第19話 生き神様の心配
「スタッフさんの思考を読んでも、怪しい人がいないって事は内部に裏切り者はいないって事か?」
調査の後、俺が問うと、精霊達は難しそうな顔で答えた。
「う〜む。こういう時の為にメンタルトレーニングを受けていたり、精神に暗示をかけていたりする者もいるかもしれぬからの……。」
「精神が壊れる寸前まで負荷をかけて深層心理まで探ってみるのも一つの手じゃが……。」
「それはダメッ!」
キーの言葉を受けてのナーの提案に、あかりは大声で叫んだ。
「普段から私達を守ってくれているスタッフさんにそんな危険な事は出来ないし、もしかしたら、内部分裂を狙う敵方の策略かもしれないわ。
ここは、社の皆で一致団結して慎重に行動すべきだと思うの!」
「「生き神様……」」
「あかり……」
いつもは穏やかなあかりが生き神として強く主張する姿に精霊達も俺も目を見開いた。
「キーちゃん、ナーちゃん、定期的に屋敷内を巡回して、屋敷の内外に侵入者の気配がないか探ってくれる?」
「「了解しました!」」
「そして、真人……!」
「おう!何でもやったるぜぃ!」
警備を頼まれた精霊達に続いて、俺もあかりに重要事を頼まれるかと拳を握ったのだが……。
「お願いだから、屋敷の一番安全なところにいて、自分の身を最優先に守ってくれる?」
「へぇっ?」
俺は肩透かしを食らってその場にずっこけそうになった。
「いや、あかりね……。俺、小さな子供じゃないんだから……。」
文句を言いかけた俺の手をあかりは両手で握って来た。
ギュッ。
「本当に、お願いよ。真人……!自分を大事にして!」
「あ、あかり……??」
握られる手の力の強さと、泣きそうなほど真剣な表情のあかりに俺が戸惑っていると……。
「いえ、あのっ。新しい贄を使って、社に取り入るつもりなら、今の贄の真人の身が特に狙われる危険性があると思って……。」
あかりはそんな自分に気付いたのかパッと手を離すと、慌ててそう説明した。
「ス、スタッフさんにも今のやり取りを伝えて、警戒するように言っておくわね?」
「あ、ああ……。」
そして、あかりは席を立つと、精霊達の声が聞こえず俺達のやり取りがどうなるかと固唾を飲んで見守っていた菊婆とスタッフさん達へ向かっていった。
「「「「「生き神様……!」」」」」
「菊婆、スタッフの皆さん、今、精霊達に調べてもらったんですが……。」
「…………」
皆に説明しているあかりの声を聞きながら、俺に身を守るように言った時の尋常じゃない必死さと、さっき冬馬に言われた小さい頃の約束通り、迎えに来たとの言葉に、ひどく動揺していたあかりを思い出していた。
やっぱり、あかりの様子はどう考えてもおかしい。
いや、こんな非常時だし、慌てたり不安になっているのは当然。俺だって、精霊達だって、菊婆、スタッフだってそうだけど。
あかりは、何か彼女が危惧するような具体的な事態を想定して、怯えているような……。
「(真人。ちょっと聞け……)」
「!」
俺が考え込んでいると、キーがひそっと囁いて来た。
「(生き神様が語られた夢の内容は全部ではないかもしれぬ……)」
「(全部ではない?まだ語られてない部分があるって事か?)」
「(左様。生き神様が今怯えている原因は、もしやその部分にあるやもしれぬのだ)」
「(ああ。夢を見られた後の生き神様のあまりの取り乱され様を見るに、ご自分が鬼神となられ、島を沈む事の他に、何か悪いものを感知されたのではと推察される)」
「!!(そんなに辛いものを見たのなら、あかりは何で言ってくれないんだ……?)」
大事な事を打ち明けてくれないあかりに、俺がショックを受けていると、キーは難しい顔で首を傾げていた。
「(それは分からぬが……、大事に思っているが故にお前には言いにくい事なのかもしれぬな……)」
「キー……」
「(生き神様の心をお支え出来るのはお前しかおらぬのだから、今は、変に逆らったりせず、生き神様を支えて安心させて差し上げよ)」
「ナー……」
なんだか、精霊達に励まされるような事を言われ、俺は目を瞬かせた。
「(分かったよ。でも、俺に出来る事はする。島民会の幹部の一人にトシと許嫁渡良瀬さんの親がいた筈……。奴に手紙を届けてくれるか?ナー?)」
「(仕方ないのぅ。やれやれ、精霊使いの荒い奴じゃ……。)」
呆れながらもナーが肩を竦めて引き受けてくれたところで……。
「えっ!菊婆、今外出するのは危ないのではないの?」
「「「??」」」
あかり大声を出したので、そちらの方を見遣ると、菊婆が笑顔で首を振っていた。
「いえいえ。心配には及びませぬ。儂も武道の心得がありますし、護衛に何人か若い衆も連れて行きますので……」
「菊婆、どこか外出するのか?」
「ああ。風切総合病院だけでなく、別機関にもお前の生殖機能についての調査をしてもらった事を思い出してな……。その書類が家にあるから、取りに行こうと思っての……」
「そ、そうなのか……///」
そういえば、嫌々ながら何回か検査を受けたような記憶があり、俺は赤面した。
「でも、さっきの女の人、キーちゃん、ナーちゃんの力の効果を打ち消すような力を持っていたわ。何だか、心配で……。」
「確かにあの女、得体の知れない能力を持っているようでしたな……。」
「不意を突かれたのもありますし、次は負ける気はしませんが……。」
精霊達が悔しげに顔を歪める中、菊婆はあかりを安心させるようにニッコリと笑った。
「大丈夫ですじゃ。生き神様。先代贄様を通じて、精霊様方から大事な御札を預かっていますから……。」
「えっ。そうなの?キーちゃん、ナーちゃん!」
「ええ。術をそのまま相手に返すことが出来る始祖様から賜りし御札を先代贄に預けておりましたので……」
「今は島外へ出る時、先代贄が菊婆に託したのでございましょう」
キーとナーが代わるがわるに説明し、俺は感心して頷いていた。
「そんな御札があるのか……。」
「そう。それなら、安心だけれど、菊婆、いざという時はその御札、必ず使ってね?」
「はい。自分の立場は自覚しております。いざという時は、御札を使わせて頂きます。」
なおも心配げにそう言うあかりに菊婆は相好を崩して笑い、頷いた。
「菊婆様、それでしたら、くれぐれもお気をつけて行ってらして下さいね。今、護衛の方に来て頂くようご連絡しますから。」
「ああ。保坂さん。ありがとう。皆も留守を頼むな?」
「「「菊婆様、お任せ下さい!」」」
スタッフが菊婆に元気のよい返事をしたところで、俺もちょっと気まずい思いで声をかけた。
「俺の事で迷惑かけてすまんな……。菊婆、気を付けて行って来てくれ」
「かかっ。お前に心配されるほど落ちぶれてはおらぬわ!」
ピコンッ!
「いでっ!あにすんだよ!!」
せっかく気遣ってやったのに、菊婆は高笑いした上、俺にデコピンをしてきやがった。
「真人。生き神様をしかとお守りするんじゃぞ?」
「言われなくもそうするよっっ!!」
唯一の家族だが、やっぱこのババアは気に食わねぇ!
俺は怒り混じりにがなり、菊婆を見送ったのだった……。
*あとがき*
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