第15話 閑話 生き神様の焼いた餅

「俺は考えたんだ。お屋敷の中であかりの為の祭りを企画しようと…!」


キリッした男の子の眼をして、真人がそう宣言してから、数日…。


真人はスタッフの人、キーちゃんとナーちゃんを巻き込んで、真人はずっと試行錯誤しながら、色んなものを作っているみたいだった。


私も準備を手伝うと言ったのだけど、出しものについては、なるべく当日まで内緒にしたいからと言われ、断られてしまった。


和室に呼び出されて、祭りの準備をする為だと、私の趣向や意見などを聞いてくれたりするので、毎日顔を合わせてはいるのだけど、真人は準備に夢中であまりゆっくり話す事も出来ない。


キーちゃん、ナーちゃんも準備に借り出され、先代贄様は何か別の用事でもお忙しそうなので、私は一人自室で儀式に向けて気を高める訓練に励むしかなかった。


色々してくれているのは有難いけど、私の為というなら、

会った時に、もう少しコミュニケーションをとってくれてもいいんじゃないかしら?


将棋で、最近ハマっている攻め方とか、

「ライ麦畑でつ◯まえて」の感想とか話したいと思っているのに…。


別に、その…寂しいとかではないのだけど。

あくまで、その、生き神と贄とより上手くやっていく為に、必要な情報伝達を…。


私が悶々としながら唇を尖らせていると…。


「「生き神様ぁ…。今、戻りましたぁ…。」」


「!」


疲れてヘトヘトになったキーちゃんとナーちゃんが帰って来た。


「ふーっ。やれやれ、やっと外の遊び場が完成したわい…。」

「この間は、厨二病の友人の元へ派遣されるし、精霊使いの荒い奴だ…。」


キーちゃんとナーちゃんはブツブツと文句を言っていた。


「あらあら、キーちゃん、ナーちゃん、大変そうね。祭りの準備をしてくれるのは有難いけど、真人にあまり大掛かりなものにしないよう言ってみるわ。今度出かける時は私も連れて行ってちょうだい?ねっ!」


「「え。は、はい。分かりました。生き神様…。」」


私が頼み込むと、精霊達は、了承しながらも、戸惑ったように顔を見合わせていた。


ちょっと、押しが強かったかしら?

でも、あんまりそちらに手を取られて、贄と精霊が消耗してしまうと、儀式的にも関わることだし、大事な事よね?


次に会うときは、真人にちゃんと思っている事を伝えなければと拳を握る私だった…。


          *


「真人、今、そちらに向かうが、生き神様からお話があられるという事なので、お連れするぞ?」

「真人、聞いているのか?おい、真人?」


翌日、いつも作業に行く時間にキーちゃん、ナーちゃんに真人に頭の中に話しかけてもらっただけど、どうやら、応答がないみたいだった。


「大丈夫かしら?心配だわ…。」


また倒れていたらと心配する私の背中に、精霊達は手を触れた。


「「様子を見に行きましょう。」」


そして、一瞬で他の部屋に移動した。


ベッドや本棚、テーブルなど、シンプルな家具が配置されたその洋室は、真人の部屋らしかった。


真人は、椅子に座ったまま、テーブルに突っ伏して、グーグーいびきを立てて眠っていた。

テーブルの上には、図面が描かれた紙が散乱していて、ダンボール工作の作りかけのようなものもあった。

どうやら、作業をしている内に疲れて眠ってしまったらしい。


「なんだ。寝ておるではないか。」

「生き神様に心配をかけおって。」


「まぁ、大事でないのならよかったわ。」


キーちゃん、ナーちゃんは呆れたような声を出し、私はホッと胸を撫で下ろした。


「真人、こんなになるまで頑張ってくれていたのね…。」


祭りの準備を一生懸命やってくれている真人に、近付き、その肩に毛布かけてあげると、

真人は寝ぼけているような呻き声を上げた。


「う…ん。あか…。」


!!//


「あかり」と自分の名前を呼ばれたのかと思って、私はビクッと肩を揺らした。


以前、真人が寝ている時、おっぱいについて寝言を言われて赤面してしまった事があった。

またそんな寝言を言われるのかしらと身構えていたところ…。


「あか…ね…。う〜ん。||||善処…します…。許して…下さい…。」


…!!?


「あかねって…?」


「茜というのは、確か奴の元許嫁の娘の名前だったかと…。」

「傍目からは、そんなに仲が良さそうではありませんでしたが…。」


私が呆然と呟いた言葉に、キーちゃんとナーちゃんが、少し言い辛そうに答えてくれた。


「そ、そう…なの…。」


そうだったわ…。真人には許嫁がいたんだった。傍目からは仲が良くなさそうに思えても、今までずっと側に一緒にいたんだもの。


簡単に忘れられるわけないわよね…。

私が俯いた時、真人は、目を覚ました。


「ハッ!学校に遅刻する!!あれ…?」


焦ったように机の上で身を起こした真人は、私、キーちゃんとナーちゃんを見て、目を丸くした。


「あ、あかり!?キー?ナー?ああ、夢か…。ヤベ、よだれが…。」


周りを見渡して今の状況を把握したのか、真人はホッと息をつき、口元に垂れていたよだれを袖口で拭き、無邪気な笑顔で話しかけて来た。


「あかり、部屋まで来てくれたのか?何か用だった?

あれ?どうしてそんな額にしわ寄せて、渋柿を食べたような顔してるの?もしかして、機嫌悪い?」


「渋柿なんて食べていません。機嫌悪くもありません。」


私は手で額の皺を伸ばしながら冷たく言った。


どうしてなの?

会えて嬉しい筈なのに、何故か真人の笑顔に苛々してしまう。


「えっ。そ、そうなの?ごめん…。(いや、でも明らかに機嫌悪いじゃん?俺、また何かやらかしたのか?)」


真人は慌てて謝り、助けを求めるように精霊達を見遣った。


「どバカめ!生き神様が祭りの準備を頑張り過ぎるお前を心配して、わざわざいらしてくださったというに…!」

「お前は、机で寝こけており、寝言で許嫁の名前を呼んでおったのだ!どアホめ!」


「ええっ!そ、そうだったのか。ごめん。あかり!!」


キーちゃんとナーちゃんの説明に、真人は仰天して、すぐに謝って来た。


「べ、別に気にしていないわ。私が真人を許嫁さんから引き離してしまったんだもの。

夢に見るぐらいで私が文句を言う事なんてできないわ。」


無理矢理口を動かしてそっぽを向くと、真人は、ぶるぶる首を振って急いで否定して来た。


「いやいや、も、全然そんなんじゃないんだって!昔、許嫁の茜にプレッシャーをかけられて辛かった事があって、それを悪夢に見ていたんだよ…!

俺、元々茜とは上手く行っていなかったし…。」


「そ、そうだったの…?真人、それは辛かったわね。」


心底嫌そうに主張する真人は、嘘をついているようには見えなかった。

真人の過去の辛い体験を聞いて、胸が痛みつつ、一方で真人と許嫁さんとの仲が良くなかった事に安心してしまう自分がいた。


私、どうしたのかしら?悪い子になってしまったのかしら?私は生き神だというのに、何ていう事かしら!

罪悪感にかられて神妙な顔をする私に、真人は明るい笑顔を向けてくれた。


「ま、今は、幸せなんだけどね?起きた時、あかりの顔見て、ホッとしたよ。」


「真人…。」


「あの時は辛かったけど、今は、好きな人の為ならどれだけでも、頑張れるって思うんだ。だから、あかりは俺に遠慮せず、ガンガン期待やプレッシャーをかけていいからね?」


そう言って、ニッコリと親指を立てた真人は眩しくて、私は頬が熱くなるのを感じた。


「も、もう、真人ったら。//そんなチャラい事を言って。私は生き神なのよ?

プレッシャーなんてかけたりしないから、

あんまり、無理して心配させないでね?」


「分かったよ、あかり。もう、大分形になって来たし、ちゃんと休息とるようにするよ。儀式もあるし、体力残しとかなきゃいけないもんな。でへへ…。///」


そう言って鼻を伸ばした真人に、私も頷いた。


「そそ、そうよ…?真人には贄として、儀式も頑張ってもらわなきゃいけないんですからね…。//」


そうして、真人と話して気持ちが晴れた私は、嫌な感情を出してしまった事を反省して、先代の母様のような冷静で威厳ある生き神様になる事を心に誓ったのだった。



          *



そしてその翌日ー。


先代贄様から、作業の合間に、真人が疲れて庭で昼寝していると聞いて、またも心配になって私が、キーちゃん、ナーちゃんに連れて行ってもらい、様子を見に行くと…。


真人は、木の切り株に頭を持たせて居眠りしながら、ニヤニヤ笑いを浮かべていた。


「でへへ…。///藍川瑞希ちゃん…。なんて大きなおっぱいなんだ…。たまらん…。」


!!!!


「もう、真人ったら…!プックー!!💢」


私が拳を震わせていると、真人は不意に目を覚ました。


「ハッ。あ、あかりぃ。また来てくれたの…。あれ?どうして焼いた餅のように頬を膨らませているの??」


「餅なんか、焼いてませ〜んっっ!!💢💢」


「わあっ!あかり、ごめーん!!」


無性に腹が立って怒鳴り込んだ私に真人がペコペコ頭を下げて来た。


「「ハア…。懲りん奴じゃな…。」」


キーちゃんとナーちゃんが静かにため息をついている。


母様…。真人(贄)の前でなかなか冷静な対応が取れない私はまだまだ生き神様として未熟者のようです…。




*あとがき*


新年明けましておめでとうございます✨🎍✨

お正月だけに、生き神様、(焼き)餅ネタを出してみました。


いつも読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m


今年もどうかよろしくお願いします。


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