第27話 島民会からの手紙と波紋
茜との全く噛み合わない会話の後、すぐにあかりを含めて社の皆で話し合う事になった。
保坂さんによると、先ほど島民会&風切総合病院サイドからの手紙についてあかりに渡すようにと言われた手紙を預かったという。
困った事態を一人で抱え込んでしまうといけないと俺は考え、今の責任者である御堂早苗さんに頼み、皆の前で手紙を読んでもらう事にしたのだった。
「社の皆さん、今回の件で心配をかけてしまってごめんなさい。真人は…、その後大丈夫かしら?」
「あ、ああ、あかり。心配かけてすまなかった」
皆の集まった和室に一昨日ぶりに見かけたあかりは、こちらを気遣いチラリと見遣る横顔が、心なしか窶れているようで、俺は逆に心配になった。
「あかりは、大丈夫…」
「「このドバカ(ドアホ)がぁっ! 精霊怒りのドロップキーック!!」」
ドゴッ!ドガッ!
「ぐはっ!! ごはっ!!」
言いかけた途中で双子の精霊に、左右同時に攻撃を受け、俺はその場に倒れ伏した。
「「「「「贄様っ!?」」」」」
「キーちゃん! ナーちゃん!」
精霊達の姿が見えないスタッフの皆は、俺が突然何もないところで転んだように見えたらしく驚きの声を、あかりは精霊達を窘めるような声を上げた。
最近毎度の如く攻撃を食らっている俺は、精霊達に食って掛かった。
「ってーな! ったく、なんで、毎回俺を見る度にドロップキックしやがるんだよ! このクソ精霊ども!」
「うっ……。特に理由などないわ! ただムシャクシャしておったところにお前の顔があっただけじゃっ!」
「そ、そうじゃっ! お前のマヌケ面を見るとイライラして蹴りたくなるだけじゃっ!」
「はぁ? どんな理由だよ!?」
理由を聞くと、そんな風にしか答えない精霊達に俺は呆れた。
祖母を亡くしたばかりの自分をあかりのように労ってくれとは言わないが、理不尽な怒りを向けるのはやめて欲しい。
しかも、不思議な事に、そんなに俺に怒りながらも、頼み事は引き受けてくれるのだった。
先日も、島民会幹部の親を持つ友達のトシに、島民会の様子を探ってもらいたいと頼む手紙を託すと、「儂は伝書鳩か何かか?」文句を言いながらも届けてくれ、連絡の取れないあかりの様子が知りたいと言うと、「生き神様はお忙しいのじゃ!」と言いながらも随時姿を表し、様子を知らせてくれるので、精霊達の真意が分からない。
「真人、皆さんごめんなさい。キーちゃん、ナーちゃんは私が抑えておくから、進行をお願いします。」
「「わあっ、生き神様ぁっ!」」
精霊達を抱え込んであかりはそう言うと、辛そうに俺から視線を逸らした。
「あかりっ…」
精霊達とは逆に表面上は気遣ってくれるのだが、俺との関わりを避けているようだった。
ただでさえ、大変な状況なのに、菊婆の件であかりに縋ってしまい、禁忌を犯させてしまい、俺を疎ましく思うようになっていないだろうかと俺が俯いていると……。
「生き神様も贄様もよろしいですかね。では、問題の手紙を読み上げさせて頂きます。」
御堂さんは島民会から受け取った手紙の封を切り、張り詰めた空気の中、読み上げて行った。
「『前略
敬愛する生き神様及び社のスタッフの皆様
葛城菊子氏の訃報により、責任者が交代されたとの事聞き及んでおります。
島民会としても胸の痛み思いでして、催促をするのは心苦しいのですが、こういう時だからこそ、どうか例の件をお考え頂きますようお願いします。
400年前からほぼ何も変わらない社のあり方は、今の島民の気持ちと多くかけ離れており、特に若い者から不満の声が上がっております。
島民会の意向としましては、明後日までに、当代贄様について証拠を提示の上、納得出来るご説明を頂くか、第二の贄の話を承諾頂きたいと思います。
それが出来ない場合は、次回の寄附金のお届けを差し控える事も視野に入れております。また、その場合島民会で極秘に持っている社の情報についても全島民に公開する必要があるかとも……。
こちらとしても、なるべくこのような強硬な手段には出たくありませんので、どうか賢明なご判断を下さりますようお願い致します。
敬具
島民会一同 』」
御堂さんが読み終わると、俺もスタッフも険しい表情になっていた。
「奴ら、強引な要求してきやがって!」
「更に困った事になりましたね……」
御堂さんも眉間に皺を刻み、付け足した。
「あと、封筒にはこの手紙とは別の方らしき筆跡で書かれた一筆箋がもう1枚、入っていました。
『なお、「島民会で極秘に持っている社の情報」とは、私達が知っている全ての情報であり、スタッフや贄様が知らない情報があったとしても、全て明らかにされ得る事をご了承下さいませ』」
「…………!!!」
「あかり?」
ビクッと肩を揺らすあかりに問いかけると、彼女は色を失った顔で首を振った。
「な、なんでもないわ……||||||||」
今の文面に何か気がかりなところがあったのだろうか?
あかりの様子が心配な中、奴らになんと返答をするのか、スタッフとの話し合いが行われた。
奴らは、当代贄=俺が不妊症でない証拠を示した上で奴らに説明をするか、第二の贄の話を承諾するかの二択を迫って来ている。
再度検査をすれば俺が不妊症でない事は証明出来る筈だが、この島でその検査ができるのは、風切総合病院のみ。つまり、敵サイドしかない。
また偽の書類を出してくるのがオチだろう。
第二の贄の話を受け入れる事はもちろん出来ないが、そうなると、奴らの要求を満たせず、次回の寄附金を止められ、社の運営が立ち行かなくなってしまう。
返答の期限は、明後日ー。
「先代贄が帰ってくるのは、確か明々後日の午前中だったよな……。帰りを待っていたら、期限を越えちまうって事か。」
俺は、ギリッと唇を噛み締めた。
本当に絶妙なとこ突いてきやがって!
ともすれば、精霊達ではないが、内部の人間が情報を漏らしているのではないかと疑いたくなってしまう。
いや、もしかしたら、それが奴らの狙いなのかもしれないと頭を振ると、御堂さんに質問した。
「社の予算はあとどれくらい持ちそうなんですか?」
「社の予算は、3ヶ月事に頂いていまして、先月にもらったばかりですから、このままだと、12月までしかもたないですね。」
御堂さんは難しそうな顔で答え、刈谷さんが、神妙な顔になっていた。
「せ、節約しなきゃいけませんね…(これからは……!)」
「「お主らバカなのかっ!?」」
キーとナーは憤慨した様子で叫んだ。
「今までの生き神様へのご恩も忘れ、これ程までに島民共が愚かだというなら、我らの力を思い知らせてやればよいではないか!まずは、島民会の椙原の家、風切総合病院に火を着けてやろう!」
「ああ。島民全員に、恐ろしい夢を見せてやってもよいな」
「おいおい、それは流石に……」
と、俺が止めようとすると、あかりが彼らを厳しく制止した。
「キーちゃん、ナーちゃん、それは絶対に許可出来ません! 私達は島の命を守る為に存在しているのよ? 破壊行為や、恐怖を煽るような行為をするなら、本末転倒じゃないの!」
「「い、生き神様ぁっ。申し訳ありませんっっ!」」
叱りつけられ、精霊達は半泣きになった。
「私の事を思ってくれるのは有難いけれど、他の方法を考えましょう?」
精霊達を見聞き出来ないものの、あかりのいつになく厳しい言葉にスタッフは目を瞬かせ、保坂さんは恐る恐るといった様子で聞いてきた。
「生き神様、どういたしましょうか?」
「……。そうね……。」
あかりは眉根を寄せ、考え込むと……。
「まず、期限をもう1日延ばしてもらう事は出来ないか、聞いてみましょう。」
「もし、出来なかったら、いかが致しましょう?」
「そうね……。その時は……」
あかりは苦しげに一度目を閉じ……。
「彼らの要求を前向きに検討すると伝えてくれるかしら?」
「あかりっ!?」
俺は信じられない思いで声を上げた。
*あとがき*
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m(_ _)m
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