第17話 島民会
「もぐもぐ…。うむ。酸味と甘味のバランスが絶妙でなかなかの味じゃな。
カップの部分はもう少しサクサクした生地のほうがよいかもしれぬと、厨房スタッフに伝えよ。」
「おう!伝えとくよ。それでさ、キー…!」
蜜果飴を食べて、味の感想を伝えてくるキーに頷きながら、焦れたような声を出すと…。
「分かっておる。真人、そこにじっとしておれ!ふんっ!!」
ポワン…。
「わっ!!」
キーは俺に呼びかけると、揺らめく光のオーラのようなものが俺を包み、体にピッタリ張り付き、薄い光の膜を纏っているような格好になった。
「光の反射で、外から見た者にはお前の姿は見えないようになっておる。ただし、接触はできるし、内部からの大きな音に弱く、大声を出すと術が解けてしまう故、気をつけるのだぞ?」
「へー!すっげ…。!!」
キーに注意された傍から大声を出しそうになり、俺を取り巻く光の膜が頼りなくフルルンと揺れ、俺は慌てて口を手で塞いだ。
「(わ、分かった。気をつけるよ…!)」
「本当に大丈夫かの…。」
小声で付け足す俺に、キーは渋い顔でため息をついた。
*
*
「椙原(すぎはら)様、寄附金の方確かに頂きました。
今回も、島民会の寄付を取りまとめて頂きまして、誠にお有難うございました。」
「ハッハッハッ。菊婆、なんのなんの。」
和室のテーブル奥にふんぞり返って座っている爺さん=島民会取り締まり役の
見えない姿になった俺とキーは部屋の片隅で見守っていた。
「島で唯一の生き神様がおわします社の運営資金に使って頂けたなら何よりですわい。
島中の寄附を集める為、骨を折った甲斐があったというもの。
ただですなぁ…。最近の若い者や、外部の者は、生き神様に信仰が薄い者も多くて、なかなか今まで通りの金額を収めるのが難しくなって来そうでしてなぁ…。」
そう言って、椙原(すぎはら)の爺さんは、菊婆をチラッと見て、嫌な笑みを浮かべた。
「次回は、従来の半分程しか持ってこれんかもしれんですわぁ…。」
「(はっ?半分…!?いくらなんでもひどくない?)」
「(ホラ、来た…。椙原家は代々島民会を取り仕切っており、嫌味な奴が多いが、こいつは特に最悪じゃな…。)」
椙原の爺さんの言葉に、俺は顔を強張らせ、キーは蔑むように片目を眇めた。
「それは、困りますね…。社の運営が立ち行かなくなってしまいますじゃ…。」
菊婆は、そんな椙原の爺さんの横暴に慣れているのか、冷静に対応している。
「そもそも、生き神様があらせられるからこそ、この島は今の形を守っていられるのはお分かりですじゃろ?
こちらのデータをご覧下さい。」
菊婆は、机の上に置かれた書類を広げ、椙原の爺さんにグラスの数値を指し示した。
「ここ20年間の、地質調査の結果が現れています。明らかに、儀式の時期に、急激に地盤が強化されているのが分かりますよね?」
「うーん。データって言われてもねぇ…?こういうの儂はさっぱり分からんのじゃよね…。それに、これって、社の人が勝手にあつめてるデータでしょ?信用できんのかね…。」
椙原の爺さんは、書類から目を逸らし、馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「(てめーが寄附金半額にするって訳分からん事言ってきてるから、資料で説明してんだろが!ちゃんと聞けや、コラァ!💢)」
「(資料の見方も分からぬような取り締まり役なら、さっさと世代交代して、引退して欲しいの…!💢)」
俺とキーは、椙原の爺さんに怒り心頭で、本人目の前に言いたい放題言っていた。
「そうは言われましても、こちらは、社の者だけでなく、外部の研究員も関わって得たデータですので、反論している方に見せて下されば一定の理解は得られると思いますよ?
それでも、まだ、結果に疑問を持たれる方がいらっしゃれば、今後研究員達の地質調査を見学する事も検討いたしますがの…。」
暗に、もうお前は分からなくてもいいから、反対する奴らに資料を見せてくれと言う菊婆に、内心やるじゃねぇか!と感心した俺だったが…。
「ハッ!儂にも分からぬような資料見せられても、こちらの頭を疑われるだけじゃろ…。
儀式の時期に地盤が強化されるというのも、同じ時期に何か地理的な条件が重なって偶々そう観測されるだけじゃないかの?
本当に生き神様が儀式で地盤の強化をしているというなら、ぜひそのご尊顔を一度拝見したいものじゃ!
ヒヒッ。生き神様は、うら若く美しい
一度酌でもして頂きたいものですな。ハハッ。ハハハッ!!」
「なんて罰当たりな事を…!!」
下卑た笑いを浮かべる椙原の爺に、流石の菊婆も顔色を変えた時…。
「ざっけんな、このエロクソジジイ!!」
「度重なる生き神様への不敬!もう許せん!!」
憤怒に燃える俺とキーは、椙原の爺に突進した。
「ハアッ!!」
キイイン…!
キーは、椙原の爺が持っていたお茶の入ったガラスのコップに手を翳すと、氷漬けにした。
「ひっ!冷たっ…!?」
椙原の爺は、コップが急激に冷え、驚いて取り落とすと…。
パキィィンッッ!!
「ぎゃああっっ!!!」
椙原の悲鳴と共に、コップは落ちる前に、空中で破裂するように粉々に砕けた。
「なな、何、何がどうなってるんじゃ…!」
仰け反り倒れた椙原の爺の背後に回った俺は、奴の無防備な銀髪に手を伸ばした。
「ふっ。ジジイ!再びそのご来光、拝ませてもらうぜ!」
バッ!!
「ぎゃああぁっ!!///」
その自慢の銀髪カツラを落としてやると、椙原の爺は、そのキラピカリンに輝く禿げ頭を晒し、再び喚いた。
「おやおや、椙原様?どうされましたか?大丈夫ですか?」
菊婆が椙原の爺の一連の出来事に驚いたように問いかけると、顔を真っ赤にして、禿げ頭を両手で隠しながら奴は怒号を飛ばした。
「ど、どうされましたかじゃないっ!!菊婆よ!儂にこんな事をして、寄附金がどうなるか分かっておるのかっ?!」
「はて…?儂は何もしておりませぬが…。ただ、椙原様が急にコップを取り落とされ、割れたのに驚いて、尻もちを付き、大事なものを落とされたようにしか見えませんでしたが…。(ふっ。)」
菊婆は、首を傾げてそう言うと、袖で、僅かに微笑んだ口元を隠した。
「し、白々しい!コップは、落とす前に空中で破裂しただろうが!お前らが儂をコケにする為に何か仕掛けをしたんだろう!」
「それは、なんとも不思議な…!生憎社のものは、皆、そんな奇術は使えませぬ。
ですが…。」
菊婆は、椙原の爺から目を逸らして、一瞬、俺とキーのいる方を見遣ったので、俺はドキリとした。
「昔から、生き神様は、かの身をお守りする双子の精霊を使役しており、その精霊達は世にも不思議な術を使うと言われています…。
此度の、椙原様の発言に、精霊達が怒ってイタズラをされたのやもしれませぬな…。」
「なっ。そのような事、あるわけが…!」
「もしくは、代々島民会を取り纏めておられた、椙原様のご先祖様が、今の言動を嘆いておられるのかも…。」
「ハアッ?人を小馬鹿にするのもいい加減に…!」
椙原の爺が菊婆に詰め寄ろうとした時…。
キーがしわがれた老人の声音で奴にひそっと囁いた。
『ごう坊…。お前のやっている事を見ておったぞ…?生き神様に対する言語道断な言動。
身内として、実に嘆かわしい…!!尻百叩きの刑でも間に合わんわ…!』
「じ、じいちゃん?!?||||||||」
椙原の爺は、途端に震え上がり、周りをキョロキョロ見回した。
「あの、椙原様、またどうされたのですか?」
「…!!菊婆には何も聞こえんのか?」
菊婆がまた怪訝な顔で尋ねると、
「ええ。儂には何も聞こえませぬが…。」
「そんな…。確かに今、ハッキリと耳に…。」
『このまま、椙原家の家紋に泥を塗る行為をするのなら、早めに儂らのところへ連れて行っやった方が世の為かも知れぬなぁ…?』
「ひぎいいっっ…!!」
そう言ってキーが袖を軽くと、椙原の爺は涙を吹き出し飛び上がった。
「うわあぁっ!じいちゃん、ごめんなさいっ!!企業に金もらって、寄附を減額しようとしてた俺が悪かった!!許してぇっ!!ううっ…!あっちにはまだいきだぐねえよおっ!!」
泣きじゃくりながら、子供のような口調でその場に土下座し始める椙原の爺を(見えない)俺も菊婆も呆気に取られて見ていると、キーが重々しく頷いた。
「うむ。悔い改めるなら、今回だけは許してやるが、2度はないぞ?」
「ふぁ、ふぁいっ!じいちゃん、すいませんでしたぁっ…!!」
「あっ…!椙原様…!大事なもの(カツラ)と資料を…!」
菊婆が呼び止めるのも聞かず、椙原の爺は、ツルッパゲのまま、その場を立ち去って行ってしまった。
「キー。椙原の爺が死んだ祖父さんに弱いってよく知ってたな…?」
「ふっ。年の項よ…。あやつが幼き頃、やんちゃして、先々代に尻百叩きの目に遭っているのをよく見ておったからの。」
話の通じない老人には更に老人を。
更に最強なのは、それより遥かに年齢を重ねてその事を知っているキーだな…と、目の前の精霊の叡智に感心してしまった俺だった。
しっかし、ジーさんバーさんの子供への罰がケツ百叩きなの、あるあるなのか…?
小さい頃も椙原ジジイのカツラをとって、菊婆にケツ百叩きに遭った事を思い出しながら、俺は苦い笑いを浮かべたのだった…。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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