第68話 合体ロボとキツネ耳が好きじゃない男の子なんていませんぞッ

「よぉーしッ! 合体だッ!」


『ううっ、嫌だなあ……』



 スノウがウキウキと命じるままに、ディミはインターフェースを操作。“天狐盛てんこもり”の巨体の中にシャインを埋めるようにしてドッキングを果たす。



『ストライカーフレーム“天狐盛り”同期セッション開始。兵装制御・動力・外部ブースター、コンディションオールグリーン!』



 “天狐盛り”の全身に張り巡らされた動力ラインがシャインを中心に緑色に輝き、シャインをコアの制御機関として認識する。



「おおお……いいねえこういうの! 合体ロボ感あるッ!!」


「ウホッ、シャイン氏もいけるクチですかな?」


「もちろん! そりゃロボゲーやってて合体メカ好きじゃないヤツいないでしょ」



 その様子をカメラで見ていたスノウと1号氏はテンション上がりっぱなしであった。1号氏は最前線で指揮を執って戦いながらモニターしているはずなのだが、人間にしては驚きのマルチタスク能力だとディミは内心を舌を巻く。

 それほどまでにこちらの様子が気になっているようだ。いや、自分が設計したびっくりどっきりメカの発進シーンを見たくないエンジニアなんていようか。


 男の子ってみんなこんな感じなんでしょうかと少々呆れながら、ディミはオペレートを続ける。



『モジュール“オキツネセンサー”を起動。パイロットのアバターに追加アドオンを反映します』



 ストライカーフレームの頭部に伏せられていた耳に緑の動力ラインが走り、ピコンと起き上がる。それと同時にスノウの頭にぴょこんと狐耳が出現した。



「おおっ……!? これ、動くぞ……!」



 見ようによって紫色にも青にも見える彼女の髪の毛よりも、ちょっと黒みがかった外毛が生えた耳だ。耳の中には真っ白な毛が生えそろい、フサフサしていた。

 それを物珍しそうにピコピコと動かしたり、摘まみ上げたりしてみるスノウ。


 無邪気な顔でぴくぴくと耳が動く様は、控えめに言って……。



『ひ、控えめに言って恐ろしくあざとい……!』


「そこは恐ろしいほど可愛い、だろ!?」



 ディミの戦慄に、ちょっとムッとするスノウである。



「いやいや、確かに可愛いですな! いやあ、これホント女性が乗らないとヤバいことになりますし! シャイン氏がいてくださってよかったですぞ!!」



 ニコニコ笑顔で褒めながら1号氏はそんなことを口走った。

 それを聞き咎めたディミは、えっと1号氏のホログラムに向き直る。



『これ男性が乗っても出るんですか!? 犯罪ですよ!?』


「いや、犯罪じゃないですが……。元々はショコラが乗る予定だったので趣味に走ったんですが、なんか土壇場でそういうあざといの趣味じゃないからやめろと言われましてな。揉めに揉めましたとも。まあ結局ショコラには乗れなかったのですが」


『あの子クール系ギャルキャラに憧れてる節ありますよね……』


「本人は母性キャラなんですがねぇ。なんで自分の持ち味に気付いてくれないのやら」


「聞こえてるんだけどお!? てーかアホなこと言ってないで早く来てくれないと困るしッ!?」



 子蜘蛛と絶賛戦闘を繰り広げながら、ショコラが割って入ってくる。1号氏が指揮を執りながらこちらと通信を続けているので、筒抜けであった。

 ギリギリと歯を食いしばりながら操縦桿を必死で動かし、ツインテールから汗を飛び散らせている様子から相当苦戦している感が伝わってくる。


 ちらっとホログラムの向こうに目をやり、スノウを見て何それかわいー! と目を輝かせながらも、さすがに構うどころではないようだ。

 そしてその言葉を聞いたチンパンたちがわらわらと回線ウィンドウを開き、おおおおおおお! と盛り上がる。



「やっべ狐耳超似合ってんじゃん!」


「可憐だ……!」


「フン……。似合うじゃないか(ポッ)」


「あーいいっすねえ。狐耳美少女はロマンっすわ」


「ぎゃー! 見とれてて撃墜されかけた! 子蜘蛛こえー!!」



 戦闘中だというのにワイワイ品評会を始めるアホどもである。



「こらー! アンタら戦いなさいよ! ウチだって超愛でてーの我慢してんのに!!」


「お前らナメてると蜘蛛より先に私が脳天ドタマブチ抜くぞ!」


「「アイ、マム!!」」



 ショコラとネメシスに一喝され、チンパンたちが戦闘に戻る。



『案外余裕あるんじゃないですか、これ?』


「いやいや、割と真剣にヤバかったりするんですなあ。ウチの連中はどうにも目先の興味に飛びついてしまいがちなので。早く来ていただけると助かりますぞ! マジで!!」


「よーし、とっとと発進しちゃおう! ディミ、操縦ってなんか変わるの?」



 ワクワクとしながら狐耳を無意識にぴくぴく動かすスノウである。感情に同期して動くあたり、本気で力が入っていた。



『シュバリエと特に変化はありませんよ。ストライクフレームとドッキングしている間は、そのまま操縦系統が拡張されますから。シュバリエとまったく同じ感じで動かしてください。あ、でもひとつ違うところと言えば……』


「えっ……これは……!?」



 視界に浮かび上がる情報に、スノウが戸惑った表情を浮かべる。

 コクピット内のHUDヘッドアップディスプレイとは別に、視界内に浮かび上がるようにして周辺のマップと光点が表示されたのだ。光点は青と赤の2種類があり、赤い点は現在すごい勢いで押し寄せており、青い点はそれを阻んでいた。



「ンンンwww それが“天狐盛り”の超高性能センサーモジュール連動型F・C・S、“オキツネセンサー”の効果ですぞ! 聴覚・嗅覚・第六感を用いて敵と味方の位置を的確に把握し、網膜内のマップに表示することができるのですッ!! しかも把握した敵はもれなくロックオン可能ッ!!」



 1号氏が得意満面で胸を張って説明する。



『第六感……? 第六感ってなんだ……?』


「ほら、あの何となく敵が来そうな感じがわかるアレですぞ!!」


「ああ、殺気のことかぁ!! わかるわかる!」


「さすがですな! 我々はエーテルセンスとも呼んでおりますが」


『通じてる!?』



 ディミはこんな非論理的な感覚が通じるのがスノウだけではないと知って驚愕した。

 スノウにとってはお馴染みの感覚であるそれは熟練プレイヤーにとっては共通の感覚であるらしい。しかもそれはシステムに組み込めるものだという。つまりはっきりと存在する代物なのだ。



『何それ、私そんなの知らない……。あ、いや……もしかして“色欲ラスト”系兵装に使うアレが……?』


「ディミー? なんかブツブツ言ってるところ悪いけど、そろそろ発進したいな! そろそろお客さんも到着しそうだ!」



 スノウの網膜表示の中では、既に【氷獄狼】の群れが拠点への到達を済ませようとしていた。いや、既にちらほらと拠点に侵入してきている機体もいる。

 そもそもアッシュもスカルも既に拠点に到達しているのだから、猶予はほとんどない。残りの大勢が到達するまでになんとかしなくてはならなかった。



『あ、はい! わかりました! “天狐盛り”発進スタンバイ!! “バスターランドセル”展開ッ!!』



 ディミがそう叫びながら、バンカーのハッチを遠隔操作する。

 ゴゴゴと轟音を挙げて“天狐盛り”の正面と天井が開き、抜けるような青空が顔を出した。


 そしてその下に広がるのは果てしなく続く、黒い岩肌の峡谷である。曲がりくねった峡谷はところどころ白い蜘蛛糸に覆われており、先の見通しが利かない。

 ただでさえ曲り道であるうえに蜘蛛糸の妨害まであるのに、ここをマッハで飛べとは。AIであるディミですらこれは不可能だと感じる。どう考えても正気の沙汰ではなかった。


 だというのにスノウは目をキツネっぽく細めて、にこにこと笑うのだ。



「なーんだ、網膜表示のマップに地形が出てるじゃん。先の道がわかってるなんて親切だなあ。これなら楽勝だよ」


『楽勝じゃないでしょう……!? どんだけ反射神経と繊細な技術が必要だと思ってるんです!? しかも妨害の蜘蛛糸がガンガン張られてますよ!?』


「全部焼き払えばいいさッ!」



 無理無茶不可能のオンパレードを笑って蹴飛ばし、一切の道理をねじ伏せてスノウが操縦桿を前に倒す。



「行ッけええええええええええッ!!!」


『ああ、もう! ストライカーフレーム“天狐盛り”、発進しますッ!!』



 その瞬間、ストライカーフレームの背中に取り付けられたランドセル型ブースター下部の円筒が火を噴いた。

 まるで爆発するかのような、スペースシャトルの打ち上げを思わせるかのごとき急上昇。凄まじい勢いで“天狐盛り”は上空へと発射される。



「うわわわわわわわわわわっ!?」


『騎士様、制御! 姿勢を制御して方向を水平方向に調整してください! ほっとくと成層圏に行きますよ!!』



 スノウの頭に抱き着きながら、ディミが必死に叫ぶ。

 狐耳の近くで叫ばれて頭をキーンとさせながら、スノウは慌てて姿勢制御して方向を調整した。


 恐ろしいことにこのロケットブースター、まともに方向を制御するシステムが搭載されていない。本当に“化け物じみた推進力で前に進むことしかできない”から、姿勢制御だけで飛ぶ方向を調整しなくてはならなかった。ブレーキや方向転換といった甘っちょろいものが一切存在しない。

 方向をやや下向きに調整しながらも、そのままだと地面に激突してゲームオーバーである。墜落を避けて峡谷の中に侵入するように姿勢を整えなくてはならなかった。



「なんつーじゃじゃ馬だよ……! これはぶっつけ本番はムリだ。前作で姿勢制御だけで飛んだ経験がなかったらボクでもアウトだったぞ……!」


『むしろ何でファンタジーRPGでそんな経験があるんですかねぇ……?』



 ちなみにウインドミサイルの魔法で全身包んだうえで、音速の壁に当たって死なないように防護魔法を重ね掛けして生身で飛んだ。その有様はまさに人間大砲であり、当時のプレイヤーのド肝を抜いた。ついてに運営の想定も軽くぶち破っていた。


 そんな経験を持つスノウですらも、この音速での曲芸飛行は難行である。というかこれができれば空軍パイロットの引く手あまたではなかろうか。

 さすがに冷や汗を浮かべながら必死で姿勢制御を行うスノウに、1号氏が悲鳴を上げる。



「シャイン氏! 峡谷に突入する前に後方の敵機をなんとかしてください!!」


『む、無茶振りが過ぎませんか!? 姿勢制御だけで手いっぱいですよこれ!』


「うーん、さすがにきっついなあそれは……」



 スノウは機首を持ち上げ、峡谷に入る前に空中で大きな輪を描く。そうしてなんとかミサイルを撃とうとしたが、あまりにも機体の維持が難しい。少しでも気を抜くと失速ストールしそうだ。やがてこりゃ無理だなと不可能を認めた。

 なので頭に抱き着いているディミにサクッと呼びかける。



「というわけで、ミサイル発射はディミがやってくれる?」


『は!?』



 スノウのフカフカの狐耳に頬をくっつけていたディミは、ぎょっとして視線を向ける。



『わ、私サポートAIなんですが!? 戦いに実際に手を貸すのは専門外ですよ!?』


「いいじゃん、それくらいできるでしょ? なんせマルチロックはボクがダイレクトに感覚として掴んでるわけだし。あとはミサイルのスイッチを押すだけだよ」



 網膜に映る無数の赤い点を見つめながら、スノウはこのセンサーの仕組みを感覚的に理解していた。このセンサーは得体の知れない理論によって、敵の位置を直感としてスノウに教える。

 彼女が敵の位置に意識を向けることが、このF・C・S火器管制システムにおけるロックオンなのだ。



『やっぱり! これ、“色欲”系のシステムを使ってる……!』



 ディミは理解する。このF・C・Sの正体は、“色欲”系統ツリーで解放される遠隔兵器操縦システムだ。感覚エーテルセンスによって敵の位置を把握する機能だけを抜き出している。

 本来ならば感覚によって捉えた敵機をF・C・Sがオートロックして、自動操縦の子機ドローンを飛ばすことで攻撃するのだが、現段階ではオートロックもドローンもまだ解放していないのだろう。


 確かにそれならスノウでも扱え切れなくても無理はない。本来まだ実用に耐えない未熟な技術を投入している。1号氏はコンピュータのアシストが前提となる技術を、そうとは知らずにぶち込んでしまったのだ。


 そしてアシストができるAIは、今ここにいる。


 ディミはサポートAIとしての役割がどこまで適用されるのか悩む。いや、悩んだ振りをする。答えなど最初から決まっていた。

 彼女はスノウの“相棒デミ”なのだ。助けを求められて応えない相棒がどこにいる? 

 たとえ職務を逸脱しているとゲームマスターが処罰を下したとしても、ディミは助けを求めるスノウに応えたい。



『やれやれ、仕方ありませんね……。そこまで言うならスイッチ押すだけはやってあげますか!』


「たかがスイッチ押す程度でもったいぶらないでよ!?」


『うるさいですね! AIにもアイデンティティについての葛藤っていうものがあるんですよ! 騎士様も一度AIに生まれ変わってみたらどうです!?』


「絶対に嫌だねッ! ボクは人間でたくさんだッ!」


『あー!! AI差別反対ッ!!』



 怒鳴り合いながらも、ディミはマルチミサイルのスイッチを押した。

 途端にランドセルの上部が開き、無数の小型ミサイル弾頭が待ちわびたように発射される。それを誘導するのは、赤い光点を認識するスノウの意識だ。


 遠隔操縦で攻撃する、それが“色欲”系統の兵器だ。本来の人間がミサイルのスイッチを押してAIが誘導するのとは真逆の在り方だが、その本領は確かにここに発揮されていた。



「な、なんだこのミサイル!? こっちを正確に追尾してくるッ!?」


「嘘だろおい! 重力制御飛行にまでくっついてくるとかどうなってるッ!?」



 【氷獄狼】の無数のパイロットが、悲鳴を上げてミサイルに巻き込まれていく。

 重力制御飛行特有の慣性を殺した急制動を持ってしても、避けきれないほどの追尾性能。130もの赤い光点が、みるみる数を減らしていく。



「【騎士猿】め! こんな未知の技術ツリーを解放していたのかッ! そのうえにウィドウメイカーの技術まで欲しがるとは、なんて強欲な……!」



 誰かがそんな悲鳴を上げた。

 しかしそうではない。【氷獄狼】とてこのF・C・S自体は“色欲”の眷属を倒して開発しているのだ。導入するにはあまりにもコストが高く、そしてその正しい使い方を理解できていなかっただけで。


 本来はAIによるサポートなしでは機能するはずがなかった遠隔攻撃システムが、たまたま“腕利き”プレイヤーと誘拐されたサポートAIが揃ったことで奇跡的に成立してしまっていた。



「やったあああああ! さすがはシャイン氏、お見事ですッ!! シャイン氏ならばきっとこの“オキツネセンサー”とマルチミサイルを使いこなしてくれると信じておりましたぞッ!!」



 そしてその奇跡を起こしたエンジニアこと1号氏は、みるみる【氷獄狼】の機体が沈んでいく光景に飛び跳ねて喜んでいた。きっとどれほど奇跡的な噛み合い方をしていたのか、彼は理解できていないのだろう。


 ただそれを本来やる予定だったショコラだけが、呆然と目を丸くしていた。



「嘘でしょ……? リハでウチがどんだけやっても使いこなせなかったのに。どうなってんの、あの子……」



 その呟きを聞くとはなしに聞き、スノウは機首を峡谷へと向けながらニヤリと笑った。



「なーに、ボクには“相棒”がついてるからね。これくらいやってみせるとも」



 その頭の上で、狐耳が自慢げにぴくぴくと震えた。

 ディミはスノウに顔が見えないのをいいことに、にへーと笑いながらその耳に頬を擦り付ける。



 およそ100騎は今のミサイルで始末できたはずだ。残り30騎は拠点に到達されたとしても、【騎士猿】の機体はその倍はいる。足止めは十分してくれるはずだ。



「さあ、邪魔者は消えた! 峡谷へ突入するぞッ!!」



 スノウはぐるりと機体を巡らせると、峡谷へ飛び込む。

 すさまじい速度で流れゆく、黒い岩肌と白い蜘蛛糸!


 少しでも気を抜くと壁面にぶつかるその状況で、“天狐盛り”はわずかな姿勢制御だけで峡谷を飛翔する。

 かいくぐりきれない白い蜘蛛糸は豪快にぶち破り、前へ前へ!


 闖入者を察知して目の前の繭から子蜘蛛たちが孵化するが、音速で飛行する“天狐盛り”の前にはまったくの無力だ。いくら彼らが高速回転して電磁ソーとなっても、音速で飛ぶ“天狐盛り”に追いつくことなどできはしない。


 とはいえ彼らとて無能ではない。彼らは蜘蛛糸を介して一個の思考回路を共有する群体なのだ。

 蜘蛛糸によって音速より早く脅威を共有した彼らは、相当前方の個体を孵化させて“天狐盛り”の飛行予測ルートの前に空中機雷として設置することを選択する。


 しかし“天狐盛り”には、天才チンパンエンジニアである1号氏が採用した“オキツネセンサー”なる秘密兵器が備わっている。

 搭乗者の勘が鋭ければ鋭いほど性能を増すこのセンサーは、スノウという“腕利き”を得て今やビンビンにフル稼働していた!



「おキツネの耳には、全部まるっとお見通しだぁ!! ディミ、やっちゃえ!」


『そーれ、どっかーん!!』



 子蜘蛛の1匹まで残さず察知したセンサーでスノウがロックオンして、ディミがマイクロミサイルをブッパする。

 これにはたまらず子蜘蛛たちも爆砕され、“天狐盛り”の道を阻む者など存在しない。怒涛の快進撃!



『あはは、なんか楽しくなってきましたよ!!』



 完全にハイになったディミが楽しそうに笑う。


 気分はジェットコースターに乗りながら銃を的にぶっ放すライドマシン。

 その速度が音速で、少し気を抜けば壁にぶつかって死ぬこと以外は最高に楽しいアトラクションであった。


 

 そのライドマシンの運転手であるスノウの眉が、わずかにたわめられた。



「……なんかおかしいな」


『へっ? どうしたんです、騎士様』


「なんか妙な慣性が付いてる気がする。尻尾のあたりが特にそんな感じなんだけど」



 “天狐盛り”にはふさふさとした大きな尻尾型ワイヤーが付いている。

 任意に動かして敵をはたき落とすこともできるが、まあ実用性皆無の1号氏の遊び心であった。むしろ遊び心じゃない部分があるのかというトンチキっぷりだが。



『取り逃した子蜘蛛でもくっついてるんでしょうか?』


「いや、それにしては重いな。最初からずっとそうなんだけど……」


『そんなわけないんですけどね。ちょっとモニターを見てみ……』



 そう言ってインターフェースを開いたディミの動きが固まる。

 確かにくっついていた。


 大きな顎を限界まで開き、尻尾に文字通り必死で食らいついている黒い機体。

 見られていることを悟ったのか、彼は通信ウィンドウを開いて叫んだ。



「絶対に逃がすかああああああああああっ!! シャイイイイイイイイインッッ!!」



 音速で振り回されながらも、魔狼アッシュは決して定めた獲物を諦めることはない。

 その恐るべき執念に、スノウとディミは目を丸くしてドン引いた。



「『し……しぶとすぎるっっ!?』」



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