少年は生き神様と遊ぶ
第1話 想い人への思慕
「はっ!」
「「「真人(くん)…!!」」」
目覚めると、俺は社のお屋敷の自室のベッドに寝かされており、近くにいた菊婆と、先代の贄である神山明人、保坂さんにホッとしたような表情で声を上げた。
「??え、えーと…??いてて…。」
皆に囲まれている状況に、戸惑って起き上がると瞬間体中にズキズキと痛みが走った。腕には、点滴の注射の管が刺さっており、そちらも地味にジクジク痛かった。
「急に起き上がらない方がいいわよ。真人くん、菊婆に投げ飛ばされたショックと今までの心身の疲れで丸2日も寝込んでいたのよ?」
その言葉に、儀式の日、俺がやらかした事、生き神であるあかりと儀式で体を交えた事、その後、あかりに告白して振られた事を胸の痛みと共にまざまざと思い出した。
その後、洞窟に戻り菊婆に怒鳴られ、投げ飛ばされたと思うのだが、後の記憶がぷっつり途絶えている。
「あれから2日も…!」
あの時から随分時が過ぎている事に目をパチクリさせた。
「失態を犯した孫を制裁しようと思うたのですが、ちとやり過ぎました。いやはや、皆様方申し訳ない…。」
「いや、オイ、ババア!まずは俺に謝れよ?」
小さくなって皆に謝っている菊婆を睨みつけた。
神山明人はそんな菊婆と俺を交互に見て、苦笑いをした。
「真人は、当代の贄でもあるのだから、家族の喧嘩は程々にな?
私の知り合いの医者に診てもらい、元看護師の保坂さんに点滴を打ってもらっていたのだ。
生き神様も、真人が倒れたと聞いて、随分心配されてな。最初は回復にご自身の力を使われると言って、宥めるのに大変だったのだぞ?」
「…!!あかりが…?」
儀式の後、喧嘩別れのようになっていたあかりが俺を心配してくれていた事に俺は胸の奥が温まるのを感じた。そんな事を聞いてしまうと、振られたとはいえ、俺は彼女への想いを抑えきれなくなってしまう。
「ああ。次の儀式が近く、力を溜めなければいけない時期であったので、お止めしたが。あの温厚な生き神様が、かなり取り乱されておいでだったぞ。
もうすぐ、精霊達も様子を見に来るだろうから、無事をお伝えして安心させて差し上げるといい。」
「げっ…。精霊達来んの…?」
双子の精霊を御札で封じるという暴挙を犯してしまった俺は、彼らに会うと聞いてげんなりした気分になった。
「生き神様とのやり取りは基本精霊を通したものとなる。
生き神様と良好な関係を築いていきたいのであれば、精霊との関係も最低限仲良く出来るよう努力する事だな。」
「うぐうっ…。」
正論を突きつけられ、苦い顔になる。
「それに、お前の努力と気概次第では、私も力になってやらない事もない。」
「えっ。」
驚く俺に、神山明人は真意の知れない優美な笑みを浮かべていた。
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《香月茜視点》
「香月酒店です。神酒をお持ちしました。」
「これはこれは、香月さん。ありがとうございます。すまんが、神酒を蔵に入れておいてくれんか。」
「「はいっ!」」
お父さんが菊婆とほかの数人の社のスタッフのような人が仕事上のやり取りをしてるのに、荷台に隠れた私は聞き耳を立てていた。
「先日は本当に申し訳ありませんでした。
こんな場で私からお聞きするのも何なのですが、社からの紹介状は届きましたでしょうか…。」
菊婆は、遠慮がちにお父さんに確認している。
ああ。紹介状って、私の新しい許嫁を紹介してくれるって、あの忌々しい書類ね?
私が真人以外の人と許嫁になるわけないじゃないっ。バカにしてるわっ!
私は腕組みをして顰めっ面をしていた。
「ええ。届いております。ですが、茜は、やはり真人くんを忘れられないようで、新しい許嫁を探すのも拒んでおります。もう一度だけ真人くんと話をさせてやる事は出来ませんでしょうか。」
「茜さんにそこまで真人の事を想って頂ける
有り難くも勿体ない事ですじゃ。
ですが、真人は既に贄の役目に就いた身。申し訳ありませんがそれは出来ませぬ…。」
!!
父の申し出を苦しそうに断っている菊婆の声に私は身を固くした。
「ほんの少しの間でもダメでしょうか…。」
「誠に申し訳ありませぬ…。あやつの事は死んだものと思って下さりませ…。」
「菊婆さん…。」
何言ってるのよ!?真人はまだ行きているのに、死んだなんて思えるワケないじゃない!
こうなったら、自分で真人を探してやるわ。
そう決心した私は、荷台でゆっくり身を起こすと、菊婆がお父さんに頭を下げているのを横目で見遣りながら、二人に気付かれないように地面に降り、その場を離れた。
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「ひてて!少し動いただけで体中がバキバキいう…!!」
目覚めてから翌日の朝。2日間動かさず、なまっていた体を動かす為、お屋敷の敷地内の裏庭を一往復しただけで全身に筋肉痛のような打ち身のような痛みが走り、俺はその場にしゃがみ込んだ。
「はあっ。少し休むか…。」
そのまま短く刈られた芝生に体育座りをして、一息つく事にした。
今、俺の首には、吊り下げ式の電子機器がかけられている。
何かあった時、機器の真ん中にあるボタンを押すと、保坂さんや精霊にすぐに信号が行く事になっている、いわば、ナースコールの役目を果たすその機器を取り付ける事で、一人で運動がてら考え事をしたいという俺の要望を皆に許可してもらった。
最初に儀式をぶち壊して逃げようとしていた俺に、意外にあっさり一人になる許可が下り、逆に驚いてしまったが、先代贄の神山明人は次のように説明した。
「仮にお前が逃げたとしても、生き神様の術により、生き神様や儀式の事は他の人に伝える事が出来んし、いざという時は他の贄の候補があるので、大きな問題はない。
尤も今のお前に逃げる意思はないだろうが…。」
「!!」
俺の気持ちを見透かすように、神山明人はニヤリと笑って言うのだった。
そうだ。儀式の前と後では俺にとっての世界が大きく違ってしまっている。
儀式の場で、生き神である、四条灯…あの、紫がかった黒い瞳を持つ黒髪美少女に出会ってから、俺は彼女に心を囚われてしまった…。
今まで、逃げ出したいばかりだった窮屈な島の環境は、代々生き神の少女が心身を犠牲にして守り続けて来たものだった事を知り、俺は当代の生き神であるあかりを守りたいと思ってしまった。
逃げていいと言われても、今更贄の役目を捨てて、逃げたいだなんて、思えなかった。
体調が辛いようなら、次の4日後の儀式を延期するかと聞かれ、俺は迷わず大丈夫と答えた。
多少無理をしてでも、俺は贄としての役割を果たさなければと思ったし、何より彼女に早く会いたかった。
例え、「スカ◯ンタン」と罵られ、振られた直後であっても、俺はあかりへの想いを捨てられなかった。
儀式で味わった彼女の綺麗な体。柔らかさ、温もり。甘い声。
儀式の後の衰弱した彼女の姿。そして涙…。
全てを甘い胸の痛みと共に思い出し、俺はため息をついた。
「はあっ…。忘れらんねぇよ…。会いてーな…。」
「真人っ…!私も同じ気持ちだよっ?」
「んあ?」
ふと顔を見上げると、もう会うはずのない人物=幼馴染みで元許嫁の香月茜が、目をキラキラさせてそこに立っていた。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます✨✨
3章 「少年は生き神様と遊ぶ」始まりまして、これから週一投稿していきたいと思いますので、よければ今後もよろしくお願いしますm(__)m
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