第65話 命知らずの馬鹿野郎たち

今日は体調悪いので3000字ちょいになります。申し訳ない。

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 ブラックハウルの腹の中で、噛み砕かれたシャインの左腕が自爆命令を受けて爆発を起こす。内部からの避けようのない爆発ダメージを受けて、ブラックハウルの腹部が弾け飛び、ぶすぶすと黒煙を上げながら倒れ伏す。


 恐るべきことにそれでもまだHPはゼロになっておらず、撃墜を免れていた。



「シ……シャイイイイインッッッ……!!」


『うわっ、まだ生きてる……!?』


「撃墜されるごとにしぶとくなってる気がするな……」



 しかしさすがにダメージが大きく、すぐには立ち上がれないようだ。

 一瞬速やかにトドメを刺すか迷うが、こちらも相当な手負いである。ビームライフルの直撃をもらった上に左腕まで噛み砕かれ、HPゲージには余裕がない。

 このままアッシュにトドメを刺しに行った場合、反撃でダメージを喰らって撃墜される可能性があった。そんな危険を冒すよりも、優先すべきことがある。


 そんな打算を一瞬で頭の中で組み立てたスノウは、アッシュを捨て置いて眼下のスカルに目を向けた。落下ダメージにHPが耐えきれるかどうかは微妙なところだが、今こそ必殺の一撃を入れるチャンスだ。


 背中の白銀の翼をひと際白く輝かせながらシャインが空中で跳躍し、右脚を突き出したポーズで一瞬静止する。



「必殺! グラビティ・『メスガ』キィーーーーック!!」



 スノウの掛け声とちゃっかり割り込んだディミの叫びが唱和し、シャインが空中から重力加速度を増したキックを繰り出す。

 スカルが駆る機体“ヘッドバッシャー”の、巨大なドクロ型をした頭部を狙い、高速で一直線に急降下!


 OP【関節強化】を外している今、激突の衝撃に脚部パーツが耐えきれないかもしれないが、これで指揮官のキルを取れれば儲けものだ。


 そんな打算を組み立てて襲い掛かるスノウを、避けるでもなくスカルはじっと睨み付ける。そのドクロの眼窩に灯った青白い炎を激しく燃え上がらせ、彼は錫杖を模したビームロッドを両手で掴んで頭上に構えた。



「俺は退かんッ!! 退けんッ!! この一戦に我等の興亡がかかっているのだッ!!」



 シャインの急降下キックを、ヘッドバッシャーの青白く光る錫杖が受け止める!



「止められた……!?」


「うおおおおおおおおおおおッッ!!! ド・根・性ッッッ!!!」



 命中しながらもさらに重力を増すシャインの蹴りが、直撃を食い止めるヘッドバッシャーの脚をギリギリと地面にめり込ませる。しかしシャインの脚部もまた、落下の衝撃による関節部の破壊と、ビームロッドの熱によって崩壊しかけていく。


 ギリギリと歯を食いしばりながら、ヘッドバッシャーの眼窩の火が燃える。気迫と執念に満ちたその炎は、赤よりも高い熱量を秘めた蒼の輝き。

 かつてのスノウの初陣でそのしぶとさを見せつけた、不屈の炎がさらなる熱をもって燃え盛っていた。



「その機体、見覚えがあるなぁ。ボクに16回リスキルされた奴だっけ? ほんっと生き汚いよね……!」


「悪いな、今度ばかりは俺にも負けられん理由がある。易々とこの首くれてやれんよッ!」



 ギリギリとせめぎ合う両者の攻防。

 スノウは重力増加とバーニアの推進力をフルに使って押し切ろうとするが、しかしそれにも限界がある。そもそも急降下の衝撃を受け止められてしまった時点で、最早攻めきれないことは見えていた。


 失敗を悟ったスノウは、ニッと笑う。



「こんな言葉知ってる? 『生きるに時があり、死ぬに時があり、自爆するに時がある』。命にはそれを使うにふさわしい時があるんだってさ」


「良い言葉だな。誰の言葉だ?」


「チンパン1号だよ」


「そうか。奴なら言いそうだ、覚えておく」



 スカルはそう言って笑い返し、うおおおおおおおおおおおッと腹の底から絶叫を挙げて錫杖を大きく振り回す。

 その瞬間、シャインが強く発光して【自爆】を発動させた。

 バーニーが丹精込めて組み上げた時価2000万JCジャンクコインのパーツが瞬時に爆弾と化して、凄まじい破壊のエネルギーを放出しながら崩壊する。



 閃光!



 視界が光に包まれる最後の一瞬にスノウはディミを見上げたが、ディミは穏やかな笑みを浮かべて瞳を閉じ、静かに頭を横に振った。




※※※※※※




 ……咄嗟に身を伏せたスカルが再び目を開けたとき、そこにはシャインの姿はなかった。

 瓦礫に埋もれた自機の上に、何かが覆い被さっている。それはスカルに付き従っていた、2騎の僚機だった。その身を犠牲に咄嗟にスカルを突き飛ばして撃墜を防いだのだ。




「無事ッスか、スカルの兄ィ」


「あいったたた……。いや、痛くはないですが、撃墜判定ですわ。ったくあのクソガキ、とんでもねえ置き土産を残していきやがって」



 力なく笑う僚機たちに、スカルは言葉を失う。



「お前ら……」


「悪いけどあとは頼んます。いや、俺らももちろんリスポーンして追いかけますけど、一番大事なトコは間に合わんでしょうし」


「【氷獄狼フェンリル】を牙を抜かれた飼い犬なんかにしちゃいけねえ。【トリニティ】なんかに頼らなくても、俺らは強く在れるとみんなに見せつけてくだせえ。頼みましたぜ……」



 そう言い残し、僚機たちは光の粒子となって掻き消えた。

 スカルはドクロの顔を伏せて、何かを誓うように深く頷く。


 そこにふわりとブラックハウルが舞い降りた。

 その腹部は爆風によって裂かれており、バチバチと火花を散らせている。しかし幸いにしてジェネレーターは無事だったようで、活動することはできていた。



「よう、アッシュ。シャインは自爆して、俺とお前は生き残った。つまりシャインを初キルできたってわけだな。念願の初勝利の気分はどうだ?」


「どうもこうもあるかよ」



 アッシュはフンと鼻を鳴らす。



「勝利だ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ。ようやく1キル取れたってだけだろうが。勝利ってのはキルできたかどうかじゃねえ、最終的に目的を達成できたかどうかだろ。見ろ、この状況を」



 そう言ってアッシュは周囲を見渡した。

 スノウの大暴れと自爆により、10騎ほどが行動不能に追い込まれている。彼らはエリア外からリスポーンするため、復帰は遅れるだろう。



「本陣を固めた仲間はやられて、俺は手負いになった。だけどシャインはまったくの無傷で近くの拠点でリスポーンしてんだぞ? エリア攻防戦でもないただのフリーモードだから、リスポーンにコストもいらねえ。要はこっちが丸損じゃねえか」


「ま、そうだな。相手を押し返しただけだ」


「だろう? ならこんなところで初キルできたぜやったー! なんてガキみたいに喜んでる場合じゃねえ。いつまでも寝てんなよ、とっとと押し込むぞ」



 そう言いながらアッシュはぶっきらぼうにスカルに手を差し出した。

 その手に助け起こしてもらいながら、スカルは遠い目をする。



「……あのキャンキャン喚いてばかりいた、弓使いのエルフの小娘がねえ」


「あ? なんだよ」


「いいや。ただ、もうお前も1人前だと思ってな」


「なーんだそりゃ。社会人捕まえて言うことかよ」



 前作で出会ったばかりのときのことを思い出して、スカルは薄く笑う。彼のドクロの頭は表情を読み取りづらいが、アッシュに向ける眼は妹を見るように優しかった。

 なお、スカルは前作では武僧、いわゆる殴りプリだった。そのときの得物の錫杖を気に入って、今でもビームロッドとして愛用している。あの、本当にお寺の関係者じゃないんですよね?



「アッシュ、お前その腹どうする? いったん離脱して修理してもいいんだぞ」


「ハッ、馬鹿言うなよ。俺たちは奴らを追い詰めてんだぞ。今が攻め時だろうが」


 アッシュの言葉通り、大勢は【氷獄狼】有利に傾いていた。

 スノウによって10騎ばかり失われたが、それはあくまでもスカルを護衛する後詰めの戦力。前線の兵は高品質な武器と高い戦意により、【騎士猿】を圧倒していた。

 【騎士猿ナイトオブエイプ】との戦いで30騎ばかりが損害を受けたが、残り110騎は未だ健在。【騎士猿】の兵士は戦線を大きく後退させ、拠点へと追い込まれつつある。



「100騎以上も残ってんだ! このまま拠点を制圧して、レイドボスを横殴りといこうじゃねえか」


「ああ、そうだな。……総員、突撃しろ!! 一気に押し込めッ!!」


「「ヒャッハーーーーーーーーーーーーー!!!」」



 スカルの攻撃命令に、【氷獄狼】の命知らずの馬鹿野郎レックレス・トルーパーたちが歓声を上げる。

 自らもその中の1騎となって大地を駆けながら、スカルは誓う。

 必ずや戦果を持ち帰り、【氷獄狼】は【トリニティ】に従属しなくてはならないような弱いクランではないと証明するのだ。


 奪われた自由と尊厳を、再びこの手に。


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