第8話 生き神様からの果たし状

「あ〜あかりぃ…。また怒らせちまって、俺は一体どうしたらいいんだあぁ…。」


あかりと将棋を通して、コミュニケーションを図ろうとしたが、また失敗してから数時間後ー。


自室に戻ってから、何も手につかず、机に顔を突っ伏して腐っていた俺だったが…。


『『真人よ。今、そちらに向かおうと思うが、準備はよいかの?』』

「?!! キー?ナー??」


突然頭の中にキーとナーの声が響き、俺は驚いて身を起こした。


「い、い、いいけど、何?」


俺は何の用かとびびりながらも、返事をすると同時に…。


ポンッ!


俺の目の前に双子の精霊達が現れた。


「な、な、な、何の用でしょうか?」


「??お前は何故隠れておるのだ。」

「??かくれんぼでもしておるのか?」


俺が机の下に隠れながら問うと、キーとナーは奇妙な生き物を見るように首を傾げた。


「い、いや、だって、お前達、いつもいきなり現れるのに、急に準備はいいかなんて聞いてくるから、ひどい目に遭わせてやるから覚悟しておけよって意味なのかと思ってさ…。」


「「ドバカ(ドアホ)め、そうではないわ。いきなり現れるのは、心臓に悪いだろうから、真人に都合を聞いてから出現するようにと、生き神様からご注意を受けたのだ…。」」


「あ、そ、そうだったのか…。」


双子の精霊達に、少々バツが悪そうな顔でそう説明され、俺はホッと胸を撫で下ろし、机から、出て来た。


頭の中にいきなり声が響く時点で、既に心臓には悪いんだが、怒らせてしまったのに、あかりが配慮してくれた事を有難く、嬉しく思った。


「生き神様から、この『果たし状』を真人に届けるように言われての。」


キーが、ずいっと前に出て、俺に手紙を差し出した。


「は、果たし状ぉ?!」


和紙に包まれた手紙を受け取り、ゴクッと喉を鳴らしながら、その中身を開けてみると、

白い便箋に、毛筆で綺麗に書かれたあかりの肉筆が見て取れた。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽



当代贄 葛城真人様


先日は、私に将棋を教えて下さってありがとうございました。


せっかく将棋を通じて交流を図ろうとして下さったのに、あの時はムキになって、腹を立ててしまって申し訳ありませんでした。


あれから、自分の未熟さをいたく痛感し、反省致しました。


もし、こんな私を許して下さるなら、もう一度あなた様と交流する機会を与えて頂ければ大変有難いのですが、いかがでしょうか。


場所は、先代贄様に設えて頂けるとの事でした。


◯月☓日 10:00 和室にてお待ちしています。


          当代生き神 四条灯



✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「でへへ…。あかりぃ…♡♡」


果たし状と言われ構えたが、仲直りの為もう一度会いたいという可愛い手紙の内容に、俺は安堵し、デレデレになった。


「うむ。読んだな?その手紙は、生き神様が術を使われたインクで書かれており、お前にしか読む事はできぬ。」


「そ、そうなんだ…。」


俺しか読めないなんて、すごいな。二人だけに分かるラブレター…みたい…じゃね?///


キーの説明を受け、この手紙は、一生大事に保管しようと心に決めたが…。


「しかし、他人に渡らぬよう、念には念を入れた方がよいので、その手紙は、処分させてもらうぞ。」

「あっ…?」


ナーがパチンと指を鳴らすと、手紙が俺の手から離れ、空中に浮かんだ。


ボッ!🔥


「ぎゃーす!!!」


同時に炎が立ち昇り、手紙は一瞬にして炭と化し、俺は悲鳴を上げた。


「ああぁ…、あかりからのラブレターがあぁ…!」


俺は呆然とその場にへたり込んだ。


「何がラブレターだ…。」

「果たし状だと言うとろうが…。」


双子の精霊に呆れたようにため息をつき…。


「「◯月☓日 10時 和室だぞ?忘れるな?

では、真人よ。首を洗って待っているがよい…。」」


そう言い残して、彼らはその場から消え去ったのだった。


全く、精霊の奴らめ!俺が気に入らないからって、いちいち不穏な言動をして、脅かしやがって…!まぁいい…。


精霊達を相変わらずいけ好かない奴らだと思いながらも、(燃やされたが)明るい内容のの手紙も持って来てくれた事だし、今回は許してやるかという気になっていた。


あかりにまた、会える!◯月☓日に…!


そこまで考えて俺は首を捻った。


「ん??確か、その日は儀式の日じゃなかったっけ??


いい…のか…???」



❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


儀式当日、会えるかどうか半信半疑の気持ちで和室へ向かった俺を、

和室の入口付近で先代贄がにこやかに迎えてくれた。


「真人。よく来てくれたな。生き神様が既にお待ちだぞ?」


「あかりが…?」


逸る心を抑えきれず、和室に飛び込むと、座卓の向こう側に、ポニーテールにハチマキをした袴姿のあかりが座っていた。


「真人!✨✨よく来てくれたわね?」


「あかり!✨✨袴姿可愛い…♡けど、どうしてそんな格好を?ハチマキまで…??」


愛らしい袴姿に、俺の好きなポニーテールの髪型。色々萌えポイントはあれど、

いつもの着物姿とは違う彼女に俺が戸惑っていると、彼女は、爽やかな笑顔を俺に向けて来た。


「ええ!この格好の方が、気合いが入るかと思って。」


「気合い??」


そこへ、先代贄が、こちらに木箱と木の台を運んで来た。


「心置きなく勝負なされませ。健闘を祈ります。」

「先代贄様、ありがとうございます。」


「!?」


へ?これって、将棋盤と駒の箱??

座卓の上に置かれたものに、俺が目を丸くしていると、あかりは俺に満面の笑みで呼びかけて来た。


「さぁ、真人!今度は一切手加減なしで将棋で勝負よ!」


「ええ〜!!?」


「全力でぶつかり合った後にこそ、真の絆が生まれるというものよ?

お互いの事をよく知って、生き神様と贄としてよりうまくやっていく為に、まずは、私達、戦いましょう?」


「いや、そんな、少年漫画で戦った後にライバルと友達になる的なお約束の流れ、そんなキラッキラの笑顔で勧められても…!」


先代贄、神山明人が戸惑う俺の肩に、そっと手を置き、神妙な顔を向けた。


「真人!愛する人と戦いたくないという気持ちはよく分かる!だが、生き神様のお顔を拝見すれば分かるであろう。

これは「宿命」であると…!!」


「宿命って何?!先代贄もテンションおかしくない??」


神山明人のセリフに度肝を抜かれていると、

もう一つの座卓で、また和菓子を食べていたらしいキーとナーが、こちらにやって来て半目で語った。


「生き神様も、明人も、昨日遅くまで将棋の勉強をしておったからの…。」

「いわゆる「深夜テンション」という奴が続いておるのだ。」


「生き神様、棋譜研究で、真人のクセは覚えていますね?落ち着いて臨めば必ず勝てますよ?自信を持って!✨✨」


「はい!先代贄様!教えて頂いた先代贄のご恩に報いる為にも私、必ず勝ちます!!✨✨」


「いや、先代贄?あかり?ラブレターもらって呼び出された筈なのに、どうして俺、二人が倒すべき宿命の敵みたいな役回りになってるの?」


スポ根アニメの師匠と弟子のように盛り上がる二人についていけず、目をパチクリするばかりの俺に、キーとナーが、呆れたように言った。


「だから、言ったであろう?」

「あれは、果たし状であったと…。」



*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。


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