第3話 もう一人の生き神
『じゃあ、次は『継嗣の儀』で協力をお願いするわね…。』
『後継者作りの儀式の事よ…。』
「でへへ…。」
3回目の儀式の後ー。
自室に戻った俺は、先程のあかりの顔を赤らめての発言を思い出していた。
今までの3回も、(避妊なしに)そういう行為をしていながら、儀式に気を取られて子供が出来る事を全く想定していなかった。
急に心配になり、もう妊娠している可能性はないのかとあかりに聞いたのだが、あの洞窟での儀式は、生命エネルギーが全て島を守る為に使われている為、妊娠する事はないのだそうだ。
島を守る為の『儀式』も、『継嗣の儀』も、始祖の霊力によって、それぞれの目的に相応しい場が設置されていて、基本的に、そこでしか生き神と贄は接触出来ないという事になっているらしい。
儀式の合間に、謝罪したいからとか、祭りを開催するとか、いろんな理由であかりを呼びつけて、決まりを破らせてしまっている事に申し訳なく思ったが、それがあったからこそ、あかりとの距離を縮めて、「贄として愛している」とまで言ってもらえたのだとも思う。
(そして、彼女からのチューもめちゃめちゃ気持ちよかった。)
自分の心身よりも、生き神の責務を優先する彼女にとって、あれは、最大限の譲歩で、精一杯の愛情表現だったろう。
(あかりの豊満な胸には愛が沢山詰まっているんだ…。)
気持ちを向けてくれるようになった彼女の為に、自分も出来るだけの事をしなければと思い…。
「「明人(先代贄)づてに人を呼び付けたと思ったら、何、マヌケ面でニヤニヤしておるのだ。ドバカ(ドアホ)よ…。」」
「うをっ!キーとナー!いつの間に…!」
気付けば宙に浮いているキーとナーに憮然とした表情で見下ろされていた。
「あれ?俺、ニヤけてた?今は結構真剣に考え事していた筈なんだけど…。すまん、すまん…。」
ところどころ、邪念が入り込んでしまっていたらしい。俺は口元を引き締めると、キーとナーに向き合った。
「キー。ナー。お前達を呼び出したのは、聞きたかった事があるからだ。
生き神の寿命が半減するに至った200年前の出来事について、教えてくれないか?」
「「っ…!200年前の事…だとっ!?」」
俺の頼みを聞いた途端、精霊達は辛そうに顔を歪めたので、急いで付け足した。
「お前達にとってあまりいい出来事ではないだろうに、蒸し返すのは悪いと思ってる。
けど、俺はまだ、あかりを救う手立てを探すのを諦めたくない!
俺はその時代の出来事に、あかりの寿命を縮めないですむヒントがあるんじゃないかと思っているんだ。
頼むから、詳しく俺に教えてくれないか?この通りだ!」
精霊達の前で膝をつき、土下座をして頼み込むと…。
「……。よかろう。」
「「……!」」
先にキーが返事をすると、床に擦り付けていた俺の頭のすぐ先まで下りてきた。
「キー!ありがとう!!」
「キー!よいのかっ?」
俺は顔を上げ、キーを崇めるように手を組み合わせ礼を言い、ナーは慌ててその後を追い、キーの肩を揺さぶった。
「(ああ。事態は深刻じゃ。こやつにそれを伝える事がもしや必要な事なのかもしれぬ。)」
「(…!そ、そうじゃな…。今は四の五の言える状況ではなかったのじゃったな。)」
二人は眉を顰めて何やらヒソヒソ話をした後、一斉に俺を振り返った。
「「では、真人よ。200年前の出来事について、知りたい事があるなら何でも聞くがよいぞ。」」
「おう。ありがとう、キー、ナー!」
俺は、双子の精霊に再び深々と頭を下げた。
✽
「大体の事については、あかりから聞いているんだ。
確か、双子の生き神が生まれて、その代から、生き神の寿命は短くなってしまったんだよな?」
「ああ、そうだ…。双子の内、弟君の方は若くして亡くなり…、姉君の方が生き神様になられたが…。」
「先代の生き神様より魂の器が小さく、寿命は短くなってしまわれた。
あの時代の生き神様方は皆、痛ましく、見ていられない程であった…。」
苦しげに眉間に皺を寄せたキーとナーに代わる代わる説明され、俺は神妙な顔で頷いた。
「ただでさえ、過酷な運命を背負う生き神様にとって、その時代は特に苦しい時代だったんだな…。
それで…。双子の男性の方は若くして亡くなったという話だったけど、その人が死んだのを、キーとナーは確かに確認したのか?」
「「??どういう意味じゃ?」」
「いや、お前らからその話を聞いて、あかりはその男性に実は神の力を受け継ぐ力が隠されていて、失われたっていう先読みの力や他の力を継承していたのかもって空想してたらしいんだけどよ。
俺もその線で考えてみたんだ。本当はその男性が生き伸びて、その子孫に神の力を受け継げるような魂の器を持った者がどこかにいたとしたらって。」
「「な、何を突拍子もない事を言っているのじゃ?お前は…!」」
目を丸くする精霊達に更に俺は主張した。
「いや、もしもって、可能性の話だよ。だってさ。儀式とかに関しては、今の生き神の命を縮める位、神の力の強大さが保たれたまま受け継がれているというのに、先読みや他の能力だけが200年前に消えてしまったというのは、おかしくないか?
誰かがそれを受け継いでいるとしたら、その子孫の人に頼み込んで生き神様になってもらって、あかりの持つ神の力を分散させて、分担して儀式に臨めば体の負担も少ないんじゃないかと思ったんだけ…。」
「「ドバカ(ドアホ)!!」」
俺の意見は主張している途中で、精霊達に一蹴された。
「荒唐無稽な妄想はやめい!
神の力は起爆剤のように扱うのが難しいものじゃ。生まれた時から先代生き神様からその扱い方を学ばれ、鍛錬を積んだ当代の生き神様だからこそ行使できるのだぞ?
どこの馬の骨とも知らぬ子孫とやらにそんなに簡単に分担できるものではない!」
「え。そ、そうなのか…?」
くわっと目を見開いたキーに怒り混じりに反論され、俺は怯んだ。
「ああ。始祖様レベルの能力を持つ生き神様が二人いらっしゃるなら話は別じゃがな。そんな事態、天地がひっくり返ってもあり得ぬ話じゃっ…!!」
「ガーン…!」
「大体、当時、双子の弟君方の亡骸は、儂らはもちろん、母である当時の生き神様、双子の姉君である次代の生き神様もご覧になり、間違いなく命の気配が消えている事をご確認なさっている。
子孫がいるというお前の説は成り立たぬわ!」
ナーも、てんで話にならないという表情で手を振った。
「そ、そうなんだ…。いい案だと思ったのにな…。」
自信満々で打ち出した案を精霊達に尽く否定され、肩を落とした俺に、精霊達は呆れたようにため息をついた。
「全く、何を言い出すかと思えば…。
浅慮で、無茶な事をして生き神様にご迷惑をおかけするのでないぞ?ではな。
「ああ。生き神様が、できの悪い
フッ。
「うぐぐ…。」
精霊達は俺を諌める声かけをして、姿を消し、膝をつき、呻いている俺だけが後に残された。
「くっそぉ。精霊達め。相変わらず、辛辣な奴らだぜ!
こっちの案はダメだとしても、ぜってー諦めないからなっ。」
そう。あかりが島の皆の為に命懸けで儀式に臨むというなら、俺は彼女を救う為に命を懸けてみせる…!
ダメージを受けながらも、俺は不屈のガッツポーズを取ったのだった。
*あとがき*
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