少年と生き神様に試練が訪れる

第1話 心のままに向かう矢 《四条灯視点》

「「生き神様、どうぞ贄を決定する白羽の弓(矢)にございます。」」

「ありがとう。キーちゃん、ナーちゃん。」


双子の精霊達がそれぞれの手に霊力で現出させた白く光り輝く弓と矢を白い袴姿の私は慎重に受け取ると、それは生き神としての責務を象徴しているかのようにずっしりと重みがあった。


「間違えて射てしまわないようにしなければ…。」


私はゴクッと息を呑み、試しに白羽の矢をつがえ、弦を引いて見ると、意外にもそれは軽やかにしなり、操作はそれ程難しくはなさそうに思えた。


「安心なされませ。普通の弓矢とは違いまして、弓の技術はいりませぬ。」

「白羽の矢は、生き神様の心のままに飛んでいく弓矢でござりますれば…。」


「そうなのね…。」


キーちゃん、ナーちゃんの言葉に少し安心して、私は一度弓矢を下ろした。


対象となっている人の中から、群を抜いて、他のものより大きな気が二つ。


他を威圧するような冷徹な大きな気。

そして、それより少し劣るものの、火の玉のように勢いがある瑞々しい気。


どちらも、贄として役割を果たすのには問題ないけれど…。


「「生き神様の御心のままに、弓矢をお放ち下さい。」」


「分かったわ…。」


私は開け放たれた窓から再び弓を構えた。




『あかり…。次代の生き神として、後をお願いします。』


お母様は亡くなる直前、窶れたお顔で私に全てを託していかれた。


『は、はいっ…。母様の後任を精一杯務めさせて頂きたいと思っています。


ですが、私はまだ未熟者でして、迷ってしまう事があったら、何を頼りに心を決めればよろしいでしょうか。』


小さい頃から生き神になるべく社で育ち、教育されて来た私は、自分の責務は痛い程理解していた。


けれど、母様のような生き神の役割を果たせるか不安で堪らず、弱っているお母様に縋るようにそう聞いてしまうと…。


『その時は、生き神として…。』


お母様は、答えながら、少し目を閉じ…。


『進むべき道を自分の心が教えてくれるでしょう…。』


どこか遠くを見ながら母様は私にそう告げたのだった。


母様はそれから7日後に亡くなられた。




『心が教えてくれる』


私に生き神として厳しい教育を施した母様がそう言うのなら、あの時、既に私には生き神として取るべき正しい道が分かると思って下さっていたということなのだろう。


私が望むのは、母様のように、生き神としての役割をきちんと果たす事。


それなら、やはり、より強い気を持つ贄を選ぶのが、間違いがないだろう。


そう思って、私は一番大きな気の持ち主に向かって矢を向けたのだけれど…。


「っ…。!??」


その途端、ドクドクと嫌な動悸が走り、私は胸を押さえた。


「「生き神様っ?!」」


「だ、大丈夫よ。多分、緊張しただけ。」


心配した精霊達に手を横に振ると、再び弓を構え直した。


もう、私は島を守る生き神なのだから、しっかりしなければ!


そう思いながらも、何故か胸は不安にざわめき、矢をつがえるその手は震え、なかなか狙いを定める事が出来なかった。


どうしよう?あんなに覚悟を決めた筈なのに、今更になって、生き神になる事が怖いのだろうか?


これではいけないとフーッと息をつき、今度は、練習の為、二番目に大きな気の持ち主に向けて矢を向けてみた。


「…!」


今度は不思議な程落ち着いた気持ちで楽に狙いを定める事が出来た。


本番ではないと思っているせいだろうか。


それに、何故だろう。この温かい気、何だか安心するような…。


「……。」


私はもう一度一番目に大きい気の持ち主に向けて矢を向けると、胸がざわつき、

それから二番目に大きい気の持ち主に矢を向けると、ホッと気持ちが落ち着くのを感じた。


何なんだろう?この気持ちの変化は…?

生き神の責務を果たすのに、最も相応しい相手を贄に選ばなければならないのに…!


私の迷っている姿を見て、精霊達は心配げに私を気遣って来た。


「生き神様…。お顔の色が悪うございますが、大丈夫でございますか?」

「生き神様…。ご体調が悪いのなら、少しお休みになられますか?」


「あっ。い、いえ!大丈夫よ!今、決めるわっ!!」


精霊達に不安を感じさせてはいけないと、焦ってつがえた矢は…。


ヒュッ!


「あっ…!!||||」

「「…!!」」


思いがけず、明後日の方向へ飛び出してしまい、私は蒼白になった。


どうしよう?!


大事な贄の選択で、大失敗してしまった!!


先代贄のようなお方を選んで、お母様のように、立派な生き神になると決めたのに、こんな事って…!!


私は無意識に強いイメージを思い浮かべた。


温かく優しい笑顔を浮かべる贄と、手を取り合って、儀式に臨む生き神としての自分を…。


ギュンッ!ビュウーッ…!!


「!!」


矢の軌道が突然曲がり、方向を修正すると、私の飛び去って行った。


そうだ。弓の技術はいらないのだった。どこへ弓矢を構えようとも、私が心に思い浮かべた相手の元へ飛んで行くのだから…。


「「生き神様の選択、しかと見届けましてございます。」」

「え、ええ…。」


キーちゃんとナーちゃんが跪く中、私は弓矢から手を離し、胸に手を当てた。


今だに動悸は収まらないけれど、私はひどくホッとしていた…。

同時に、私は自分の意志で贄を選んだのだと実感できた。


「新しい贄、どんな人かしら?生き神の責務を果たすのに協力的だとよいけれど…。」


前向きな気持ちになって、精霊達に聞くと二人は何ともいえない微妙な顔をしていた。


「「は、はい…。生き神様の足を引っ張らないとよいのですが…。(よりによって、こっちが選ばれてしまったか…。)」」







*あとがき*

読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます✨✨


4章始まりまして、これから週一投稿していきたいと思います。次回からは3回目の儀式の後(3章最終話の少し前)のお話になります。


今後ともどうかよろしくお願いしますm(__)m




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