第24話 過ちへの道《四条灯視点》
鬼神に成り果てる自分ー。
激しい風雨に沈む紅糸島ー。
そして腹部から血を流して倒れている真人ー。
そんな恐ろしい夢を見た直後に、社にやって来た島民会の人と、贄のもう一人の候補だった男の子、風切冬馬と真人の元許嫁の女の子の上月茜。そして、謎の力を持った後見人の女性、上倉希。
彼らは、真人が無精子症だという言いがかりを付けてきて、贄の候補者だった男の子を第二の贄として生き神に貸し出す事を提案して来た。
生き神しか関与出来ない贄の選択に島民会が口を出し、しかも第二の贄が贄となりながら社会生活を営むという事は、生き神の発言力を弱め、なおかつ島民会や第二の贄に近い勢力に利用される危険が生じるという事で、受け入れられるものではなかった。
社の責任者である菊婆は、島民会の人の提案に反対してくれ、キーちゃん、ナーちゃんが攻撃を仕掛けたので、慌ててしまったけれど、後見人の上倉という女性がその力をかき消して、風切さんと上月さんを守った。
生き神と贄しか見られない筈の、精霊キーちゃん&ナーちゃんが見え、その攻撃を無効化し、私と真人の気も察知していた彼女は一体何者なんだろう?
彼女から一瞬強く感じられた気を分析するに、攻撃できる能力はないようだったけど、油断ならない相手である事は間違いなかった。
真人の元許嫁の女の子香月さんは、今は候補者の男の子の許嫁らしいけれど、彼が第二の贄になるのを許容すると言い、まだ真人に対して想いを残しているようだった。彼女に対しては、真人との仲を引き裂いてしまった罪悪感があり、真人は彼女と普通の幸せを歩む道もあったのかと思うと、胸が痛んだ。
そして、候補者の男の子、風切さんは私に懐かしそうな目を向けて来た。
「生き神様……。小さい頃の約束通り、僕はあなたを迎えに来ましたよ……?」
『っ…!!||||』
小さい頃に出会ったあの男の子は、彼なんだろうか……?
でも、そうだとしても、私はもう真人を……!
以前は、生き神としての責務をこなすのが何よりも大切で、どんな贄が相手だとしても儀式を拒もうだなんて思わなかった。
それなのに今は、真人以外の人と儀式をするなんておぞましくて考える事も出来ない。
『生き神は恋をしてはいけない』という母様の教えの意味がやっと分かったような気がした。
同時に色々な事が起こり過ぎて、混乱し、感情に翻弄されそうになる中、島民会の事をどう対処するのか、皆で話し合った。
キーちゃん、ナーちゃんに調べてもらい、スタッフに情報を流している人はいなさそうで、ホッとした。
そして、菊婆は、そもそも第二の贄の話が出る根拠になった真人の生殖機能に問題があるという向こうの主張を退ける為、家に書類を取りに行く事になった。
こういう事の後で、菊婆の事がとても心配だったけれど、始祖様の御札を持っていて、護衛もつけると言われ、それならと私は許してしまった……。
私はあの夢の直後だっただけに、真人の身辺がとにかく心配で、内緒でナーちゃんを彼の護衛に付けさせていた。
あの時、菊婆に護衛を付けさせていればと、何度後悔してもし足りない……。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
私にとって、菊婆は、母様と先代贄様の次に頼りにしていた近しい人だった。
けれど、真人にとって、菊婆はたった一人の家族で……。
喪失感と悲しみに襲われながら、真人の気持ちはいかばかりかと想うと胸が苦しくて死にそうになった……。
「生き神様、そのお姿は……!」
「もしや、あやつに会うのですか……?」
真人のくれた洋服を身に着けた私に、キーちゃんとナーちゃんは、目を見開いた。
「ええ。今の彼を、放ってはおけない。キーちゃん、ナーちゃんは、ここで待っていてくれる?」
「な、なれど……!今のあやつは、感情の歯止めがきく状態ではありませぬ!」
「万一、しきたりを破る事になりましたら……!」
心配そうな目をする精霊達に、私は微笑んだ。
「その時はその時で、全責任は私が取るわ。止めないで、キーちゃん、ナーちゃん」
「「……!!」」
精霊達は、顔を見合わせてため息をついた。
「わ、分かりました。我々は、生き神様の忠実な下僕。今の狂った状況で何が正しいのか何が間違っているのか、分かりませぬ……」
「生き神様が、全てを覚悟の上なら止められませぬな……」
「ありがとう」
哀しい笑みを浮かべる彼らに心でごめんなさいを言いながら、真人の元へ送ってもらい……。
強がる真人の心の鎧を剥がし、彼の慟哭を聞き、縋るように求められて全て受け入れた。
どうして、人は、間違っていると分かっている道に自ら進んでしまうのだろう。恋というのは本当に恐ろしいものだわ……。
✽
✽
薄暗い部屋の中……。
隣で寝息を立てている真人の髪を撫ぜていると、不意にその目がパッチリと開いた。
「ハッ!あかりっ……。…!!||||||||」
二人でベッドに裸で寝ている事に気付いた真人は一瞬言葉を失い……。
やがて、小さい声で呻くように謝って来た。
「ご、ごめん。あかり……!儀式以外でこんな事しちゃ、いけなかったのに……!」
「いいのよ……。私、少しでも真人の役に立てたかしら……?」
「あ、ああ。あかりのおかげで、頭がハッキリした。体……、大丈夫か?」
「ええ。大丈夫……。」
心配げに聞いてくる真人に私は小さく頷き、気付かれないように小さくお腹を撫でた。
「ごめん!二度とこんな事しない。これからは、俺、あかりの事を命懸けで守るから!」
「真人……」
真人に強く抱き寄せられ、背中に手を回して、彼の鼓動を聞きながら、同時に自分の体の奥で小さな生命が芽吹くのを感じていた。
そして、どうして継嗣の儀が始祖様の御石のあるあの部屋で行われなければならなかったのかを、自分の罪深さと共に思い知ったのだった……。
真人にも小さい生命にも非はありません。どうか罪と罰は私のみに……。
生き神である私が祈るのも無責任な話だけれど、見えない何かに縋るように私は強く願わずにはいられなかった。
*あとがき*
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m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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