第11話 先代の贄

「で、でもっ…。生き神っていうのは、人の生気を吸う化け物でっ…、島の寿命を吸い取って…自分のものにっ…。」


俺が思わず呟くと、俺の足元にひれ伏している超絶美少女美少女(ちょっと、藍川瑞希ちゃん似)は、涙ながらに反論した。


「何百年も生きている事なんてそんな事できるワケありませんっ!」


いや、ま、普通に考えれば、そりゃそうなんだけど…。


「私(生き神)ができるのは、自分や他の人の生命力を高めて、溢れ出た生命の気を預かった神の力を使って放出させることや、いくつかの人の心に干渉する小さな術を使える位で、

人の生気を吸って自分のものにしたり、攻撃したりなんて邪な事は、できません。

もし、そんな事をしようと思えば神の力が暴走してこの島は、とっくに人の住めない荒れ果てた土地になっているわっ!」


「…!!」


目の前の少女の訴えは、真に迫っていて、俺はその必死さに、気圧され、混乱していた。


だって俺は贄に選ばれて、何百年も生きている生き神に心神耗弱状態にされて、生気を吸われるって、島から逃げなきゃいけないって

言われて…。


でも…。


目の前の好みどストライクの美少女が、綺麗な涙を流して、訴えかける事をとても嘘とは思えず…。


それどころか、俺が土下座を強要してしまったが為に、彼女の、綺麗に整えられていた髪は乱れ、白い着物の裾は土で薄く汚れてしまっているのを見て、俺は今や罪悪感まで抱き始めてしまっていた。


「惑わされるなっ。生き神は、お前を謀ろうとしているだけだっ!!

真人、早く私と来いっ!間に合わなくなるぞ!」


「…!!」


鋭い声でそう言われ、ハッと振り返ると、

黒いパーカーの人物が俺に手を伸ばそうとしていた。


「ハァッ!」


ドゴッ。

「ぐっ!?」


そこへ、いきなり現れた長身の人影が、黒いパーカーの人物に攻撃を加え、俺達の間に割って入った。


「騒がしい事になっているな。この事態は、一体どうした事だ?」


間に立ったその長髪、長身の人物は、美しいテノールの声を響かせた。

女性のような綺麗な顔をしているが、声やがっしりした肩から判断して男性のようだった。


「お、お前はっ…!!」


黒いパーカーの人物は、目の前の男を見て動揺しているようだった。


「気配の読み取れぬと言っていた不審者はお前か…。贄を誑かして何をするつもりだ?!


黒いパーカーの人物に対峙し、その長身の男は、綺麗な面差しを不愉快そうに歪めた。


、放ってはおけぬ!生き神様の真実については、私から真人に語る。お前の企みは失敗した。」


「チッ。覚えてろ…!」


黒いパーカーの人物は、言うなり、走り出し、洞窟を去って行った。


「ま、待てっ!待たぬかっ!!」


菊婆が、後を追いかけたが、続いてバイクの走り去る音が聞こえた…。


「クッ。申し訳ありません。取り逃がしました…。この足場の悪い道でバイクを使うとは…!」


しばらくして菊婆は、無念そうに戻って来た。


「まぁ、よい。取り敢えずは、贄も生き神様も無事だったのだ。」


「し、しかし、此度は孫がとんだことを仕出かしてしまいまして…l||l」


「っ…!!l||l」


青白い顔で俺を睨みつける菊婆の眼光の鋭さに、俺が震え上がっていると、黒いパーカーの人物を撃退した長身の男は、

怒りのままに何をするか分からない様子の菊婆を制するように手をかざした。


「詫びは、後だ。真人は私が見ている故、

菊婆、保坂、すぐに警備の者を倍に増やし、外に待機させてくれ。」


「「は、はいっ。」」


長身の男は、テキパキと菊婆達に指示を出し、呆けてしまっていた他のスタッフも、慌てて動き出し、その場を去った。


「生き神様。お立ちなさい。思わぬ事態になったからといって、威厳を捨てては、なりませぬ。あれだけ教え込んだ口上も、どこかに行ってしまっているではありませんか…。」


「せ、…。も、申し訳ありません…。」


目の前の美少女は、恥じ入ったように赤くなると、裾を払って立ち上がった。


「もう様はつけないで下さい。あなたは、もう生き神様になられたのですから。」


長身の男性は、苦笑いを浮かべた。


っていうか…今、先代の贄って言った???

先日亡くなった筈じゃねーの??


俺は目の前の事態に追い付けず目をパチパチしていると、

彼は更に、動けずピクピクしながら寝転がっているキーとナーの近くに寄って行き、爽やかないい笑顔を浮かべた。


「キー。ナー。いい格好だな…。」


「ぐうっ…。黙れ、明人…!」

「殺す…ぞっ?」


「此度の件、生き神様のお考えを充分に伝えず、贄の不安を煽ったお前らにも責任のある事だ。深く反省せよ!」


「くうっ…!」

「動けないのをいい事に言いたい放題言いやがってぇ…!」


双子の精霊達は、歯を食いしばって、悔しがっている。


凶悪な精霊達をも恐れないこの態度…。

それに、精霊は確か贄にしか見えないと…そう言ってなかったか…?

という事はやはり、この人は…!


「そして新しい贄の…、真人とか言ったか?」


急にこちらに目を向けられ、俺は肩をビクッと震わせた。


「色々誤解があるようだな。本来なら儀式の後に生き神様からお伝え頂くのが、しきたりであるが、今は緊急事態と見て、先に例外的に私の口から語るとしようか。いいですな?生き神様…。」


「は、はいっ。私なんかより、先代の方から語って頂いた方が真人は信用できると思います。」


男性が、チラッと見遣ると、美少女は、両手を組み合わせてコクコクと頷いた。


「真人。、神山明人から生き神様と贄との真実を伝える。心して聞くがよい…。」


「…!!!」


男性は、麗しい笑顔を見せ、俺にそう告げたのだった。



*あとがき*


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m(_ _)m


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