第17話 上倉希の能力
「島民会でも、島の将来有望な若者を、許嫁と引き裂いて贄様として生涯屋敷に留め置くのは、時代錯誤ではないかとの意見が多数でしてな。
形式的な儀式にしろ、後継者の種付けであろうと、必要な時期だけ贄様役の若者を貸し出すだけでよいのではというご提案をさせて頂きたいのですじゃ」
「な、何を勝手な提案を……!」
「まぁまぁ、そう怒らず、話だけでも聞いてくださらんか?
その点、ここにいる風切くんはそういった形で第二の贄様として借り出されてよいと言ってくれているし、許嫁の香月さんは、それを許容してもいいと、寛大な気持ちでいてくれている」
「ええ。第一の贄様の保険がいるなら、ぜひ僕をお使い下さい」
「ええ。生き神様の伝統を守りつつ、冬馬くんが新しい贄制度の為に貢献できるなら、私はそれを受け入れます」
「椙原様! 冬馬くん! 茜さん!」
菊婆はとんでもない提案をして来る島民会の椙原と意思に添う発言をする冬馬と茜に非難めいた声を上げた。
「贄様は生き神様のご信託により選ばれるもの。勝手に第二の贄を差し出してくるなど、不敬だとなぜ分からぬ!
それに今の贄様が無精子症などと……! かの方の生殖機能に異常がない事は、冬馬くん。君の病院でお父様に書類を出してもらっている。茜さん。許嫁の縁を結ぶ際に、ご両親にその書類を提出してもいるじゃろう。本当の事を言ってくれぬか!」
「さあ、僕には分かりかねますね?父からは男性不妊の診断書の事しか聞いていませんが」
「私もさっぱり分かりません。両親は何も言っていませんでしたが」
「っ……!」
ニヤニヤ笑いを浮かべる二人に、菊婆は言葉を失った。
『くそっ。さては、冬馬の野郎、親父と結託して、茜を丸め込み、前の書類をなかった事にして、男性不妊の書類を偽造しやがったか?卑怯な奴らめ!』
『ええっ。あの人達、そんな悪い事をっ…!??』
その様子を見ていた俺が毒づくと、純真なあかりは信じられないという表情で目を見開いた。
「ハハハッ!菊婆、都合のよいように記憶を書き換えているのではないですかな?儂も最近物忘れがひどくて、お互い年を取りたくないないものじゃな。近い内に島民会の取りまとめはそろそろ息子に託そうと思っておるのですよ?
贄様と血縁関係にあるものが社の責任者というのも、運営に目が曇る事もあるじゃろうし、菊婆も早めに引退を考えるべきではないですかな?」
「くっ……! 余計なお世話ですじゃ!! 他にも証明する書類はあります。とにかくこの場は、お引き取り下さい!!」
「「そうじゃ、帰れ!! 黙って聞いていれば好き勝手いいやがって!」」
「「キー(ちゃん)! ナー(ちゃん)!」」
菊婆の激昂に呼応するように、キーとナーは叫び……!
「これでも食らえ!」
ゴオオーッ!!
「ふぎいいぃっっ!?|||| 熱っ…!!熱いぃっ!!」
「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」
「「「椙原さんっ?!」」」
ナーの叫びと共に突然椙原の頭(鬘)に火がつき、奴は頭を掻きむしり、俺、あかり、菊婆、社のスタッフさん、冬馬、茜、補佐役の女性、その場にいた全員は仰天した。
「そんなに熱いなら冷やしてやろうかぁっ?」
ブワァーッッ!!
「へぎいいぃっっ!?|||| 冷たっ…!!今度は冷たっ!!痛い〜〜っ!!ピリピリする〜〜っ!!」
そして、キーの叫び声と共に、火のついた鬘は瞬間消火され、今度は凍り付き、まつ毛や髭まで凍ってバリバリになり、顔が霜焼けになった椙原は悲鳴を上げた。
「お前らも凍らせてやる!!」
『キーちゃん、もうやめっ…』
ブワァーッッ!!
「キャッ!」
「うわっ!」
更にキーは、あかりが止める間もなく、冬馬や茜達に猛吹雪を食らわそうとしたところ、スーツ姿の女性が彼らの前に立った。
「お止めなさい!」
フッ……!
「なっ……!?わ、儂の吹雪が無効化されたじゃとっ……??何者じゃ?この女……!」
「キーッ…!?」
『『!?』』
吹雪は、彼女の前でまるで最初からなかったもののように消え、キーは愕然とし、俺達も目を見張った。
「フフッ。生き神様の精霊でしょうか?白い子と赤い子、やんちゃな子達ですね?」
「「……!この女、儂らの姿が見えっ……!?」」
『『!』』
冬馬達の補佐役の上倉という女性は生き神と贄しか見えない筈の、キーとナーの容貌を言い当て、俺達を驚かせ、更には俺とあかりのいる辺りを指差した。
「そして……、そこにいるのが、生き神様と贄様ですね?」
『『…!!||||』』
「「こ、この女、何者じゃっ…!」」
慄く俺達の方を見て、冬馬は切なげに語りかけた。
「生き神様……。小さい頃の約束通り、僕はあなたを迎えに来ましたよ……?」
『っ…!!||||』
『小さい頃…?あかり……?』
息を呑み、口元に手を当てるあかりに俺は怪訝な顔をしていると、次に頬を紅潮させた茜がこちらに語りかけて来た。
「真人!待っててね。運命を曲げられてしまったけど、あなたの本当の幸せは私と共にあるって教えてあ・げ・る♡」
『は?茜何言ってんだ?頭でもおかしくなったんか?』
『ま、真人……』
俺が首を傾げていると、あかりが震える手で俺の袖を掴んで来たので、その手をギュッと握り返した。
『大丈夫だよ。奴らが何言って来ようが、あかりの選んだ贄は俺だ。俺達は絶対離れたりしない。そうだろ?』
『え、ええ。そ、そうよね……。真人。』
泣きそうな顔で何度も頷くあかりに、俺の胸はキリキリと痛んだ。
「新しい贄制度のご提案をさせて頂きましたが、社の皆様にも考える時間が必要でしょう。
何がこの島にとって最善なのか?生き神様は皆の幸せの為に何を選択すべきなのか?よくお考え下さい。
ささ、椙原様、今日のところは引きまして、また後日参りましょう。」
「うぐうぁっ…!お、覚えとけよ!社の者ども!」
「「失礼します」」
上倉は、喚く椙原を助け起こしながら、冬馬、茜を伴い、お屋敷を去って行った。
俺、あかり、精霊達、菊婆、社のスタッフは島民会に重い課題を突き付けられ、無言でそれを見送ったのだった……。
*あとがき*
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m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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