第14話 閑話 遮断された気配

「…?おかしいわ…。」


「「生き神様?どうかなさいましたか?」」


部屋で儀式に向けて気を高める練習をしている途中である事に気付き、首を傾げる、

双子の精霊はすぐに問い掛けてきた。


「屋敷の外で、ごく狭い範囲だけど、気の感じ取れない場所があったの。まるで、そこだけ障壁に囲まれているかのように、気が遮断されていた。しかも、それは移動して、すぐに社の外へ出て他の気に紛れてしまった…。」


「それは妙ですね?ナー。もしかして昨日の…。」

「うん。そうかも…。キー。」


精霊たちは不審そうに顔を見合わせ、私も頷いた。


「ええ。気が遮られてる範囲はちょうど人の大きさ位だったの。

昨日、キーちゃんとナーちゃんが、気が読み取れない人がいると報告してくれたわね。」


「はい。昨日贄の少年の様子を見に、海に向かった際、近くにボートに乗った黒いパーカーを着た者がいたのですが、その者の気をよく感じ取れませんでした。」


「はい。その者のオーラの大きさ、性質、性別すらもはっきりしませんでした。」


私が確認すると、精霊達も頷き、詳細を説明してくれた。


「稀に、気が分かりにくいタイプの者もおり、高速で移動している者の気の判別は難しい為、そういう事もあり得なくはないかと思っていましたが…。」


「この近くでも同じ事があり、生き神様をもってしても気が感じ取れないとなると…。何者かが邪な企みを持って近付いた可能性が高いですね…。」


私と双子の精霊は、顔を見合わせ警戒の色を強めた。


「キーちゃん。ナーちゃん。気が遮られていた場所を伝えるから、何か変わった事がないか、見てきてくれるかしら。」


「了解致しました。生き神様。」


双子の精霊は、私の命を受け、すぐに姿を消した。


         *

         *


そして数十分後ー。


真人あのバカめ…。粗末なものを見せやがって…。」


「うげ〜。見とうないものを見てしまった。真人あのアホは、脳みそが海綿体なのか?」


げんなりした様子でヨロヨロと現れた。


「ど、どうしたの?二人とも…。大丈夫?何があったの?」


慌てて駆け寄ると、キーちゃんは、息も絶え絶えになりながら私に調査結果を知らせてくれた。


「無様な姿をお見せして申し訳ありません。生き神様がおっしゃられた場所を調査したところ、その辺りに行った者がいると使用人の保坂から聞きまして、聴取したのですが、…。」


「そうなのね!それは誰だったの…?」


「贄の葛城真人です。」


!!


「昨日お屋敷に入った贄の男の子…?」


私が驚いて問い返すと、キーちゃんとナーちゃんは代わる代わる説明をしてくれた。


「ええ。ちょうどその時間その場所に雑誌を落としたらしくて、拾いに行ったそうです。拾いに行っているところを保坂が見ていましたので、その頃は、他に人影はなかったし、葛城真人が誰かと接触する様子もなかったそうですが…。」


「昨日、奴が海に行った時も近くに黒いパーカーの人物がいて、今回も恐らくそいつかそいつの仲間が屋敷の外へいたのとほぼ時間に

奴がその場所へ行った。

いかにも怪しいではありませんか。」


「我らがすぐに奴に事情を聞きに行ったところ…。その…。奴はトイレに籠もっており、その…。」


「ど、どうしたの?その子は具合でも悪かったの?」


口ごもるキーちゃんに、私が問い詰めると、

代わりに、顔を顰めたナーちゃんが嫌悪も露わに答えた。


「Hな写真集を見て、自慰行為をしておりました…!」


「ふぇっ!??///」


予想外の答えに私は動揺して、しばらく二の句が告げなかった。


「………………………っ!え、ええっと…、そのっ。うんっ。し、知っているわよ。確か

自慰行為って、性行為を自分でするって事…よねっ?


かか、彼は、儀式の内容を知ってれ、よ、予行練習をしているって事なのかしら?わ、わぁ〜!偉いわね?」


「いや、あれはただのどスケベです!

ただ、本能のままに、性欲を処理しただけです!」


「せっ、せいよ…??」


「とにかく、そんな衝撃的な場面を見させられた我々は奴を殺す勢いで問い詰めましたが、ただ、数字パズルの雑誌が解けなくて苛々して、つい窓から放り投げてしまったのを取りに戻ったと言うのみで…。」


「念の為、心を読んでみたのですが、奴の心の中はHな写真集の女の画像で埋め尽くされておりました。ですので、我々の結論としては、黒いパーカーの人物との繋がりを示す証拠は得られませんでした。」


「そ、そう…。ま、まぁ、贄の子が無事なのほよかったわ…。もし、黒いパーカーの人に狙われているなら、守ってあげなきゃいけないものね。」


手を組み合わせたり戻したりしながら、私は大きく頷いた。


「あの真人という贄自体が、邪な計画を持った奴らの手先でなければですがね。」


「そんな事有り得ないわよ…!あの贄の子のオーラに邪悪なものは感じなかったわ。」


「生き神様は、善良でお優しい方だから、そう言われますが、特に邪悪な者でなくても、人は愚かで醜いものです。自身の欲望と保身の為にいくらでも嘘をつき、他者を傷付け、陥れます。あの真人も例外ではありませぬ。」


「そうです。むしろ、あの真人アホは、他者の甘言にたやすく騙され、踊らされ、余計な事をしでかしそうです。私はなんだか、嫌な予感がするのです。

生き神様。贄の選択に干渉するのは、ご法度なのは百も承知ですが、もう一度考え直しませんか?もう一人、候補者がいたでしょう?今からでもその者に変えてはいかがですか?」

「ナーの言う通りです。考え直せませんか?生き神様?」


「キーちゃん、ナーちゃん…。」


キーちゃんとナーちゃんに真剣な瞳で取り縋られ、私を案じて、敢えて法度にも関わらず、そう進言してくれている事が分かった。


「私の事を心配してそう言ってくれているのね。キーちゃん。ナーちゃん。ありがとう…!」


けれど、私は静かに首を横に振った。


「でも、それは出来ないわ。

贄の選択は一度きり。その人の人生を大きく変えてしまう事だもの。島の皆にも既に周知しているし、余程の事がない限り、取り消したり、出来ないわ。」


「「なれど…!」」


「キーちゃん、ナーちゃんから見て、贄の子は未熟で頼りなく思われるのかもしれないけど、それは私だってそうなのよ?

他の人に騙されてやすいと言う事は、素直で、純真な魂を持っているという事でもあると思うの。人間、誰でも迷う事はあるわ。

誤解や間違いがあるなら、話し合って解決出来ない事はないと思うの。

私は、真人にえのことは、できるだけ、心を尽くして話し合い、共に島の皆の為に儀式に臨んでいきたいと思うの…。」


「「生き神様…!」」


キーちゃんと、ナーちゃんは私の決意が揺るがないのを見て取ると、感じ入ったようにため息をついた。


「生き神様がそこまで言われるなら分かりました。真人という少年の評価を保留にしたいと思います。奴が生き神様のお心に少しでも報いる事をしてくれればいいのですが…。」


「生き神様がそうまで言われるなら、私も従います。けれど、私はまだ心配です。

もし、真人という少年が生き神様のお心を踏みにじる事があれば、私は奴を許しはしません…。」


一応は納得してくれたキーちゃんに対して

ナーちゃんの方はまだ、かなり真人にえのこに、心配があるようだった。


「彼は、私のせいで人生も環境も激変してしまって、今、辛い思いをさせてしまっていると思うの。できるだけ温かく迎えてあげてね…。」


「「はい…。」」


私がお願いをすると、不承不承といった感じだが、双子の精霊は頷いてくれた。


私がこうして未熟な為に精霊達には色々な

心配と苦労をかけてしまっていると思う。


贄の子に対しても…。


しきたりで、儀式までは会う事も話す事も出来ないけれど、儀式で顔を合わせた折には、

人生を変えてしまった事に対して誠心誠意謝罪して、沢山話し合ってこれから自分達に与えられた役割を果たしていきたい…。


そう私は思っていた。


それが虫のいい自分だけの甘い考えだったという事をこの時の私は分からなかった。


儀式当日、真人が私に、島に対して憎悪と怒りに染まった目を向けてくるまでは…。


異変を感じていたなら、すぐに動くべきだったのだ。


直接のコンタクトが取れないなら、手紙でも…。


いえ。例え、、この時点で真人に言葉を尽くして事態について説明して話し合うべきだった。


それが、この島の生き神になって間もない私が初めて犯した大きな失態であり、過ちだったー。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m

これにて、一章〜少年は生き神様に出会う〜が終りまして、来週から

二章〜少年は生き神様と儀式に臨む〜

に入って行きたいと思います。

今後ともどうかよろしくお願いします。

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