第59話 わがはいのかんがえたさいきょうのマシーン

「5億……!?」



 スノウは椅子からずり落ちそうになった。

 あのクソ熊に、リアルマネーで500万円の価値があっただと……!


 メイド隊の隠蔽工作によって、クソ熊にトドメを刺した人物が目の前のスノウだと知らない1号氏はさもありなんといった感じで頷いた。



「もちろん、素材を含めないでの話ですよ。技術ツリーを解放してもらうだけで5億JCです。まあ、素材は“怠惰スロウス”の眷属のレイドボスを倒すことでも入手はできますが。それだけ技術ツリーの解放には価値があるのです」


「なるほどなあ。確かにそんだけの金額が動くなら、力も入るよね」


「ええ。ですからぜひウィドウメイカーは撃破したい。しかしあれは強敵です。しかも規定人数内クリアという縛りもある。我々は何度も失敗してきました」



 1号氏の言葉に、横に座るショコラとネメシスも頷く。



「人数に頼っても勝てなかったのに、20人制限ってマジ無理っしょ……」


「そもそも地形の問題で数に頼った力押しが難しいですからね。地形を利用して戦う、狡猾な知能を持った怪物です」


「であるから、我々は必勝を期して秘密兵器を用意したのですよ」



 2人の言葉を受けて、1号氏はインターフェイスを操作した。

 そこに映し出されたのは白と金色に彩られた優美なシルエットを持つストライカーフレーム。



 ディミは絶句した。女性的で優美なシルエットに、ではない。

 その美しさを台無しにするかのようにゴテゴテと取り付けられた、ヘビーウェポンの数々にである。



 両腕にはずっしりと巨大な重ガトリングガン。

 脚部に格納するどころか、収まりきらずにはみ出ているのは鋼鉄をも融解させる熱量を生み出すHEAT成形炸薬弾頭を搭載したミサイルポッド。


 腰部にはまるでスカートのように大容量バッテリーを下げており、赤い塗装と相まってなんだか巫女袴のように見える。

 さらにその袴の下からは、金色のワイヤーが伸びていた。ワイヤーといってもかなり太く、シュバリエの指2本ぶんほどはある。かなり柔軟性に優れており、ふさふさとした繊毛で覆われていた。


 大きく目を惹くのは、背中に背負っている折り畳み式の長大なビームキャノン。巨大な筒を2本折りにしたような形状である。


 そして頭部から突き出た2本の特徴的なアンテナ。見ようによっては……いや、明らかに狐の耳を模している。


 全体的に見ると、狐耳と金色の尻尾を持った巫女さんがゴテゴテとしたヘビーウェポンに埋もれているような、奇抜すぎるフォルム。



『……なんだか、すっごくいっぱい武器が載ってますねぇ。それに立派なロケットブースターをお持ちで……』



 ディミはそう表現するので精いっぱいだった。


 ストライカーフレームの本質は、本来はシュバリエが扱えない大火力のヘビーウェポンを増加装甲に搭載するという形で無理やり装備させるものである。

 だから必然的にストライカーフレームはヘビーウェポンをゴテゴテと搭載しているのだが、これはちょっといきすぎだった。


 しかしそれを1号氏は誉め言葉と受け取ったようで、キラーンと眼鏡を光らせた。



「お目が高いッ! そう、そうなのです! あの硬すぎる蜘蛛めを撃破するにはこの火力が必須ッ! 奴が生み出す無数の子蜘蛛対策の重ガトリングガン! 硬すぎて実弾兵器をことごとく弾く鋼鉄の皮膚を融かす、HEAT弾頭のミサイルポッド!」


『お、おう……』



 気圧されるディミをよそに、1号氏はエキサイトしてまくしたてる。



「そしてそしてッ! 現状の人類最高峰の火力ッ! “憤怒ラース”系統ツリーのビームキャノンッッッ!! 折り畳み式で格納しておりますがその砲身は展開時10メートル超にして、その火力は絶大ッ!! 1発でストライカーフレームの全エネルギーを叩き込む、まさに最終にして最強のビーム砲ですぞッッッ!!!」



 つまり稼働も含めて全エネルギーを使い果たすので、1発撃つとストライカーフレームごとただのでかい的になるということであった。アホかな?



 ディミは既知の外の発想に震えながら、スクリーンの中の尻尾部分を指さした。



『あの……尻尾生えてません?』


「あれは尻尾型ワイヤーですな! 柔軟性に富んでおり、敵にまとわりつかれても尻尾でぶん殴ったり、投げ飛ばしたりできますぞ! シャイン氏が投げ技の達人と聞きましてな、残った最後の予算で急遽くっつけたのですwww ンンww パイロットの適性に応じてすぐにビルドを組み替えてこそ一流の設計士ですからなwww」



 マジで尻尾なのかよ。

 ディミはめまいを感じながら、ふるふると震える指先で頭部を指す。



『じゃあ……あのケモノ耳は?』


「ンンンwwww あれこそこのストライカーフレームの目玉、高度なF.C.S.火器管制システムとセンサーモジュールを兼ねたキツネ耳パーツですぞ!!! これさえあればどれだけの無数の敵をも漏れなくロックオン可能wwww これこそ萌えのテンプレートと実用性を兼ね備えた究極のパーツかとwww」


『その萌え要素必要!?』


「必要ですぞ!? 何をおっしゃるのか!! さらにさらに、このキツネ耳パーツには隠された効果があってですなwww なんとッ!」



 そこで1号氏はニチャアと粘るような笑みを浮かべて叫んだ。



「パイロットのアバターに! キツネ耳が! 生えますッッッ!!!」


『……は?』



 呆気にとられるディミ。

 ショコラとネメシスが気まずそうに視線を逸らす。


 そんな女性陣をよそに、1号氏はその名を明かした。



「これが……この超絶高火力・狐巫女型ストライカーフレームこそ、私の最高傑作!! その名も、“天狐盛てんこもり”なのですぞォォォ!!!wwwww」


『……このチンパン、センスやっべえ……』


「いや、面白いじゃん。いいね、すごく楽しいよ……ククッ……アハハッ!」



 先ほどからスノウが静かだと思ったら、腹を抱えて笑い転げていた。あまりにも笑いすぎて呼吸ができなくなっていたらしい。

 目尻に浮かぶ涙を指先で拭い、なんとか起き上がる。



「いいじゃない、やりたいことやった感があって! ボクそういう、後先考えずにノリだけで突っ走っちゃうの大好きだな!」


「さすがシャイン氏……! わかっていただけると思っておりましたぞ!!」



 1号氏はうんうんと頷いた。



「なにせ1億JC掛けたロマンの結晶ですからな! これに全予算突っ込んだのです! これがうまくいかねば、我々破産ですなwwww わははははは!!!」


「笑いごとじゃねーし! アホでしょ!? 誰よイッチに財布握らせたの!」



 ショコラは立ち上がり、金色のツインテールを揺らしながらスノウに指を突き付ける。

 そのスノウは予算全部突っ込んだ発言がまたしてもツボに入って笑い転げていたが。



「笑ってないで聞けし! 仕方なくアンタにこの機体を預けんだかんね! ホントならこれはウチが乗るはずだったのに!!」


「はぁ、はぁ……。なんでそれでボクにお鉢が回って来たの?」


「……あまりにもてんこ盛りに盛りすぎて、機体が重すぎて動かなくなってしまったのです……」


「ぶわははははははははははは!!」



 肩を落とすネメシスの発言に、スノウがまたしても爆笑する。

 アホの極致であった。


 そのマスターオブアホである1号氏は、扇子を取り出してはっはっはと笑いながら顔を仰いでいる。



「これも情報屋から聞きましたが、シャイン氏は重力制御が可能な銀翼パーツを持っていらっしゃるのでしょう? いや、出所を問うつもりはありませんよ。ですがそれならばこのストライカーフレームの荷重を減らして動かせると思いましてな」


『ああ“クラン内に動かせるパイロットがいない”ってそういう……』



 先日の匿名掲示板の書き込みを見て、ディミは得心する。

 確かにスノウでなければ、こんなアホに振り切った規格外の機体は釣り合わない。そもそも過剰すぎるロケットブースターや1発撃てば機体ごと機能停止するようなビームキャノンなど、ピーキーにもほどがある。並みのパイロットは絶対操れない。

 アホ機体にはアホパイロットを乗せるのだ!



『武装を削って重さを抑えるって選択はなかったんですか……?』


「ありませんな。これこそが最高のバランスなのですぞ!」


『マジかよ』



 理性が振り切れた人の考えることはわからん、とディミは遠い目をした。

 チンパンジー1号氏は呆れ返るディミをよそに、インターフェイスに表示されたストライカーフレームを見てンンンwwwと嬉しそうに笑う。



「それにしても我ながらいい出来ですなあ。本当なら“天狐”の名通り尻尾も9本まで増やしたかったのですが、今の技術ツリーでは1本が限界でしてな」


『まだ増やすんだ……』


「もちろんです、このままでは片手落ちですからな。とはいえ“強欲グリード”系統のツリーは柔軟性や伸張性に関する技術が解放されると聞きます。あの蜘蛛めを倒せば、必ずや尻尾の本数も増やせるでしょう!!」



 ディミはえぇ……? と声を上げる。



『まさか、尻尾を増やしたいから蜘蛛を狙うんですか……?』


「まあそれもありますな! 寡占技術獲得が第一ですが……やはり技術者は趣味を優先してこそ! 趣味が高じて研究が進むのは、どんな分野でも同じなのです!」


『……みなさんはそれでいいんです……?』



 ディミはネメシスとショコラに目を向ける。



「マスターはいつもこんな感じですから。ウチのクランのモットーは“やりたいことを思いっきりやろう”なので、今更ですね」



 ネメシスは穏やかな口調でそう微笑むが、ショコラは呆れたように頭の後ろで手を組んで椅子に反り返った。



「なーに自分は理解者ですから、みたいな顔してるん……? あの巨大レーザー砲付けろってうるさかったのネメっちじゃん。あれのせいで予算ほとんど使い切ったのに。しかも1発撃ったらもう使えないとか、使いづらいにもほどがあるし」


「大艦巨砲主義はロマンでしょう!? 巨大なレーザー砲を溜めに溜めてぶっ放す快感……!! 一発で力尽きるのも、また有終の美的な風情があって最高ですね!!」


 顔を真っ赤にして力説するネメシス。それまでのクールキャラを投げ捨てたかのような、力強い叫びであった。

 そんなネメシスを見ながら、ショコラはフッと笑う。



「ホント変態ばっかでやんなっちゃう。ま、いっけど」



 もしかしたらこのクランで一番常識人なのはこのギャルなのでは……?

 戦慄するディミをよそに、スノウはバンバンと膝を叩いて笑うばかりであった。

 よほどこのクランのことが気に入ったと見える。



 さて、と1号氏は呟いてマジキチスマイルを引っ込めると、再びにこりと涼やかな微笑みを浮かべた。



「では、作戦をまとめましょうかな。総指揮官は私、チンパンジー1号が努めます。遊撃部隊を務めるのは、このメルティショコラ。こう見えて実力はありますよ」


「……まあ仕方ないから、それでいいし」



 虎の子のストライカーフレームをスノウが駆ることにまだ納得がいってないのか、ショコラはじっとスノウの顔を見ながら不機嫌そうに頷く。



「遊撃部隊が敵を引き付けている間に、狙撃部隊がウィドウメイカーの弱点を攻撃します。そちらはこのネメシスが率います。優秀なスナイパーですよ」


「よろしくお願いします」



 ネメシスがぺこりと一礼する。こちらは外部の手を借りることに割り切っているようで、クールな反応を見せる。



「それで……ボクはどのタイミングでストライカーフレームに乗ればいいの?」


「ええ、それなのですが……シャイン氏にはストライカーフレーム以外にも、もうひとつお願いしたいことがありまして」



 そう言って、チンパンジー1号氏は朗らかに笑う。



「自爆してくれませんか?」


『は?』



 聞き間違いかと耳を疑うディミを脇に置き、スノウが平然と言う。



「自爆ねえ。別にいいけど、無駄死には嫌だな」


「もちろんです。生きるに時があり、死ぬに時があり、自爆するに時がある。コストというものは使うべき時を見計らって有益に使わねばなりませんからね」



 1号氏はそう言いながら、長い脚を組み替えた。



「実は我々のクランには、仇敵と呼べるライバルがおります。彼らとはリリース当時から競り合っていましてね。こちらがレイドボスを狩るとなれば、必ずや横槍を入れて邪魔と横取りを図るに違いありません」


「横殴りしてくると?」


「そういうことです。知ってのとおりレイドボスは制限人数があります。今回はシャイン氏を含めて精鋭15名で戦い、残りのクランメンバーで敵部隊の接近を防ぎます」


「それでも抜けてくる敵に横殴りされる可能性に備えて、5名分は余裕を見ておくってことかな」


「その通りです。しかし、エースのネメシスとショコラ抜きでは敵部隊を防ぎきれないかもしれません。6名以上に抜けられると作戦失敗です。ですからシャイン氏に敵の足止めもお願いしたい」


「なるほど。敵の足止めも、ストライカーフレームでのレイドボスへのトドメ役もやってほしいってことか」



 腕を組んで薄笑いを浮かべるスノウ。難しいほどやりがいを感じているようだ。

 一方、ディミにはまだ可能不可能を判別するだけの理性が備わっている。



『それは……ちょっと無理では? 後方で敵の足止めをしつつ、そこから大急ぎでストライカーフレームに換装して最前線でトドメに向かうんでしょう? 後方から最前線に行くまでの間にだいぶ時間を取られそうです』


「ええ、そうですね。ですから自爆が役に立つ。デスワープして、移動距離を稼げばいいのですよ」



 1号氏はインターフェイスを操作して“黒鋼峡谷”のマップを表示する。そしてその中の一点、陣地と思われる場所を指さした。レイドボスがいる地点まではかなりの距離があるが、後方からは少し奥まった位置にある。



「あれがストライカーフレームを待機させる攻略陣地です。あそこにあらかじめリスポーン地点を設定しておけば、フリーモードの場合撃墜されてもそこに復活できる」


『敵を牽制し終わったら自爆してあそこにワープして、距離を稼ぐというわけですか』



 ディミが感心した声を上げる。自爆をデスワープに利用するという手は、AIである彼女には思いつかなかったようだ。



『いや、でも……それでも拠点からレイドボスまで距離があるのでは?』


「ご安心を。ストライカーフレームに搭乗さえできれば、移動距離を大きく稼ぐ手段を用意しております」


『そんな手段があるんですか?』



 ディミは意外そうな顔をした。

 ストライカーフレームは重くて身動きがとれないという話だったはずなのだが。

 1号氏は自信満々である。



「吾輩にお任せを。バッチリですぞ!」


「話をまとめると、横殴りしてくる敵を撃退したら、さくっと自爆して攻略陣地までデスワープ。そこからストライカーフレームに換装して、レイドボスへのトドメを刺しに行く……ということだね」


「そういうことです。シャイン氏であれば、この作戦を成功させてくれると信じていますよ」



 そう言って、1号氏は頼もしい助っ人に笑い掛けた。

 そんな彼を見ながら、ディミはわずかに小首を傾げる。



『それにしても……どうしてライバルが邪魔しにくるとわかるんですか?』


「ああ、それですか。大したことではありませんよ。我々は彼らの中にスパイを潜入させていますからね。情報は筒抜けです」



 何でもないことのように1号氏がそう語ったのを、ディミがえっ? と訊き返す。


『スパイ入れてるんですか?』


「ええ。そして当然向こうも我々にスパイを入れているでしょうな」


『……ええ?』


「我々がやっていることは、当然向こうだってやっているに決まっていますよ。お互いに情報は筒抜けというわけですな、ははは」



 カラカラと1号氏が能天気に笑うので、ディミは心配になった。



『いいんですか、それで……? スパイを炙り出さないんですか?』


「意味がありませんよ。どうせ炙り出しても、すぐに別のスパイが来ます。別に門戸を閉ざしているわけでもありませんからな。であれば、お互いに情報が筒抜けという状況を維持したうえで相手を上回る努力をした方が有益です。それは向こうもそう思っているはずですよ」


『……なんか、異様な信頼関係ですね……』


「企業クランに属さない数少ない趣味プレイヤークラン同士ですからね。互いを利用して成長を図るべきです。……少なくともこれまではそうでした」



 はあ、と1号氏はにわかにため息をつき、肩を落とした。



「ヘドバン氏は何故突然【トリニティ】などに身売りしたのやら……。彼が何を考えているのか、吾輩にはわかりかねますな」


『……仇敵って【氷獄狼フェンリル】なんですか!?』


「おや、よくご存じですな。クランリーダーの名前はあまり知られていないのですが」



 1号氏が眼鏡を輝かせる向かいで、スノウはケラケラと笑った。



「なーんだ、相手って【氷獄狼】なの? なるほどなあ、文字通り犬猿の仲、ってわけか。これなら楽勝かな」


「ははは、そうかもしれませんな。何しろシャイン殿のデビュー戦の相手ですから。何を隠そう、吾輩がシャイン殿を知ったのも【氷獄狼】の情報をスパイを通じて集めていたためなのですよ」


『ああ、そういうつながりだったのか……』



 世間って狭いなあ……と頷くディミ。

 一方、1号氏はにわかに表情を引き締めると真面目な顔でいった。



「まあとはいえ……【氷獄狼】もまた日々強化していますからな。特に【トリニティ】の下部組織となったことで、技術も流出しているかもしれません。一度戦った相手とはいえ、油断は禁物ですぞ」


「いいね。2カ月前とどう違うのか、見せてもらおうじゃないか」



 そう言って、スノウは不敵な笑みを浮かべる。

 そんな彼女の顔を先ほどからじっと見ていたショコラが、突然立ち上がってつかつかと近付いてきた。



「……スノっちさあ……」


「え。なに? やるの?」



 真顔で見下ろしてくるショコラに、さすがにスノウも身構える。

 そんなスノウの顔に手を伸ばし、ショコラは言った。



「リップ何使ってるん?」


「えっ?」


「もしかして、これノーメイクなん? マジで? めっちゃキャラデザ頑張ってねえ?」



 ショコラはスノウの頬に両手をあてて、スリスリと触りながらしげしげと眺めてくる。

 女の子に間近で顔を見つめられ、スノウはほんのりと頬を赤らめた。



「え、うん……まあノーメイクだけど……」


「えー、マジすごいじゃん。やるぅ!」



 ショコラはそう言いながら、無邪気にキャッキャと笑う。

 スノウはドギマギしながらも、されるがままになった。



「……ケンカ売りに来たんじゃないんだ……?」


「えーケンカとかどうでもいいし。それよりスノっち、可愛いからってノーメイクはダメだよー。もったいないって。美人でも毎日ちょっとメイクで顔変えた方がかわいーじゃん?」


「いや、メイクとかよくわかんないから……」



 スノウがそう言うと、ショコラが目を輝かせる。



「えー!? じゃあウチが教えたげるし! 元がこんな可愛いんだから、もっと可愛くなれるって!」


「ボクはもう素で十分可愛いよ!?」


「まあまあ、ほらちょっとこっち来て♪ ウチがメイクったげるから♪」


「ああああああああ…………」



 ショコラはスノウを引き寄せ、グッズを開いて無理やりメイクを施していく。

 その光景を唖然として見ながら、ディミは呟いた。



『ええ……? さっきまで機体とられたって怒ってませんでした?』


「いや、この子ひとつのことしか考えられないんですよ。アホなので」


「この子の中では機体をとられた怒りよりも、可愛い女の子がメイクしてないことへの疑問の方が上回ってしまったんでしょうね。アホなので」


「まあ、ちょっとくらいアホの方が愛嬌もあってよいですな」


「そうですねえ」



 そう言って1号氏とネメシスがあははと笑い合う。



「スノっち、肌綺麗……」


「いやああああああ! 初めて(のメイク体験)を奪われるぅぅぅーーーー!!」



 その向かいでは、わずかに頬を上気させたショコラに押し倒されるようにメイクされるスノウ。

 地獄絵図かな?


 ディミはその光景を見ながら、天を仰いだ。



『このクラン、アホしかいねえぞ……!?』



 何を今更、これまでのクランもアホしかいなかったでしょう?

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