が白い光を放ち、機体を滑らかに急制動! 急停止ができないブラックハウルの背中に回り込み、とんっと軽くひと押しする。


 その接触で、ブラックハウルにかかる重力を強化!!

 9.8×1.5=14.7m/s²の重力加速度が、ブラックハウルを重力の井戸へと引きずり込む!



「チイッ! またこの能力かッッ!! だが落下ダメージ程度で、この俺がくたばるかよぉッ!!」



 先ほど一本背負いされたときも、急制動で難を逃れられた。

 よしんばこのまま山肌に叩き付けられたとしても、落下距離はあくまで短い。

 勝負はまだこれっぽっちも決まっちゃいない!



「残念だけどこれでチェックメイトだよ!! これがボクの急造必殺技ッ!!」


「あぁん……!?」



 シャインの背中の銀翼が一段と輝きを増す。

 空中で軽く跳び上がると、右脚を突き出した態勢で一瞬静止。

 そして次の瞬間、自身にかかる重力の影響を一瞬だけ3倍に強化!!



「くらえ必殺ッ!! 超重力イナズマキッ……」


『いっけええええええ!!! グラビティ・メスガキックだぁぁぁーーッ!!!!!』


「……へ!?」



 出鼻をくじかれてぽかんとするスノウの頭の上で、ディミがえへんとふんぞり返る。

 そして29.4m/s²の重力加速度がついたシャインのキックが落下していくブラックハウルに追いつき、踏みつける!! ガリレオの法則なんてガン無視だ!!



「ぐああああああああああああああっ!?」



 シャインに踏まれたまま、雪肌のくぼみへと叩き付けられるブラックハウル。だがまだ、まだHPゲージには余裕がある。まだ戦える。



「ヘッ……何が必殺技だ、そんな勢いがあるだけのキックごときでっ……」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。



 減らず口を叩いて煽ろうとしたアッシュは、突然の地響きに口を閉じた。

 足元が揺れている。いや、これは……崩落して……。



「な……雪崩……!?」



 スノウが戦いながら火炎放射器で狙っていたのは、ブラックハウルではない。

 本当の標的は、ブラックハウルの背後にそびえる雪山の積雪層。そこに火炎放射器を当てることで雪を溶かせば、積雪層の結合は弱まる。

 さらに、勢いを付けてシュバリエ2騎分の重量を叩き込めばどうなるか。



「シャ、シャイン……てめえ……ッ!!」


「さあ、スノーボードとしゃれこもうじゃないか。ボードはキミだけどねっ!!」



 そして積雪層が崩れ去り……大質量の雪肌が崩落し、雪崩が発生する。



「イイイイイイイイイイイイイイイイイイッヤッホオオオオオオオオオオッ!!」


「あががががががががががががががががががが!?」



 ブラックハウルをサーフボードのように踏みつけたシャインが、雪崩の上に乗ってサーフィンしながら雪肌を滑り落ちていく。もちろん雪と機体にかかる重力を操作して、雪の上に機体が浮かぶように細工している。

 現実では絶対に起こりえない超常現象による、スノーサーフィン!


 スノウの頭の上にしがみつき、時速200kmにも達する速度で雪肌を滑り落ちながらディミが瞳を輝かせる。



『これっ! 気持ちいいですねええええええええええっ!!!』


「そうでしょ! ボクも絶対これ楽しいって思ったんだ!!」


「俺はこれっぽっちも楽しくあああああああああああああああああああっっっ!? 削れるっ! すげー勢いでHPゲージがガリガリガリガリあああああああっ!!」




※※※※※※




「な……雪崩だあああああああああああああああああああ!!!!!」



 【鉄十字ペンギン同盟】本拠地のペンギンたちが、悲鳴を上げる。

 スノースポーツに親しんだ彼らは、雪崩がどれほどたやすく人間の命を奪うのかを骨身に染みて知っている。それだけに彼らのパニックは筆舌に尽くしがたい。



「に、逃げろ! 死ぬっ! 死ぬぞおおおおおおおっ!!」


「早く! 早く安全な場所にっっ……!!」


「安全な場所って……どこ?」




 押し寄せる雪崩が、【鉄十字ペンギン同盟】本拠地の施設ごとペンギンたちを飲み込み、徹底的に粉砕した。




※※※※※※




 こうして、【鉄十字ペンギン同盟】本拠地は跡形もなく消滅した。


 途中で雪崩から逃れて空中に退避したシャインが、何もなくなった大量の雪の上にふわりと着地する。


 いや、何もかもがなくなったわけでもない。雪の一番上にズタボロになった黒い残骸が残されていた。

 もはや完全にHPはゼロ。機体はあらゆるパーツが破壊され、スクラップとしかいいようがなくなったブラックハウルから……声が聞こえる。



「シ……シャイン……シャイイイイイイン……!!!」



 驚くべきことに、アッシュはまだ闘志を失っていなかった。すさまじいガッツ。

 とてつもないバイタリティと執念。人間の可能性は未知数ということの体現。

 夏場によく出るGの親戚ですか?


 そんなブラックハウルの頭上に立ったシャインが、ガチャリと銃口を向けてセーフティを外した。先ほど斜面から滑り降りる直前に奪い取った、SSRショットガン。



「本当に……ガッツすごいよね。ラクにしてあげよっか?」


「シャインッ……!! 貴ッ様ァァァ……ショットガンまでっっ!! お、俺の……俺の武器を奪いやがってぇぇぇぇぇえ!!!!」


「雪崩に巻き込まれたらオシャカになったんだよ? 拾ってあげたんだから感謝してほしいくらいなんだけどなぁ」



 そう言ってから、スノウは愛らしい顔に微笑みを浮かべた。



「ああ、安心して。この武器だけど、どうせボクは持ち帰れないんだ。何せ武器コストが足りなくてね。だから責任もって処分ロストしておいてあげるね♪」


「お……お前だけは……お前だけは、絶対に! 何があっても許さねえ!! 必ず……必ず、何があっても復讐してやる!! 目にもの見せてやるからなぁッッッ!! これから貴様には安らぎなど与えんッ、いつ襲われるかわからん恐怖に身をよじれッッッ!!!」



 言葉に人を殺す力があれば、耳に入れた瞬間に命を奪われそうな呪詛に満ちた響き。

 そんな憎悪に満ちた言葉を聞いたスノウは、まるで愛する王子様に求婚された姫君のように瞳を輝かせ、薄く頬を染める。



「キミは油断を捨てるほど強くなる。だからこれをキミにあげるね。どこまで強くなれるのか、とことんまで挑んでくるといい」



 乙女が出会いの証にハンカチを交換するかのように、そっと送られるフレンド申請。


 その意味は、決してこれから仲良くしましょうなどというものではない。

 フレンドになったプレイヤーは、そいつが現在どの戦場にいるのか知ることができる。つまりは“いつでも殺しに来い”という、大胆不敵な挑戦状。



 フレンド申請を受諾したアッシュが憤激を露わにスノウを睨み付ける。



「どこまでも俺をコケにしやがってッッッ……!!! 待っていろよッ!! 今日この日を後悔する日が、いつか必ず来るからなッッッ!!!」


「うん、待ってる♥」



 そして、ショットガンが黒い残骸ブラックハウルのコクピットだったものを粉砕した。

 粒子になって消え去る機体を見つめ、スノウは艶めいた吐息を漏らす。



「これでいつでも武器を持ってきてくれる、デリバリーシステムが完成だね。楽しい中ボス戦もついてきて一石二鳥だなぁ♪」


『……人間の悪意って、底がないんですねえ……』



 寒さ以外の要因で身震いするディミの呟きが、雪原の空へと吸い込まれていった。

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