第18話 伝七郎の知らせ
「いよいよ、祭り当日かぁ…。」
生き神様であるあかりに捧げる祭りを開催すると宣言してから、またたく間に4日が過ぎ、いよいよ祭りは明日に迫っていた。
自室で、机の上に手帳を広げ、何をやらなければいけないか、箇条書きにしていた項目を俺は一つずつチェックしていく。
「え〜と?食べ物関係は、刈谷さんにお願いしてるし、丸太の遊び場はキーナーに手伝ってもらって完成して、何度も安全確認してるし、作り物や、祭り用品は、当日、ヨーヨーを膨らませる以外は、ほとんど終わってるし?あ、後でビニールプールだけ先に膨らましといてもいいかもな。
あとは、飾り付けと、出し物の設置、全体の流れを確認しといた方がいいかもな…。」
スタッフ、精霊達にも協力をお願いして、自分も徹夜続きで準備を進めた結果、大体の用意は終わっていたが、後やらなきゃやらない事を新たに書き出していると…。
「あ。あいつに頼んだアレどうなったかな…。」
俺がそう呟いた時…。
コンコン…!
「…!!」
何かが窓を叩く音がして、俺が振り仰ぐと、見慣れた白い鳩がくちばしで、窓を叩いているのが目に入った。
「伝七郎…!!なんてタイムリーな奴なんだ!!」
ガラッ。パタタタ…ストッ!
俺は大喜びで、その鳩=伝七郎を中に迎え入れると、彼は俺の腕に止まり
「クルックー!」と嬉しそうに鳴いた。
この賢い鳩は、一ヶ月以上も会っていない俺の事を覚えてくれていたらしい。
「久しぶりだなぁ…!よしよし、エライぞ?伝七郎!そこでおやつ食べててな…?」
「クルックー!♡カリカリ…。」
俺は、伝七郎を撫でた後、彼用に用意していた器を前に進めてやると、彼は美味しそうにその中に入った粟を食べていた。
俺はその間に、彼の足の通信筒から、手紙を抜き取る。
小さく丸められていたその手紙を広げると…。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
真人へ
この間は、手の込んだ手紙をどうも!
言われた通り、例のもの用意してやったぞ?
今、神社の賽銭箱の近くにいるが、来れそうか?
しばらくはいるつもりだが、長く来れなさそうだったら、例のもの賽銭箱の裏に置いていくからな?
桐生俊也
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「おおうっ!ついに来たか…!」
俺はソワソワと体を動かすと、伝七郎が食べ終わるタイミングで、精霊達に呼び掛けたのだった。
「おぅい!キーとナー!ちょっと人と会う約束して、屋敷を抜けたいんだけど、俺の監視役としてどっちかついて来てくれない?」
*
*
「このドアホがっ!!たかが贄のくせに、精霊遣いが荒すぎるぞっ?」
怒りながらもついて来てくれたナーを俺は宥めるように言った。
「ま、まぁまぁ!これも、全てあかりの為だって言ってるだろう?
あかりの喜んだ顔、ナーは見たくないのか?」
「うぐっ。また生き神様を盾にしおって!お前、やり口が明人に似て来たんじゃないか…?」
ナーが渋い顔をしたところ…。
「クルックー!!」
鳥かごで一緒に運んでいた伝七郎が嬉しそうな声を上げた。
「生き神様!どうか、贄となった友人に会えますようにっ!!」
「会えますようにっ!!」
拝殿の方を見遣れば、手を合わせ、大声を張り上げている、学生カップルがいた。
「おお〜い!!トシ!!渡良瀬さん!!」
俺は伝七郎の鳥かごを持っていない方の手で、大きく手を振った。
「…!!ま、真人!!」
「…!!ま、真人くん!!」
学生服姿のトシと、渡良瀬さんは白い着物を着た俺を見て、目を大きく見開き、駆け寄って来た。
「本当に、真人だっ…!!お前、今までどうしてた?元気にしてたのかよ?」
「真人くん、社ではひどい事されてない!?ちゃんと、ご飯食べさせてもらってるっ?」
深刻な顔のトシと渡良瀬さんに矢継ぎ早に質問され、面食らいながらも、俺は片手でガッツポーズをとった。
「お、おお!まぁ、色々大変な事はあったけど、この通り元気、元気!噂みたいにひどい事はされてないし、ご飯は今まで以上に食べてるぜ?」
「「よ、よかった…。」」
二人は涙目になり、ホッと胸を撫で下ろした。
トシも渡良瀬さんも、友達想いで本当にいい奴らなんだよな…。
胸の温まる思いがすると同時に、贄になるという事は、彼らと決別して全く違う人生を歩んでいかなければならないという事を再確認して、俺の胸は痛んだ。
でも、流されていた時とは違う。今は、自分で決めた事だ…。
感傷的になり過ぎない内に、俺は用件を切り出す事にした。
俺は、小さな鳥かごに入った伝七郎をトシに引き渡した。
「トシ!伝七郎で知らせてくれてありがとうな?こいつにも久々に会えて嬉しかったぜ!ありがとうな?賢いぞ?伝七郎。」
「あ、ああ…。伝七郎、良くやったな?」
「偉いよ?伝七郎?」
「クルックー!!♡」
伝七郎は、主人の近くで、皆に褒められ誇らしそうな声を上げていた。
「それで、お願いしたものなんだけど…。」
「ああ…。絹。」
「うん。はい、真人くん!これ、頼まれていたもの!」
渡良瀬さんに差し出された大きな手提げ袋を受け取ると、結構ずっしりと重い。
「ふふーっ。結構重いでしょう?女の子の好みそうな服一式と、髪留めと、今、女の子に人気の少女漫画と、あと、美容に良さそうな無印◯品のドライフルーツ入れといた!」
「おおっ。ありがとう!渡良瀬さん。手間かけさせちまったな…。」
「いやいや〜。楽しかったからオールオッケーだよ!久々にトシちゃんともデートできたしね?ねっ?」
「お、おう…。//」
渡良瀬さんはそう言い、隣のトシにウインク
すると、奴は赤くなっていた。
「あれ?なんだ、甘酸っぱい空気出してんな…!羨ましいぞ、この野郎!」
唇を尖らせて文句を言うと、トシはむきになって主張した。
「真人が、デートしろって言ってたんだろが!大体、真人はどうなんだよ?」
「へ?」
「真人くん、そのプレゼント、明らかに好きな人に贈る奴だよね?誰々?社のスタッフの人?」
「え。えっと、その…。」
トシと、渡良瀬さん両方から詰め寄られ、俺はタジタジになった。
う〜ん。あかりの事は社の機密事項だから漏らす事はできない。
(まぁ、術をかけられているので、物理的にも言えないんだが…。)
かと言って、これだけ骨を折ってくれた二人に誠意を見せないというのも、何だしな…。
「お、おう…。いつもお世話になっている社の人…だよ…?」
「へー!あれ?社のスタッフの人で、そんな若い人っていたかな?
うちの従妹、社務所で時々バイトしてて、スタッフさんとも顔を合わせる事あるけど、そんな若い人はいなかったって言ってた気がするけど…。」
「そそ、そうなんだ?社務所に関わらないスタッフさんもいるかもよ…?」
あかりの世話係の女性は、確か若かったハズだ…。(名前知らないけど…。)
「あ、あと保坂さん…」
…は、俺の世話係だから、御屋敷の外へ出る事はないよな?
俺が考えながら呟いた言葉を、渡良瀬さんは聞き逃さなかった。
「保坂さん?真人くんの好きな人、保坂さんっていうの?」
「えっ、いや、違っ…!」
目を輝かせる渡良瀬さんに慌てて否定しようとしたが、それが照れているように見えたのか、トシにまで誤解されてしまった。
「照れるなよ!真人。その保坂さんって人と想いが通じるといいな?」
「頑張ってね?真人くん!」
「いや、違うんだって〜!」
困って頭を掻いたが、本当の事を言うわけにも行かず、俺の好きな人=世話係の保坂さん(40代)と認識したまま、トシと渡良瀬さんは俺に激励して帰って行った。
「ふっ。お前…。熟女好きだったのか?これはキーに教えてやらねばの。」
「もー、だから違うっつーの…!お前、分かってて言ってんだろ。」
お屋敷に戻る途中、いたずらっぽい笑みを浮かべてからかってくるナーに、俺はげんなりした顔で否定したのだった…。
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