第20話 拝島の墓《先代贄 神山明人視点》
「いやぁ、いつも投資情報をくれるAKIがこんな美形だったとはなぁ……!登場の仕方といい、びっくらしたけど、会えて嬉しいぜ〜!!」
無線電波を通じて長年交信して来た友人、
「そう言う春日は、俺のイメージ通りだったぞ?」
漁師をしているだけあって鍛え上げられた肉体を持った彼は、さっぱりした人の良さそうな笑みを浮かべていた。
春日に直接会って話をしたいと頼み紅糸島まで船をつけてもらい、キーとナーに彼の船内に瞬間移動させてもらった時彼は死ぬ程驚いていたが、説明するとすぐに状況を受け入れてくれ、彼の住む
「ははっ!ま、何にせよ、株の投資についての情報はマジありがてーよ!
言われた通り投資してたら、この島で暮らすのに、もう十分以上の資産が出来た。
お前のものとして投資した分は、もうエグい事になってるぞ?お前も島暮らしだろうに、どうやって使うんだ?」
「ああ……。すまないが、その分については、全額すぐに使わせてもらう事になりそうだ……。」
「ふへぇっ?!」
俺が質問に答えると、春日は、目が飛び出る程見開いて素っ頓狂な声を出した。
「あ、あんだけの金額、何に使うんだ?」
「そうだな……1500人が乗れるフェリーの調達。しばらくの間のホテルの宿泊代、生活立て直しの為の寄附といったところか……。」
「??? い、一体、お前は何をやろうと……??? 」
春日が首を傾げているところへ……。
島の集団墓所とは離れた北側海岸近くの林の中に隠れるように、その墓はひっそりと佇んでいた。
「ここか……?200年ほど前にこの島に流れ着いてそのままここに住み着いた男性の墓というのは……。」
「あ、ああ……。ここに眠る、ロクと呼ばれていたじいさんは、天気を読むのが異様にうまかったらしい。
結婚はしなかったらしいが、若い頃はかなりの美男子で、船で移動する行商人の娘といい仲なんじゃないかと噂があったとか……。
あまり人付き合いを好まない人だったが、このじいさんの予言めいた天気予報で助かる事も多かったもんで割と慕われてて、その死後、島の皆は、彼があまり行きたがらなかった島の南側ではなく、北側に墓を作ったって話だけど……。
この墓が、AKIの住んでいる島より、更に辺鄙なところに来てまで見る価値のあるものなのか?」
「ああ。多分な……」
私は自然石を積み上げて出来たその小さな墓にしばし手を合わせると、その後ろを振り返った。
島の南側の海岸からは、方角的に紅糸島が見える筈。
200年前にこの地に流れ着き、島の南側を避け、天気を予言する力を持つ男、過去双子で生まれた生き神様の弟だと考えても辻褄が合わなくはない。
そして、彼がもし子孫を残しているとしたら、この地にはおらず……。
能力が自分に受け継がれている事に気付き、紅糸島に訪れたとして、その目的は何だ?
生き神様の能力を手に入れ、金と権力を求める為?
しかし、その手段として風切冬馬を贄として送り込みたいなら、真人が贄になる前に害する方法はいくらでもあっただろうに……。
今までの敵方の動きを見るに、単なる物欲や支配欲というより、もっと怨念じみた妄執のような動機を孕んでいるような気がして、私は眉根を寄せて考え込んだ。
今、私が社を不在にする事によって、敵方が大きく動くであろう事は分かっている。
黒幕は、風切冬馬を含む風切総合病院や、島民会のものを巻き込んで社に無理難題を押し付けてくるやもしれん。
社の責任者である菊婆が狙われる可能性もある。
だからこそ、彼女に、キーとナーから預かりし始祖様のお札を預けて来た。
恐らく、不思議な力を持つ黒幕はたった一人。
油断をした隙にそいつを倒せれば、他の権力や欲望目当ての者どもは如何様にも対処出来る。
うまく行ってくれればよいが……。と、私が思案していると……。
「そう言えば、お前みたいに真剣な表情でここをお参りしていた奴がいたっけなぁ……。」
「え?」
春日が昔を懐かしむような顔で、呟いた。
「いや、随分昔、小さい女の子がこの墓のじいさんのようにこの島に流れ着いた事があってな……。溺れたショックで、記憶をなくしたその子は、毎日のようにこの墓をお参りしていたんだよ。
近所の爺さんが引き取って、教育の為に本州に渡って行ったが、あのおかっぱ髪の子、今頃どうしているかなぁと思ってさ」
……!!
「春日! それは、いつ頃の話だ!?」
血相を変えて詰め寄る私に、春日は戸惑いながら答える。
「へ?え〜と、その子が流れ着いたのが、俺が漁師になりたての頃だから、大体15年ぐらい前…か…?」
「15年前……!」
確か、その頃、紅糸島では……。
とすると、黒幕の正体は、まさか……!
「いかん! 春日、すまんが至急、船の衛星電話を使わせてもらってよいか?」
「へっ。それは構わねーけど。」
「すまない!」
「あっ。おい、AKI! 待てよ! ったく唐突な奴だなぁ……!」
春日のぼやきを背に受けながら、私は船着き場まで全力疾走した。
しくじった!
私の推測が正しければ菊婆はあのお札を使えない。
どうか間に合ってくれと私は祈るような思いで願ったのだった……。
*あとがき*
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