第16話 島民会再び
あかりの見た不吉な夢ー。
継嗣の儀の失敗ー。
そして突然社に訪れた島民会ー。
次々と起こる不測の事態に、俺、あかり、精霊、スタッフも社全体が衝撃を受けて大きく揺れていた。
差し当たって、今、会議室で行われている島民会との話し合いに、俺も、先日のようにキーに姿を消してもらい参加させて貰うことにしたのだが……。
「私も行くわ!」
あかりまでそう言い出し、俺も精霊達も保坂さんも危険だと必死で止めたのだが、頑として聞かず、何かあればすぐに精霊達が瞬間移動させる事として共に話し合いの場に向かう事になってしまった。
「緊急事態の今は、自分だけが安全圏にいるわけにいかないと思うの。島全体で何が起こっているのか私も知りたいの」
「あかりも、意外と頑固だからなぁ……。」
そう言いながらも、俺はあかりのそういうところにも惚れているので、強くは言えなかった。
「「何があろうと、我らが必ずお守りします!島民会の奴らなど、いざとなったら氷漬け(火責め)にしてやります!」」
「キーちゃん、ナーちゃん、気持ちは分かるけれど、なるべく穏便にね?」
キーとナーは気合を入れまくっていて、あかりは苦笑いで諌めていた。
✽
「椙原様、いきなり新しい贄を連れて来たとは、どういう事ですかな?
贄は生き神様が選ばれるものであって、何人もその選択に干渉する事は出来ません。生き神様への不敬と捉えてよろしいですかな?」
「まぁまぁ。菊婆。そうカッカされずとも。若い人達が萎縮してしまうではないか」
二人で一つの透明の膜をキーに張ってもらい、会議室へ入って行くと、菊婆と例の椙原のジジイが、対峙しており、その隣にはショートヘアのスーツ姿の女性と二人の男女が……。
「茜……!冬馬……!」
思わぬ人物を見かけて俺は目を剥いた。
「真人?あの人達知り合い?」
「あ、ああ。そっちの女子の方は、元許嫁の香月茜。あっちのいけ好かないイケメンは風切冬馬。あいつには生き神に対しての誤った情報を吹き込まれた事もある。
どっちも幼馴染みだが、あんまり仲いい方じゃねーな。」
「……!! あの人が真人の許嫁……!」
あかりは香織を見て目を見開き、そして、冬馬に視線を移して更に驚愕の表情になった。
「あ、あの人……!夢に出て来た人と気が全く同じ……!そ、それに……。」
「あ、あかり……??」
言葉が続かず震えるあかりを不思議に思うと、キーとナーは、言い辛そうに補足した。
「真人。贄の候補者は、お前の他にもう一人いたと言っておっただろう?」
「風切冬馬は、その、もう一人の候補者なのだ……。」
「な、何だって!?」
あいつが、もう一人の贄の候補者……!
俺に生き神の間違った情報を吹き込み、島から逃がそうとしたのは、俺を追い出して、自分が贄になる為??
そんな策略を持つ奴が島民会とグルになったのなら、もう嫌な予感しかしねぇ!
「ま、真人……。」
衝撃を受けている俺をあかりが不安気に見上げて来た。
「大丈夫だ。俺が必ず君を守るから!」
「真人……!」
俺達はお互いの手を重ね合わせて、話し合いの行方を見守った。
「いやね?風の噂で聞いたんじゃよ。生き神様は、生身の肉体を持つ
「……!! な、何をそのような馬鹿馬鹿しい事を……。生き神様は400年前からずっと生き続けている人智を超えた存在であらせられます。
椙原様、昼間から酔いが回られているのであれば、家でゆっくり休まれた方がよいのではないですかな?」
「いやいや、儂は寧ろ現実的な話をしとりますよ?もし、仮にそういう事があったのなら、若い男を徴集する贄制度にも合点がいくと感心したのでありますよ。ヒャヒャ……!」
椙原のジジイは、菊婆の嫌味も堪えず、膝を打って笑い出し、不快な事この上なかった。
「しかしですな?今回の贄は、かなり問題が多いと聞きまして、島民会として心配に不安になりましてな。」
「今の贄様が何ですか?今度はかの方への不敬ですかな?」
椙原のジジイの言葉に菊婆ピクリと眉を動かした。
どうでもいいけど、菊婆が俺の事、贄様って敬意を払って呼ぶのこれが初めてで、ちょっと驚いた。
「あ、いや。今の贄様は、菊婆のお孫さんでいらっしゃいましたな?アヒャヒャッ!これは、失敬!!」
椙原の馬鹿にしたような態度、癇に障る笑い声に、俺もこめかみをピクピクさせながらあかりと握っていない方の拳を握り締めた。
「でも、お孫さんの躾を一からやり直した方がよくないですかな?最初の儀式は暴れてぶち壊す。伝統的なしきたりを破って決められた日時以外にも勝手に催し物を立ち起こすなど、やりたい放題とお聞きしておりますぞ?」
「全く存じません。どこから、そのような事をお聞きしているのでしょうか?」
菊婆は、能面のような表情で椙原に聞き返した。
「真人……。」
不安気に俺を握る手に力を込めるあかりに、俺は頷いた。
「ああ、かなりの情報が敵方に漏れてる。疑いたくはないけれど、やはり、社に内通者がいるとしか思えないな……。」
「さるところからの確かな情報ですがの。そして、最大の難点は、これじゃよ……。社さん側はデータを取るのがお好きのようじゃから、ホレ!よくご覧に」
『『……!!』』
「……!? これはっ……!」
「「「「「「……!!」」」」」」
椙原のジジイがかざした1枚の書類に、俺とあかりも、菊婆を始めとしたその場にいた社のスタッフ一同も、目を見張った。
その書類には俺の名前と非閉塞性無精子症との診断名が書かれていたのだ……!
「例え生き神様が生身でなく、例えその役目が例え形式的なものであろうとも、島の生命に恵みを与える神聖な儀式に携わる贄にこのような欠陥があるのは、問題ではないかと騒ぎになりましてなぁ。
島民会としては、新しい贄の若者を生き神様にご提供すべく、社に参った次第です。ホレ。風切くん達。ご挨拶。」
「島民会に新しい贄として推挙されました風切冬馬です。よろしくお願いします。」
「その許嫁の香月茜です。よろしくお願いします。」
「風切総合病院の看護師兼彼らの補佐役の
冬馬、茜、後見人の女性が次々に挨拶し、妖しい笑みを浮かべていた。
『俺が無精子症……??冬馬が、新しい贄……??茜が冬馬の許嫁……??な、何なんだよ、これ……。』
『真人っ……。』
次々に襲いかかる衝撃にキャパオーバーの俺は、あかりが悲しげな瞳で俺を見詰めているのに気付く余裕がなかった……。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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