七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~
風見ひなた(TS団大首領)
プロローグ
第1話 強盗姫、空を往く
澄み切った蒼い空に、白銀の翼を広げて一騎の
日の光を受けて煌めくメタリックなボディは翼同様に白銀色に塗装されており、優美なフォルムと相まってどこか神聖な雰囲気すら感じられた。
事実、その機体が所属している
地上で壮絶なまでに泥臭い火力戦を展開していた同陣営のシュバリエたちは、戦闘空域に駆け付けるや否や、彼らの頭上を制圧していた空戦仕様の敵機を蹴散らし始めたその雄姿に喝采の声を上げた。
「おい、見ろ! シャインだ!! あのクソッタレが来てくれたぞ!!」
「よっしゃあああああ! いいぞ強盗姫! 今だけは歓迎してやる!! やったれやったれ!!」
「てめえクソ傭兵! 俺の武器返せやゴラァァァァ!!!! 畜生、味方じゃなければ撃ち落としてやるのに……!!」
「いやー……お前の腕じゃ当たらんだろ」
……いや、喝采5割、罵倒5割といったところかもしれない。
その場にいたほとんどのプレイヤーは、その機体が敵に回ったときに痛い目に遭わされた経験を持つ者ばかりだ。しかし、だからこそ、件の機体とそれを駆るプレイヤーがどれほどの辣腕なのかをよく知っていた。
味方についたとき、どれほど頼もしい存在なのかも。
「おい、
指揮官機が通信を入れると、シュバリエたちはまるで王命を拝聴した騎士が背筋を伸ばすかのように姿勢を正した。
「行くぞ、我に続け! 今なら陣地は切り取り放題だ! 《
「「「Yes,sir!!」」」
指揮官機の鼓舞を受け、威勢を上げて突撃するシュバリエたち。
一方、敵のシュバリエは突然現れた銀色の機体に少なからずパニックを起こしているようだった。
「ああ、くそっ、シャインだ……!! 畜生、今日こそ撃ち落としてやる!!」
「バカか、地上から撃って当たるわけないだろ! それよりも前見ろ、前! 《トリニティ》の連中が突撃してくるぞ!! 迎撃しろ!!」
「制空権を取られたら他の空中機に爆撃される……! 一刻も早く敵を殲滅して、あのクソッタレの空飛ぶ野良犬を追い返せ!!」
※※※※※※
一方、先ほどから地上のシュバリエから散々な言われようをしている当の銀色の機体のパイロットは、ケラケラと笑いながらドッグファイトを展開していた。
「あははははははは!! 四方八方360°どこを見ても敵だらけだなぁ!!!」
『大変楽しそうですね、騎士様。ですがこれは多勢に無勢というものでは? たった一騎で突貫など愚の骨頂、孤立無援、一般的に絶望的な状況だと表現すべきです』
「つまりどれだけ狩っても手柄首は独り占めってことじゃん、大変結構!!」
白銀の機体のパイロット――シャインは、愛らしい顔立ちに笑みを浮かべ、操縦桿を握るたおやかな指に力を込め直した。
一言でいえば、幻想的な美しさを持つアバターだった。
年の頃は13、14歳ほど。サラサラとしたロングヘアは光の加減で青にも淡い紫にも見え、幼さを多分に残した顔立ちは可憐。白いドレスにでも身を包めば、妖精の国から迷い出てきたプリンセスとして別ゲーで通用しそうだ。
しかしその表情は好戦的な笑みに彩られ、アドレナリンが過剰分泌されまくっていた。元があどけない顔立ちだけに、凶相っぷりが半端ない。
「シャイイイイイイイイイイン!!! 今日こそくたばれよやあああああ!!」
雄たけびを上げながら翼を広げ、敵の空戦仕様機の一団が迫る。小隊4騎が分散して1騎に集中攻撃を仕掛ける、彼ら得意のフォーメーションだ。
強盗姫の名をほしいままにする害悪プレイヤーを今日こそ打ち滅ぼさんと、これまで数々のシュバリエを仕留めてきた必殺の陣形を展開する。
先頭に立つ機体がトマホークを振り上げ、白銀の機体の腕部に狙いを定めた。
電磁パルスの青い軌跡を描きながら迫る刃を、シャインは紙一重でするりとかわして背後に付き、至近射程ギリギリからビームライフルをぶっ放す。
動力炉を直撃する一撃を受け、機体には赤く灼熱する穴が開く。致命傷!
誘爆する前に素早く翼のブースターを起動して距離を取ったシャインは、背後から迫る爆発の光を受けながら意気揚々と可憐な声を上げる。
「まずひとつ!」
『結構なお手前で』
わざわざ動力炉を狙い撃って機体を爆発させたのは、速攻でキルを取るためだけではない。
「ぐわっ……眩しいっ!?」
「くそっ、誘爆光が……!」
爆発によって起こった閃光のエフェクトに巻き込まれ、至近距離まで近付いていた別の敵機2騎の目が眩む。
このゲームはVRだ。セミフルダイブ型と呼ばれる感覚没入型であるが故に、発生するエフェクトは感覚を伴ったリアルな衝撃をプレイヤーに与える。
このチャンスをみすみす見逃すなどありえない。
「2つ、でもって3つ!!」
最初に襲った機体が手にしていたトマホークが、2騎の敵機の首を刎ね飛ばす。
当然その刃を振るったのはシャインの駆る白銀の機体だ。いつの間にか敵の武器を奪って、自分の武器として使っている!
「くそっ! メインカメラをやられたくらいで……」
「それって割と深刻な事態だよね」
そう言いながら、白銀の機体が空中でブーストを乗せたキックを繰り出し、頭部を潰されて狼狽する1騎をまだ健在のリーダー機に向かって蹴り飛ばした。
「うわああああああっ!?」
「くそっ……聞きしに勝る卑劣な奴め!!」
そう言いながら、リーダー機はビームサーベルを振るい、迫るチームメイトの機体を容赦なく斬り飛ばす。
頭部を失って完全に足手まといとなったうえに、リーダー機に文字通り切り捨てられた機体は、哀れにも爆炎を上げながら地上へと落下していく。南無三。
「おっと、なかなか非道なのが敵にもいるじゃん」
「外道を狩ろうとするなら正道ではいられんよ……そう思わんか?」
「ボク、自分を外道だとか思ったことないんだけどなー……だよね、ディミ?」
『そうですね。騎士様は外道ではなく畜生の部類です。人間の高尚な倫理観とは無縁の存在だと言えましょう。人の道を外れたのではなく、ナチュラルボーンくそったれアニマルなのです』
「ははーん。ディミもなかなか言うようになったねー。ボクはゲームを可能な限り楽しんでるだけなんだけど」
サポートAI<ディミ>の辛辣な罵倒を軽く流しながらも、シャインは白銀の機体の翼のバーニアを噴き、弧を描くように敵リーダー機の背後へと回ろうとする。
しかしそれは敵機も同様で、お互いがお互いの背面を狙って移動するうちに大きな輪を描き出す。まるで
優雅な名前とは裏腹に、やっていることは相手を弱点からブチ抜くための必死の裏の掻き合いである。
「なかなか裏を取らせちゃくれないか……相手もやるなあ」
『騎士様、楽しく踊るのは結構ですがシンデレラには門限がございます。敵の新手に囲まれる前に、カボチャの馬車に乗り込んだ方がよろしいかと』
「ネズミの御者は口うるさいな……っと」
円舞軌道に乗ったまま白銀の機体はビームライフルを構え、敵機に向かって撃ち放った。
威嚇射撃にしてもお粗末だな、と敵リーダーは鼻で嗤う。円舞軌道に乗った状態でロックオンしてビームライフルを撃っても、高速で動く相手には決して当たることはない。それはゲームシステム上、敵を簡単に倒させすぎないための制約だ。
相手に当てるためには、何らかの方法で相手を足止めするか、何発もばら撒いて相手のミスで接触させるしかない。それは揺るぎようのない、プレイヤーの常識である。
そのはずだった。
「なにっ!?」
オゾンを焼きながら迫る赤い光線が、敵リーダー機の右腕を吹き飛ばした。
灼熱して溶け落ちる腕を見ながら、敵リーダーは狼狽した声を上げる。
「どうなってる!? ロックオンしながらあの速度で撃って、当たるわけが……!!」
「ロックオンは使ってないんだよね」
あっさりとそう返して、シャインは続く二射目をロックオンせず目視で命中させ、敵リーダー機の胸部をブチ抜いた。
HPがゼロになった敵機は、驚愕に固まったまま炎上し、動力部の臨界を迎える。
「目視・無誘導……!? ば、化け物……」
「はい、4つめ♪」
敵機の巻き起こす爆発光を浴びながら、シャインは早くも次の犠牲者(ターゲット)を求めてその場を飛び立っていた。
モニターに映るポイント加算値を見て、機嫌よさそうな声を上げる。
「ん? 今のエース機だったのか。なかなかのポイントが入ったよ。それにしても失礼な話だよね、人を化け物呼ばわりとは」
『戦闘機に迫る速度で飛翔する物体を目視かつ無誘導で撃ち落とせれば、一概に言って人間業ではありませんね。もっと人外のご自覚をもたれることをお勧めします』
「所詮ゲームでしょ? 練習すれば誰にでもできるって」
『騎士様は人類を買いかぶっておられる』
「キミたちが人類をナメてるんだよ」
『どうでしょうね』
さーて、もう一稼ぎするか!
どいつから殺そうかな……っと。
シャインは可憐な顔に獰猛な笑みを浮かべ、さらなるスコアを稼ぐべく飛翔した。
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