第28話 人の評価 精霊の評価
社の資金源である寄附金を盾に、島民会の奴らに明後日までに第二の贄の話を受け入れるよう迫られ……。
「彼らの要求を前向きに検討すると伝えてくれるかしら?」
「あかりっ!?」
「「生き神様っ!?」」
「「「「「!!」」」」」
期限を延ばして貰えなければ、奴らに譲歩する意向を示したあかりに、俺だけでなく、キー、ナー、社のスタッフも衝撃を受けた。
「それじゃ、奴らの思うつぼじゃねーか!! あかりは、冬馬を第二の贄として受け入れるって言うのかよっ!?」
堪らずに責めるように詰め寄る俺に、あかりは大きく頭を振った。
「本当に受け入れるわけじゃないわ! ハッキリした返答をせず、検討するって返事をするだけ。
今は、3回の儀式を行ったばかりで、島の土地は補強されている。け、継嗣の儀……は、次の日程を設定してからになるから、この数日中にどうこうなるわけではないわ。
先代贄様がお帰りになられたら、何かいい案が見つかるかもしれない。それまでの時間稼ぎが出来れば……。」
あかりは、そこまで言って目を逸らした。彼女自身それが最善の策だとは思っていないのだろう。
「それで、その間に奴らが強引に社に押し入って来たらどうするんだよ?」
「いざという時は、キーちゃん、ナーちゃんがいるわ!」
「キーとナーが守ってくれるとはいえ、上倉という女は、二人の姿が見えていて、その力を無効化してみせたんだぞ?
菊婆の死も、そいつが関わっていたかもしれない。
俺が渡された精霊達の力を封印する札の事もある。
それに、内部の人に内通者がいる可能性もゼロとは……」
「真人っ!!」
不安材料を列挙していく内に、心の内に言ってはならぬ可能性まで口に出してしまった時、あかりに鋭い非難の声を上げられ、俺はハッとした。
「あっ、いや、それは、本気で疑っているわけじゃ……」
「「「「「っ……||||||||」」」」」
言い訳を口にしかけたが、周りのスタッフさんは青褪めて、傷付いた表情で俺を見ていた。
「贄様、そんな風に私達スタッフを疑っていたんですね……。イケメンの第二の贄様に生き神様を奪われると思って焦る気持ちは分かりますが、ひどすぎます……!」
「……!||||」
「羽坂さん! 贄様にそんな口を利いてはいけません!」
あかりの世話係である羽坂さんに怒りをぶつけられ、急所を突かれ、俺は返す言葉もない中、保坂さんが険しい顔で諌めるように言った。
「贄様は、生き神様をただ、心配されているだけでいらっしゃいますよ。」
「保坂さん……!」
疑うような発言をしてしまった俺を逆に庇う保坂さんに、俺は何ともいたたまれず、頭を下げた。
「ほ、保坂さん、他のスタッフの皆さん、今のは失言でした。申し訳ありませんでした……。
だけど、あかり。島民会側に危険な存在がいるのは、確かなんだ。
どんな事があろうと、上倉だけは、この社に二度と入れさせないようにしてくれ。」
「分かったわ。それに関しては、贄である真人の意見を尊重します。」
俺の懇願に、あかりは厳しい表情ではあるが頷いてくれた。
✽
ボフッ!
「はぁっ……。やっちまった……。あかりにもスタッフの皆に嫌われちまったかな……。」
重苦しい話し合いが終わり、部屋に戻ると、俺がベッドにダイブし、自己嫌悪に悶えていると……。
ポンッ!ポンッ!
「「精霊達気付けのドロップキーック!!」」
「どわあっ!!」
いきなり現れた精霊達にケツを蹴られ、俺は悲鳴を上げた。
「お前達は、人を蹴らずには登場出来ない病気にでもなってるのかよっ!!」
食って掛かる俺に、キーとナーはしれっと宣った。
「あまりにしけた面をしておるからじゃ。」
「そうじゃ。これから、敵と対峙していかなければならぬというに、しゃんとせんかい!」
「それは分かってるよ! あかりは俺が何としても奴らから守ってあげなければと思っているけど……。
冬馬に会った時も、手紙を読み上げられた時も、あかりの様子が変だったし、
俺を避けているようだし、島民会の要求に譲歩するような事を言い出すし、あかりが何を考えているのか分からなくなってしまった……。
冬馬がイケメンだからって、第二の贄として受け入れる事はないと思う…思いたいけど、あかりは何かを隠しているみたいだし、先代贄が帰るまではってそれの一点張りで……。
確かに菊婆の件であかりに縋ってしまって情けないところを見せちまったけれど、俺、そんなに頼りないかよ?」
俯く俺を呆れたような顔で、精霊達は顔を見合わせた。
「よくも、まぁ…グダグダと……。」
「ったく、仕方がないの…。」
「っるっせーな。」
恐ろしい精霊相手に何を愚痴っているのだろうと自分でも思うが、今は気持ちを吐き出さずにはいられなかった。
奴らが罵倒をしてくるか、ドロップキックをしてくるかと身構えたところに……。
「生き神様はお前が何より大事でいらっしゃるのじゃ。」
「ああ。それ故のご葛藤があるのじゃろう。少し待って差し上げよ。」
「へ?」
ナーとキーに真顔で思いがけない事を言われ、俺は目を瞬かせた。
「頭がない割には、いいところを突きおると儂らも先程は感心していたところなのじゃぞ?失望させるなよ?」
「いいところを突く?」
「スタッフの内部にやはり内通者がいるだろうと言う事じゃ!」
「生き神様の前では言えぬが、儂らもまだ疑っておる。定期的にスタッフの見張りをしておる。まだ、何もは掴めておらぬが……。」
「!!」
目を見開く俺に、キーとナーは更に過激な発言をした。
「人間というのは、今まで恩恵を与えて下さった生き神様を自分の私欲の為に平気で裏切る。げに醜き生き物よ。儂らは、いざという時、生き神様をここから逃がして差し上げる。」
「ああ。島民会が、社が、裏切ると判断した場合、儂らは奴らを全員殺してでも、生き神様をお守りする。」
「!!! 」
「その時、お前はどちらにつくか?」
「…………。|||||||| 俺は……、スタッフの人を信じたい気持ちもあるけど、いざという時は、もう覚悟を決めていると思う。あかりの為なら俺はどんな事でもする」
青褪めながらも、そう伝える俺に、精霊達は表情を緩めた。
「うむ。少しはマシな面構えになったの」
キーは満足そうに頷き、ナーはニヤリと笑った。
「まぁ、生き神様もお前にあれ程までに尽くされたのじゃ。最終手段として、それぐらいは覚悟を決めてもらわぬとな。
それ以前に、奴らを撃退出来るならそれに越した事はないが……。
そろそろ儂がお前の友人とやらに送ってやった手紙の返事が 来るのではないか?」
コココンッ!!
「…! 伝七郎!!」
「「噂をすればじゃな?」」
その時、ちょうどタイミングよく、見覚えのある白い鳩が、俺の部屋の窓を叩いたのだった。
*あとがき*
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m(_ _)m
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