第110話 武力カンストだけど政治力1桁でギリワンのメスガキはどうすりゃいいですか?
今日も投稿遅れたけど私は元気です。
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「というわけで師匠にどっかのクラン乗っ取れって言われたんだけど、何かいい案ある?」
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ソファに腰かけてお茶を飲みながら、スノウはtakoとの会話の内容をあらいざらいぶちまけていた。
そんなスノウの顔を、ディミとチンパン1号氏は珍獣でも見るような目で見つめている。
『……騎士様。あの、それって第三者に話しちゃっていいことなんですか?』
「え? 別にtako姉は他人に話しちゃダメだなんてひと言も言ってなかったよ?」
『いや、そんなこと言うまでもないというか……』
「だってボク、そういうこと全然よくわかんないもん。わからないことは知ってる人に聞くのが一番じゃない? この場合は実際にクランを運営してるクランリーダーとかさ」
ディミの当然の疑問に、スノウはあっけらかんと答えた。
きっとtakoが聞いたらダメに決まってるだろと言うと思うよ。
物騒すぎる内容を相談された1号氏は、はっはっはと呑気に笑いながらティーカップから紅茶を飲み干す。
横に控えていた副官のネメシスが、ニコニコと静かに笑いながら、すかさずお代わりを注いだ。
「クランの乗っ取りですか。いやあ、さすがオクト氏は言うことがいちいち剣呑ですなあ。いかにも武断の人らしいやり方だ」
「そうでしょ? tako姉はすごいんだよ!」
師匠を褒められたと解釈したスノウが、えっへんと薄い胸を反らす。
『今のって「相変わらずの脳筋蛮族思考だな」ってのをオブラートに包んで言い換えただけなんじゃないですかね?』
「それは言わぬが花というものですな」
知的に眼鏡を光らせ、1号氏はディミのツッコミを軽く受け流した。
スノウはそんな1号氏に、ずずいと身を乗り出す。
「それで、何か乗っ取るのにいい方法ってある? このクランがオススメだとか、うまいこと取り入る方法とか」
「ふーむ。吾輩も別によそのクランを乗っ取ったわけではないですからなあ。旗を立てて、好きにやりたい奴はここで好きにやってもいいですぞって言ったら自然と人が集まって来ただけのことでして」
「ちぇー、そっかぁ」
そうぼやき、スノウはあてが外れたと言った顔でソファにひっくり返った。
『というか、そんなやべー情報知ってる人がいたら明らかに危険人物じゃないですかね……。それこそ情報屋にでも教えてもらった方がいいんじゃ? そんな人いるかどうか知りませんけど』
「ふうむ。情報屋ですか……」
1号氏は顎をさすり、天井を見上げる。
スノウはそんな彼を期待に満ちた瞳で見つめた。
「え、情報屋さんを知ってるの?」
「いや、吾輩も匿名掲示板で噂を聞いただけなのですがね。そういう情報屋というのは確かにいるらしいです。何でも電脳街の広場のどこかの店舗に合言葉を言えば、情報を売ってくれるらしいのですが……」
「どこのお店かとか、合言葉とかはわからないの?」
「そこまではなんとも。申し訳ないですなぁ」
「そっかぁ……」
がっかりと肩を落とすスノウ。
その肩の上で、ディミが何やらぶつぶつと呟く。
『個人情報保護法違反……? 会員規約……。ネットリテラシーに違反する悪質なプレイヤーは強制退会させなきゃ……。一刻も早い洗い出しを……一斉検挙……職務質問……?』
「ねえ1号、この子突然運営の手先ちゃんモードに入って怖いんだけど」
「はっはっは、サポートAIの前でうかつなことを言うものではありませんな。くわばらくわばら」
まあ、と呟きながら1号氏は長い膝を組み替えた。
こうしてみれば、彼も外見だけなら知的でスマートな紳士なのだ。
普段の言動とキモい笑い方で台無しになっているけど。
「そういう実情というのは、やはり実際にクランを自分の目で見ないことにはわからんでしょうな。幸いスノウ殿には傭兵という立場があるではありませんか。傭兵としてクランを渡り歩き、付け入れそうなクランを見つければよろしいのでは?」
「なるほどなあ。でも、付け入りやすそうなクランってどういうところなんだろ?」
「んー、そうですなあ……」
そう言いながら1号氏は首をひねる。
『こんな犯罪スレスレの相談によく快く乗れますね……?』
「ふふっ、吾輩もピカレスクロマンという奴には少々憧れますからな。何分お行儀のよいクランリーダーに落ち着いてしまいましたので、破天荒なプレイも見てみたくあるのですよ」
ディミのツッコミにニヤリと笑い返しながら、1号氏はピンと指を立てた。
「やはりクランの結束が脆いところがねらい目でしょうか。絶対的なカリスマ性の欠如したところなら、スノウ殿が乗っ取ろうとしても流されてついていくと思いますぞ。具体的に言うと、小規模のグループが生き残りのために寄り合い所帯を作っているようなところですな。ただ……」
「ただ?」
「得てしてそういったクランは、プレイヤーも大した腕を持たないものです。スノウ殿は“七罪冠位”に挑むのが目標なのでしょう?」
「うん」
「となると、やはりクランメンバーもそれなりの腕を持つ者がほしいところですな。“七罪冠位”に挑むのでなくとも、横殴りを狙ってくるハイエナどもを寄せ付けない壁役くらいは担ってもらわねば」
1号氏の指摘に、スノウはむむむと唸り声を上げた。
「あんまり両立しないものなんだね」
「まあ腕の良いプレイヤーが集まるクランというのは、なかなか団結力が高いものですから。もちろんスノウ殿が乗っ取った後に腕利きのプレイヤーをスカウトして回ってもよろしいですが……やはり一朝一夕ではいきませんでしょうな」
「そっかぁ……困ったな。道場破りみたいにどっかのクランに押し入って、全員叩きのめして今日からボクに従え! って言えばなんとかならないかなぁ?」
「なるわけありませんぞ。オクト氏ならば可能かもしれませんが、普通はボコボコにされても恨みを買うだけです。普通の感性なら、誰も従ったりはしませんな」
『マジで蛮族だよこの師弟……』
頭を抱えるディミをよそに、スノウはうーんうーんと頭を悩ませる。
居間に入って来た【騎士猿】の遊撃部隊長のメルティショコラが、そんなスノウを見つけて弾んだ声を上げた。
「あ、スノっち来てんじゃん! はろはろ~♪」
「はろ~……」
「相変わらずお人形さんみたいに可愛いねスノっちは~。ね、ね、髪の毛いじってもいい?」
「いいよ」
スノウがそう言う前から、ショコラは鼻歌を歌いながらスノウの髪型を変えて遊び始める。手始めにシュシュを取り出して、お団子ヘアーに変え始めていた。
そんなショコラに身を任せながら、スノウは首をひねる。
「ねえ、何かいいアイデアない? 結構強いプレイヤーを揃えてて、ボクに喜んでクランを譲ってくれるような気前のいい友達の心当たりとか……」
「ううん……そう言われましても」
『仮に心当たりがあっても、騎士様に教えたら友達を売ったに等しいのでは……?』
「そうだ!」
スノウはニコッと笑いながら、ぱちんと指を鳴らした。
「1号が【騎士猿】のクランリーダーの座を僕に譲ってくれるっていうのはどう!?」
ミシッ、と空気が軋む音がした。
髪をいじるショコラの顔から表情が消え、ニコニコと横に控えていたネメシスの細目の奥が冷たい光を滲ませる。
ディミはごくりと唾を飲み下した。
冷たく輝く眼鏡のつるを、1号氏が無言で押し上げる。
その眼鏡の下からどのような瞳でスノウを見ているのか、推し量ることができない。
「本気でおっしゃっているのでしたら、吾輩は死力を尽くして貴方と抗争を繰り広げねばなりませんな。ここを墓場にするつもりはおありで?」
「……冗談だよ」
そう言ってスノウはソファに身を投げ出し、うーんと伸びをした。
「そっかー、やっぱダメかー。一応言ってみたけど、そこまで拒否されるなら諦めるほかないなー」
冗談めかしたスノウの言葉に、露骨に場の空気が緩んだ。
気圧差すら感じさせる雰囲気の変化に、ディミはほっと安堵の息を吐く。
1号氏は、はっはっはと呑気な笑い声を上げながら、少し冷たくなったティーカップの中身を傾けた。
「ま、誰にでも譲れない一線というものはあるものですよ。吾輩にとっては、それがこの【騎士猿】です。仲間たちと苦楽を共にして、心血を注いでここまで大きくしたクラン……吾輩にとっては『家族』と言っても過言ではありません」
「ふうん……」
生返事をするスノウに、1号氏は諭すように微笑む。
「そうですなあ……。スノウ殿は前作で【シャングリラ】に所属しておられましたな。もしもある日、どこの馬の骨とも知れぬ荒くれたプレイヤーがやってきて、『今日からこのクランは俺のものだ。お前らは子分にしてやるからありがたく思え』なんて言ってきたら、どう思いますかな?」
「は? ブッ殺す。生まれてきたことを後悔させてやるッ……!!」
俄かにギラついた眼光を帯びたスノウは、白い歯を剥き出して瞬間沸騰した。
1号氏はニヤリと唇の端を歪めて、クックッと笑う。
「……そういうことです。自分たちのコミュニティに土足で踏み込まれて、大人しく従うプレイヤーなんてそうそうおりませんよ」
「あーしもイッチ以外のクランリーダーなんて認めねーし!」
「無論、私もですよ。断固として抵抗させていただきます」
ここぞとばかりに1号氏の言葉に頷くショコラとネメシスの言葉を受けて、スノウは苦笑いを浮かべた。
「わかった、わかったよ。ごめんね、言っちゃいけない冗談を言った」
「わかればよろしい、水に流しましょう。……スノウ殿が大人しく諦めてくれてほっとしましたぞ。何せ吾輩もまだ迎撃する準備が整っておりませんので」
「……ボク、1号と戦ってみたくもあるんだよね。1号ってさぁ……結構ヤれるんじゃないの?」
瞳に好戦的な色をギラつかせて、スノウは流し目を送った。
明らかに戦いたくてうずうずしている。
だが1号氏は滅相もないと肩を竦める。
「いやいや。吾輩にそんな実力があれば、ストライカーフレームに自分で乗っておりますとも。なにせ吾輩、遠距離戦がとにかく苦手でして。エイムがからっきしなのですよ。やはり吾輩は作戦を練るのが本領ですなぁ、戦うのはみんなにお任せですぞ」
「ふぅん? でもさ、鉄蜘蛛とのバトルのとき、近接戦で結構暴れてなかった?」
「ははは……近距離ならなおさらスノウ殿の得意ではありませんか。吾輩、勝てぬ戦はしない主義なのですよ」
そう言って1号氏は朗らかに笑う。
「まあ、そろそろ待ち人も合流できる頃なので。そうなったらこのクランも戦力が充実していよいよ盤石になりますな」
「待ち人? 新しいプレイヤーが来るの?」
「まあそんなところです。吾輩の大親友でしてな! 生まれながらの騎士といった感じの凛々しい性格をしておりまして。吾輩、とても心強く思っております」
1号氏が自慢そうに言うと、ショコラは手を打ってニコニコと笑った。
「あー、あの子ね! 可愛いんだよぉ!」
「ふーん……」
凛々しくて可愛い? つまりボクみたいなタイプかな。
スノウはそんなことを考えながら相槌を打つ。
よりにもよってすさまじい自画自賛してんなオメー。
「その子って強いんだ?」
「それはもう! 合流しましたら、スノウ殿にも紹介しますぞ」
「うん、とっても楽しみだな!」
今にも舌なめずりしそうな笑みを浮かべながら、スノウはご機嫌で頷いた。
『明らかにその人を襲撃するつもりみたいですけど、大丈夫です?』
「ははは、心配ご無用。何しろ吾輩が全幅の信頼を置く存在ですからな。ああ、そうそう。戦力の充実といえば、それも付け入る隙と言えますな」
ぽんっと手を打ち鳴らす1号氏に、スノウが小首を傾げる。
「どういうこと?」
「プレイヤー同士の結束が強くても、戦力面での決定打にかけるクランは狙い目だということです。みなそこそこの地力はあれども、エースと呼べるプレイヤーに欠けているクラン……それを埋める最後のピースとして、スノウ殿が入ればいいのです」
『あー、なるほど。騎士様がエースとして君臨して、リーダーシップでみんなを率いていくというわけですか。それなら無理なく……』
ちらっとディミはスノウを横目で見て、眉をひそめた。
『無理なくついていきたくなりますかね、この人格に……?』
「なんだよ。世界一可愛くて強いボクを神輿に担ぎたくなって当然だろ!?」
天下無敵のメスガキ様だぞ、チヤホヤしろ! と言わんばかりに胸を張るスノウに、ディミは冷ややかな視線を送るばかりである。
無理じゃね?
1号氏はコホンと咳払いして、話を続ける。
「まあこの際、スノウ殿のリーダーシップは置いておきましょう。とにかくスノウ殿は戦力としてはピカ一なのですからな! スノウ殿の力をどうしても借りたい、そのためならクランの方針もある程度ならスノウ殿にお任せしてくれる……そういったクランを探せばいいのではないですかな?」
「なるほどなぁ……。ある種の契約を結ぶわけか」
「そういうことですな」
『この人の思うようにさせたら、その日がクラン最後の日になるのでは……?』
「ディミはボクを何だと思ってるんだ!?」
抗議の声を上げるスノウに、ディミはジト目を向ける。
『だって貴方、そこらへんのクランにケンカ売りまくるでしょ』
「当たり前だろ! 戦争こそクラン戦の華なんだから!」
だって【シャングリラ】は手あたり次第ブチのめしてたもん!
とびっきりの異端クランしか基準を知らぬ哀れなメスガキであった。
「まさかの政治力ゼロですぞ!?」
『ほーら見てくださいよ! やーいやーい! 武力全振りの脳筋エディット武将♥ 政治力スカスカ♥
「なんかよくわからないけど馬鹿にされてるのはうっすらわかる!?」
貧乏過ぎて正月の餅つきができなかったせいで戦国SLGで政治力万年1桁に設定されてるマイナー武将の話はやめなさい。
「まあ……そこらへんの舵取りもやってくれる優秀なクランリーダーを見つけられれば言うことなしなのですが」
『そんな優秀な人が、わざわざこんなトラブルメーカーを呼び込みますかねえ? だってこれどう見ても呂布タイプですよ。武力が限界突破しててもギリワンですよ? 劉備ほど徳がある君主ですら扱いきれなくて匙投げますって』
「ディミ殿は歴史系SLG好きですなぁ……」
『そ、そうですか? おほほ……』
おっと、虎太郎がログインしてない間はネットサーフィンしたりゲームしたりと自由きままにだらけていることがバレそうになってる~!
ちゃんとGMは査定してるぞ、気をつけろ。
「で、そういう感じにボクを必要としてるクランってどこにあるの?」
「……さあ。それこそ、傭兵としてクランを渡り歩くしかないんじゃないですかな?」
「はぁ……結局放浪の旅は変わらずかぁ……」
そう言ってがっくりと項垂れるスノウ。
「でーきた♪」
そんなスノウの髪をずっと弄っていたショコラが、満面の笑みを浮かべた。
「お団子スノっち! これカワイイじゃん! どう? どう? バッチシキマったでしょ!」
「あ……うん、イイと思う」
鏡を見せられて頷くスノウに、でしょー? とショコラが満面の笑みを浮かべる。
「やっぱあーしって可愛さを引きだす天才っしょ♪ じゃ次はキツネ耳だしてよ、リボンで可愛く飾ってあげるし♪ あ、どうせならディミっちもお揃いにしてあげるね!」
『私もですか!? ええ~、どうしようかな。でもせっかくだしやってもらっちゃおうかな。えへへ~♪ いいですよね、騎士様?』
「もうどうにでもして……」
そんなかしましく遊ぶ3人を見て、1号氏とネメシスは何やら楽しそうにティーカップを口に運ぶのだった。
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<人によっては言うまでもない解説>
『ギリワン』
歴史系SLGをいっぱい出してる某メーカーのゲームにおいてパラメータの【義理】の数値が1のキャラクターのこと。
つまり忠誠が低いとめちゃめちゃ謀反するし、忠誠が高くてもやっぱり寝返る。
その裏切りぶりはもはや宿命であるかのごとし。
具体例:松永久秀と斎藤道三
なんか歴史系SLGやらない人にはわかりづらくてごめんね。
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