第8話 浴場での思わぬ遭遇《後編》
いよいよ、継嗣の儀の前日ー。
俺は和室に呼び出され、
「真人。明日は、いよいよ継嗣の儀。お前に贄として弁えて置くべき心得を伝えて置く。」
「お、おう…。OK、OK。俺に、ま、任せておけ…。ぐぅっ。」
「真人!!寝るでない!!」
「ぐぎゃあっ!!」
返事をしている間に思わず意識が遠のいてしまった俺の耳元で、菊婆に大音量で怒鳴られ、俺は悲鳴をあげた。
「明日は大事な継嗣の儀だと言っておるじゃろうが!生き神様の為に何でもすると言っておったのは口だけかっ!?」
「ちげーよ!俺だって色々考えてんだ!あかりを救う為の手立てや、その…お、俺達の子供の名前を考えたりして、昨日はあんまり眠れなくて…。ふわぁ…。」
「はぁ〜…?何じゃ、それは…?!」
あくびをする俺に菊婆は呆れたような顔をした。
前回の儀式から一週間、俺は生き神の過去についてあかりの意見を聞きたいと思い、(ただあかりの顔が見たいという動機もあったけど)キーとナーに文や、蜜香スイーツを届けてもらい、何度か会いたいと申し出てみたのだが、「継嗣の儀の準備で体調を整えているので、今は会えない」と綺麗な字で書かれた文をもらい、諦めざるを得なかった。
キーとナーにも「生き神様が体調のお辛い時にご無理を強いるでない!」と怒られ、そう言えば、女の人には毎月、体調の変化する時期があるのだと思い至った。
あかりに会えないのは寂しいが、今俺が出来る事をしようと思い、生き神の歴史をノートにまとめ、対策を考察したり…。果ては、継嗣の儀の後の事を考え、スタッフさんに父親の役割を聞いて回り、名前を付ける事が父親の第一歩と結論付け、昨日はスタッフの保坂さんに子供の名付け事典を借りて、深夜まで考えていたわけだが…。
菊婆は、そんな俺を見て額に手を当ててため息をついた。
「お前の粗末な頭で考えても、何も出て来んだろうに…。また益なき事をしよって…!」
「何だとババア!俺の計画では闇属性のもう一人の生き神様が、「の◯太の魔界大冒険」の勇者の残りの二人のようにラストに突然現れ、俺達を助けてくれる事になってんだぞ?」
「いい加減、厨二病とやらは卒業せんか…!一度ぶん投げてやったら、まともになるかの…?」
寝不足の血走った目で興奮ぎみにそう言う俺を菊婆は半目で見て、投げ技の構えを見せたので、俺は後ずさりながらも主張した。
「や、やめろよ…!俺は次期生き神様の父親になるんだぞ?天格、地格、人格、外格、総格全部が大吉の名前だって考えたんだ。」
「次期生き神様のお名前は、今の生き神様が考える事になっておるぞ?」
「へ。そうなの…?」
菊婆ににべもなく言われ、俺は目が点になった。
「くっそー!一晩中考えた俺の苦労は一体…!?「
頭を突っ伏し、座卓を拳で叩いている俺に菊婆は告げた。
「ふうっ…。だから、益なき事をするなと言うておるのじゃ。
明日の為に、今日はしっかり…眠をとっておけよ?清めの湯は…8時、その後すぐに……の儀じゃからな?」
「……。……。」
「真人…?まさか、また寝ておらぬじゃろうな?」
「ハッ。」
怒りを孕んだ菊婆の声に気が付き、俺は慌てて飛び起きた。
「わ、分かってる!聞いてるって。時間になったら清めの湯で、その後すぐに継嗣の儀だろ?」
「分かっておればよいのじゃが…。しっかりしろよ?」
「おう!当然、大丈夫だぜ!」
俺は親指を立てながら、内心ちょっと焦っていた。
あっぶねー。菊婆が話してる途中で、ちょっとウトウトしちまったぁ。
清めの湯は8時でいいんだよな?随分朝の早い時間にやるんだな…。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「??贄…様!?」
「羽坂さん?おはよう…ございます。」
翌朝、浴場に向かっていた俺は、そのかなり手前の廊下で、いつもあかりについている若いスタッフさん、羽坂さんと出くわし、かなり驚かれた。
「おはよう…ございます…。え?もしかして、浴場に行かれるおつもりですか??」
「え、ええ…。この時間に来るように(菊婆に)言われていたんですが…。」
「えっ!この時間に来るように(生き神様が)仰られたのですか?この場で、少々お待ち下さい。」
「は、はい…。(あれ?時間間違えたかな…。)」
羽坂さんは、バタバタ慌てて浴室に何かを確認しに行き、俺はそれを手持ち無沙汰にしばらく待っていたが…。
「贄様、失礼致しました!」
すぐに、羽坂さんは戻って来た。
「どうぞ、中にお入り下さい。」
「あ、ああ…。」
今度は笑顔で浴室に案内され、俺はホッとした。
風呂の準備が出来ているかを確認していたのだろうか?何にせよ、時間を間違えていたわけじゃなさそうでよかった。
「私は遠くに控えておりますので、どうぞ、ゆっくり、ゆっくり、入っていらして下さいね?」
「あ、ああ…。ありがとう。」
羽坂さんに含みのある言い方をされ、戸惑いつつも俺は浴室へのドアを開けた。
ガチャッ!
旅館の浴室のように、手洗い場の設えられた広めの脱衣場の壁際には、荷物を置く棚があり、その一区画に、綺麗に折り畳まれた着物が入っている籠が置いてあった。
「これが、着替えかな?前回まではスタッフさんにやってもらった気がするんだけど、今回は自分でやれってことか?」
三回の儀式の時までは、スタッフさんがついて色々説明して着付けしてくれていたのだが、今回は「継嗣の儀」だから、勝手が違うのだろうか?
まぁ、羽坂さんもついているって言ってくれたし、着付けられなかったら、スタッフさん呼んでもらうか。
そうと決めると、大きな浴場での入浴を楽しむことにした。
あっという間に服を脱ぎ…。
ガラガラッ!
「ふはぁ〜!ここの湯舟、広くて気持ちいいんだよなぁっ!」
俺が、勢いよく浴場の戸を開け、前を隠すこともなく、タオルを片手にざかざかと浴場に入った瞬間…。
「…!!」
「…?!」
黒髪の超絶美少女と目が合い、俺は目を瞬かせた。
「はれ…。あ、あかり…??💥💥」
「ま、真人……。///」
お清めの湯に先に浸かり、タオルを裸の胸に当てて固まっているその美少女は、
今夜、共に継嗣の儀に臨む事になっている生き神様であるあかりで、俺はどんなリアクションをしたらよいのか分からず、困っていた…。
*あとがき*
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