第24話 幼き日の記憶
「「ジャンケンポン!!」」
「ああ、やっぱり負けたぁっ。」
「だから、じゃんけんは負けないって言っているのに…。チーヨーコーレーイートッ!」
グリコじゃんけんで、パーで負けた俺は頭を抱え、チョキで勝ったあかりは、苦笑いしながら神社の石段の上をチョコレートの文字数=6段分をカコンカコン…と音を立てて登って行った。
「くそぉ…。早くも6段も差がついてしまったぜ…!」
「結果が分かっているのに、何故こんな事するの…?」
石段の上方から、俺を見下ろしながら、和服姿の黒髪超絶美少女は顎に人差し指を当て、首を傾げている。
「いや、あかりは下のアングルからみても美人だという事を確かめているんだよ。着物の裾が長いせいか、見えてはいけないものは見えそうになくて、ちょっと残ね…いや、安心だな。」
「…!!//も、もう、何言ってるのよ。真人は…。」
負け惜しみ半分、本音半分でそう言うと、あかりは、着物の裾を押さえ、頬を赤らめて頬を膨らませた。
「「(儂らに術まで使わせておいて、何をやってるんじゃ、一体あやつは…?)」」
遥か上空に浮いているキーとナーは、俺達のそんな姿を呆れたな表情で見下ろしている。
そう。
社のお屋敷の奥深くに限られたスタッフの世話を受け、守り隠されている生き神様であるあかりが、人の行き来する神社の階段に姿を現すなど、本来ならあり得ない事だ。
俺達がこうしていられるのも、精霊達の術のおかげなのだ。
祭りの後、「あともう少しだけ、一緒に遊ばないか…?」
という俺のワガママに、「いいわよ。」とあかりは笑顔で了承してくれた。
何をやりたいのかと聞かれ、子供の頃に神社の階段でよくグリコじゃんけんをやっていた事を思い出し、提案してみると、近くで聞いていたキーとナーに、
「神社の階段で遊ぼうとするなっ!」
「罰当たりがっ!」
と怒られた。
※精霊達の言う通り、良くない事ですし、危ないですので、よい子の皆さんは絶対に真似をしないで下さいね。
「けれど…。生き神を祀っている神社なのだし、私が遊ぶ分には問題ないのじゃないかしら…?
少しの間だけだから、お願い。キーちゃんナーちゃん。」
「あかり…!」
「「生き神様がそうおっしゃられるのでしたら…。」」
あかりが思わぬ加勢をしてくれ、キーとナーの協力を得られる事になったのだ。
まず、キーが俺達に例の姿の見えなくなる術をかけてくれ、姿を家した俺達をスタッフが心配するといけないからと、ナーがそれぞれの部屋に俺達の姿を立体投影する術をかけてくれた。
ナーの術は精巧で、あかりが瞑想する姿、俺が机につっ伏して寝ている姿は、本物そっくりだった。
俺は目の前に自分がもう一人いるというドッペルゲンガーのような不思議な状況に目を瞬かせたものだった…。
「う〜ん、神様相手に確かにこのままじゃ、負け続けだよな?あかり、結構負けず嫌いだし…。」
「そうよ?私だって、無駄には負けたくないもの。他の遊びにする?」
「…!💡」
腕を組んで考え込んでいる俺に、あかりからそう聞かれ、俺はポンと手を叩いた。
「いや、続けよう!あかり、じゃんけん最強だからちょっとハンデをくれないか?勝敗に関して条件付けしていい?」
「ハンデをあげるのはいいけど、条件付けって…?」
目を瞬かせているあかりに、俺は指を突き出して宣言した。
「じゃあ、俺が勝ったら、あかりを可愛いと褒めまくる!」
「えっ、ええっ!//」
「行くぞ、せーのっ!」
動揺するあかりに、俺はかけ声をかけた。
「「じゃんけんポン!」」
俺が出したパーにあかりの出した手は…。
グーだった…!!💥💥
「やったぁ!俺の勝ち!!初めてあかりに勝ったぁっ!!」
「あ、ああっ?!ど、どうしてっ!?||||」
小躍りする俺に、慌てふためいているあかり。
「約束通り、あかりの事褒めまくるぜ!
いつも超絶美少女だけど、今日のあかり、紫の着物が大人っぽくて、特別メッチャ可愛い!!
髪飾りもよく似合ってて、花の精みたいだ。
この可愛さを世界に知らしめたいぐらいだ!
いや、やっぱり俺がひとり占めして、ギュッと抱き締めたい!!
笑顔も、怒り顔も、泣き顔も、皆可愛い!大好きだぁっ!!」
「〰〰〰〰!!!////も、もうやめて、真人、恥ずかしいわ〜!!」
あまりに興奮して大声を出して、体に貼り付いたキーの術の膜がフルンッと揺らぎ、危うく解けそうになりながらも、俺が最後まで言い切ると、あかりは耳まで真っ赤になった顔を、両手で覆い、その場にしゃがみこんでしまった。
へへっ。ちょっと言い過ぎちゃったかな?///
照れるけど、スッキリしたぜ…!
「パーイーナーツープール!」
あかりと同じ段まで並ぶと、俺はしゃがんでいる彼女に、にっこり笑いかけた。
「よし、追いついたぜ!これで勝てたって事は、あかりは俺に可愛いって言われたかったって事だよな?」
「…!//か、可愛いって言われたくない女の子はいないと思うわ?真人、ズルいわ…!」
あかりは、顔を覆った手を少しずらして俺を上目遣いで睨んで来た。
「分かったよ。じゃ、次は違う条件にしよう。」
「え、ええっ?」
戦々恐々としているあかりに、次の必勝の策を自信満々に言い放った。
「あかりが勝てば、小学生4年の夏休み、俺が一日に集めたバッタの数の最高記録を教えてやろうじゃないかっ。ぬははっ!」
「………。」
「「ジャンケンポン!」」
(俺) (あかり)
✌ ✕ ✊
「グーリーコッ。」
カコカコッ…。
あかりは3段上に上がって行ってしまった。
「あれぇ?何でぇ?」
負けて愕然とする俺に、あかりは困ったような笑顔を浮かべた。
「それはあんまり興味なかったわ。バッタさん捕まえるの可哀想だし…。」
…!! ||||
そ、そうだ。あかりは心の優しい子だった。つい、捕まえたバッタの数を得意に思って条件付けに使ってしまったが、却って好感度を下げてしまった事に俺は狼狽え、かなり過去の記憶を改竄して言い訳した。
「あっ。ご、ごめん。💦いや、違うんだ、あかり。記録って言っても、何匹かしか捕まえてないし、捕まえた後はちゃんと野原に戻してあげたよ。」
「そうなの…?あんまり、小さい生き物を苛めないであげてね…?」
「もちろんだよ、あかりぃ…。」
少し表情を和らげながらも、やんわり諌めてくるあかりにウンウンと俺は頷いた。
「それで、次の条件は何にするの…?」
「え?えーと…。」
今度は条件付けをあかりから催促され、俺は頭を捻って考えた。
「うーん、後、あかりの興味を引けるような事って、なんだぁ?俺の小さい頃の思い出なんか、イタズラをして菊婆に何回ケツ叩かれた事かぐらいしか…。」
「…!じゃあ、真人が勝ったら、菊婆に何回おしりを叩かれたか教えてくれるのね?」
「へっ。いや、待っ…!」
何故か、目を輝かせ出したあかりを慌てて、止めようと、手をかざしたが…。
「せーのっ。」
「「ジャンケンポン!」」
(俺) (あかり)
✊ ✕ ✌
「ああっ!勝ってしまった! ||||
グ、リ、コ…。」
あかりの勢い押されて、思わずじゃんけんをしてしまった俺は、握りしめたグーの手をぷるぷる震わせ、力なく3段上がった。
「あら、残念だわ…。」
そう言って、あかりは、わざとらしく頬に手を当て、同じ段に登って来た俺を見遣ったが、じゃんけん思い通りになるんだから、確信犯だよね?
俺はため息をつくと、こちらを期待の瞳で見てくる彼女に、ボソボソと話し出した。
「分かったよ。言うよ。小さい頃は菊婆にしょっちゅうケツ叩かれてたから、累計は数え切れないけど、偉い人のカツラ取るイタズラした時には、ケツ百叩きの目に遭って、あれはキツかったな…。」
「真人、いたずらっ子だったのね?それにしても、百回もおしりを叩かれるなんて、痛そう…。|||| 菊婆、厳しいのね。
私には、子供の頃から親切にしてくれたのに…。」
驚いて、ちょっと青褪めているあかりに、俺は苦笑いして、手を振った。
「いやいや、いくら菊婆でも、次代生き神様のおしりは叩けないだろ?
それにあかりは俺なんかと違って、お利口さんな女の子で、怒る必要なんかなかっただろうし?」
「そうでもないわよ?小さい頃は、ワガママで聞き分けのないところがあって、母さ…、先代生き神様にはしょっちゅう怒られていたし…。」
「へえ、そうなんだ。意外だな…。」
気まずくペロッと舌を出すあかりの様子に、聞かん坊だったという小さい頃の彼女を思い浮かべ、微笑ましく思った。
「まぁ、子供の頃は色々やらかしてしまうものよね?大人になった今では笑い話だけど。」
「そそ、そう…だね。あかり。もう、俺達、大人だから、そんな事しないけどね?」
やべ。つい最近も同じ事しましたとか言えねぇ…。俺はにこやかなあかりの顔から気まずく目を逸らしたのだった…。
*
「「ジャンケンポン!」」
「やったぁ!私の勝ちだわ。グーリーコッ!」
「あ〜、負けたか…。」
それからも、グリコじゃんけんは続き、俺はあかりの気を引く条件付けに、失敗したり成功したりしながら、最後は石段最上段に登り切ったところで、あかりの勝ちが確定した。
「生き神様のパワー、ホントすげーわ…でも、あかり、グリコじゃんけん、慣れてたけど、誰かした事あったのか?」
「えっ。ないわよ?」
「ん?でも、俺、グリコじゃんけんのルール説明しなかったけど、あかりは、すぐ始められたよね?」
俺が最初にちょっと疑問に思っていた事を言うと、あかりはハッとしたように口元を押さえた。
「…!!そ、そう言えばそうね。何故、私、この遊びを知っていたのかしら…。誰に教わったのかしら…。
こんな、人前に出る危険性のある遊びは、先代贄様、スタッフにとめられるだろうし…。」
「同年代の子とは、接触した事なかったんだもんな?」
俺に聞かれて、あかりは首を捻り、更に考え込んだ。
「え、ええ…。あ、でも、一度だけ、怪我をした女の子が、社のお屋敷に迷い込んで来たがあったかしら。
でも、傷の手当てをしただけで、遊んだりはしなかったと思うのだけど…。でも、言われて見れば、確かにこの石段で、誰かと一度遊んだような…。うっ…。」
「あかりっ?!」
ガシッ!
一瞬体がぐらつき、倒れそうになったあかりを慌てて下から、抱えるようにして支え、そのまま、二人、抱き合って座り込むような姿勢になった。
「だ、大丈夫か…?あかり?」
心配して声をかける俺に、あかりは弱々しく返事をした。
「え、ええ…。ちょっと目眩がしただけ…。
それより、今、何か思い出しかけたわ。
私、小さい頃、ここで男の子と会ったのよ。」
「男の子…?」
「ええ…。何だか真人に雰囲気が似ていたような気がするけど…違うかしら?頭に靄がかかったようによく思い出せない…。」
ぼんやりと語る彼女に、俺は正直に答えた。
「残念だけど、それは多分、俺じゃないと思う。小さい頃とはいえ、こんな可愛い娘と会ったら、絶対に覚えてるよ。」
「そ、そう…。実際の出来事にしては、ハッキリと思い出せないし、夢か何かだったのかしら…。」
残念そうに視線を落とす彼女を元気づけるようにその背を撫で、俺は笑った。
「そうかもな…。小さい頃、夢の中で俺達、会ってたりしてな。何せ、俺はあかりの贄。運命の相手として生き神が予知夢を見たとしても、不思議じゃないぜ。」
「ふふっ。真人ったら…。」
あかりに呆れたような笑顔が浮かび、ようやく、俺はホッとした。
「あかり、疲れたんじゃないか?最後まで引っ張り回しちゃってごめんな。今、キーとナーを呼ぶから…。」
「待って、真人。」
上空にいるキーとナーに声かけをしようとした時、俺の背中に回されていたあかりの手に強い力が籠もった。
「あかり…?」
「もう少しだけ、もう少しだけ、このままでいてくれる…?」
「あ、あかり…。///」
温かく、柔らかい体を俺に預けて甘えてくる彼女がとても愛おしく、俺はギュッと力を込めて抱き締め返し、しばらくそのまま離れられなかった。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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