第19話 閑話 生き神様の尾行

『(おぅい!キーとナー!ちょっと人と会う約束して、屋敷を抜けたいんだけど、俺の監視役としてどっちかついて来てくれない?)』


自室で、私が気を高める練習をしていたところを見守ってくれていたキーちゃんナーちゃんが、何かに気付いた様子で、ピクッと体を揺らした。


「ふうっ…。また真人か。最近のあいつは本当に精霊遣いが荒い。」

「本当にな。今回は儂が行こう。」


「うむ。それなら、頼むぞ?ナー。」


双子の精霊達は何やらコソコソと打ち合わせをすると、ナーちゃんの方が申し訳なさそうに私にお伺いを立ててきた。


「生き神様、申し訳ないのですが、また祭りの準備とやらで真人に呼ばれまして、少し席を外してもよろしいでしょうか?」


「ええ。もちろん構わないわ。真人を手伝ってあげて?」


私はにっこり笑顔で承諾した。


「ありがとうございます!キー、生き神様をよろしく頼む。」

「おう。分かっておるわ。」


「では、失礼致します。」


キーちゃんに、私の事を言い置いて、ナーちゃんがフッと姿を消した後、

私はキーちゃんに詰め寄った。


「祭りの準備で忙しいのは分かるけど、何やら、今回はコソコソしていて怪しいわね。

一体真人と何を画策しているの?」


「えっ。いや、その…。」


慌てているキーちゃんに、私は更に半目で言い募った。


「キーちゃん、ナーちゃんが真人と仲良くなってくれるのは嬉しいけど、

生き神である私に隠し事をするのはどうかと思うわ?」


「そ、そんな!生き神様に隠し事など、滅相もない事です。

ただ、真人がサプライズが生き神様の為になるからと主張しやがりまして…!」


「サプライズ…?」


私は首を傾げると、キーちゃんは気まずそうに頷いた。


「ハ、ハイ。最近のあやつは、どバカのくせに良くわからない勢いがある故、流されてしまいまして…💦」


「よく分からないけど、真人はサプライズの企画を私には知られたくないという事ね?


真人の前では知らない振りをするから、真人のそのサプライズを探るのに、同行してもらとてもいいかしら?」


「え。も、もしや…。」


「ええ。キーちゃん。また、私にあの姿を消す術をお願い!」


手を組み合わせて頼み込む私に、キーちゃんは引き攣った笑いを浮かべた。


「ま、また、このパターンですか…。了解致しました…。」


         * 

         *


キーちゃんと姿を消した私はナーちゃんと真人がお屋敷から出て来るところを後ろからこっそり追跡した。


(精霊は、普段は意識をして贄に姿を見せるようにしている為、キーちゃんが気配を消せば、真人の目には映らないそうだった。


ナーちゃんには私とキーちゃんがついて来ているのは分かってしまうけれどね。)

  


「このドアホがっ!!たかが贄のくせに、精霊遣いが荒すぎるぞっ?」


怒りながらもついて来てくれたナーちゃんに真人は宥めるように言った。


「ま、まぁまぁ!これも、全てあかりの為だって言ってるだろう?

あかりの喜んだ顔、ナーは見たくないのか?」


「うぐっ。また生き神様を盾にしおって!お前、やり口が明人に似て来たんじゃないか…?

(大体、もう、生き神様にはバレておるわ。どアホめ…。)」


「「……。💧」」



ナーちゃんが渋い顔をして、一瞬チラリと私とキーちゃんの方を見遣り、三人で気まずく顔を見合わせたところ…。

「クルックー!!」


真人が運んでいる鳥籠の中の鳩が嬉しそうな声を上げた。


「(あら、可愛い綺麗な鳩ね?誰かが飼っているのかしら。)」

「(あちらの者の鳩のようですな…。)」



「生き神様!どうか、贄となった友人に会えますようにっ!!」

「会えますようにっ!!」


拝殿の方を見遣れば、手を合わせ、大声を張り上げている、真人と同じ位の年の男の子と女の子がいた。


男の子は真人のお友達かしら…?

女の子は、もしかして真人の元許嫁さん…とか?


私が緊張に手を握り締めると、キーちゃんはそれに気付いたように私に声をかけた。


「(女子の方は真人の許嫁ではありません。

おそらく、友人の許嫁か友人といったところでしょう。)」

「(そ、そうなのね…。)」


私は安心してフッと体が抜けた。


「おお〜い!!トシ!!渡良瀬さん!!」


真人は鳩の鳥かごを持っていない方の手で、大きく手を振った。


「…!!ま、真人!!」

「…!!ま、真人くん!!」


真人の友達の男の子と女の子は、真人を見て目を大きく見開き、駆け寄って来た。


「本当に、真人だっ…!!お前、今までどうしてた?元気にしてたのかよ?」

「真人くん、社ではひどい事されてない!?ちゃんと、ご飯食べさせてもらってるっ?」


深刻な顔のお友達に矢継ぎ早に質問され、面食らいながらも、真人は片手でガッツポーズをとった。


「お、おお!まぁ、色々大変な事はあったけど、この通り元気、元気!噂みたいにひどい事はされてないし、ご飯は今まで以上に食べてるぜ?」


「「よ、よかった…。」」


二人は涙目になり、ホッと胸を撫で下ろした。


真人は、そんなお友達を感慨深そうに眺めると、小さな鳥かごに入った鳩をトシと呼ばれている友人の男の子に引き渡した。


「トシ!伝七郎で知らせてくれてありがとうな?こいつにも久々に会えて嬉しかったぜ!ありがとうな?賢いぞ?伝七郎。」

「あ、ああ…。伝七郎、良くやったな?」

「偉いよ?伝七郎?」


「クルックー!!♡」


鳩は、主人の近くで、皆に褒められ誇らしそうな声を上げていた。


「それで、お願いしたものなんだけど…。」


「ああ…。絹。」


「うん。はい、真人くん!これ、頼まれていたもの!」


絹と呼ばれている女の子に差し出された大きな手提げ袋を真人が重そうに受け取っている。


「(あれは一体何かしら?)」

「(おそらくあれがサプライズとやらでしょう。)」

「(ふ〜ん。あれがサプライズというものなのね?)」


キーちゃんの説明に、私は感心するとその手提げ袋を食い入るように見詰めた。


「ふふーっ。結構重いでしょう?女の子の好みそうな服一式と、髪留めと、今、女の子に人気の少女漫画と、あと、美容に良さそうな無印◯品のドライフルーツ入れといた!」


女の子が説明した袋の中身は、素敵だけれど、真人が使いそうなものはなく、私はそれをどうするんだろうと首を捻るばかりだった。


「おおっ。ありがとう!渡良瀬さん。手間かけさせちまったな…。」


「いやいや〜。楽しかったからオールオッケーだよ!久々にトシちゃんともデートできたしね?ねっ?」

「お、おう…。//」


女の子はそう言い、隣の男の子にウインク

すると、彼は赤くなっていた。


あっ。やっぱり、この絹さんという子はトシさんという真人の友達とカップルなのね…。


私は仲睦まじい二人の様子を微笑ましく思った。


「あれ?なんだ、甘酸っぱい空気出してんな…!羨ましいぞ、この野郎!」


真人が唇を尖らせて文句を言うと、トシさんはむきになって主張した。


「真人が、デートしろって言ってたんだろが!大体、真人はどうなんだよ?」


「へ?」


「真人くん、そのプレゼント、明らかに好きな人に贈る奴だよね?誰々?社のスタッフの人?」


…!!


その「サプライズ」の紙袋は、真人が好きな人に贈るプレゼントだったらしい。


確か、真人は私の事を好きだと言っていたわ。も、もしかして、真人は「サプライズ」で私にプレゼントを用意してくれたって事かしら…!?


私は胸がドキドキしてきた。


「え。えっと、その…。」


トシさんと、絹さん両方から詰め寄られ、真人はタジタジになった。


なんて答えるのか、私も息を詰めて見守っていると、真人は、しばらく悩んだ末に…。


「お、おう…。いつもお世話になっている社の人…だよ…?」


!??


お世話になっている社の人…??


そのプレゼントを贈る相手は私じゃないの…??


真人の答えに私はがっくりと肩を落とした。


「「(い、生き神様…。)」」


キーちゃんとナーちゃんがそんな私を心配そうに見てくる。


「へー!あれ?社のスタッフの人で、そんな若い人っていたかな?

うちの従妹、社務所で時々バイトしてて、スタッフさんとも顔を合わせる事あるけど、そんな若い人はいなかったって言ってた気がするけど…。」


「そそ、そうなんだ?社務所に関わらないスタッフさんもいるかもよ…?

名前知らない人と、あ、あと保坂さん…」


ほ、保坂さん…?!


真人が呟いた名前に私は更に打ちのめされた。


「保坂さん?真人くんの好きな人、保坂さんっていうの?」


「えっ、いや、違っ…!」


「照れるなよ!真人。その保坂さんって人と想いが通じるといいな?」

「頑張ってね?真人くん!」

「いや、違うんだって〜!」


彼らの楽しげなやり取りは更に続き、私はショックのあまり、その場に膝をついた。


「(ま、真人の好きな人が保坂さんだったなんて…!_| ̄|○ il||li)」


少し年上ではあるけれど、確かに保坂さん、いい人だし、美人さんだし、胸も結構あったような気がするわ…。


母性本能をくすぐるタイプの真人が、大人で包容力のありそうな保坂さんと恋仲になったとしてもおかしくないのかもしれない。


でも、真人、私にも好きだって言ったくせに…。


元許嫁さんやグラビアアイドルの女の子の名前も寝言で呼んでいたし、もしかしたら、真人の「好き」は女の子なら誰にでも言う言葉だったのかしら…?


「(ぐすっ。真人ったら、チャラ過ぎるわ…。)」

「(いや、あの、生き神様…。あやつ、超ド級のどバカ発言をしましたが、誤解だと思いますよ。)」


涙目になった私にオロオロしたキーちゃんが声をかけた時…。


「また、何かあったら頼んでくれよ?」

「うんうん。資金もまだ少し余ってるしね?」


そうトシさんと絹さんが真人に声をかけられた真人がきっぱりとした口調で言った。


「いや。力を借りるのは、今回限りだ。それはトシ達で使ってくれよ?」


「え。真人…。今更遠慮しなくても…。」

「そ、そうだよ。いつでも私達は真人くんの味方だよ?」


「ありがとう。でも、もう俺とトシ達は違う世界にいて違う道を歩んでいる。

もう俺達は会わない方がいいと思う。


俺の好きな人は、制約された環境の中で、今までたった一人で、想像も出来ないくらい重い責任を背負っていたんだ。


これからは、俺も同じ世界で生きて、彼女を守っていきたいと、そう思ってるんだ…。」


「「真人(くん)…!」」


「(真人…?)」


今の発言は一体…?真剣な表情の真人を見詰め目を瞬いていると、キーちゃんが私にそっと話しかけた。


「(あやつは生き神様の事を話していると思いますよ…。)」

「…!!」


少し遠くから、ナーちゃんも私に向かって大きく頷いていた。



「何だよ、真人!急に一人だけ先に大人になったみたいな顔しやがって…。

俺はこれで交流絶つつもりはないからな!伝七郎に、手紙、届けさせるからな!」


「おう。返事は出来るか分からねーけど、お前らの結婚報告ぐらいなら受け取ってやるぜ?」


「な、何言ってるんだよ!真人!」

「な、何言ってるの!真人くん!」

「へへっ。」


真っ赤になるトシさん、絹さんに、真人はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。


それから、帰っていく二人を切なそうに見送る真人を私は少し胸の痛む思いで見守った。



キーちゃんがそんな私を気遣うように、言ってくれた。 


「(さっきの件は、生き神様の情報を外に漏らす事は出来ぬ為、友人達にはあの様に言ったのでしょう。真人はどバカな奴ではありますが、生き神様に対しての想いは真剣故、儂らもつい力を貸してしまったのです…。)」


「キーちゃん…。」



「ふっ。お前…。熟女好きだったのか?これはキーに教えてやらねばの。(まぁ、そこで見ておるんだがの。)」


「もー、だから違うっつーの…!お前、分かってて言ってんだろ。


あかり、プレゼント喜んでくれるかな…。

あっ。ナーくれぐれもプレゼントの事は祭りの日まで内緒だぞ?」


「分かっておるわ…。(だから、既にバレているというに…。)」


「「(………。)」」


お屋敷に戻る途中、後ろについて、真人とナーちゃん、二人のやり取りを聞きながら、私は胸が熱くなるのを感じていた。


ごめんね。真人。「サプライズ」じゃなくしてしまって…。


でも、私、今の真人の気持ちが言葉に出来ないぐらい嬉しいわ…。


本来、生き神としては贄の特別な感情を受け入れてはいけない筈なのに、私は…。


『あかり、あなたは将来生き神になる身。絶対に恋をしては駄目よ…?』


先代生き神様である母様が、口癖のように私に言い聞かせた言葉が胸に響く。


母様は、どうしてあのようにおっしゃったのかしら?


贄に対しても恋をしては駄目なのかしら?


母様の思いを知りたいと、今、強く思った…。



*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。



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