第45話 あの人を助けに……!

「保坂さん……」

「………」


 今まで味方と思って信用していた彼女と今は敵方として対峙している事に悲しさを覚えながら、俺は彼女に告げた。


「あんたが俺達を裏切っていた事については、とやかく言わない。見抜けなかった俺も悪かったんだろうさ。

 だけどな……」


 スッ!


「!」


 俺は自分の首筋に当てていたナイフを今度は気を失った上倉の首筋に滑らせ、凄んだ。


「こっちも切羽詰まってるんでな! 敵だと分かった以上、容赦なく対応させてもらうぜ。


 親玉であるこいつの命が惜しくば、キーとナーの洗脳を解き、今すぐあかりを解放しろ!」


「ひっ。真人が不良にっ……!」


 俺の恫喝に茜が騒ぐ中、保坂さんは顔色一つ変えずに答える。


「贄様。そんな事をされなくても、希様の目的が実行不可能になった今、私にはあなたに歯向かう理由も意思もありません。精霊様方は希様が失神された時点でスリープモードに移行され、1時間と経たない内に元に戻られる事でしょう。」


「! 本当だろうな?」


「はい。以前、私が用意させて頂いた和菓子を媒介に、希様が精霊様方に術をかけられた折、その様な結果になっていたかと……」

「そういえば、祭りの時の精霊達への景品の和菓子はあんたが……!

 そんなに前から計画していたのか……」


 目を伏せてそう答える彼女に、俺は歯噛みしつつナイフを外し、近くにあったロープで上倉を縛ると一番気がかりな事を尋ねた。


「それで、あかりはどこだ?」


「それが……、私は存じ上げないのです」

「なんだとっ!」


 そこで初めて重苦しい表情になった保坂さんに、俺は声を荒げた。


「希様がキー様ナー様を操って、継嗣の儀を執り行う部屋を設えたので、私には場所が分からないのです。始祖様の石を移動させたとの事でしたので、恐らく以前の儀式の部屋とは別の、屋敷内のどこかの部屋かと思われますが……」


「……!」


 それを聞いて俺は絶句した。


 あの大きな屋敷には地下も含めてかなりの部屋数があった筈。


 以前の継嗣の儀が行われた半地下の部屋のように見落としがちな場所にある隠し部屋的なものもあるかもしれない。


 それでも、キーとナーが元に戻るまで時間がかかるようだし、あかりが冬馬にどんな目に遭わされるかを考えたら、一刻も早く助け出してやらなければならなかった。


「くそっ! すぐ屋敷に戻って、一部屋ずつ探していくしかないか。保坂さん、各部屋の鍵を出してもらうぞ?」

「承知致しました」


 ナイフを突き出し、俺が迫ると彼女は静かに頷き、納屋から出ようとすると……。


「ま、待って! 行かないで、真人! あんな生き神なんてほっとけばいいじゃない!」

 ガッ!

「うわっ……! 茜、離せよ……! 危ねーだろっ!」


 茜に服を後ろから掴まれ、ナイフが自分に当たりそうになり、俺が怒鳴ると奴は目に涙を溜めて喚いた。


「うぎゅっ! 真人は、元々私のものだもん! 生き神なんか所詮住む世界が違う人外の生き物じゃないっ! 放っておいて、私と島の外で二人で住むんだもん!」


「お前、この切羽詰まった状況で、まだそんな……」


 今までの上倉や保坂さんとのやり取りを聞いて、なお、自分の欲求のみをぶつけて来る茜を振り払おうとした時……。


「茜さん、お静かに……」

「あっ? う、ううん……」

 プスッ! ドタッ!


「!」


 保坂さんに注射器を押し当てられ、茜は、上倉に折り重なるように倒れた。


「鎮静剤です。聞き分けのない方にはしばし眠って頂き、急ぎましょう……!」


「保坂さ……、お、おう…!」


 敵方のくせに、協力的な行動をする保坂さんに戸惑いながらも、俺は彼女に扇動されるように、屋敷へ急いだのだった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

《桐生俊也視点》


「トシちゃん、歯ぁくいしばれっ!!」

 ドゴォ!!

「ぐはぁっ!!」


 幼馴染みにして許嫁の絹の鉄拳が俺の顎に炸裂し、俺は家の敷地内の芝生までふっ飛ばされた。


 真人と絶交して社の屋敷から帰って来たところ、家の前で心配げに待っていた絹と出くわし、事情を話した直後の事だった……。


「あいって〜〜! 絹! いきなり何す……」


 ズキズキ痛む顎を抑え、鉄拳を振るって来た絹に文句を言おうとすると、普段朗らかな笑顔の幼馴染みが、今は眦を上げて迫って来た。


「葛城くんが伝七郎に何かしたかと思って、絶交したって、いや、バカなの? トシちゃんっ!?」


「な、何だよっ。だって、血染めの羽が服の袖に付いていたんだぞっ?」


「本当に犯人だったら、そんなものをわざわざつけてるの逆におかしいでしょうがっ! それに! 葛城くんの性格的に、小さな生き物にそんな事する筈ないでしょっ! 葛城くんは、厨二病的に絶対敵わない相手にいきり立ったものの、時間が経ってから後悔して、小さな生き物撫でながら、「俺、やらかしちゃってさ〜」とか泣きながら愚痴ってるタイプだよ!」


「ハッ! 言われてみれば、真人ってそういう奴だわ!」


 捲し立てるような絹の言葉にはメチャメチャ説得力があり、俺は殴られたような衝撃を受けた時……。


 パタタ……!


「クックル〜♪」


「「!!」」


 空から舞い降りて来た伝七郎が家の門扉の前に止まって、こちらを見て嬉しそうに鳴いた。


「伝七郎! お前、無事だったのか? よか、よかっだぁ〜! ああ〜!」


「伝七郎ちゃん、心配してたよ〜! うわぁ〜ん!」


「クル?」


 ずっと安否を心配していた伝七郎が戻って来て、そのフワフワの白い毛並みに触れながら俺と絹が号泣していると、伝七郎は不思議そうに小首を傾げている。


「ああっ。本当によかった……! けど、俺は、真人に何てこと言っちまったんだ……」


 頭を抱えていると、絹が拳を握って力説して来た。


「気持ちは分かるけど、落ち込んでる場合じゃないよ! トシちゃん!

 これで、冬馬くんは策略でトシちゃんと葛城くんの絆を壊そうとするひどい奴だって分かった! 


 島民会幹部は、無理矢理彼を第二の贄として社の御屋敷に送り込もうとしているんでしょ?

 絶対悪い事企んでるでしょ!


 葛城くんと葛城くんの好きな人が危ないよ!


 島民会の大人達に働きかけて、幹部の暴走を止めてもらわなきゃ!


 申し訳ないと思っているなら、尚更、今すぐ行動あるのみだよ!」


「絹……! そ、そうだな、分かった! 父さん、母さんに訴えかけてみるよ!」


「私も両親に話をしてみる!」

「クルック〜ッ!!」


 俺と絹が頷き合う中、伝七郎は俺達に発破をかけるように一際高い声で鳴いたのだった。






 *あとがき*


 読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

 m(_ _)m


 絹ちゃんの真人観よ……(^_^;)


 幼馴染み二人&あの小さい生き物も活躍しますので、見守って下さると嬉しいです。


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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