第2話 葛城真人の身の上話

 俺、葛城真人かつらぎまひと17才。

 2月14日生まれのみずがめ座。

 ちょっと吊り目のフツメン、現在成長途中の(大きく主張!)身長は154センチ…。


(俺の事を身長でからかう奴は、地獄を見ることになるぜ…?

 現に、以前俺の事をチビと言った幼馴染みのトシ(桐生俊也きりゅうとしや(17):身長は、俺と大して変わらぬ158センチ)には、昼食のパンに思い切り練りがらしを入れてやり、死ぬ思いを味あわせてやった。)


 そして、村で一番の高齢者にして、紅糸島の社を管理する菊婆さん=葛城菊子かつらぎきくこ(69)の唯一の孫。

 ちなみに両親は、幼い頃、姉と共に、海の事故で既に他界している。


 幼い頃から、「罰当たり」だの、「勉強しろ」だのしか言わない、迷信深く厳格な菊婆きくばあに反抗して、最近では、ほとんど口を効かない。


 俺を、跡継ぎの器ではないと早々に見切った菊婆は、自分の死んだ後の社の管理を、時々社の手伝いに来てくれる、早苗おばちゃん=御堂早苗みどうさなえ(51)に頼んでいるらしい。


 菊婆の死んだ後の俺の身の振り方については、許嫁の家業の酒屋を継ぐ事として、(俺の意見は全く無視され)大人達の間で合意がなされていた。


 この紅糸島では、許嫁が決められているのがごく普通の事だった。


 それというのも、住民の間で暗黙の了解とされている呪われた3つのルールのせいである。


 1つ目は、20までに皆、結婚する事。

 2つ目は、この島を出てはならない事。

 3つ目は、70になったら、皆一律に死ぬ事。


 1つ目は、大体その時期に皆が結婚するという習慣的なもので、破ったとしても、多少白い目で見られたりするが、特に罰せられる事はない。


 だが、2つ目は、破ると死をもってその罪を償うことになる。昔、島の若者がボートで島を出ようとした事が何度かあったらしいが、どういうわけか、その度に急激に天気が大荒れになり、脱出しようとした若者達は、後日水死体で発見されたのだという。


 島の住民の間では、神の怒りを買ったためと、恐れられ、言い伝えられ、今日に至る。


 3つ目は、70を越えると、殺される訳ではない。しかし、病気、老衰、事故、理由は様々だが、島の住民は71の誕生日を迎える事なく、自然と死を迎える。


 島の住民は、どうしたわけか、若い頃に大きな病気をすることは殆どなく、健康に過ごすが、70才近くになると、急激に死を迎える。それが、ここに暮らす住民の常識となっていた。


 俺に言わせれば、呪い以外の何者でもない。


 日本の平均寿命より、はるかに短い寿命を持つ島の住民は、生き急ぐように、20になったら社会に出て結婚をし、子を成し、島のライフサイクルを高速で回す必要があった。


 その為に、大体思春期に入る頃までには、家同士の婚活が終了し、許嫁が決まってるのが一般的だった。


 ちなみに、俺の許嫁は、同学年の、香月茜こうづきあかね(18)酒屋の娘で、ショートヘアで、くりくりっとした目のなかなか可愛い顔立ちをした少女なのだが、それも黙っていればの話だ…。


 これがまた、菊婆とは、違った意味で、口うるさく、俺に対して常に塩対応で手厳しく、クソ可愛くねぇ。


 小さい頃は、結構な悪ガキで、子供同士の社会では、お山の大将的な立場にいた俺に、茜が憧れて、結婚したいと言い出したのを、酒屋のオヤジが真に受けて、菊婆との話し合いで許嫁関係を勝手に決められてしまったのがお互いの運の尽き。


 思春期に入り、威勢だけはいいものの、勉強も、運動もできない俺のヒエラルキーは、下がりに下がり、今や、島の学校内での俺の立ち位置は、厨二病の終わらない、いきりキャラになってしまった。


 対して、思春期に入って可愛くなった茜は他の学年の男子にも結構人気がある。


 そんな自分と、カースト底辺の俺では釣り合いがとれないと思っているらしく、小さい頃俺の子分だった、同学年の風切冬馬かぜきりとうま(18)(島の病院の息子)が、高身長のイケメンに育ったのと、比較して、「あんたは、どうして、冬馬くんみたくかっこよくならなかったの!せめて、勉強ぐらいもうちょっと頑張れないの?」とギャーギャー責め立ててくる。


 知るかって話だ!

 だったら、最初から風切冬馬の許嫁になっとけばよかっただろうが…!


 俺だって、どうせ結婚するなら、もっと優しい可愛らしい女の子と温かい家庭を築きたかったよ!


 しかし、婿養子に入る予定となっている俺は立場が弱く、そんな不満を思うようにぶつける事もできない。


 茜の不満を耳タコのように、聞きながら、「善処します。」「前向きに検討します。」と唱える苦行のような毎日であった。


 茜と結婚したら、婿養子になって、酒屋をついで、茜の家族に気を遣いながら、茜にどやされながら、ボロ雑巾のようになるまで働かされるんだろうな。

 

ひょっとしたら、ショボイ俺に愛想を尽かせて、冬馬のようなイケメンと浮気された上、託卵とかされちゃってもおかしくない。

 

 それでも、この島で生きていく為には、文句も不満もいえない将来の俺の惨めな姿を思い浮かべた。


 俺には、外部の人が言うように、この島で生きる事に全く幸せな将来を見い出せなかったし、そうだと分かっていながら、弱くて情けない俺は、人に流されながらただ淡々と生きていくしかないだろうな。


 と、そう思っていた。


 島の社で祀られている生き神様に、文字通り、白羽の矢を当てられるまでは…。

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