第8話 手紙と御札

「おっ。やった!初めてナンプレが全問解けたぜ!!懸賞に応募すっか?」


机の上で、雑誌を片手に、ガッツポーズをとった俺だが、すぐに力なくその手を下ろした。


「って何やってんだ、俺は…?」


もうすぐ、人生終わったも同然になるってのに、何ナンプレなんかやってんだよ…!


スタッフの保坂さんが、朝食を持って来てくれる時、退屈だったらチャレンジしてみてはと、一緒にナンプレの雑誌を持って来てくれたんだが、えらいトラップだったぜ…。


快適で至れり尽くせりの環境で、逃げる気も

死ぬ気もなくさせようというあちらさんの

意向にまんまと乗ってしまったぜ…。


しかし、この状況で他にできる事もないしなぁ…。

部屋をぐるっと見回していると、ベッドサイドの棚に、本が数冊置かれているのを見つけた。


『紅糸島の歴史』

『紅糸島伝説』

『紅糸島の地形を辿る』


どれも、俺が普段触手が動かなさそうなタイトルばかり…。


「この機会に勉強しろってか…?」


やる気なく、『紅糸島伝説』というタイトルの本を手に取る。


紅糸島の伝説は、小さい頃から、菊婆に聞かされ、授業でも取り上げられ、耳にタコが出来るほど何回も繰り返しきかされている。


この島に、400年前、人が移り住んだ当時は災害が多く、地盤の緩いこの島で、家屋は倒壊し、作物は育たず、島民は厳しい環境下に置かれていたという。


しかし、島の長の息子の下に、ある日美しい天女が舞い降り、「自分を嫁にしてくれるなら、災害を食い止め、実りある島へと変えて見せる」と告げたという。

島の長の息子は、その言葉を信じ、天女を嫁として迎え入れた。婚儀の際、長の息子と天女が手を取り合った瞬間、二人から、紅い糸のような光が無数に広がり、島全体を包んだ。

そして、それからというものの、災害があっても被害は最小限ですみ、島の作物もよく育ち、近くで新鮮な海産物もとれるようなり、

天女の約束した通り豊かな実りある島に変わったと言う。

そして、その時の天女がまだ生きていて、生き神様として島の社に祀られていると島の皆には言い伝えられている。


だけど…。

生き神様を見た人なんて誰もいないし、

何百年生きている人間がいるなんて島の全員が信じているわけではない。


社の奥に生き神様が住んでいるとは聞くものの、実際は島民の誰かが交代で隠れ住み、生き神様が本当にいるかのようにカモフラージュしているのだと、一部では密かに噂されていたし、俺もそうかもなと思っていた。


その噂では、贄になる者も、島の信仰に信憑性を持たせるためのただの犠牲者で、社の奥で熱狂的な生き神様信仰の島民達に、強制労働や、無意味な拷問をされる役回りだと言われていた…。


でも…。


『贄になった男は、五体こそ満足にあるものの、目は虚ろで、ものもろくに言えず、まるでヤク中患者のような状態だったそうだ。』

『薬の成分は、検出されなかったが、生き神という奴に、何か怪しい術をかけられて心神耗弱状態になっている事は、間違いない。

俺は多分、その儀式とやらで、怪しい術をかけられるのだと思う。

何せ、贄の生気を吸って、何百年も生き長らえるているような奴だからな…。』


今日、冬馬が言っていた事を信じるとすれば、生き神様は実在して、怪しい術を使い、贄の生気を吸い取って何百年も生きている

事になる。


そして、それを裏付けするような双子の精霊を、俺はこの目で見てしまった。


奴らは、自在に姿を現したり、消したり、静電気を発生させたり不思議な力を持っていた。


あんな奴らをしもべに使っている生き神様は、更に強大な力を持っているに違いない。


考えれば考える程、俺にはどうしようもない状況だという事が分かるだけだった。


「ハァ…。」


本を元に戻してため息をついた時…。


コン!


「??」


窓に小石が何か当たる音がして、窓の外を見遣ると…、一階の植え込みの辺りに、昨日船着き場でボートに乗っていた黒いパーカーの人影があった。


「…!!」


その人は、俺と目が合うと、植え込みの一角を指差し、その場をすぐに走り去って行った。


「一体なん…なんだ?」


今見た光景を頭の中で整理してみた。


昨日は判別できなかったが、ここまで来るという事は、やはり、あの人は冬馬の知り合いなのか?

もしかして、俺を助けてくれようとしている…?


今、指差したところに、何か俺の助けになるヒントがあるんだろうか。


いや、そう言ったって、今軟禁状態だし、簡単に捜索なんかできねーし…。


考えを巡らせた末、俺は窓を開け、大声で叫んだ。


「くっそーっ!!このナンプレ、全っ然分かんね〰〰〰っっ!」


バサッ!


言いがてら、ナンプレの雑誌を植え込みの辺りに放り投げた。


          *

          *


「せっかく持って来て頂いたのに、すいませんっ!!すぐ取ってきますんで!」


「いえ、そんな。お気になさらないで下さい。どの辺りか言って頂ければ、私、取ってきますけど…?」


俺は、スタッフの保坂さんに頭を下げ謝ったが、彼女は気にした様子もなく、そんな申し出までしてくれた。


だが、ここは、俺一人で雑誌をとりに行かなければ、目的を果たす事ができない。


「いえっ、すんませんっ!俺、本の中に恥ずかしい落書きしちゃってるんで、見られるの恥ずかしいんで、自分で取って来ますっ!」

「そ、そうですか?手伝える事があったら言って下さいね?」

「あざっす!」


彼女が生暖かい目で見守る中、植え込みの辺りに落ちている雑誌を拾いに行った。


雑誌は植え込みの下に落ちていてすぐに見つかった。

あの、黒いパーカーの人が指差していた植え込みの辺りだと思われる方を見てみると…。


「…!!」


よく見ると、植え込みの木の枝に何かおみくじのような緑色の紙が縛り付けてあった。

保護色になっているので、遠目からは分かり辛いだろう。


俺は、その紙が保坂さんに見えないように自分の体で覆い隠しながら、植え込みをかき分ける仕草をしながら、その紙を枝から取り、

同時に拾った雑誌の中に隠した。


「あった。ありました!ありがとうございました!」


そうして、動揺を悟られないよう笑顔を浮かべ、保坂さんの近くに駆け戻ったのだった。


         *

         *


何が書いてあるんだろう…?


部屋に戻った俺は、ドキドキする胸を押さえて、俺は、ベッドに仰向けに寝転がり、ナンプレの本を眺めているフリをしながら、重ねてある黒いパーカーの人物からの手紙を広げていった。


「ん?わっ…と、御札?」


広げていくうちに、紅と白の御札が現れ、危うく取り落としそうになった。


ニ枚の御札は、手紙に包み込まれるように入っており、俺は、それを片手で押さえ、ずらしながら、手紙に書かれた文字を読めるようにした。


手紙はかなり小さい字で書かれていて、俺は苦労しながら読み進めて行った。


『この手紙は、水に流せる素材でできている。読み終わったら、トイレにでも流すように。

囚われの身になって、絶望しているかもしれないが、諦めるな。私は君の味方だ。

祭りの儀式に参加してはいけない。

生き神に術をかけられ、生気を吸われて死ぬ事になるのは、嫌だろう?


祭祀の当日、私は儀式の場所である洞窟の近くにいる。合図を送るから、洞窟の外まで逃げて来てくれ。私が必ず島から脱出させてみせる。

双子の精霊の力を押さえる御札を2枚君に渡して置く。追いかけてきたら、投げるといい。精霊がしばらく動けなくなるだろう。


生き神の能力は、身体的接触を持って初めてその術を発動させる事ができる。

直接攻撃する力はないから、距離を取っていれば、恐れる事はない。

祭りの儀式の内容とは、男女の交わり。つまり、セック…。』


「せ、セックスぅーーっ?!」


途中で思わず俺は大声を上げてしまい、口元を押さえて辺りをキョロキョロ見回した。


幸い、誰も聞いていなかったらしく、双子の精霊も現れる事はなかった。

安堵の息を漏らすと、俺は、再び読み進めた。


『儀式の時は美しい女の形をとっているが、中身は数百年生きた化け物で、本来の姿は菊婆以上にシワシワの婆さんだ。

見た目に騙されて誘惑に乗らなければ、君の命は保証される。賢明な判断をしてくれ。

では、儀式の日に会おう。

         君の唯一の味方より。』




「〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!」


手紙の衝撃的な内容に、俺はナンプレの雑誌を握り締め、しばらくブルブルと震えていた。





*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。



















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