第24話 祝☆初デス

「ペンデュラム、クロダテ要塞って元々は【トリニティ】の支配地域だったんでしょ? じゃあ要塞内の地図があるよね、それを送ってくれ!」


「それは当然あるが……。待て、貴様は今どこにいる? アンタッチャブルが要塞を掘り返そうとしているが、まさか……」


「要塞の中を逃走中だよ!」



 敵機の銃撃をかわし、高振動ブレードで叩き斬りながら、スノウはペンデュラムとの通信を続行する。



「クロダテ要塞の巨大砲台を奪って、あいつにぶつけたいんだ。作戦司令部以外に砲台を制御できる場所は!?」


「砲台を奪うにもハッキング技術が必要だぞ。貴様、アテはあるのか?」


「ディミが何とかしてくれるだろ!」


『私、騎士様の中でどんな万能AIだと思われてるんですか!? さすがに要塞のセキュリティともなると、ハッキングはちょっと……』



 ペンデュラムははぁ、と深いため息を吐きながらこめかみを押さえた。



「わかった、マップを送る。制御施設に到着したら連絡しろ、配下に遠隔でハッキングさせる。パスコードが変更されていなければ速やかに制御を奪えるはずだ。制圧されて間もないからな、運が良ければ何とかなるだろう」


「サンキュ、戦果を期待して待っててくれ!」



 スノウが通信を切ると、即座にマップデータが送られてくる。



「さすがペンデュラムだ、仕事が早いな。ディミ、表示よろしく」


『はいはい』



 ディミの操作で、HUDにマップが映し出される。

 制御室の位置は色が塗られ、最短経路も矢印で提示されていた。



「これはわかりやすいな、ナイス気配り」


『迷子にならずによかったですね。別の意味で迷子になってる感がすごいですが』



 ディミの嫌味を聞き流し、スノウは目的地へと急行する。



『おっと……曲がり角の向こうに敵がいますよ』


「パパっと片付けてどんどん行くぞ! 強行突破だ!」


『了解、前方敵機3! エンゲージ!』




※※※※※※※




 クロダテ要塞内部は、現在大パニックに陥っていた。


 まず作戦司令部が突然出現したレイドボスによって踏み潰され、そこに詰めていた作戦指揮官以下首脳部が全員即死。

 ただちにリスポーンして復帰しようとするものの、リスポーン地点がレイドボスの脚の下敷きにされていたため、リスポーン即撃墜のループに陥った。

 何が起こっているのかわからないままリスキルハメに追い込まれた首脳部。彼らが外部リアルでの連絡で現状を把握するまでの数分間がそこで潰れた。

 しかも今度はレイドボス出現中のルールで外部からの増援が禁止され、いったんログアウトした司令部は戻れなくなってしまう。遠隔による指示は可能なものの、指令系統はほぼ完全に麻痺した。


 同様にレイドボスの下敷きになっていた“ヘルメス航空中隊”がリスポーンするも作戦司令部からの連絡途絶と、攻撃を禁止されている“怠惰スロウス”系統のレイドボスにどう対処していいのかわからず手をこまねくことに。


 しかもこのタイミングで侵入者が発生したという情報と、触れなければ無害とされていたはずのレイドボスが要塞への攻撃を開始したという情報が飛び交い始めた。

 果てはこれはレイドボスを操作する方法を入手した【トリニティ】の陰謀ではないかという怪情報までが飛び交う有様である。




「侵入者が基地内を攻撃してるぞ!」


「おい、上からレイドボスが来てるぞ! 反撃していいのか!?」


「バカ! 攻撃は厳禁だ! 死にたいのか!?」


「だからってこのままじゃ要塞が潰されちまうよ!!」


「作戦司令部は何やってんだ!? なんで連絡がつかない!?」


「【トリニティ】の部隊が侵入したとの情報が!」


「そんなわけあるか! 地上部隊は食い止めているはずだ!」



(一体この要塞で何が起こっているんだ……)



 頭上から響く轟音と震動に、ジョンは天井を不安な表情で見上げる。


 ジョンは【トリニティ】への内通容疑で拘束されていた。

 第三小隊の小隊長が司令部に通報したのである。

 しかしVR空間であるが故にジョンが投獄されることはなく、この戦いが終わるまで“ヘルメス航空中隊”から外され、のちに詳しい尋問を受ける運びとなっていた。それまでは要塞内での待機を命じられている。



 そんなジョンに、【アスクレピオス】の警備兵が声を掛ける。



「おい、そこの! 手が空いてるなら侵入者の撃退を手伝え!」


「えっ……。しかしぼくは、待機命令を受けていますが」


「そんなこと言ってる場合か、手が足りないんだ!」



 どうやらジョンがここにいる理由を知らない末端の兵士のようだった。



「しかし作戦司令部からの命令です」


「その作戦司令部と連絡がつかねえんだよ! 今は現場の判断で動くしかねえ、いいから早くこいっ! 責任は俺がとるッ!」


(いいんだろうか……)



 ジョンは少し迷ったが、ともかく目の前の兵士に従うことにした。

 どうせこの後尋問が待っているのだから、このうえ多少立場が悪くなったところで大きく変わることはないだろう。それなら少しでもクランに貢献すべきだ。

 そう思ったジョンは、警備兵に帯同して侵入者への対処に向かう。



「いたぞ! あそこだ!!」



 近くの座標からの通信を受け、警備兵とジョンは軽く頷き合う。



「どうやら近いぞ。気を付けていけ」


「はいっ!」



 通路の曲がり角の前で通信を送ってきた兵士と合流し、即席の3騎編成を組む。

 そして通路の陰から飛び出した瞬間、一番前にいた機体が斬り捨てられた。



(速い……!!)



 さらに侵入者は返す刀でジョンの目の前にいた機体を袈裟掛けに一刀両断。続いてジョンに紫電を帯びた凶刃が迫る。

 あの切れ味はまずい。触れたら即死する!



「うおおおおおおおおッ!!」



 気炎を揚げて敵機の腕に手刀を振り下ろすジョン。

 反撃を感知して、後ろに飛び下がりながら刃を叩き込もうとする侵入者。

 性質の異なる2つの凶器が交わらんとしたそのとき……。



「なーんだ、ジョンじゃないか」



 侵入者がサクッと高振動ブレードを格納して、能天気な声を上げた。



「……スノウ!? なんでここに……」



 呑気にホログラム通信まで送り付けてきている。

 毒気を抜かれたジョンが通信を受諾すると、スノウはにこにこと笑いながら言った。



「今レイドボスと戦ってる最中なんだよ。ジョンも一緒にやらない?」


「は!?」



 何言ってんだ、こいつ……。



「待て、待て待て待て……レイドボス? 本当に戦ってるの、今? それが君がここにいるのと、何の関係が?」


「この要塞を潰しにきたんだけど、途中でレイドボスが湧いたからそっちと遊ぼうと思って。そしたらなりゆきで要塞に入り込めたから、今ちょっと要塞の砲台を奪ってレイドボスに砲撃しにいく途中なんだ」


「……!?!?!?」



 深刻な頭痛を覚えたジョンは、こめかみを押さえた。

 理解不能な発言に、みるみる額が知恵熱で茹だっていくのを感じる。



「いや……おかしいでしょ? おかしいよね? ぼくは敵だよ? なんで侵入者の君と一緒にレイドボスを倒しにいこうって話になるの?」


「だってレイドボスだよ。ボスエネミーを見て倒しにいかないとか正気?」


「正気を問いたいのはこっちだからな!?」


『すみません、この人本当に頭おかしいんです』



 申し訳なさそうに頭を下げるディミに、ジョンは何と言っていいのかわからなくなった。問題児を連れ歩くおかんか。

 スノウはジョンが何を戸惑っているのかわからないというように小首を傾げる。



「この状況で陣営とかこだわってる場合? レイドボスを倒してがっぽりと報酬をいただく絶好のチャンスだよ。ネットゲームでボスが湧いたら、何もかも放り出して敵味方関係なく早い者勝ちになるもんじゃない?」


「どこの常識なんだ、それ!?」


「少なくともはそうだったけど……」


「このゲームに前作なんてないだろ!!」



 まあそれはいいやとスノウは軽く流して、じゃあ行こうかと言った。



「あまり他人と獲物を分け合うのは趣味じゃないけど、手も足りてないしジョンならいいよ。一緒にひと儲けしよっか」


「人の話聞いてた!?」


「いや、あんまり聞いてない。今時間がないっていうのに、そんなどうでもいい問答をしてる場合じゃないんだよね」


「どうでもよくないだろう!? 君と話しているのを見られるだけで、ぼくがどんな扱いを受けるか……」


「さっきも言ったでしょ、キミの事情に興味はない」



 スノウは挑発するように軽く笑う。



「いいからおいでよ。ゲームの楽しみ方を教えてあげる。それを知りたいんじゃなかったのかい?」


「………………ッ」



 知りたい。知りたくてたまらない。

 この大胆不敵なプレイヤーが、何を思ってこんなにも楽しそうに遊べるのか。

 彼女の瞳には、このVR世界がどのように映っているのか。

 その一片でも知れれば……自分は、もうちょっと強く生きられるかもしれない。



 ジョンの沈黙を了承ととらえたスノウは、さっと背を向けた。



「先を急ぐよ。余計な道草を食った。作戦司令部が体勢を立て直す前に砲台を制圧しちゃいたいからね」



 背中から撃たれる危険性を、まるっきり考慮していないかのような態度。


 こいつは本当に滅茶苦茶だ。

 その思考をまるっきり理解できない。


 スノウのペースに巻き込まれたジョンは、軽く混乱したまま後を追いかけていく。



※※※※※※※




「どけどけどけどけーーーーーーっ!!」



 砲台制御施設に到着したスノウは、詰めていた警備兵たちを軽く一掃。



「な、なんだこいつは!?」


「一緒にいるのはウチの飛行部隊機!? スパイか!?」


「す、すみませんっ! レイドボスを倒すために砲台が必要なんです!」



 そう言いながら、残った警備兵をジョンが片付けていく。

 同陣営の味方機が撃墜され、光となってリスポーン地点へと戻っていくのを見て肩を落とすジョン。



「ああ……やってしまった……」


「いい倒しっぷりだね。さーて、そんじゃハッキングお願いしますよっと」



 ペンデュラムに連絡を取ったスノウは、【トリニティ】HQに依頼して遠隔操作でハッキングを仕掛けてもらう。

 制御室のモニターが次々と移り変わっていくのを眺めつつ、ディミは感心した声を上げた。



『手際がいいですね。元々自陣営の支配地域とはいえ、的確なハックです』


「へえー……サポートAIが褒めるってことはなかなかの腕なんだ?」


『そうですね。及第点を差し上げましょう』



 ふふんと鼻を鳴らすディミ。

 自分ではハッキングできないと言っておきながら、この上から目線である。


 そんな二人を見ながら、ジョンは口を開く。



「スノウ、本当に砲台でレイドボスを仕留められると思う?」


「やってみないとわからないな。でもこの砲台、航空空母を撃墜するためのものなんでしょ? このゲームの航空空母がどれほどのものかは知らないけど、まあそれなりのダメージは入るんじゃないかな」


『サイズ的には航空空母の方が大きいですから、期待はできそうです。バリアを貫いてダメージを与えられるのですから、貫通性能も高いはずですし』



 なるほど、勝算なしで無茶をやってるわけでもないのかとジョンはホッとする。そんな彼の表情に、スノウはニヤニヤと揶揄する笑みを浮かべた。



「安心した、ジョン?」


「まあ、そりゃね。クランに叛逆同然の行為をしておいて、勝算もありませんじゃさすがに……。せめてレイドボスを取り除けば、面目も立つかもしれないから」


「ジョンは真面目だね。クランに裏切り者扱いされて、まだ忠誠を尽くすつもりでいるんだ? あんまりにも健気で涙が出ちゃうよ」


『裏切り者扱いさせたのは騎士様じゃないですかね?』



 大体そいつのせいです。



「まあ……入院してる父さんの面倒をみてもらってるからね。クランに貢献しなきゃ、医療支援だって打ち切られかねないし。恩義を返さなきゃいけない」


「ふーん。でもそれってさ、要するに『人質に取られてる』ってことでしょ?」


「…………ッ」



 スノウの指摘に、ジョンはぎゅっと拳を握りしめた。

 自分でも、心のどこかで薄々と感じていたこと。あえて目を背け、クランへの恩義があるからと自分の心を塗り潰してきた事実。

 そうしないと、とてもじゃないけど耐えられそうになかったから。



「ま、いいや。その辺の事情には興味もないし」



 あっさりとそう言って、スノウは背を向ける。



『ドライですねぇ……』


「だってネットゲームだもん。リア友じゃあるまいし、所詮他人の事情だよ。ネットで出会う全員にいちいち共感なんかしてられるもんか。割り切りが重要だよ」


『まあそれはそうなんですけど』



 その背中に、本当にドライで身勝手な奴だなとジョンは苦笑を浮かべた。



『それはそれとして騎士様、ハッキング終わりましたよ』


「よーし! ディミ、操作はできるよね? 砲台の照準をクマ公にセット!」


『了解。目標、アンタッチャブルに合わせます』



 制御室のモニターが切り替わり、要塞へと山肌を掘り進もうとしているレイドボスが大映しになる。

 ここで初めてアンタッチャブルの姿を見たジョンは、驚愕に目を丸くした。


 でかい。いや、でかいなんてもんじゃない。

 要塞の上を飛んだジョンは、眼下にそびえる巨大砲台をなんて大きいんだろうと思っていたが、レイドボスの全長はそれよりもはるかに長い。

 ……こんなものに挑もうとしていたのか、スノウ。


 これは人類が戦って相手になる存在ではないのではないか? という疑念が拭えない。少なくとも要塞の壁を腕力だけで破るような存在は、正面から相手にできるようなものではない。まさしく天災そのもの。



「……これは砲台でなんとかなるのか……?」


「やってみなきゃわからないってね。いくぞ、ディミ! エネルギーチャージ! どうせやるなら、腹いっぱい食わせて一撃で決めろ!」


『わかりました。ただ、アンタッチャブルは要塞を掘り進もうとしているので、射角的に射撃が要塞を貫いてしまいますが……?』


「いいよ、要塞がどうなったって。この際要塞ごと潰したって構わない」


『まーたそういうことを……了解です』



 ディミは頷くと、オペレーションを再開する。



『エネルギーチャージ開始! 要塞内の全エネルギーを流し込みます! コンディションオールグリーン!』



 キュイイイイイイイイイイイイイイン……!!



 サブモニターには唸りを上げながら蒼く発光し、急速にエネルギーを集めていく砲台が映し出されている。その砲身の先には、背中を向けるアンタッチャブル。

 シャインを追いかけることに夢中になっているようで、砲台を見ていない。



(これなら……!)



 ジョンは我知らず拳を握りしめ、固唾を飲んで成り行きを見守っていた。



『射撃スタンバイ! ご命令を、騎士様!』


「3、2、1……撃てーーーーーッッ!!!」



 射出口から蒼く光る粒子が漏れ出し、砲台がフルチャージの一撃を繰り出そうと雄叫びを上げる。航空空母の分厚い装甲に穴を開けるための、必殺の一撃!

 それが今まさに鋼鉄の咆哮と共に繰り出されんとしたその瞬間。




 アンタッチャブルが俊敏な動作で振り向き、砲台に正面から向き直った。




 弧を描いてたわめられた眼。羽虫どもの精一杯の抵抗への嘲笑を浮かべた色。

 嫌な目だ、と反射的にジョンは敵意を抱く。そして確信する。


 こいつはわざと罠にかかった。

 どんなに抵抗したところで、何もかもが無駄なのだと知らしめるために。

 獲物に絶望を刻み込むそのためだけに、隙を見せていたんだ。



『GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!』



 アンタッチャブルの咆哮と共に、重力球が正面に出現する。

 それは3つに小さく分裂すると、板のように平べったく変形して、アンタッチャブルと砲台の射線上に展開された。



『“グラビティシールド”……! 重力子による威力減衰を予測!』


「航空空母のバリアも抜けるんだろ! 構わない、やれっ!!!」



 巨大な砲塔から、蒼く輝く光の奔流が飛び出した。

 それは漆黒のシールドに遮られつつも、闇を侵食するように1枚目を突破する。

 続いて2枚……そして3枚!!


 ついには3枚のシールドを貫通して、アンタッチャブルへと到達する!



「届いたッ!!」


『…………』



 ディミは苦い顔で、モニターに映る砲台を見つめた。



『いえ……やはり、減衰されました……。目標、未だ健在ッ……。HP減少は25%に留まりました……』


「25%削れたのならいける! 第二射!」


『ダメです、オーバーチャージしたので冷却が必要です……! クールダウンまでの必要時間、約5分!』


「チッ!! なんとかそれまでの時間を……」



『GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAA!!!』



 そのときアンタッチャブルが咆哮を上げた。

 首周りに伸びたアンテナのような器官をギラギラと輝かせながら。



「なんだ……? あのアンテナで手下でも呼び寄せるつもり……いや」



 スノウは気付いた。あれはアンテナなどではない。


 アンタッチャブルが開いた口から見える、暗黒の影。

 陰になっているにしては、あまりにもドス黒い闇そのもの。

 あらゆる光を吸い込んで逃さないそれは、アンタッチャブルの体内に形成されたブラックホールの炉心。位相差によってエネルギーを取り出す、破滅を呼ぶエンジン。


 あれは、あの器官は。

 ブラックホールから取り出された莫大なエネルギーに指向性を与えるための。



『臨界状態に入りました……“グラビティキャノン”発射されます』



『AOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHH!!』



 アンタッチャブルの口から莫大なエネルギーが砲撃となって放たれる。

 どういう仕組みなのか、まるで闇色の光のごとき怪光。まさかブラックホールが凝縮されて打ち出されているわけでもあるまいに。


 その暗黒の光はクロダテ要塞の巨大砲台を飲み込み、瞬時に崩壊させた。

 一瞬で分子へと分解され、砲台は世界から消滅する。まるで最初から何もなかったかのように、跡形もなく。


 何故これを今まで撃たなかったか。

 決まっている、撃つまでもないからだ。たかがシュバリエひとつを破壊するために、こんなものはあまりにも大げさすぎる。ネズミ一匹殺すのに核爆弾を持ち出すようなばかばかしさ。


 アンタッチャブルの砲撃は巨大砲台を破壊してなお止まらない。鋼鉄熊が首を回せば、闇色の光はまるでバターを切るかのように要塞を切り刻んでいく。


 そしてある地点を切断したときに、アンタッチャブルの目は喜悦に輝いた。



 砲台制御施設の天井と壁が斜めに断ち切られ、空が広がる。

 スノウとジョンは硬直して動けない。


 まるでおいしいハチミツが詰まったハチの巣を覗くがごとく、それを見下ろすアンタッチャブル。侮蔑と嘲笑に満ちた視線が人間たちを射抜く。



 ――勝てると思ったのか、羽虫ども?



 アンタッチャブルは再び大きく口を開くと、喉の奥に広がる闇を見せつけた。

 ギラギラと輝く、首周りの指向性器官。



 ――チェックメイトだ。



(これは、もうどうしようもないか……)



 スノウは肩を竦めると、手早くOPオプションパーツのページを開く。

 そして現在所持している唯一のOPを……ディミを装備解除。



『えっ!? 騎士様、何を……!!』


「ちょっと退避して」



 何かを言いかけた仕草のまま、姿が掻き消えていくディミを見上げて息を吐く。


 次の瞬間……闇色の光がスノウの視界を包み込んだ。

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