第70話 アメイジング・スパイダー!
エタってません(挨拶)
すみません、昨日・一昨日と体調不良で完全に寝込んでました……。やっと動けるようになったので投稿再開です。
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「うりゃうりゃうりゃーーーーっ!!」
中でも隊長であるメルティショコラが駆る“ポッピンキャンディ”は、押し寄せる子蜘蛛の群れを撃ち墜として回っていた。暴れに暴れてスナイパー部隊から目を逸らすだけではなく、巣の入り口で峡谷側からの敵の侵入を防いでいる1号氏の部隊に迫る子蜘蛛までも撃墜して回る
「そらそらそらっ! 何処向いてんの、お前らの相手はウチらがするしっ!」
今も空飛ぶ回転ノコギリと化した子蜘蛛の群れに追われながら空中を飛び回り、ビームライフルでウィドウメイカーにチクチクと攻撃して子蜘蛛のヘイトをさらに集めていた。
他の遊撃部隊も頑張って子蜘蛛から逃げ回っているが、さすがにこの動きはエースの彼女だからこそできるものだ。遊撃部隊の中には子蜘蛛に追いつかれ、ダメージを受ける機体も出てきてしまっていた。
「ぐあああああっ!?」
「無茶すんなし! ヘイトを集めすぎちゃダメよ、できる範囲で逃げればいいから!」
「でもショコラ、あなたもそろそろきついのでは……?」
部下を叱咤するショコラに、ネメシスがハラハラと心配そうな顔をする。
ショコラはへへっと顔をしかめて笑い、まあねと頷いた。
「まあキッツイけどさぁ……誰かが頑張らないといけねーわけだし。そんならウチがひと肌脱いだ方が、誰かに負担かけるより気がラクなんだよねっ」
「…………」
その言葉を聞いたネメシスは、1号氏に言った。
「火を点けます。いいですね?」
「ちょ、ちょっと待ってネメっち! 計画と違うじゃん! ウチまだやれるし!」
慌てて割って入るショコラだが、ネメシスは首を横に振る。
「いえ。もう見ていられません。確かにストライカーフレームが到着してから火を放つ予定でしたが、このままだと遊撃部隊が全滅します」
「だからウチらはまだやれるって! 勝手にこっちの限界決めないでよ!」
「しかし……」
「いいですよ。今すぐ点火しちゃってください」
揉め始めるショコラとネメシスをよそに、1号氏はあっさりと言った。
いいの? ときょとんとした顔になる2人に、1号氏はニヤリと笑みを浮かべる。
「なんせ“
1号氏がそう言った瞬間、峡谷から凄まじい振動が伝わってきた。
ストライカーフレームに積まれたマイクロミサイルのありったけをぶっ放して、数千匹の子蜘蛛を吹っ飛ばした衝撃。
そして同時に通信から響く3つの悲鳴。
「ねえ、これどうやって止まるの!? もう巣に突入するんだけど!?」
『きゃーーーーーーーっ!? ぶつかるーーーーーっ!!』
「おい、ブレーキ! ブレーキねえのかよこれ!? 作った奴バカじゃねえの!?」
作ったバカは通信に向かって怒鳴り返す。
「シャイン氏、
「わかった! アッシュ、踏ん張るぞ!!」
そしてその声とほぼ同時に、巣の中に飛び込んでくる黒い影。
一番大きな巣の上で子蜘蛛と【騎士猿】の戦いを見下ろしていたウィドウメイカーの顔面目掛けて、“天狐盛り”がパージした全長5メートルものロケットブースターが叩き付けられる。
「!?」
その後ろから、巨大なストライカーフレームと尻尾に噛みついた黒いシュバリエがもんどりうつように巣の中に突っ込んでくる。
ロケットブースターという推進力を切り離したものの、凄まじい慣性力がかかっている2騎は、機体のバーニアをフル稼働させて空中で必死に減速する。
「うわわわわわわわっ!! これもっと減速できないの!?」
『無茶言わないでくださいよ、そもそも素で音速飛べるような機体じゃないですから!』
「くっちゃべってねえで踏ん張れ! うおおおおおおおおおっ!!」
一方で、それまでのんびりと高みの見物を決め込んでいたウィドウメイカーもさすがに動いた。
いくら実弾兵器のことごとくを防ぎきる鉄壁の装甲とはいっても、音速で飛翔するブースターを直接顔面にぶつけられてはただでは済まない。その巨体からは思いもよらない敏捷さで素早くジャンプして、激突を回避した。
かわされたロケットブースターが壁に激突し、幾重にも織り重なった蜘蛛の巣をぶち抜いて大爆発!
舞い上った火の粉が蜘蛛の巣へと降り注ぐと、たっぷりと燃料を吸った蜘蛛の巣が引火して燃え上がり始める。
「今です! もっと火を点けてください!」
「りょ、了解!!」
あまりにド派手なエントリーにぽかんとしていた遊撃部隊が、1号氏の号令を受けてはっと我に返り、命令を遂行しようと動き出す。
ナパーム弾を装填したロケットランチャーを巣に向けて発射すると、たちまち巣は火の海へと変わっていく。
「燃えろ燃えろぉぉぉぉぉ!!」
「わははははははは! 火攻めじゃああああああああ!!」
火を見て興奮したチンパンたちが、うきゃああああああと雄叫びを上げた。
そんな中、“天狐盛り”とブラックハウルは空中での急ブレーキが利かないまま巣の中に突撃。元々がマッハで飛べる前提ではない機体が急制動をかけるにはやはり無理があった。
『わーーーーーー!? 誰か止めてええええええええ!!』
両手で目を覆い、悲鳴を上げるディミ。
そんなかわいいディミちゃんのお願いを聞き届けたわけでもないだろうが、そのまま壁にぶつかるかと思われた2騎は弾力があるものに受け止められ、ぼよんと弾んで壁への激突を回避した。
まるでクッション……いや、ハンモックのような手ごたえ。
言うまでもない。ウィドウメイカーが張った巣にぶつかり、衝撃が分散されてそこで止まったのだ。減速したとはいえすさまじい速度で飛翔する大質量の物体をも受け止める、恐ろしいまでの耐衝撃性能。
そこはさすが70メートル超のレイドボスの巨体を支えるだけのことはあった。
『た、助かった……?』
「いやぁどうかなあ」
恐る恐る両手を降ろして前を見るディミに、スノウが淡々と呟く。
そんなコクピットの目の前に、ウィドウメイカーさんの8つの瞳がコンニチワ。
ランドセルをぶん投げられて慌てて避けたウィドウメイカーだが、避けた先の鼻先へさらに“天狐盛り”が突っ込んできたのである。
『………………』
『………………』
呆然とした顔で見つめ合うディミとウィドウメイカー。いや、片方は人語をしゃべらないけど多分呆然としてるってこれ絶対。
「どーも、お邪魔してまーす」
スノウがへらっと笑って片手を上げると、我に返ったウィドウメイカーが雄叫びと共に大顎を開いた。
『SYAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「うわぁ、突然のお宅訪問でめっちゃ荒ぶってらっしゃる」
「『言ってる場合かぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!』」
巣にかかった獲物を喰らうのは蜘蛛の十八番とばかりに、ウィドウメイカーが顎を開いて巨大な牙を剥く。
“天狐盛り”はなんとか抜け出そうともがくが巣の粘着力は強力で、ストライカーフレームのパワーをもってしても抜け出せそうもない。
「うわぁ、また食われるの? ロボの癖に噛みつきが得意技とか、アッシュのイロモノ機体だけで十分なんだけど」
「おい、誰がイロモノ機体だッ!?」
オメーである。バイクと狼を融合させた機体とか完全にイロモノ以外の何物でもないという自覚が欠けているのではなかろうか。
いや、じゃれ合ってる場合ではない。
「シャイン、いいから早く抜けろよッ!? マジ食われるぞッ!!」
「いやあ、やってるんだけどね……これ全然抜けられないぞ。マズいかも」
ガシャガシャと全身をもがかせるも、一向に巣の粘着力から抜け出せそうもない“天狐盛り”。それどころかもがくほどに絡まっている気さえする。
「シャイン殿! 奥の手を使ってくださいッ!!」
「奥の手!?」
叫び返すスノウに、1号氏がブリーフィングでは触れなかった兵器の存在を知らせる。
「胸部のマシンキャノンですッ!! 接近されたときの秘密兵器として仕込んでおりましたッ! まさか初手から使う羽目になるとは思いませんでしたがッ!!」
「いいね! 切り札は切るべきときに切らなきゃ!」
そんなやりとりを知る由もないウィドウメイカーは、巣にかかった哀れな獲物の胸へ、鋭く尖った牙を勢いよく振り下ろす。
しかし攻撃に移った瞬間こそが、一番無防備な瞬間でもある。
突然開いた“天狐盛り”の胸部ハッチからマシンキャノンが顔を出し、無防備な顔面に向かってほぼ零距離からの集中砲火を浴びせた。
『KYASHAYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』
一般的にシュバリエ用の内蔵マシンキャノンは牽制用や対ドローン用に使われる武器であり、その威力の低さから“豆鉄砲”とも揶揄される代物だ。
しかしストライカーフレームに搭載されているものはひと味違う。何しろ口径が段違いなのだ。その威力たるや、シュバリエ用のロケットガンにも比肩する。それが何十門も砲塔を並べ、マシンガンと同等の速度で発射されるのだ。
いかにウィドウメイカーが鋼鉄の皮膚を持っているとはいえ、無防備な口にその砲弾を叩き込まれたならばただでは済まない。
至近距離からの不意打ちにたまらずのけぞったウィドウメイカーは、悲鳴を上げて大きくバックステップして距離をとる。
「今だ!」
不意打ちを成功させてニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべたスノウは、すかさず脱出のための手に移る。
「ショコラ! 悪いけどそのナパーム弾でボクを撃ってくれる!?」
「は!?」
「なんですとっ!?」
間髪入れず頭のおかしいことを言ったスノウに、ショコラと1号氏は正気を疑う顔をした。ただしショコラは純粋にスノウの正気を疑っているのであり、1号氏は自慢の機体を傷付けられたくないからこう言ったのだが。
「蜘蛛の巣は熱に弱い! それこそキミたちが燃やしてるようにね! それでストライカーフレームを撃てば、蜘蛛の巣の結合が緩んで逃げられるはずだ!」
「マジで言ってんの? 言っとくけど超アツいよ?」
「いいよっ、一発直撃喰らったところで墜ちるような機体じゃないでしょ!」
「そりゃそうですが……ううっ。やむをえませんな。ショコラ、やってください!」
そしてそんな“天狐盛り”の尻尾に噛みついているアッシュが目を剥いた。
「うわーーー!? 待て待て待て、まだ俺が噛みついてるんだがっ!?」
「いや、知らねーし。勝手についてきたんでしょ。撃つよー」
「や、やめろおおおおおおおおおお!!!」
ショコラに砲門を向けられ、じたばたと慌てて体を揺らすブラックハウル。合わせて“天狐盛り”の尻尾がゆさゆさと揺れる。
そんなアッシュを見て、スノウが呆れたように言った。
「いや、尻尾から口離せばいいじゃん。噛みついてるの自分でしょ?」
「あっそうか」
「はいっどかーん!」
ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
「ああああああああああああああああああああああああ!!!?」
そう言ってる間にもショコラが撃ったナパーム弾が“天狐盛り”の背中に着弾。直撃こそしなかったものの、爆風を至近距離で受けたブラックハウルが中の人の悲鳴と共にクルクルときりもみして吹っ飛んでいった。南無三!
「ぐっ……よしっ! ほどけたっ!!」
そんなアッシュをよそに、“天狐盛り”に絡み付いた蜘蛛糸を引き剥がしたスノウは、バーニアを噴かせて上空へと急上昇する。
そしてようやくそこでスノウは、戦場の全体像を俯瞰することができた。
無数の蜘蛛糸が張り巡らされた“
床のあちこちに作られた繭型のドローン工場も炎に包まれ、その機能を停止させていく。阿鼻叫喚の地獄絵図がそこに展開されていた。
そしてそんな蜘蛛の巣の一番上で、巨大な親蜘蛛がじっと佇んでいる。
炎に呑まれて散っていった子蜘蛛のことを悼んでいるとでもいうのか。
微動だにしないその姿に少し心の痛みを感じなくはない。しかしこれはゲームで、あれは倒すべき敵キャラクターだ。ならば同情など無用。
スノウは意識して好戦的な笑みを浮かべると、その巨体に向けて重力を増加させつつ“天狐盛り”を急降下させる。
狙うは背中、節足動物の神経が集中する部分。元になった蜘蛛がはしご形神経系を持つ節足動物であるのなら、弱点もやはりそこにあるに決まっている。
そこはひと際堅牢な硬度の装甲でガードされているが、だからこそそこを貫いたときに急所となりえるのだ!
「必殺! ファイヤー・フォックス・『メスガ』キーーーーック!!!」
すかさず割り込んできたディミの叫びと共に、その背中に急降下! しかしキックとは名ばかり。背中に振り下ろされるその脚部からHEAT(成形炸薬)弾頭のミサイルポッドが数十発射出され、ウィドウメイカーの背中に着弾する!
装甲に着弾した弾頭の信管が作動して、衝撃波と共にメタルジェットを装甲の内部へとめり込み、装甲にボコボコと穴を開けていく。まるで高熱で泡立つかのような穴は、そのまま急所に続く弱点!
スノウは機体の降下を止めると、再び上昇して両腕のヘビーガトリングガンを数十もの大穴の開いた装甲板へと向ける。
「動かないならただのデクノボウだッ!」
「時は来た! ここで仕留めるぞッ!!」
そして天井付近で気配を殺していたスナイパー部隊が、一斉に白いマントを脱ぎ捨ててビームライフルを構える。もちろん狙うはスノウが空けた装甲の穴だ。
ウィドウメイカーは大ダメージを受けてもがき苦しんでいる。ここで一気に大ダメージを与えれば、イチコロで始末できるはず。
「撃てーーーーーーーーーーッ!!」
“天狐盛り”のヘビーガトリングガンとスナイパー部隊のビームライフルの一斉狙撃が、ウィドウメイカーに降り注ぐ。
その光景に、ショコラがよっしゃ勝った! とコクピットの中でガッツポーズをとった。
「ウィドウメイカーは子蜘蛛だけ働かせて、自分は何もできない生産プラント系のボスだもんな! 子蜘蛛は繭ごと焼き尽くしたし、一番の難題の装甲もブチ破った! これで勝てなきゃウソだろ!!」
「……あー……」
嬉しそうに飛び跳ねるショコラの笑いに、1号氏が手で顔を覆った。
「どうしてキミはそうやってフラグを立ててしまうんでしょうねぇ」
「えっ? どうしたん? だってこれで勝てるってイッチが」
「……もう勝てる気がしなくなりました」
そう1号氏が言った瞬間。
ウィドウメイカーに攻撃を加えたスナイパー部隊が、次々と地上から発射されたミサイルによって撃墜された。
撃ったのは、ミサイルランチャー。
そう、先ほどスナイパー部隊の1騎が巣の奥で見つけたもの。
白い蜘蛛糸によって幾重にも覆われ、隠されていたもの。
そのミサイルランチャーは、蜘蛛の脚を蠢かせて自立しながらギチギチと音を立てて頭上の敵機を狙っていた。
さらにゾロゾロと、焼き尽くされた床の下から仲間が這い出して来る。ミサイルランチャーだけではない、レーザーガンにロケット、火炎放射器にガトリング砲。実弾・エネルギー弾を問わない無数のラインナップ。
その砲門が一斉にその場にいるすべてのシュバリエへと向けられた。
間髪入れずに、1号氏が全員に警告する。
「総員退避ッ!! その場から動きなさい、でなければ死にますッ!!」
そして床下から這い出てきた自走兵器たちが、その牙をかつての主に剥いた。
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