第8話 閑話 望み破れた人々

《香月茜視点》


今日は朝から、家の周りがワイワイと騒がしい。

祭りがあるので島の皆は社にお参りをし、甘酒や、祝いお菓子を貰いに行くため、通りをひっきりなしに人が通っているようだった。

二階の窓からその様子を覗き、私は腹立たしい気持ちで呟いた。


「何で、皆楽しそうに騒げるのっ?」


私にとっては、真人を犠牲にした祭りなど、忌忌しい以外の何者でもない。

早く、この騒がしさが消えてなくなればいいのにと、部屋の中で耳を塞いでいた。


許嫁の葛城真人に白羽の矢が当てられ、生き神様のいると言われる社の奥の屋敷に連れて行かれてから、一週間…。


私は、学校を休んでひたすら、部屋に籠もり、ベッドの上で泣いていた。


真人は私の許嫁だったのに…!私のモノだったのに…!!


突然贄にされて、生き神様に取られてしまった。


「ううっ…。なんでよっ…、なんで、真人がっ…。ふぐうっ…。」


悲しくて悔しくて、枯れることなく涙がボロボロ出てくる。


そりゃ、最近は、小さい時のように素直に気持ちを伝えることは出来てなかったし、幼馴染みの風切冬馬くんといちいち比べて直して欲しいところを口やかましく言い過ぎたのは自覚している。


真人に内心ちょっとウザがられてるかもとは思ってたけど、私達は許嫁なんだし、結婚すれば、その溝は埋められて仲の良い夫婦になれるものと思ってた。


それなのに、そんな私の将来の希望も夢も、全部生き神様がぶち壊してしまった。


島の者は皆小さい頃から、生き神様をお参りする事になっていたし、何の疑問も持っていなかった。


儀式や贄についても「何十年かに一回そういう事があるんだふ〜ん。」ぐらいにしか思っていなかった。


まさか、真人がそれに当たるなんて思ってもいなかった。


『いっそ、!!』


「うぐふぅっ。なっ…なんでっ…。あんなごどっ、いっ、いっぢゃっだんだろっ…。」


白羽の矢が当たる直前に、言い合いになってつい思ってもいない事を真人に言ってしまった事が悔やまれる。


そして、思い出されるのは、小さい頃の輝いていた真人。

そして大きくなってからの真人とは、

ほとんど毎日ケンカばかりだったけど、私が体調悪い時とかこちらを気遣って保健室に付き添ってくれたり、お父さん、お母さんに連絡してくれた事もあった。


『これでお前はふさわしい相手を見つけられるだろう。

それだけはホッとしていたんだよ…。』


別れ際も、ひどい事を言ってばかりの私を気遣ってくれていた。


「ううっ…真人っ!…真人っ…!会いだいよぉっ!!」


会えなくなってから、真人の優しさに気付いて、また涙を流していると、

部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえた。


「茜?閉じこもってないで、一緒にご飯食べて、少し話でもしましょう?」


「そうだよ茜。塞ぎ込んでばかりだと、体に悪いぞ?」


お父さんとお母さんが、ドアの外から心配そうに私に呼び掛けてきたが私は断固拒否をした。


「イヤッ!また許嫁の話でしょっ!私は真人以外とは結婚しないって言ってるでしょ!!」


「うん。その事は、もういいのよ。茜の気持ちを無視してまでは勧めないわよ。ねっ。お父さん。」


「ああ…。ただ、俺達は茜を心配しているだけなんだ。そんなんじゃ、贄として役目を果たしている真人くんにも心配かけちゃうぞ?」


「!真人が私を心配…?」


「あ、ああ…。それで、明明後日に、社に神酒を納めに行く日があるんだが…。茜…、一緒に行くか…?もしかしたら、もう一度真人くんに会えるかも…。」


「!!ま、真人に会えるのっ…?!」


私はベッドからガバっと身を起こした。


「まぁ、絶対とは言えないが…。」


「行くっ…!絶対行くっ!!」


バタン!!


「「茜っ…!」」


部屋のドアを開けると安心したようなお父さん、お母さんの顔があった。


そうよっ。無理に引き離されてしまったけれど、私と真人は元々赤い糸で結ばれていた

運命の相手。


離れている間、私が真人への想いを募らせているように、真人も私を想ってくれてる筈。


生き神様信仰なんて、どうせ、何百年も前に死んでる人間を祀ってるだけでしょ?


祭りの儀式とやらもきっと慣習で贄が社の奥に幽閉されるだけの意味のないものに違いない。


そんな古臭いしきたりに私達の愛が犠牲にされるなんておかしいわ。


生き神様が真人を奪うというなら、私も生き神様から真人を奪い返してやるっ!!


私はそう固く心に誓ったのだった。



❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


《風切冬馬視点》


「は?何…だと?もう一度言えよ!」


薄暗い部屋で、ソファーに腰掛けていた俺は、目の前で跪いている、黒パーカーのに、信じられない報告を受け、聴き返した。


「冬馬様、申し訳ありません。葛城真人の拉致に失敗しました。まさか、死に損ないの先代の贄が出てくるとは…。」


「ふざけんなよっ!!葛城真人の事はお任せ下さいって言ったのはお前だろっ?

何やってんだよっ!?」


「申し訳ありません…!」


俺は激昂して、叱りつけたが、女はただ床に這いつくばるばかりだった。

苛つきながらも、俺は最悪の事態だけは免れた事を確認したくて、殴り付けたいのを我慢した。


「で、儀式はぶち壊しになったんだろうな?いくらなんでも、生き神様は、精霊を封じるような奴を贄に据えるような事はしないだろう?

真人は処罰を受け、気の大きさで勝る俺が新しく贄に選ばれる筈だよなっ?

お前はそう言ってたよなっ…?なっ…?」


縋るような気持ちで詰め寄ると、女は酷く言いにくそうに答えた。


「いえ、それが…。未だに風切家に新たな贄としての申請がない事を考えますと、恐らくそのまま葛城真人を贄として儀式を続ける可能性が高いと…。」


「なん…だと…!?」


パンチを受けたような強烈なショックを受け、絶望の内に事態が最悪の方向へ向かった事を知った。


“そのまま葛城真人を贄として儀式を続ける可能性が高い”


という事は、真人が儀式の為、俺が小さい頃からずっと想い続けて来たあの子と体を交えるという事…か??


俺は、小さい頃に、社で出会った花のような可愛らしい笑みを浮かべる白い着物姿の彼女の姿を思い浮かべ、それが、真人に荒々しく押し倒され蹂躙されるイメージが脳裏をよぎった。


「うわあああぁーーーっ!!わあああぁ〜っっっ!!」

「冬馬様!!」


ガシャガシャンッ!!パリン!!


俺はテーブルの上にあったコップやら皿やらを全て床に叩き落した。


床はガラスの破片だらけになったが、それどころではなかった。


「あの子が真人に穢されるっ!!今すぐ、あの洞窟へ行って、儀式を止めてやるっ!!」


「冬馬様っ!お待ち下さいっっ!!」


半狂乱で出口に向かうと、後ろから女に腕を掴まれ必死に止められた。


「今頃は向こうも、洞窟の周りの警備を強化している筈です。今行っても捕まるだけですっ!!」


「止めるなっっ!あの子が真人にっ…んむっ。んうっ…。」


俺がそう言いかけたとき、女の顔が近付き、突然口を塞がれた。


「んっ。んうっ…?!」


強制的に口の中に流し込まれた液体を俺は反射的に飲んでしまった。


「お、お前、俺に、らにを飲ませら…。」


突然手足に力が入らなくなり膝を付き、、呂律が回らなくなった俺を女は神妙な顔で見下ろしていた。


「即効性の睡眠薬です。冬馬様、お気持ちは察しますが、今回はお引き下さい。」


「い、いやら…。おれは、あのこをまひとからまも…。」


俺の意識はそこで途切れ、暗黒に飲まれた。


あの子の明るい笑い声が頭の奥で響いている気がした…。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


《??視点》


あれから数時間後、睡眠薬の効果が切れた風切冬馬は、寝ている間に全てが終わった事を知ると、泣き叫び、乱暴に私を抱いた。


「ううっ…。僕が先に好きだったのにっ…。なんで、あの子まで真人に取られるんだよっ。勉強も、運動も、身長も女子の人気も…気の強さも僕の方が上なのにっ。なんでっ。なんで僕は選ばれないんだよっ…。ひぐぅっ…。」


「冬馬様、お辛いですね…。今は耐える時です。生き神様を真人から奪う次の機会を待ちましょう。」


顔を覆って泣いている風切冬馬と裸で抱き合い、私は彼に慰めの言葉をかけていた。


クラスでは、クールなモテイケメンを演じているとの事だが、その実、ナイーブで挫折に弱い小さな子供のような性格の彼に内心では失望のため息をついていた。


ガッカリしているのはこちらも同じ事。

数年がかりの計画が、失敗に終わったのだから。


生き神の贄候補にする為、彼を焚き付け、葛城真人を凌ぐ程気を強くしてやり、万全の状態で贄選びに臨んだのに、選ばれたのは二番目の葛城真人。


人為的に気を高めた状態の不自然さを感じ取ったのか、はたまた、気の相性の問題かー。


先読みの力が薄い時代の生き神のくせになかなか勘がいい。


葛城真人を揺さぶり、拉致もしくは問題を起こさせて、贄候補から資格喪失させようとしたが、噂では寝たきりになっていたという先代の贄が出張って来た為に、全ては水泡に帰した。


今や、気が読めないという時点で、私だけではなく、風切冬馬も警戒される対象になってしまっているだろう。


ここからは、相手の懐に飛び込むため、危険を承知の上でかなり思い切った手を打たなければならない。


私が助けたいのはたった一人だけ…。

例え、他の誰を利用し、犠牲にし、泥舟に乗せる事になっても私は躊躇わない。


「ううっ…。ちゃんっ…。」


「冬馬様。大丈夫です。必ずや生き神様をあなたの手に取り戻させて差し上げますからね。」


私は風切冬馬の髪を撫でながら、優しく呼び掛けるのだった。








*あとがき*


生き神様、どちらを選んでもBSSが発生してしまう案件でしたね(^_^;)


これにて、二章の終了です。


ここまで読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m


無事儀式も終了しましたし、黒髪美少女にあのセリフを言わせられて、作者的には満足でしたが、読者の皆様は楽しんで頂けましたでしょうか?


タイトルの前半ぐらいは回収しましたし、

「8回目の嘘コク」の執筆が落ち着くまで、ひとまずここで、お休みをさせて頂きたいと思います。


タイトル後半は三章〜少年は生き神様と遊ぶ〜で回収したいと思います。

多分ずっと甘々の話になるかと…(;´∀`)


再開するときは、また投稿スケジュールでお知らせしたいと思いますので、

今後ともどうかよろしくお願いします。

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