第2話 双子の生き神
3回目の儀式の後、儀式で寿命を半減させてしまう生き神の運命から、あかりを守ってやれない自分がふがいなくて、あかりをいつかは失う時が来るのが辛くて、号泣してしまった俺に、あかりは尊い涙と「愛している」という言葉をくれた。
そして、俺達は未来の約束を交わし、抱き合ったのだった。
あかりの柔い温もり、鼓動を全身に感じながら、俺は全てを彼女に捧げると心に誓っていた。
長い抱擁の後、あかりは遠慮がちに俺の顔を覗き込んで来た。
「真人…。大…丈夫…?もう、気持ちは落ち着いた…?」
「あ、ああ…。ずっ…。大丈夫だよ。過酷な運命を負っているのはあかりなのに、俺が取り乱したりして、ごめん…。」
守ってあげたいと思っている彼女に逆に心配そうに気遣われ、恥ずかしい思いで俺は涙と鼻水の跡を拭った。
「いいえ。私の事を想ってくれるのは、とても嬉しいのよ?
真人が、あんまり一生懸命考えてくれるものだから、私も思い出したのだけれど…。」
「??」
遠い目をして、あかりは思いがけない事を語り出した。
「生き神の寿命が半減するようになってしまったのは、大体200年程前かららしいの。」
「えっ…。」
目を見開く俺に、あかりは続けた。
「それまで、始祖の生き神様から何代かは、その血が色濃く、魂の器が大きくていらっしゃった為、神の力を使いこなし、先読みなど今より多くの能力をお持ちだったそうなの。
そして、次代の生き神に能力を後継者に継承した後は、寿命を使い果たす事もなく、後見役としての役目をされていたそうよ。」
「そ、そうなのかっ?!じゃ、じゃあ、時代の生き神の力を取り戻せれば…!」
あかりが、生き神の儀式で寿命を縮める事もなくなるのではと俺は興奮気味に拳を握ったが、彼女はふるふると首を振った。
「いえ。それは難しいと思うわ。後の代になる程、生き神の血は薄まってしまって、やはり、段々と寿命も縮まっていってしまったの。
そして、200年程前、今まで必ず一人しか生まれなかった筈の後継者が、双子で生まれたとき、それは顕著になったわ。」
「…!!生き神が双子で…?!」
「ええ。女の子と男の子の双子だったそうよ。前例がない事に、社は大騒ぎになったそうよ。
神の力を受け継ぐ能力を持っていたのは、女性の方だけだったから、生き神にはその方がなられたみたいだけど…。」
「お、男の子はどうしたんだ?」
俺が恐る恐る聞くと、あかりは辛そうに言い淀んだ。
「そ、それが、その…。
男性の方は、能力がなくても、生き神様から生まれた子が、外で生きて行く事はもちろん許されなくて、ほとんど牢のような場所に軟禁されて、若くして命を落とされたそうよ…。」
「…!!」
双子の片割れの悲惨な末路に、衝撃を受ける俺に、あかりは哀しげに目を伏せた。
「女性の方は、生き神様になられたのだけど、その代から、魂の器は先代より更に格段に小さく、寿命も半減してしまい、神の力も儀式やいくつかの術を使うのがやっとの事で、先読みや他の多くの能力はその時に失われてしまったようなの。
キーちゃん、ナーちゃんはその時代の事を話すのが、とても辛そうで、あまり詳しくは聞けなかったのだけど…。
私、その話を聞いた時、もしかしたら、双子の片割れの男性にも、実は神の力を受け継ぐ力が隠されていて、実は、失われた先読みの力や他の力を継承していたのかもと空想したり、
過去、生き神になり得るかもしれなかった双子の片割れの男性に、ひどい末路を送らせてしまった業として、私達生き神が寿命を縮めるようになったのではないかと思ったりしたわ…。
だから、その事を変えられないからって、真人が自分を責める事は全くないのよ?」
「…!! けど、それはあかりのせいでもないじゃないか…!」
生き神の歴史に圧倒されながらも、だからといって、過去の生き神や社がやった事の罪を、あかりの代まで償わなきゃいけないなんて、俺は納得出来なかった。
だけど…。
「真人…。私の為に怒ってくれて、ありがとう。
でも、私はそれを仕方のない事として、もう受け入れているの。こんな運命に巻き込んでしまってごめんなさいね。」
「あかり…。」
あかりに悲しい顔をさせてしまいそうだったので、それ以上その事に触れる事は出来なかった。
「ごめんなんて言うなよ。今までクソみたいなもんだった俺の人生は、あかりに出会って初めて始まったようなもんなんだからさ。
こんな優しくて可愛い女の子と相思相愛になれて、俺は幸せだよ?」
「えっ。相思相愛?!」
俺の言葉に焦ったような声を出すあかりに頷いた。
「うん!さっき、俺に「愛してる」って言ってくれたよね?」
「そ、そうだけど、あ、あれは…贄として…その…。」
しどろもどろで真っ赤になっているあかりに向かって、俺は親指を立てた。
「おう。君に愛される贄であり続ける為に、俺は何でもやってやるぜ!」
さっきの生き神の話、あかりは否定していたが、過去の話からあかりを救う手がかりが見つけられるかもしれないと僅かな希望が見えた。
あかりが生きている間、俺は全身全霊をもって彼女の笑顔を守る。
そして、運命を変える方法が少しでもあるのなら、諦めない。
そう決意も新たにしたところで、あかりはこちらを恥ずかしそうにチラチラ見ながら、小さい声で呟いた。
「じゃあ、次は『継嗣の儀』で協力をお願いするわね…。」
「『継嗣の儀』??」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、あかりの顔は更に深い紅に染まった。
「後継者作りの儀式の事よ…。」
「おうふっ?!」
どんな事でもやってやる覚悟でいても、パピーになる事はまだ想定していなかった俺は突拍子もない声を上げてしまった。
*あとがき*
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m(_ _)m
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