第15話 相次ぐ不測の事態

 継嗣の儀ーー。

 贄である俺は、生き神であるあかりと責務としてだけではなく、互いの気持ちを確かめ合ってほぼ夜通し睦み合った。


 あかりと離れ難く思いながらも、これからは何かあればすぐに連絡を取り合う事を約束し、体を大事にするよう言い置いて、儀式の終了となった。

 部屋に戻った後、流石に疲れが出て休んでいる間に、先代贄は例の重要な用事とやらで社を出たらしい。


 復活後、もはや朝食とは言えない時間に食事を持って来てもらった保坂さんに聞いた。


「先代贄が帰るのは確か一週間後だったか……。それまで、俺があかりを守ってやらなきゃな。どんな問題が飛び込んで来ようとも、怯まず立ち向かってやる!」


 拳を握り、決意を固めていたところへ……。


 ポンッ!


「あっ、真人っ!! |||||||| 元気でいてくれてよかったぁ!!」


 ガバッ!! ドターン!!


「あかりっ?! おわぁっっ!!?」


 問題より先に、いきなり現れた生き神様が飛び込んで来る事になり、受け止め損なった俺は、彼女と共にベッドに倒れ込んだ。


「あ、あかりぃ…。昨日思い切り愛し合った仲とはいえ、いきなりベッドに押し倒すなんて、大胆過ぎるぜ……♡」


「そ、そうじゃないのよ。私、ひどい夢を見て……」


 頬を染めて、デヘデヘする俺とは対照的に、あかりは青い顔でそう言うと、震えながら俺の胸に身を寄せて来た。


「……! あかり、詳しく聞かせてくれないか?」


 普通の女の子ならいざ知らず、生き神であるあかりが怖い夢を見たと言うなら、それは、もしかしたらこれからの局面に大きな意味を持つものかもしれない。

 一気に気持ちが引き締まった。


「生き神様っ。お待ち下さいっ!」

「我らも参りますっ!」


 ポンッ! ポンッ!


 その後すぐに現れたキーとナーと共に、俺はあかりの夢について詳しく聞く事にした。


        ✽


「……!! あかりが鬼神になって、辺り一面を破壊し尽し、そのせいで自然災害が起こり島が洪水に呑まれてしまった……?!」


「え、ええ……。あの状態では、多くの人が犠牲に……、いえ、もう島自体が沈んでしまっているかもしれない」


「それは、予知夢みたいな奴なのか? 昔、生き神から失われた能力、先読みの力が復活したとか?」


「そうねぇ…。新たな力に目覚めた感覚はないのだけど、その夢が、将来本当に起こる事だと言う事だけは、分かったの。」


「生き神様に、先読みの力が蘇った感覚がないのでしたら……」

「恐らく、他者から夢を送られたのではないでしょうか……?」


 キーとナーは深刻そうな表情でそう言い、俺とあかりは衝撃を受けた。


「「夢を送られた……?!」」


「ちょっと待てよ。他者から夢を送られたって、先読みの力は生き神の能力だろ?送った相手っていうのは、もしかして、この前の俺の推測のように、過去の生き神から力を受け継いだ子孫なんじゃ……!」


「ええっ……!そうなの?キーちゃん、ナーちゃん?」


 俺とあかりに問われ、キーとナーは、苦い顔を見合わせて首を捻った。


「……。まだ詳しい事が分かりませんので、それが生き神様から受け継がれた力なのか、未知の力なのかは何とも。」


「ただ、明人のいないこのタイミングで送ってくるとは、敵の策略である事は間違いないでしょうな。」


「「……!」」


 ナーに続いて、キーの言葉に、俺もあかりも一気に緊迫した表情になった。


「どちらにしても、敵である事には違いないってか! 生き神の子孫だとしても、とても呑気に儀式の協力を仰いでる場合じゃなさそうだな。

 優しいあかりが鬼神になるなんてあり得ねーのに、ひでー夢を見せやがって!他に夢で気になる要素はなかったか?」


「……。そのっ……。夢の中で、私が鬼神になって暴れている光景の中、『僕を選んでくれないと、ひどい事になる』って、顔の見えない長身の男の人に言われたの。」


「「「……!」」」


 少し躊躇ってからのあかりの言葉に俺とキーとナーは衝撃を受けた。


「脅しじゃねーか!選んでくれないとっていうのは、贄にって事か!?」

「多分そうだと思うわ……。」

「……!!」


 重々しくあかりは頷かれ、卑怯なやり方で彼女にちょっかいを出してくるその男にムカッ腹が立ってしょうがなかった。


「何だ、そいつは! あかりはもう俺を贄に選んでいるってーのに。あかりのお腹の中にはもう後継者だって……」

「ま、真人!ごめんなさい!!」


 俺の発言の途中で、突然あかりに頭を下げられ、俺は目を見張った。


「あかり、どうした……?」


 あかりは、手を固く組み合わせて、泣きそうな顔で俺に告げて来た。


「ごめんなさい。真人……。あんなに頑張ってくれたんだけど、出来ていないみたいなの。後継者にあたる赤ちゃん……。」


「な、何だってっ?!」

「「生き神様っ……。」」


 更に衝撃を受ける俺と辛そうな表情のキーとナー。


 それもその筈。


 神の力で自他の体の状態を調整出来る生き神にとって、自身も贄も万全の状態で臨む継嗣の儀での妊娠率は100%。


 あかりからも菊婆からも、400年の間、今まで一度も継嗣の儀で後継者が出来なかった事はないと聞いている。


 それが今回初めて後継者が作れなかったという事は一体どういう事なんだ……!?


 重い事実を受け止め切れず、俺が青褪めていると……。


真人ドバカよ。ショックを受けるのも分かるが、生き神様が異変を感じず、継嗣の儀が滞りなく行なわれたのなら、恐らくお前のせいではなかろう。」


「えっ。」


 真っ先に責められると思った精霊の片割れ、キーから弁護されるような事を言われ、意外過ぎて俺は目をパチクリさせた。


「ああ。真人ドアホよ。少し落ち着け。お前、最初に生き神様の御石に札が張ってあったと言っておったろう。敵方に何か細工を仕込まれたのかもしれぬ。」


「あっ。そう言えば!」


 俺が継嗣の儀の部屋であかりを待っていた時、生き神の始祖の力が込められているという紅い石に、小さなお札が貼ってあった事を思い出した。


「真人から生命の元が私の体の中に元気に流れ込んでくるのは感じていたのだけど、中に入ると同時に私の体が熱くなり、すぐにその生命の火を消してしまったの。私の体は受け入れる準備が出来ているはずなのに、まるでそうなるように誘導されているようだったわ。」


「もしかしたら、一時的に免疫を操り、子種を攻撃する力を高める術なのかもしれませぬな……。」

「あの部屋では、元々始祖様の霊力の影響を受ける為、術をかけられたとしても異変に気付きにくかったのでしょう。」


「じゃあ、突然俺に子種がなくなったせい(※茜と許嫁だった時、1年程前に生殖機能は問題ない事を調査済み)とか、神聖な場で「いきがみさまのわかれみち」で野球拳した祟りとかではなかったんだな。」


 あかりとキーの言葉に、未知なる敵の存在を脅威に感じながらも、懸念していた理由によるものではなさそうで、少しだけホッとしてしまった。


「ええ。真人の生殖機能が元気いっぱいだと言う事は白羽の矢を放つ時から確認しているから大丈夫だし、「いきがみさまのわかれみち」は始祖様が島に広めなさったものらしいから、継嗣の儀に役立てるのなら、許して下さると思うわ。」


「えっ。そうなのっ?!あの歌、始祖の生き神がっ?!」


 目を剥く俺に、キーとナーが更に説明を加えた。


「うむ。島の人達が生き神様に親しみを持ってもらえるようにと始祖様がこっそり広めなさったのだ。」

「今は作者不詳となっておろうがな……。」


「はーーっ。今知る衝撃の事実!!」


 よく知る童謡にそんな秘密があったとは……!

 あれ?始祖が作ったという事はもしかして、あの歌に……。


 何かが閃きそうだったが、精霊達に更に気になる事を言われ、それは立ち消えになった。


「継嗣の儀は、日を改めて設ければよいとして……。」

「厄介なのは、部屋に細工を出来る程、敵の、もしくは敵の手先の侵入を受けておるというところじゃの。」


「……!お前達の言うのは……!」


「ああ。社の中に裏切り者=部屋に細工をし、妖しい夢を見せて来た奴の仲間がいると言う事じゃ。」


「「……!!||||||||」」


 俺とあかりが衝撃を受けているところへ……。


 コンコンコン!


 ドアをノックする音と共に、スタッフの保坂さんの慌てたような声が響いた。


「に、贄様っ!突然申し訳ありませんが、緊急の用がありまして、ちょっとよろしいでしょうか?」


「は、はい。|||| 保坂さん……?」


 今聞いた事実にショックを受けていたものの、いつも穏やかで冷静な保坂さんの常ならない様子に、俺はロボットのような動きでドアを開けた。


「保坂さん……?」

「……! 生き神様もいらっしゃっていましたか。丁度よかったです。」


 部屋にいるあかりを見て、保坂さんは、少しホッとしたような顔になった。


「生き神様、贄様。島民会の人がまた来て、社に新しい贄を連れて来たとわけの分からない事を言っているそうです。

 すぐにいらっしゃって頂けますか?」


「「「「……!!!」」」」


 俺、あかり、キー、ナーは次から次へと起こる不測の事態に顔を強張らせたのだった……。



 *あとがき*


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 m(_ _)m


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