第76話 幼女をダメにするキツネ耳もふもふクッション

「……というわけでね、初めての定員内レイドボス撃破をやってきたってわけ」


「ほー」



 バーニーが経営するパーツ店“因幡の白兎ラッキーラビット”の内部。いつも薄暗く、レトロなテイストのランプが闇を照らす店内で、スノウはバーニーに今回の活躍を語って聞かせていた。


 キツネ耳をピコピコ跳ねさせ、膝の上に乗せたバーニーの髪型をいじりながら。


 スノウが悪戯心を起こしてキツネ耳を付けたまま店を訪れたところ、迎えたバーニーがソファーからずり落ちんばかりにして驚愕して、その耳はどうしたのかと尋ねてきたのである。

 人からもらったと答えたら「畜生……! シャインにキツネ耳だと……!? わかってる……わかってるじゃねえか。何でオレはこんな簡単なことに……ッ!! 許せねえ! オレより先にシャインにこんな似合うパーツを……ッ!!」と悶え苦しんだので、ついでにどういう経緯で手に入れたのか自慢したのだ。

 バーニーちゃんは今日も絶好調で気が狂っていた。


 そんな苦しむ幼女姿のバーニーがスノウには何だかとても愛おしく思えてきて、気が付けばバーニーを膝の上に乗せて頭を撫でていたのである。

 それでバーニーが嫌がるかといえばまったくそんなことはなく、むしろ全身全霊で脱力してもたれかかってきたので、調子に乗ったスノウはバーニーに髪型をいじらせてくれと頼んでみた。せっかくバーニーが少女の姿になっているので、一度でいいから他人の髪をいじりたかった欲を叶えた次第である。


 そんなわけでスノウがバーニーをお膝の上に抱っこして髪型をいじりながら、武勇伝を語るという構図が完成したのだった。


 小さな女の子が苦しんでいるのを保護したくなるのは完全に母性本能だし、他の女の子の髪型をいじりたがるあたり、だいぶアバターから少女的な価値観へと侵食されていやがる。

 そしてそれをバーニーが指摘するかというと、むしろ全力で乗っかった。今にも「おねーちゃん!」と甘えんばかりである。いや、口に出さないだけで完全に甘えまくっていた。今でもスノウに見えないのをいいことににへーと口元ににやけさせている。



 そしてその一部始終をディミは見ていた。

 コーヒーテーブルの上に座ってぼりぼりとクッキーを貪り続けながら、感情の色を失った眼で地獄のようとも天国のようとも形容しがたい光景を眺めている。



「これが人間の業かぁ……」



 大多数の人間が聞いたらガン否定するような価値観を、経験を通して学ぶAIの明日はどこに向いているのだ。



「しかし上位レイドボスを定員内クリアね。なかなかやるじゃねえか」



 スノウに髪型をいじられつつ、上機嫌そうにバーニーがそんなことを言う。



「ふふん。あれで上位なんて笑っちゃうね。初見で倒しきれちゃうなんて、上位の名が泣くよ」


『いやいや……それは調子に乗りすぎじゃないですか? そもそも【騎士猿ナイトオブエイプ】のみなさんが何度も何度も死に覚えて攻略法を見出して、ストライカーフレームまでお膳立てしたからの勝利じゃないですか。騎士様はむしろ最後に乗っかっただけでは?』



 バーニーに褒められて調子に乗るスノウに、ディミが鋭く突っ込む。

 スノウはキツネ耳をしゅんと伏せながら、まあねと頷いた。



「確かに【騎士猿】が覚醒モード前の情報を集めきってくれてたから、というのはあるけど。でもさー、ボクのおかげで押し切れたって1号氏も言ってたしー」



 スノウはディミの指摘に頷きながらも、ちょっと不満そうに反論する。

 ディミの言うことはいつも割と素直に聞き入れるスノウがこんな風に駄々をこねるのは、他ならないバーニーが聞いているからだ。スノウにとってはバーニーは親友であり、自分をゲームの世界に誘ってくれた恩人であり、そして様々な技を教えてくれた師匠でもある。

 バーニーの前ではカッコつけたいのだ。


 それを察して、バーニーはクスクスと笑う。



「ああ、そうだな。オマエは頑張ったよ。話を聞いた限りじゃ、そのストライカーフレームは“アンチグラビティ”の重力制御がなけりゃ動かせないようなマシンだったみたいだし、F・C・Sもオマエのセンスに頼った代物だった感じだからな。それでレイドボス撃破の最後のひと押しになったんだから、オマエの手柄はデカいだろ」



 バーニーがそう言うと、スノウはぱあっと顔を輝かせた。



「だよね!」


「おう、えらいえらい」



 満面の笑顔になったスノウが、ピコピコと嬉しそうにキツネ耳を跳ねさせる。バーニーはそんなスノウの頭に手を伸ばし、キツネ耳の間の部分を小さなおててで撫でてやった。

 もちろん顔はしまりなくだらけ、今にも鼻血を垂らさんばかりであった。

 自アバターにウサミミモチーフのメカニック帽を被らせるバーニーである。その手の趣味は過剰なまでに持ち合わせていた。ケモミミ美少女パイロットの膝と腕に抱かれて、キツネ耳を眺めながら頭を撫でさせてくれるとかこんな幸せがあっていいのか……!? ここが……真の楽園シャングリラだと……!?



『こんなん顔面草まみれや』



 ディミがぼそりと最近匿名掲示板で覚えてきたミームを呟く。

 それを聞いたバーニーが、口元から垂れた涎を拭って若干顔を引き締める。



「いや、しかしディミの言う通りだ。あれが上位と思って調子に乗るのは早いな。上位レイドボスが定員内で倒されて技術が出回る……となればアプデが近い」


「アプデ? 何が起きるの?」


「新ボスの追加だ。それは取りも直さず、新技術が解放されるということでもある。新たな兵器、新たなパーツ、そして新たなタイプ。戦場は常に変化していく」



 そう言って腕を組むバーニーは、難しい顔でスノウの顔を見上げた。



「ウィドウメイカーが上位レイドボスでいられるのも今だけさ。新たな技術が出回れば出回るほど、プレイヤーは強くなる。そしてそれを凌駕する、より手ごわいボスが追加される。『七翼』はプレイヤーの間に技術が伝播した度合いに応じて、次の強敵が出現するレベルデザインになってる。例外的に最強たる七罪冠位だけは最初から解放されてるけどな」


「へえー……まだまだ楽しませてくれるってわけか。ちなみに、ボクたちは今どの段階にいるの?」



 スノウが訊くと、バーニーは顎をさすってそうだなあと呟く。

 そしてパーツ店の面積のほぼすべてを使ってうず高く積み上げられた、コンテナの山を指さした。

 数十メートルどころの騒ぎではない、数百メートルもの高さまで整然と積まれた山はまるでバベルの塔。実際視認できるのがそこまでというだけで、どこまで積み上げられているのか見当もつかない。それこそシュバリエに乗って上昇しなくてはわからないだろう。



「日本サーバーの全クランを合わせて、解放しているのはあそこまでだな」



 バーニーはそんなコンテナの山の裾、ほんの10メートル。ハンガーに収まったシャインと同じくらいの高さを指さした。


 リリースから1年を通してプレイヤーたちは死に物狂いで戦い、その果てに様々な技術を開発し、パーツや武器を手に入れてきた。数百万人とも言われるプレイ人口が総力を挙げて掴んだ成果である。それが小さいとは口が裂けても言えない。

 しかし運営が用意している全体像と比べれば、あまりにも少ないと言わざるを得なかった。



「……随分と先までコンテンツが用意されているんだね」



 単純計算で、運営は現在解放されているものの数十倍のパーツを既に用意しているということになる。恐らくはレイドボスも、それに応じた数が存在するのだろう。それが一体何体いるのか想像もつかない。

 ましてや、ウィドウメイカーですら全力を使い果たしてようやく勝利できるというのに、それを凌駕するレイドボスとはどれほどのものなのか。


 そんな思いを乗せたスノウの言葉に、まあなとバーニーは軽く笑う。



「GM的にはこれくらいの量のコンテンツをリリース前から用意しておかないと、あっという間にプレイヤーに攻略し尽くされると考えていたのさ。しかし蓋を開けてみたら思ったよりも手こずってて拍子抜け……ってとこだな」


「随分と過大評価されてたんだね?」


「そりゃな。【シャングリラ】が標準的なプレイヤーだと思ってレベルデザインすりゃそうもなるさ」



 そう言って、バーニーは虚空を見つめながらククッと笑う。



「オレやコイツみたいな化け物がそこら中にいてたまるかよ。だからGMは積極的に争わせてプレイヤーの全体レベルを引き上げようとしてるわけだが……。そんなもん互いに足を引っ張り合って逆効果に決まってんだろ。上辺だけ人を理解したつもりになるからそんなことになるのさ、バカめ」



 まるでスノウ以外の人物に語り掛けるような、嘲笑を含んだ言葉。

 スノウはそんなバーニーの頭を、よしよしと撫でてやる。



「あ、でもアッシュはすごくいい感じになってきたんだよ」



 思い出したように言ったスノウの言葉に、バーニーは「あ?」と眉を上げる。



「誰だ、それ?」


「さっき言った、最終局面で共闘したパイロット。あのねー、最初はそれほどでもなくてただの武器をくれるボーナスキャラみたいに思ってたんだけど、何度も戦ってるうちに覚醒してかなりイイ線になってきたんだよ」


「男か?」


「? うん、そうだよ」


「詳しく聞かせろ」



 スノウがアッシュとのこれまでの関係を洗いざらい説明すると、バーニーは叫んだ。



「ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!」



 おやおや、また倫理規定を貫通してますよ。汚い言葉遣いですねバーニーちゃん。



「オレがそばにいないのをいいことに、シャインにしつこく付きまとって、挙句にライバルとして認められるだと!? 汚いストーカーめ! 許せんッッ!!」


「ストーカー? ……まあ、確かにそんな感じかも……」



 バーニーの絶叫に、そういえばそうかもと頷くスノウ。

 これには腹を抱えてディミちゃん大爆笑。



「そんなストーカーと関わっちゃいけません! めっ!!」


「えー、でも役に立つんだよ? 共闘相手としても腕を磨く相手としても。武器もプレゼントしてくれるし、いい奴だよ」


「クソッ……なんてこった! 豪華なデートプランを用意する伊達男に加えて、ストーカーのプレゼントにまで心を揺さぶられて……!! 純真なシャインの心を弄ぶなんて、許せないッッ!!」


『単に騎士様が尻軽なのでは……?』


「やめろぉ! シャインを悪く言うな、いくら相棒と言えどその先は許さねえぞ!?」



 恐る恐る口を出してしまうディミの指摘に、さらに発狂するバーニー。

 でもお前も高校時代に虎太郎を家に呼んで、豊富な財力で集めたコレクションで遊ばせて自慢してたことを棚に上げてるよな。


 なんでバーニーが発狂してるのか理解してないスノウ原因は、突然膝の上でのたうち回り始めたバーニーに戸惑いながらも、よしよしと頭を撫でた。



「あ、でもね。プレゼントをくれる以外にも遊び相手としてすごく楽しいんだよ?」


「神は死んだ!!!」



 スノウの無邪気な追撃に、さらにダメージを受けるバーニーである。

 どうでもいいけどアッシュさんはプレゼントだと思ってないと思うよ。


 スノウははぁ、と息を吐いて頭を振る。



「でもまあ確かに……ボクについてこれてるプレイヤーがアッシュだけってのは寂しいかなあ。みんなもうちょっと強ければいいんだけど」


「お……おう」



 瀕死のダメージを受けてピクピク痙攣していたバーニーが、必死に我を取り戻しながら頷く。



「まあ【シャングリラ】にいた連中はどいつもこいつも人外だったからな。技量的にも素質的にも、人格的にも倫理的にも、あらゆる意味で。トップ層の7人と一般プレイヤーを比べるのは酷ってもんだ」


「でもボクだって最初は弱かったよ?」


「ああ、まだ良識を捨ててなかった頃はな……」



 バーニーの言葉に、ディミは目を剥いた。



『ええっ!? 騎士様が良識的マトモな人間だった時期なんて存在したんですか!?』


「えっどういう意味?」


「そりゃあったぞ」



 訊き返すスノウをスルーして、バーニーが頷く。



「最初はこいつ、すっごい良い子ちゃんだったからな。それこそリアルと同じくらいゲームでも礼儀正しくてな。すぐ騙されてたし、煽られて泣きべそかいてたし、ほとんど負けてた。まあ見かねた師匠どもが寄ってたかってレッスンした結果、煽りの天才みたいなプレイヤーが誕生したわけだが」


『なんてことを……』



 戦慄するディミをよそに、バーニーはワハハと笑う。



「いやー、元が素直な良い子だった分【シャングリラ】に染まるの早くてなー」


「ボクが染められたみたいに言わないでくれる? みんなに追いつこうと思って、教えられることを必死に吸収したんだからね!」


「おっそうだな」



 単に主観の違いじゃねえの、という言葉を飲み込んでバーニーが頷く。



『というか……師匠なんていたんですね?』


「そりゃいるさ。いなけりゃいくら素質があっても、15歳までゲームをしたこともなかったような人間がたった1年で日本トッププレイヤーの一翼にまで育たねえだろ」


『……は? 15歳までゲームをしたことが……ない? 一切?』


「ないよ」



 ぽかんとするディミの言葉を、スノウが何でもないように肯定する。

 ディミは震える声で呟いた。



『おおスノウよ、しんでしまうとはなさけない』


「? この前自爆したことを言ってるの?」


『興味ないね』


「えっ、自分から振っておいてその反応は何?」


『ピカー! ピッカピカー!』


「……!? どうしよう、バーニー! ディミがバグった!!」


「あー大丈夫大丈夫」



 取り乱すスノウの頭を、よしよしとバーニーが撫でる。

 ディミは頭を抱えて叫んだ。



『マジだ! この人、ゲーム的なセリフに一切反応しない!』


「な? こいつ前作と『七翼』しか遊んだことねーんだよ」



 あっけらかんと笑うバーニーに、ディミは震えた。



『信じられない、レトロゲーばかりとはいえゲーマーの基礎知識ですよ? まさかこのご時世にこんなプレイヤーがいて、しかもあの強さなんて……。よほど師匠がよかったんでしょうね』


「まあな。そりゃ【シャングリラ】のトップ層が総出で教えたもんよ。一切後輩の育成に興味ないようなのもいたけど、まあ連中の大体の技術は身に付いてるさ。とはいえ、その中でも一番の師匠といえばtakoだな」


『tako?』



 訊き返すディミを置いて、スノウは頷いた。



「ああ、まあtako姉はね。本当に熱心に教えてくれたから」


「だよな。【シャングリラ】の連中にはどいつにもすげえ親身だったけど、中でもオマエに対しては群を抜いてたわ。やっぱ素直だし、教え甲斐もあったんだろ」


「でもtako姉はバーニーにも優しかったでしょ?」


「優しいというか……あれは……」



 バーニーは口ごもると、ぎこちなく笑った。



「ははは……まあ、そうだな」


『えっと、どういう人だったんです?』



 ディミの疑問に、まるで助け船に飛びつくようにバーニーが答える。



「ああ、副クランリーダーだよ。たまり場だったネットカフェのオーナーでもあってな。自分のカフェに人が集まってくるのをいつも幸せそうにニコニコ眺めながら見てる人だった。後進の育成にも熱心で、シャインをゲーム外でも中でもつきっきりで指導してたよ」


「すごく優しい人だったんだよ!」


『へえー……。素敵な人ですね』



 ディミの言葉に、スノウはキツネ耳を嬉しそうにピコつかせる。



「そうそう! 女神みたいな」


「魔王だよ」


『魔王!?』



 真顔で言い放たれるバーニーの言葉にディミは目を剥き、スノウは不満そうに口を尖らせた。



「それは【魔王】の称号を持ってただけでしょ。それだけ強かったってことだよ」


「まあ確かにそうだが。それだけで誰からも『魔王』と恐れられたりはしねえと思うんだよな……」


『本当にどういう人だったんです……?』



 恐る恐る訊くディミに、バーニーは頭を掻く。その寸前でスノウが髪を結ってくれたことに気付いてその手を引っ込め、苦笑を浮かべた。



「オレらがやってた“戦争モード”で一番プレイヤー殺害数が多かったプレイヤーは、【魔王】って称号のホルダーになれたんだよ。tako姉はその最長タイトルホルダーだ。【シャングリラ】が結成されてすぐに【魔王】を奪取して以来、クラン解散まで手放したことがねえ。【シャングリラ】が解散してからすぐにゲームもテスト終了したから、【魔王】っていえばtako姉のことなんだな」


『つまり……その方は、ゲームの全プレイヤーの中で一番多く他プレイヤーを殺戮し続けた人だということですか』


「まあそういうことだ。体が2つあるようなもんだったし、そりゃ効率的だわな」


「うんうん! 【二重影デュアルシャドウ】を使いこなせたプレイヤーなんて、後にも先にもtako姉だけだしね。本当にすごい技量のプレイヤーなんだよ」



 嬉しそうに頷くスノウは当時のことを思い出して、はあ……と夢見るように手を胸の前で合わせた。

 まるで憧れの聖騎士様の華麗な戦いぶりを想う姫君のような顔と仕草だが、思い浮かべているのは魔王の凄惨な虐殺ぶりであった。



「はあ……またtako姉と会いたいな。バーニーもそう思うでしょ?」


「いや。オレは、そうでもないな……」



 同意を求めたバーニーが、表情を消して顔を俯かせる。



「どうして? tako姉はバーニーにも良くしてくれたじゃない。あれこれと親切にしてくれたよね」


「それをお節介と感じるヤツもいるんだよ。それに」



 バーニーは重いため息を吐きながら、言いきかせるように呟いた。



「人は変わる。2年もあれば十分だ。本当に十分なんだよ、シャイン」


「それでも、仲間だった過去は変わらないでしょ?」



 スノウは小首を傾げる。



「どうしたの、バーニー? tako姉とケンカでもしたの?」


「……いや。そういうわけじゃない。オレが一方的に遠ざけてるだけだ」


「そっか、じゃあよかった。ケンカする2人なんて見たくないもん」



 スノウは安堵して、ほっとしたように笑った。



「ボクはまた【シャングリラ】のみんなと集まって、一緒に遊びたいな」



 笑顔のスノウを見て、バーニーは口をつぐむ。

 あまりにも眩しすぎる、無邪気な笑顔でスノウはバーニーの顔を覗き込む。



「そのときはバーニーも一緒だよ。いいよね?」


「……そうだな。もしもtako姉とお前が一緒に戦うことがあれば。そのときはオレも加わってやるよ」


「えへへ、やった! 約束だよ?」



 弱弱しいバーニーの言葉に、飛び上がるように喜ぶスノウ。

 その光景に違和感を感じながらも、ディミはあえて何も言わなかった。


 バーニーにはきっとスノウに聞かせたくない事情がある。そして勘のいいスノウがそれに気づいていないわけがない。

 だからこそスノウはアバターの制御を手放し、その本来の性質のままに無邪気に振る舞っている。

 それをディミがとやかく言うことではないだろう。


 ウキウキと嬉しそうなスノウは、ふと顔を曇らせた。



「それにしても……tako姉と遊ぶには、やっぱみんなちょっと弱すぎる気がするな。これからもっと強いレイドボスが出てくるのなら、なおのことみんなの腕前の底上げが必要じゃないかなあ」


「それは……まあな。プレイヤーの数も前作とは比べ物にならん。全体の母数が増えた分、上手いやつも多いが、裏を返せば弱い奴も増えるってことだ。なんかいい手段があればいいんだけどな」


『そうですねえ。運営サイド的にも、全体の底上げがされるのは喜ばしいことです』



 スノウの思いつきに、バーニーとディミも首を傾げる。

 そしてバーニーは、思いついたように言った。



「いっそオマエがみんなに技術のお披露目でもしたらどうだ? 【シャングリラ】仕込みの技術を教えますーとかさ」



 半笑いで言ったその言葉に、スノウは飛びついた。



「それだ!」


「『は?』」



 きょとんとするバーニーとディミに、スノウは胸を反らした。



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