第7話 歩み寄りと失敗(真人→あかり)➁

《 当代贄 真人 VS 精霊 キー 》


「ま、負けました…。_| ̄|○ il||li 」


お互い、将棋盤に向かいあってから5分で、俺はキーの前に頭を下げていた…。


「口ほどにもないのぅ…。」


キーは、余裕シャクシャクの笑顔を浮かべている。

「キーちゃん。すごーい…✨✨」


あかりはキーに羨望の眼差しを向けていた。


「な、なんでそんなに強いんだよ?」


「将棋は昔から周りの人間がやっておるのを見学しておったし、明人が強かったので、かなりやり込んだからの…。」


「え。先代贄強いの?」


俺が聞くと、傍らで試合を見学していた先代贄の神山明人は、肩を竦めた。


「別段大した事はない。オンライン将棋で3段以上の相手には勝てた事はないしな。」


ん?しれっと言ってるが、3段ってプロの一歩手前じゃなかった?

2段の相手には勝った事あるって事?


そんな人といつも対局していたなら、そりゃ、強くなるわ。こりゃ、ナーにもコテンパンにされて、終わりだな。


くそぅ…。あかりにいいところを見せたかったのに…!

と俺ががっかりしていると、ナーは頭をさすりながら言った。


「わしも一時期やっておったがキーほどは入り込めなかったの。実力としてはせいぜい10級程度というところか?」


おっ?それなら、俺とどっこいどっこいなんじゃねーか?


《当代贄 真人 VS 精霊 キー 》


「ふふっ。同桂!!」

「ああっ!飛車まで取られた!」


ナーの桂馬の駒の動きを見落としていた俺は頭を抱えた。


将棋の盤面は、かなりの劣勢で、ガンガン攻撃してくるナーに、防戦一方の俺は、既に多くの駒を取られてしまっていた。


「ナーが優勢ではあるが…。」

「うむ…。」


キーと神山明人は腕組みをして静かに俺達の試合を見守っていた。


「ナーちゃんの猛攻すごいわ!真人も頑張って!」


同じく試合を見守ってくれていた、あかりの声援を受けて、俺はやる気を奮い立たせた。


「ああ。こっちだって、負けてらんねーぜ。こっちの攻め駒も多い中、王をそんなにど真ん中に出していいのかよ?王手!」

「ぬうっ…!」


慌てて玉将の駒を引いたナーに、俺は、追撃の手を緩めなかった…。

        

          *


「王手!」


「はっ!竜馬に金、と金に囲まれておる!

くうっ…!ま、負けた…。」

「ふうっ…。」


後半の追い上げで何とかナーに勝つことができ、安堵のため息を漏らした俺だった。


「そうじゃな。ナーは入玉のやり方が少々荒かった為、終盤に苦しくなってしまったな。」

「うむ…。」


キーと先代贄は、お互いに顔を見合わせてウンウン頷いていた。


「え〜ん。申し訳ありません。真人ごときに生き神様(玉将)を取られてしまいましたぁ…。」

「気にしないで?ナーちゃん頑張っていたの見ていたわ。」


あかりは、泣きついてくるナーの頭をヨシヨシと撫でていた。


そして、俺に対しては尊敬の眼差しを向けて来た。

「真人、後半の攻撃すごかったわ!」


「い、いやぁ…。//」


あかりに褒められ、照れながらやっといいところを見せられたかとホッとしていた俺だったが…。


「けど…。」

「?」


あかりは、何かを考え込むように小首を傾げた。


「私との対局では、歩が真人の陣地に入った時、すぐには取らなかったのに、ナーちゃんの時は即座に取ったのはどうして?」


「え…?いや、だって、あかりは初心者だし、せっかく歩がと金に成る勉強になるところだったから、しばらく泳がせて置こうかと…。」


思わぬ事を聞かれ、正直に答えてしまうと、あかりの様子が一変した。


「それって、私が初心者だから、真人は試合で手加減をしたって事ぉ…?||||」


「えっ。い、いや、あの…。」


昏い瞳のあかりに鋭く追求され、俺はたじろいだ。


「ハンデ有りの試合とはいえ、勝負は真剣にして欲しかったわ!

勝てたと思って喜んでた自分がバカみたいじゃない!!プクーッ!💢」

「あ、あかり…!ご、ごめ、俺、そんなつもりじゃ…。」


両手拳を握りしめて頬をフグのように膨らませて怒り出したあかりに、俺は何と言っていいのか分からず、慌てるばかりだった。


そこへ、先代贄の神山明人が苦々しい表情で、ひそっと俺に囁いて来た。


「すまん、真人。言い忘れていたが、生き神様は、大変な負けず嫌いでいらっしゃったのだった。特に、不正や、態と負けてもらうという行為が、お嫌いでな…。」


「いや、その情報、もっと早く教えてっ?」


俺が先代贄に食ってかかっている内に、あかりは机に人差し指でのの字を書き、すっかり拗ねていた。


「グスン。もういいわ!私が弱いのが悪いのだもの。」


半泣きのあかりの両隣に、キーとナーが寄り添った。


「「やれやれ。生き神様を傷つけてしまうとは、全くしょうのない贄だな…。生き神様、長居し過ぎてしまいましたし、そろそろ戻りましょうか。」」


「ええ。じゃあ、真人、将棋、教えてくれてありがとう。

けど、今度はちゃんと本気で勝負してね?」


「ええっ。あかりっ!待っ…!」

「「さらばだ。真人(10級程度)よ…。」」


ゴキゲン斜めのあかりと、キーとナーは来た時と同じように一瞬で、俺の前から姿を消した。


「な、何で、こうなった…_| ̄|○ il||li

何で、俺は毎回あかりにやらかしてしまうんだぁ…。」


その場に膝をついて、打ちひしがれている俺の肩を先代贄はポンと叩き、苦笑いを向けて来た。


「そう落ち込むな。真人。今回のは、私も責任を感じる故、生き神様にきちんとフォローしておくよ。」



❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇

《生き神 四条灯 視点》


「ああぁ…。何故、私はあんな事で怒ってしまったの?_| ̄|○ il||li

真人と仲直りをしようと思っていたのに…。

どうして、私は毎回真人にやらかしてしまうの…?」


自室に戻って10分後ー。


冷静になり、先程の自分の行動を思い返して、私は床に膝をつき、後悔に身悶えていた。


「生き神様。たかが贄、真人の事など気にする必要はありません。生き神様は、この島の全ての生命を守って下さる神様なのですから、奴と対等な関係を築こうとするのが間違いです。」


「そうです。贄は儀式と、後継者作りの時だけ関わるだけの存在。寧ろ、真人に名前呼びを許したり、ワガママを聞いたり、生き神様は奴に甘すぎるぐらいです。気にせずお心を楽になさって下さい。」


キーちゃんとナーちゃんにそう言われ、私は俯いた。


「確かに、先代生き神様と先代贄様は、一定の距離を保って接していらしたし、歴代の生き神様と贄様の関係もそうなのでしょうね…。」


けれど、私は…。


贄の真人と何かあると、いちいち動揺して落ち込んでしまう。


私はきっと、生き神として、落ちこぼれなんだわ…。


私がふうっとため息をついた時…。


「生き神様。ちょっとお話、よろしいですか?」


部屋の扉の外から、先代贄様の声が響いた。


「え、ええ。どうぞ…。」

「ありがとうございます。」


私が扉を開ける(自室の扉は、私かキーちゃんナーちゃんでないと開かない術が仕掛けられている。)と、先代贄様がにこやかに微笑んでいらした。


「明人か…。このタイミングで、また何を企んでおるんじゃか…。まぁ、奴にもらった羊羹は美味かったが。」

「本当に喰えない奴じゃ。まぁ、奴にもらった海老せんべいもうまかったが。」


双子の精霊達は何やらひそひそ話をしながら、、半眼で先代贄様を睨んでいる。


「あの、先程は、先代贄様がせっかく真人との仲直りの機会を設けて頂いたのに、あのような態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。」

「ああ、いえ。私などに、生き神様が頭を下げる必要はありません。顔をお上げ下さい。」


深々と頭を下げた私に、先代贄様は優しく声をかけて下さった。


「場を設けた者として、私の配慮が足りませんでした。生き神様にご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません。」


「いえ、決して先代贄様のせいでは…!真人が私と交流をとろうと、ゲームを教えてくれたのに、初心者の私に手加減をしていたという理由で、どうしてあんな風に怒ってしまったんでしょう…。」


先代贄様にまで頭を下げられてしまい、余計にやってしまった事がいたたまれなくなってしまったけれど、先代贄様はそんな私の肩に

そっと手を置かれた。


「ええ。それなのですが、生き神様。恐れながら、生き神様は、お小さい頃から大変な負けず嫌いでいらっしゃりました。

勉強を教えて差し上げた時、苦手な分野についての勉強が進まない為、私が教材のレベルを下げようとすると、『やめて、このままでいい』と泣いて怒り、手がつけられ程でありました。大きくなってからは、大分落ち着かれましたが…。」


「ええっ!そんな事、ありました?覚えてな…あっ…?」


私は先代贄様に衝撃の事実を知らされ、驚きながらも、自ら封印していた過去=

先代贄様に向かって泣き叫ぶ昔の自分を思い出してしまい、頭を抱え込んだ。


「思い出したわ…。私ったらそんな欠点があったなんて…!真人にどうやって、謝ればいいかしら…。」


「大丈夫ですよ。生き神様がお望みであれば、もう一度真人との会合の場を設けて差し上げましょう。」


「先代贄様、ありがとうございます✨✨

わ、私今度こそ真人にちゃんと…」

「はい。負けると怒ってしまうなら、今度こそちゃんと勝ちましょうね!」


「謝っ…え?勝ちましょう??」


「はい。私と一緒に頑張りましょう。」


「!??」


そうして、爽やかな笑顔で先代贄様が私に差し出されたのは、将棋セットの箱と将棋の指南本数冊だった…。






*あとがき*


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m(_ _)m


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