第18話 上から来るぞ! 気を付けろ!
6/6の投稿1本目です。2本目は夜公開です。
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索敵を担当する【トリニティ】の偵察機から送られてくるマップによれば、敵小隊は既にクロダテ要塞を出発し、山間の渓谷を飛行中とのことだ。
「何とか奇襲したいな……」
『騎士様は奇襲がお好きですね』
「そりゃそうだよ。一方的に有利を取れるんだから、やらない理由がない」
『卑怯だな、とかそういう罪悪感を感じたりとかは?』
「あるわけないじゃん」
スノウは不思議そうに首を傾げた。
「だってこれはゲームだよ? 騙しに挑発、裏切り奇襲談合、リアルで許されないあらゆることが許されるのがゲームの面白さでしょ。むしろ、手を抜くことの方が相手にとって失礼だと思うよ」
『いえ、普通に考えて煽る方が失礼だと思いますけど』
「何を言うんだ、煽りは
『運営的にはハラスメント行為はほどほどにしてほしいですねぇ……』
そんな会話を広げつつ、スノウはマップを眺めた。
「正面から戦うのはやっぱ避けたいな。チームワーク偏重の相手となると、さすがに1騎で挑むのはきつい。そもそもからして、高所を取られてるのは不利だ」
『【トリニティ】の機体と協力して、多対多に持ち込みますか?』
「練習もしてないのに連携が取れるわけないじゃん。何か一工夫必要だな」
そう言って、スノウはマップの等高線を指さす。
「地形を逆手に取れるかもしれない。敵機のレーダー性能によるだろうけど、レーダーが球形に展開するのなら、谷底にいればレーダーの範囲外に潜伏できる。そこから急上昇して、真下から接近すれば奇襲が可能かも」
『うーん、そうですね。でも偵察機仕様に寄せた機体が混じってると、レーダー性能が高いので看破されちゃうかもしれませんよ』
「まあもしそうなった場合でも、基本的に真下から襲ってくる相手の対処は難しいからね。ペンデュラムの部下の空中機に、ボクが奇襲を仕掛けてから追撃するように連絡を入れておけば、孤立する危険も減る」
『それなら最初から、ペンデュラムさんの部下の方々と一緒に奇襲されては?』
ディミに指摘されたスノウは、うーんと呻きながら頭を掻いた。
「一度も戦ってるところを見たことがない他人には命を預けられないよ。実力が低い他人はただの足手まといだ。
『人間不信なんですね、お可哀想に』
「何を言うんだ、ボクは他人を信じてるとも。上手な敵はとことんこちらを苦しめ、下手な味方はどこまでも足を引っ張るってね。揺るぎのない経験則だよ」
※※※※※※
こうして崖下に潜んで機会を伺ったスノウの目論見は当たった。
【トリニティ】を迎撃するために急行していた第二小隊は、直下から急上昇してきたスノウに対処することができず、先制の一撃を受けてまず1騎が墜ちた。
『敵機残数3、
「いいね、そのシステムメッセージ。やる気が高ぶるなあ!」
そう言いながら、スノウは【トリニティ】から供与された高振動ブレードで動揺する敵機に斬りかかる。相手のシールドや装甲を無効化し、固定値の高ダメージを与える優秀なブレード装備だ。
しかしさすがに高度な育成カリキュラムを受けた敵機は立ち直るのが早く、高振動ブレードを受け止めずに後退して身をかわす。
(なかなかの反応。ブレードで受け止めなかったのもいい、相手の武器を破壊できる高振動ブレードの特性をよく理解してる……)
スノウはヒュウと口笛を吹いて、すかさずレーザーライフルでの追撃に切り替える。
「こいつ!? 一体どこから……【トリニティ】じゃない、どこの所属だ!?」
「どこの所属だろうが構うか! 撃墜しろッ!! フォーメーションB!! ティプトリーは囮! バージェスは念のため、近くの小隊に応援を要請!」
「了解ッ! 第三小隊に連絡します!」
隊長機の号令で、敵3騎が3方向に分かれて飛翔する。
1騎が囮になって正面から敵をひきつけ、残りの機体が左右や後方について攻撃する。立体機動を得意とする“ヘルメス航空中隊”の
「オラオラオラァ!! 鬼さんこちらっと!!」
囮になった機体がバルカン砲をバラバラとばら撒き、スノウを牽制しながら注意を惹き付ける。それに危機感を覚えたのか、スノウがレーザーライフルで撃ち返してくるが狙いはブレブレでロクに当たる様子もない。
もらったな、相手は初心者だ。囮を引き受けた機体はニヤリと笑った。
見たところ相手は何の改造もされていない初期機体。崖下に潜むというトリックと身の丈に合わない高性能武器で不意打ちには成功したが、実戦経験のなさはカバーしようがない。
「ハハッ! 射撃訓練でも付き合ってやろうか? 当たればだがなぁ!!」
囮機がさらなる加速で攪乱しようと、背中を向けてバーニアを噴かす。
さーてルーキーさんよ、狙ってみな。
だが、狙われてるのはお前さんだ。俺の僚機があんたの背中に狙いをつけてるぜ!
「ティプトリー! ブレイク!!」
その瞬間、スノウの背面を狙っていたはずの僚機から警告が発せられる。
何を、と思った瞬間、囮機の肩が撃ち抜かれた。
HUDが
そして、今度こそ信じられないものを見た。
初期機体が振り返りもしないまま、背後に向けたレーザーライフルで僚機をぶち抜いていた。さらに狙いを付けることもなく2射の追撃を繰り出し、命中(ヒット)。
瞬く間にHPゲージをゼロにされた僚機が、断末魔の悲鳴を上げながら爆発する。
「バカな!? 振り返りもせず……!!」
「……確かに練度は高い。反応も悪くないし、連携も完璧だ。だが完璧すぎる」
スノウはさらに下方向から迫ってくる隊長機にレーザーライフルを向け、牽制に2射撃ってから即座に高振動ブレードのコンボを叩き込む。
急制動が間に合わず、狙いを付けられてもスピードを落とすことができなかった隊長機は、レーザーライフルでHPを削られたうえにブレードでトドメの一撃を喰らい、あっけなく撃墜された。
「育成カリキュラムあがりのチームって、動きが教科書通りすぎるんだよね。しかもチームワーク偏重だから、僚機との連携を崩さないために咄嗟の動きが弱い。そして僚機を撃墜されると、個対個の動きができない。まあ場数にもよるだろうけど」
そしてメスガキはニヤリと笑うと、残った1騎に銃口を向ける。
「次はわざと外さないよ? さあ、ドッグファイトしよう」
「…………ッ!!!!」
――ただでさえ片腕をやられていた最後の1騎は、なすすべもなく墜ちた。
爆発が生み出す赤い光を浴びながら、スノウはライフルを格納する。
「初期機体も悪くはないな。相手が勝手に油断してくれるし」
『……随分余裕でしたね? 連携がうまい敵は厄介だとか言ってませんでした?』
「厄介だよ。だから正面から戦うのは避けて、まず1騎墜としたでしょ。チームワーク偏重の敵部隊は、1体ずつ倒されれば実力を出せなくなるからね。まあ熟練チームだと個でも強かったりするんだけど、今回はそうじゃなかった」
『なるほど』
「まあそれも奇襲あってのものだから、次は通じないだろうけど。どうせすぐリスポーンしてくるんでしょ? ……ああ、そうだ。折角だからリスポーンの仕様も教えてくれるかな」
あ、はいとディミは人差し指を立てる。
『機体が撃墜されると、その機体が所属する勢力は機体の装備に応じてコストを支払い、撃墜された機体を自軍拠点にてリスポーンさせます。
リスポーンは、撃墜されたパイロットが任意のタイミングで可能です。
勢力が所有する総コストが続く限りリスポーンできますが、コストがゼロになると敗北となります』
「コストなんてものがあったのか。じゃあ昨日の【
『そうですね。昨日は総コストがゼロになる前に、全員心が折れましたが。敗北条件は主に自軍本拠地が相手クランに完全に占領されるか、総コストがゼロになるか、作戦時間オーバー時の判定負けの3種類です。昨日のは完全にイレギュラーですよ』
ジト目で発せられるディミの皮肉に、スノウはうん知ってたと内心で頷く。
戦うたびにプレイヤー全員の心がへし折られるようなゲームなら、こんなに流行っているわけがないのだった。
「ちなみに【無所属】の総コストがゼロになるとどうなるの?」
『ええと……ルールによると、【無所属】はそもそも総コストがないので、撃墜されたら戦場から追放されます。ただし、再アクセスは可能ですね』
『これいいんですか? 再アクセスする手間はあるけど、実質無限にリスポーンするじゃないですか……やっぱりルールの穴なのでは?』
「クランに所属してる機体も総コストが続く限り無限にリスポーンするから何の問題もないと思うな!(早口)」
『まーた都合よく正当化するんですから、このマンチキンは』
「まあ、そうそう撃墜されてあげるつもりもないけどね」
スノウはマップをちらりと見ると、軽く唇を舐めて遠くの空を見つめた。
「おかわりといこうか。千客万来、休んでる暇はないよ」
『相手にとっては貴方が招かれざる客でしょうけどね』
スノウはバーニアを噴かすと、第三小隊を撃破するために飛翔する。
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