第22話 死と混乱の中で……。
菊婆の死因は、心臓麻痺。
部屋の中で倒れている菊婆を発見した野木さんが、すぐに救急車を呼んだが、既に手遅れで、病院で死亡が確認された。
ほぼ即死の状態だったらしい。
社の皆は、混乱とショックで、パニックになった。
島民会と冬馬、茜、怪しい女がとんでもない提案を持ちかけて来た直後、心配しながらも菊婆を送り出したこのタイミングでの突然の死に、奴らの関与が疑われ、キーとナーに調べてもらったが、特に争った形跡も、不思議な術の痕跡も見つけられなかったという。
菊婆の懐には使った形跡のない始祖の御札が、残されていたらしい。
菊婆が物言わぬ体になって帰って来て、スタッフの全員がその体に取り縋って泣いており、あかりはキーとナーを菊婆に付いて行かせていればと深い後悔に苛まれ、精霊達はそれを必死に宥めていた。
そして、俺は、菊婆の死に現実感のないまま、ただ呆然としており、泣くことも出来なかった。
葬儀の前に、スタッフさん達の計らいで、和室に寝かされた菊婆と、最後に二人きりの時間を作ってもらえたが……。
お棺に寝かされた眠っているだけのようなその
厳格な祖母だった。俺の話なんか聞かず、いつも頭ごなしに叱りつけ、時には暴力の制裁も辞さないババアに度々反発して、早く大人になって家を出たいと何度となく思ったものだ。
許嫁を強引に決められてからも、贄になってからも、ババアの態度は変わらず、俺も打ち解ける事はなく……。
『かかっ。お前に心配されるほど落ちぶれてはおらぬわ!』
最後に交わしたのも、デコピンと共にそんな憎たらしい言葉だけ……。
ふいに、体の芯から怒りが込み上げて来た。
ガッ!
「散々偉そうに叱っておいて、この体たらく!後の事は全部俺に丸投げかよっ……。何とか言えよっ……!ババアッ!!」
菊婆の襟首を掴み怒りをぶつけるも、遺体は物のように揺すられるだけで、何も答えてはくれなかった。
「っ………!くっそ、何なんだよぉ!!」
遣り切れない思いで菊婆を離すと、その場に蹲り、震えていると……。
「真人くん……!ちょっと入ってもいいかな?」
「!」
和室の襖越しに、聞き覚えのある年配の女性の声を聞き、俺は驚いて声を上げた。
「御堂……さん……?」
ガラッ。
「失礼します。この度は大変な事だったねぇ。真人くん。」
目に涙を浮かべて現れたのは、菊婆から社の管理の後継を任されていて、頻繁に手伝いにも来ていた、
俺が小さい頃はよく面倒を見てもらって、菊婆とは違って穏やかで優しい御堂さんに懐いていた記憶がある。
御堂さんは驚く俺の前に座り、優しく語りかけて来た。
「本来なら贄様……と、お呼びしなきゃならないのだろうけど、今だけ昔のままの呼び方を許してね?
真人くん、こんな事になって辛いでしょう。
後の事は、私とスタッフさん達で何とかするから、しばらく心と体を休めてちょうだい。」
「御堂さんっ……。」
温かい言葉に思わず、気が緩んで涙が滲み、腕で目元を拭っていると、御堂さんは今度は菊婆の遺体に向き合って涙を落とした。
「菊婆ちゃんっ……。社については、私がきちんと管理を引き継ぐから、安心して下さいね?」
それから間もなくして葬儀の為、御堂さん、保坂さんを始めとした社のスタッフ数名に付き添われ、菊婆は近くの葬儀場に運ばれていき、生き神の世話係の羽坂さんと、食事担当の刈谷さんのみ社に残り、留守を守る事となった。
贄で、社会的に死んだ事になっている俺は、もちろん葬儀に出席する事など出来ない。
今の状況では仕方のない事だと思いながらも、怒りなのか、なんなのか、胸の奥に熱くて重いしこりのようなものがつかえて苦しかった。
その苦しさを周りの誰かにぶつけてしまいそうで、俺は誰とも話さず、自分の部屋に閉じこもって、これからの事を考えようとした。
そうだ。菊婆が亡くなった今、敵方の奴らはこの期に乗じて一気に攻め入ってくる可能性がある。
御堂さんを社の責任者として、スタッフさんと共にあかりを守るための体制を整えなきゃならない。
先代贄が戻る予定の日まで、あと数日ー。
島民会の椙山、冬馬&茜、神倉という女、奴らの理不尽な要求を跳ね除ける為に必要な事は何だ?
(あいつらが、菊婆を殺したんじゃないのかっ?)
奴らの事を思い浮かべると同時に激しい怒りと憎悪が湧いてきた。
ダメだっ!証拠がない事を主張しても惚けられるだけだっ!
(奴らを同じ目に遭わせてやりたい……! )
抑えろっ!感情に任せて下手な行動をしたら、奴らに、却ってこちらに攻め入る大義名分を与える事になってしまう!
「ハッ。ハッ。冷静にっ……対処しなければっ。」
燃え上がるような感情に支配されそうになりながら、俺が頭を抱えていると……。
ポンッ!
「真人!」
突然、天使のように可愛い女の子がスカートをはためかせて舞い降りて来た。
「あか……り……っ??」
突然目の前に現れた事もそうだが……。
いつもの着物ではなく、可愛いワンピースを纏ったあかりの姿に驚き、俺は大きく目を見開いたのだった……。
*あとがき*
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m(_ _)m
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